著者
藤原 和好
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.41-50, 2013-08-10 (Released:2018-08-06)

小学校の文学の授業では、ストーリーに浸らせ、そこでのびのびと遊ばせることが大事である。だが、ストーリーをたどる読みは、教師の手のひらで遊ぶだけのものになってしまう。そこから抜け出すために、「語り」を意識させることはきわめて有効である。「語り」は、語られている世界を意味づけ、語られていない世界に出会う装置である。その「向こう側の世界」との出会いから紡ぎ出される子どもの読みは、教師の読みをも揺さぶる。
著者
鎌田 均
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.63-72, 2011-01-10 (Released:2017-08-01)

昨今の「日本語」あるいは「表現」のブームの過熱ぶりについてその背景が何かを探り、そのことに拘っている私自身の中の蟠りとは何かを明確にする。そして更に、言語技術教育の面ばかりが強調されがちな、いわゆるリテラシーについて私見を述べ、本来国語教育、就中文学教育における「ことばの力」とは何を目指し、どこへ向かって機能すべきかを論じている。その際、今年実践した川上弘美の『神様』を教材として考察してみた。
著者
橋立 亜矢子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.23-32, 2012

<p>本稿では能舞台で他者になりかわることを可能にしている物着や移り舞といった演技形式に着目し、分身が見られる「二人静」、両性を具有する「杜若」、松を行平に見立てる「松風」、男女の性が交錯する「井筒」の四作品を取り上げながら、男女の性の越境と虚構の性の表れ方について考察する。そして「井筒」の作者である世阿弥自身の能芸論についても併せて考えることで、虚構によって表現された「幽玄」とはいかなるものであったのか考察する。</p>
著者
甘露 純規
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.1-9, 1999

明治八年、永峯秀樹『支那事情』と仮名垣魯文『現今支那事情』との間に「盗作」事件が起こった。この事件は、誰が、どのような論理により、無断借用による出版物を告発するのかという問題をめぐり、出版物についての江戸期以来の考え方と新たに登場した版権思想が激しく争った事件であった。本稿では、永峯と魯文双方の言い分を等しく分析することで、この事件の実態と文化史上に持つ意味を明らかにした。
著者
黒石 陽子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.13-22, 1995

「義経千本桜」序切で自害する卿の君は頼朝と義経の不和の中で自己犠牲によって義経を救おうとした女性である。浄瑠璃作品の中で頼朝・義経の不和に関して卿の君という女性が重要な人物として登場するようになったのは享保から延享・寛延期、つまり近松没後の合作期であった。卿の君という存在がこの時期の作者によって発見されたことにより、作劇における新たな枠組みが作られ、頼朝・義経の不和劇に深い解釈を与え、新しいドラマを生み出したといえる。頼朝が義経の討手を出した堀川夜討に関して『吾妻鏡』流布本『平家物語』『源平盛衰記』の記述から謡曲、幸若舞曲、古浄瑠璃、近松以降の浄瑠璃における描かれ方を検討し、合作期の浄瑠璃が発見した卿の君-その作劇の枠組みとしての意味-について検討する。
著者
金井 景子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.57-66, 1983

I made an attempt to pursue the significance of the problem of the "unemployed", which the literature in the beginning of Showa Era was motivated upon, by taking examples from the literary works around 1930's focussing upon the unemployed proletariats as a motive. Yokomitsu Riichi tried to go further than "Neo-sensationalism School" by writing Shanghai. Kawabata Yasunari wrote Asakusa Kurenaidan. The works of Shimomura Chiaki made the "Rumpen (the unemployed) literature" popular in the literary world. Hotta Shoichi's Slave Fair also concerns the problem.
著者
田中 貴子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.63-76, 1990-05-10 (Released:2017-08-01)

吉祥天は奈良時代から人口に膾炙した存在だが、これと並ぶもう一人の天女である弁才天とは姉妹の如き関係と見倣されてきた。弁才天はまた、『法花経』の竜女とも習合し、中世には竜女を中心とした水界の女神達の習合のネットワークが現出する。これらは《女性性》を付与されており、その性的側面と両義性を強調される。今回は、こうした竜女の姉妹神の伝承を分析することで、女性神が何故女身をとらねばならなかったかという問題について考察した。
著者
岩佐 美代子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.33-42, 2006-07-10 (Released:2017-08-01)

西園寺公宗の宝、日野名子の日記「竹むきが記」は、皇統・公家社会・婚姻形態にかかわる三つの危機を乗越え、これに鍛えられた女性によって書かれた作品である。困難きわまる時代の中で、夫を失い、その家に乗込んで遺児を育て上げ、家門を守った彼女は、同時に自らの判断で信仰の道を定め、在俗修行に徹する。中世までの自立性高い女性と、近世の夫に従属し家を守る女性の分岐点に立つ本記は、危機を描く文学として価値高いものである。新たな見直しを期待したい。
著者
林原 純生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.18-30, 1991

末広鉄腸の『雪中梅』は、同時代の文学の動向に対応した新しい政治小説とされるが、その本質は近代文学と重なりあうものなのか。本稿では、この政治小説のなかの政治を明らかにして、同時代の政治状況において持つ意味に言及する。
著者
澤 正宏
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.11, pp.44-54, 1985-11-10 (Released:2017-08-01)

大正末期から昭和初年にかけて盛んであったモダニズム詩における表現の場は、社会や現実意識(自我など)、言葉の音楽性などを否定し、詩作品を一個の構成物としてとらえるところに成立した。モダニズム詩の世界は、現実との相互依存によって成立している作品から、概念的に現実をとらえてこれとは全く無縁なところに成立している、所謂超現実の作品までと様々であり、これらの作品の多くは、カントの哲学や仏教への親近によって支えられていることも見逃せない。
著者
近藤 瑞男
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.10-18, 1981

The source of Yari-no-Gonza Kasane Katabera was the vengence of a woman over Koma Bridge in Osaka on July 17th of the second year of Kyoho. Soon after, the event was played for Kabuki. We could know at least four plays and the cast for two of them. The one was Yumenoukihashi Mukui no Yaiba at Hoteiya in Kyoto and the other was the one with unknown title at Sounza. It was notable that the woman enemy was acted by the acter of a villain. We could see the common charactristic with Chikamatsu's Johruri on husband's or relative's tragedy.