著者
Fedorowicz Steven C.
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.55-70, 2013-09

This essay provides an" ethnography of ethnography" through investigating and advocating certain research methodologies referred to as "Gonzo Anthropology." Ethnography is viewed as a process entailing both actual research, especially participant observation, and discourse, i.e. some form of cultural representation. In this way the ethnographic process can be seen as a form of cultural performance; the ethnographer is an actor, director, recorder of events, writer, artist and audience all in one. These ideas will be explored through an analysis of the work ofHunter S. Thompson, the founder of gonzo methods. The application of performance theory will be illustrated through brief cultural descriptions of Hare Krishnas and deaf people in Japan. This essay is a product of years of study, application, consideration and reconsiderations ofethnographic research that aims to provide important, relevant and interestingdialogue for multiple and multivocal actors and audiences.
著者
山本 和子
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.57-75, 2008-03

蕭紅の後期の代表作とされる『胡蘭河伝』は1940年、香港で完成された。当時は日中戦争のさなかで、蕭紅の故郷東北は日本の占領下にあった。帰りたくとも帰れない状況のなか、蕭紅は遠く離れた故郷胡蘭での幼少期を振り返って、その「忘れがたい」光景を書き綴った。それが『胡蘭河伝』である。伝は物語の意。作品は全七章とエピローグから成り、各章はそれぞれ異なる物語で、短編としても十分に読み応えのあるものである。物語では、祖父と過ごした屈託ない日々のほのぼのとした情景が描かれる一方、因習や迷信に縛られた人々が元気な少女を死に追いやる残酷で哀しい情景も描かれている。作者は物語のなかで、愚昧な民衆が「無責任で無自覚な殺人集団」と化す深刻な問題を提起し、人間存在の不条理性を鮮明に描き出した。本稿では、『呼蘭河伝』の背景を探りながら、作者が意図したところ及び作品の魅力の所在に迫った。
著者
丹下 和彦
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.73-87, 2010-03

本編は劇の中途に神が顕現するという特異な構造を持ち、そのために起きる主人公ヘラクレスの狂気の解釈と絡めて劇の統一性が問題となっている。また劇の末尾ではアテナイ王テセウスが登場し、ヘラクレスに昔受けた恩義のお返しとして篤い友情を示す。そこではまたヘラクレスを慰撫激励するためにテュケー(運、めぐり合わせ)の概念が呈示される。以上の劇内容を通観しながら、「英雄にして神」という従来のヘラクレス像から「英雄にして人間」ヘラクレス像へと視点を転換させることによって、作者の本編に込めた意図を読み解く。
著者
山崎 のぞみ
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.21-39, 2015-03

本稿は、英語の話し言葉コーパスを英語教育に応用する様々な方法や問題点を模索し、特に、自然発生的な会話に特徴的な相互行為的特徴(言い淀みや言い直しなどの非流ちょう性の言語現象や、話順交替を含む発話の即興的なやりとりに関わる言語現象)への意識を高める教材として話し言葉コーパスが持つ可能性を探る。 話順交替に関わる相互行為的言語現象を学習者に示す方法として、話し言葉コーパスからある一定の長さの連続した会話を編集なしでそのまま用いる方法を提案する。教材用に創作されることが通常のモデル会話が持つような産出(模倣)の模範としての役割を担わせるのではなく、現実の言語使用の実態に意識を向けさせるための観察材料としてコーパスを利用する。この方法は、学習者に会話の相互行為的な側面への気づきをもたらし、学習者の言語意識を高めることができると主張する。イギリス英語の話し言葉コーパスを用いて実際の利用例も例示している。
著者
池田 亮
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.183-204, 2014-09

従来、第三世界における冷戦は、主に米ソ冷戦の観点から研究されてきた。その中でヨーロッパ宗主国は、米ソが植民地解放と新興国の国家建設に協力する中、勢力の後退を強いられる存在として描かれてきた。しかし本稿は、旧宗主国が現在でも旧植民地で一定の影響力を保っており、かつアメリカにとっても冷戦の遂行上、重要な同盟国であったことに注目する。事例としては、フランスによるモロッコの独立承認と、スエズ危機におけるイギリスの対エジプト攻撃を取り上げ、両国の動機を検討する。それによって、第三世界における脱植民地化への英仏の対応は、冷戦政策の側面をも持っていたことを指摘する。それぞれの決定は、モロッコと中東のアラブ諸国が、中立主義を選択するのを防ぐためになされた。それらの国を西側陣営に留め置き、重要な資源を安価に供給させ、自国の資本主義経済の繁栄を維持することが、宗主国、特にイギリスの目的であったと考えられる。
著者
D'Hautcourt Alexis
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.100, pp.339-347, 2014-09

Dans cet article, nous présentons une série d'exercices accomplis dans une classe universitaire de Français Langue Etrangère au Japon qui ont mené à l'écriture en français d'un article original pour l'encyclopédie électronique Wikipédia. Outre l'écriture, ces exercices ont exigé des efforts de lecture de documents originaux, de recherche, de synthèse, de paraphrase. La facilité d'utilisation de l'encyclopédie permet aux professeurs, si les exercices sont adaptés, de cibler les tâches en fonction du niveau des étudiants et de leurs conditions de classe. Wikipédia offre aux enseignants un outil malléable qui renforce la motivation des étudiants pour leurs travaux d'écriture individuelle et collaborative.
著者
牛 承彪
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.115-134, 2014-09

トン族村における空間意識は、「生業空間」と「生活空間」に分けられ、「生活空間」はさらに居住区域によって細かく分けられている。「生活空間」はその外に比べれば安全で清潔である。「攔路歌」行事はこの意識に基づいて成立し、歌の掛け合いを通して、村に入る来客の穢れを落とすのである。村には聖域として、「鼓楼」・「薩壇」・「土地神」の祠・大木・大きい石・橋・墓地などがあり、「生活空間」の中に点在している。「鼓楼大歌」が行われる際、村の守護神を降臨させ、参加者と空間を共有するので、この行事は男女の交流を目的にすると同時に神を楽しませる性格を持つ。聖域以外は俗の空間であるが、日常の中では人間の目には見えない「鬼怪」がさまよったりする。それで常に清潔を保つようにしなければならない。また死後いくとされる場所は、「ダイダン川」「十八羅漢山」「平白地」「九十九瑙」があり、「この世」と同じ地平線の山中に位置する。
著者
松宮 新吾
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.139-158, 2009-09

新学習指導要領により、小学校高学年における外国語(英語)が必修化され、週1コマ年間35時間の「英語活動」が5、6年生で実施される。 他方、中等教育機関では、教育特区等により早期英語教育を経験した学習者と未学習者とが混在した状況で英語教育が行われている。 本研究では、この移行期という特異な機会を捉え、早期英語学習者と未学習者との比較調査を行い、早期英語教育が学習者に及ぼす影響や効果を検証し、2011年から全面実施される小学校英語活動の教育効果について論じる。 学習者要因に係わる因子を分析した結果、早期英語学習者は、英語学習や異文化に対する好感的態度、統合的な目的意識等においてプラスの有意差を示した。 一方、言語スキルに係わる比較分析では二群間の統計的な有意差が確認できなかった。 これらの結果から、現行の「音声に慣れ親しむ」英語活動から、「文字認識」を含めた統合型英語活動についての提言を行う。
著者
榎本 浩司
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.199-218, 2013-03

グリム兄弟の『Kinder- und Hausmarchen(子供と家庭の童話集)』は世界各国で読み親しまれているメルヒェンであり、そこに登場する「魔女」はよく知られた存在である。しかし、グリム童話集には魔女以外にも魔法や魔術、超人的な力を持つ女性たちが登場する。「魔法使いの女」や「賢女」がそうである。彼女たちは魔女と一括りにされがちな存在だが、メルヒェンの中でそれぞれどのような役割を演じ、主人公や他の登場人物との関係性はいかなるものか、また彼女たちに差異はあるのか。本稿では、グリム童話に登場する魔法や超人的な力を行使する女性たちの特徴や行為、容姿を比較し分析することにより、彼女たちのメルヘンでの役割と位置づけを論じる。
著者
吉村 耕治
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.19-37, 2007-09

現代の色彩用語の中には,周辺の色彩を無視した目立ちすぎる色を意味する「騒色」(loud colors)や「やわらかい赤」(soft red)のように,日本語と英語でよく似た感覚表現より構成されている共感覚表現がある.ところが,味覚が共感覚で視覚が原感覚の表現「渋い色」は,英語では聴覚が共感覚の `a quiet color'と表現される.「渋い色」の「渋い」は,「落ち着いた,地味な」の意であるが,複雑な色相からくる灰色みを帯びた「渋い色」を美しいと感じてきた伝統が日本にあったことを考慮すると,この日英語の表現上の違いは,謙虚さに関する日本語と英語の文化の差を反映していると考えられる.『広辞苑』(第5版,岩波書店,1998)は,共感覚の代表的事例である「色聴」(colored hearing)を,「ある音を聞くとそれに伴って一定の色が見える現象」(p. 1149)と定義しているが,この説明には問題がある.共感覚の現象は単独で現れるものではなく,一連のまとまりを持って生じる現象であることが言及されていない.
著者
村下 訓
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.165-183, 2010-03

本稿では、因果論的な説明の論理や行為論的な記述の論理に基づくマーケティング事象の観察・記述において、何が見落とされることになるかを問うことができる地点から、マーケティング・プロセス、すなわち時間を生み出しつつマーケティングの現実を自己組織的に生成し続ける過程を観察・記述するための手がかりを原理論的に探究する。 突破口を開く論点は、議論されるべき前提を議論に先立って前提してしまう理論負荷の問題である。理論負荷されて多様に立ち現れる構造に対して、その構造を生み出す生成の過程はいかにして記述可能となるか。先行するニクラス・ルーマンの社会学的洞察を参照しつつ、この問いに答える記述論理の方法論的可能性を提示する。なお、本稿で探究される観察視点と記述論理の適用が開くマーケティング事象の描像については、稿を改めて議論されることになる。