著者
鶴見 直人 岸野 浩一 小田桐 確 Masato Tsurumi Kouichi Kishino Tashika Odagiri
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.111, pp.179-192, 2020-03

国際関係への学生の興味関心を高めるとともに、時事問題に関する知識の定着を図る目的で作成したクイズを授業で活用し、その実践から得られたデータを分析した。その結果、学生たちはニュースに関心を持っていると表明しながらも、極めて基礎的な知識の確認さえ行わない傾向が浮かび上がってきた。これは「専門知の死」(トム・ニコルズ)として指摘される傾向と似たものと見られる。本稿によって明らかにされるのは、こうした指摘とはまた違った一面である。ここから、マスメディアの危機と「民主主義の死」が同時に指摘される現代において国際関係についての教育を行う際、メディア・リテラシーの重要性を説くだけでは不十分であり、「肯定的な懐疑心」を涵養してゆく必要性が示唆される。
著者
大庭 幸男 Yukio Oba
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.111, pp.39-57, 2020-03

英語の動詞は他動詞と自動詞に分類され、さらに自動詞は非能格動詞と非対格動詞に分類される。自動詞にはこれらの非能格動詞と非対格動詞の他に、中間動詞がある。本論文は中間動詞を伴う文(中間構文)の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにし、それに基づいてその構文の統語構造を提案することを目的とする。まず、自動詞の種類と特性を考察し、中間動詞の特徴を明らかにする。その後、中間構文と非対格動詞を伴う文(非対格動詞文)を比較しながら、中間構文の意味的な特徴と統語的な特徴を明らかにする。その結果、中間構文は他動詞文と同様に動作主が意味的にも統語的にも存在する、と主張する。そして、その主張に基づいて、生成文法理論のミニマリスト・プログラムの枠組みで中間構文の構造を提案する。
著者
松田 健
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.97, pp.181-197, 2013-03

19世紀の終わりに発明された録音技術は、音楽聴取を演奏現場から解放した。しかしその後100年ほどは「自宅に設置した装置で」再生するのが基本形であり続けた。その後音楽聴取デバイスのポータブル化と個別化が進み、CDに代表される音源のデジタル化は高品位の音源を簡便に入手できる環境をもたらした。 音楽の個別聴取化とデジタル化が進行した後に生まれた「デジタル世代」の大学生たちはどのように音楽行為(Christopher Smallの言葉を借りると"musicking")をしているのだろうか。筆者は2011年に118人の大学生に探索的な質問票調査を行った。 その結果、彼らの音楽聴取は個別形態をとる傾向が強く、スピーカーよりもイヤホンで音楽聴取をする時間が長いことがわかった。音楽聴取時間のうち「ながら聴取」が占める時間がおよそ4分の3に達することもわかった。またおよそ6割の回答者がパソコンを音楽聴取デバイスとして使用している状況もわかった。
著者
谷本 愼介 Shinsuke Tanimoto
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.31-49, 2016-09

『悲劇の誕生』はニーチェの哲学者としての処女作とされているが、古代ギリシャ悲劇の誕生を論じているのは、全25節のうち第7 、8 節のみであり、古代ギリシャ悲劇の誕生を文献学的に実証しようとした書ではない。本書の正式タイトルは『音楽の精神からの悲劇の誕生』だが、「音楽の精神」という独特の用語はワーグナーが『ベートーヴェン』でくり返し用いたものを借用したものである。また本書で提起される「ディオニュソス的世界観」はバッハオーフェンの「バッカス的世界観」からの借用である。立論に当たってニーチェは先達の発明した概念や命題を借用、活用しながら、「悲劇は音楽の精神から生まれる」という個別命題を一挙に普遍化して、「文化は音楽の精神から生まれる」という前代未聞の画期的な命題を打ち立てた。
著者
Cakir Murat Murat Cakir
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.143-154, 2017-03

本稿は、トルコ近代公教育の確立に尽力したムスタファ・ネジャーティの功績の一端について明らかにすることを目的としている。トルコの近代公教育制度の成立において彼は世俗主義という理念とアタテュルクが示した民主主義、人民主義等という6 つの理念を基礎にトルコ公教育が発展するよう多大な努力をした。例えば、トルコの近代公教育の発展のために国家教育省、教育委員会、学校組織の間で調和的な連携・協働体制を整えた。本人が教育実践者であった経験から特に教職の重要性をいち早く理解し、教師教育を再編すると共に教職に対する社会的地位の向上に取り組んだ。オスマントルコ語を廃止し、新しくローマ字を基本とする文字改革を行い、一般庶民の誰もが教育を受けることが可能となった。また、西欧から専門家を招いて職業教育と美術教育にも力を入れた。彼はデューイの教育思想に影響を受け、デューイが報告した提案を実施し、諸改革を成功に導いた。
著者
菊川 丞
出版者
関西外国語大学
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.55, pp.p153-165, 1992-01
著者
柿木 重宜 Shigetaka Kakigi
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.1-19, 2017-03

言語学者藤岡勝二は、国語学の泰斗上田萬年から、1905(明治38)年に正式に東京帝国大学文科大学言語学科を託される。爾来、藤岡は、東京帝国大学の言語学科、否、日本の言語学界を、30年近くにわたり、唯一人で牽引して、教育と研究に尽力する。しかしながら、現代の言語学では、藤岡の名は、日本語系統論を唱えた人物として評価されているに過ぎない。このような状況に鑑み、拙著(2013)では、藤岡が実に多彩な研究テーマを有しており、近代「国語」の成立において、きわめて貴重な役割を果したことを論証した。この研究の途上において、彼が、近代の「言語学」の成立においても、深く関わっている事実が判明した。本稿では、藤岡を軸にして、当時の貴重な資料『言語學雑誌』、『新縣居雑記』等を主に利用しながら、「博言学」から「言語学」へと学問の波が転換するとき、どのように「言語学」という学問分野が築き上げられてきたのか考察した。
著者
鵜島 三壽 中村 真 Mitsuhisa Ushima Makoto Nakamura
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.131-151, 2015-09

シルクロードに関する無形文化遺産として、中央アジアから西アジアにかけての分布するムカーム(マカーム)をあげることができる。これは、多様な旋法による旋法音楽で、長大な組曲形式をとることが特徴である。ムカームに用いられる楽器は多種多様で、形態はもちろんのこと、多くの点で共通点がある。ムカームが広範囲に分布するだけに楽器にも共通点があるのだが、これまで詳しい楽器製作工程は報告されていない。 今後研究の深化をはかるには、技術的な視点を持ち、製作過程を通した楽器それ自体の検討が必要である。本稿では弦楽器の習得のみならず、弦楽器製作でも基本となるドゥタールを取り上げ、ウズベキスタン国立音楽院伝統楽器製作修復工房でのドゥタール製作を紹介する。ここで製作される楽器は、学生からプロの演奏家までが使用しているため、ウズベキスタンにおける楽器製作の全体像をつかむ上でも定点とすべき位置にある。
著者
仲川 浩世 Hiroyo Nakagawa
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.257-267, 2018-09

本研究の目的は、英語ライティング・フィードバック研究の概観を振り返り、今後の日本の英語教育への導入を示唆することである。フィードバックとは、言語学習の発達を促進するため、発話に対する口頭訂正フィードバックと、L2(第二言語)ライティング・フィードバックに分けられる。本稿は、英語ライティング・フィードバックに焦点を当てる。L2ライティングにおける訂正フィードバックは、 内容や構成に関するものと文法に対するものがある。さらに、初期のL2ライティング研究とその後の第二言語習得(SLA)研究は観点が異なる。すなわち、L2ライティング研究のフィードバックは、形式面と内容に重点を置いていた。これに対して、SLA研究では、習得を目指すため、文法項目の訂正フィードバックに関するものが大半を占め、長期的に定着しないという批判もある。今後は、情意要因を考慮し、質的な調査に取り組むことが望ましいと考えられる。
著者
砂原 由美 Yumi Sunahara
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.53-67, 2015-03

メキシコ人作家フアン・ルルフォ Juan Rulfo によって書かれた『ペドロ・パラモ』PedroPáramo(1955)は多様な解釈を可能にする文学テクストであり、現在までに多くの研究がおこなわれてきた。本稿ではノースロップ・フライが『批評の解剖』で提示した、主人公の行動能力やプロットに基づいた分類方法に依拠しながら、『ペドロ・パラモ』がどのような物語であるということができるのか、ジャンル論的考察を行った。『ペドロ・パラモ』を「ペドロ・パラモの物語」、「フアン・プレシアドの物語」、「スサナ・サン・フアンの物語」の三つの主要エピソードに絞り考察した結果、行動能力の高いペドロ・パラモは物語の中心から「疎外」され、行動能力の低いフアン・プレシアドやスサナ・サン・フアンは物語の中心に「受容」される、という結論に至り、権力の疎外とコマラの再生の物語を『ペドロ・パラモ』に見出すことができることを示した。
著者
相原 里美
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.21-39, 2011-03

丁玲は、1941年に短編小説『夜』を発表した。この物語の舞台は、共産党の根拠地であった延安解放区の川口(チュアンコウ)という農村で、主人公は共産党の指導員になったばかりの何華明という農民の男である。その他、地主の娘清子チンズ、十二歳年上の妻、共産党女性幹部の侯桂英の三人の女性が登場する。物語は、二章構成で、何華明が牛の出産のために自宅に戻った一夜の出来事について描かれている。当時は抗日戦争の只中であり、共産党員である丁玲としては、創作活動を通して、抗日を声高に謳わなければならなかった。しかし、女性解放を目指す文学者としての丁玲は、人々の意識下に潜む旧態依然とした封建的意識を看過することはできなかった。本稿では、「覚醒」したばかりの何華明や三人の女性を通して描かれる、共産党員丁玲の女性解放や文学者としての思想的苦悶に迫りたい。
著者
阿部 奈南 Nana Abe
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
関西外国語大学研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.107, pp.139-154, 2018-03

椋鳩十は、お国に命を捧げることを賛美する時代に、動物の生き抜く姿を通して人間の愛やいのちを描こうとした。昭和16(1941)年に発表された「嵐を越えて」は、燕の過酷な渡りをテーマとする作品であるが、椋が戦時下で『少年倶樂部』に発表した動物文学十五作品の中で唯一、軍艦や水兵、出征軍人の旗が登場する。しかし、戦意高揚とは程遠い作品になっている。椋は、小説家としてデビューしたもののその作品が問題視され、出版物が伏せ字だらけになるという挫折を味わった。その彼が、戦時下の言論統制のもと、自分自身が書きたいことを模索した結果たどりついたのが子ども向けの動物文学であった。本稿では、この作品の構成や表現、特に母の「靜かな聲」について分析し、ほかの書き手の表現とも比較しながら、椋鳩十が作家として「動物の生き抜く姿を通して人間の愛やいのちを描く」姿勢をどのように貫いたのかを論じ、作品を再評価する。
著者
村井 淳 Jun Murai
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.117-135, 2010-03

ロシア革命後、ソヴェト当局は反革命勢力などを弾圧するために、収容所を設けた。その後、ソ連邦が成立すると、白海に浮かぶソロヴェツキー島に本格的な強制労働収容所が建設された。1930年代のスターリン時代には、インフラ整備などで労働力が必要なことから、強制労働収容所とそれを管理運営するグラーグ(収容所管理総局)システムが必要に応じて構築されていった。その切っ掛けを提案したのは、自らも最初は囚人であったフレンケリであった。30年代の大粛清などにより無実の人が逮捕され、新しく建設された強制労働収容所で過酷な無賃労働を強いられた。また、第二次世界大戦期には、ドイツ軍や日本軍などの捕虜も同様の労働を強いられた。その結果、スターリン時代に、数百万もの人々が死亡した。1953年スターリンの死とともに、この強制労働システムは急速に崩壊し、囚人や捕虜は釈放されていった。しかし、これらの強制労働はソ連の産業に貢献したが、長い目で見るとソ連崩壊の一因になった。
著者
松宮 新吾 Shingo Matsumiya
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.225-245, 2010-03

中学校での英語教育を修了し、高校へ入学した直後の生徒を調査対象とした「早期英語教育が中等学校英語教育に及ぼす影響についての調査研究(第一次調査)」(2009)では、早期英語教育経験者と未経験者の二群間においては、言語スキルに係わる統計的な有意差が確認できなかった。 本調査研究(第二次調査)では、高校英語教育を一定期間経験したことにより、早期英語教育の経験の有無が二群間において質的に有意な変容を生じさせ得るかを検証し、早期英語教育の中期的な教育効果について論じる。 第二次調査で学習者要因と言語スキルに係わる比較分析を行った結果、早期英語教育経験者の表現活動に係わるスキルが有意に高くなっていること、また、言語能力肯定因子が英語学習成績に対しマイナスの要因として作用していることが確認できた。 これらの結果から、早期英語教育により培われた能力と中等学校英語教育との交互作用を高めるための方策を提言する。
著者
傳田 久仁子 Kuniko Denda
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.155-174, 2018-03

シャルル・ペローの「長靴をはいた猫」における挿絵の歴史は、1697年のクロード・バルバン書店版から始まり300年を越える。しかし物語冒頭部分、末息子が父親の遺産として猫を手にする場面に挿絵が添えられるようになるのは19世紀になってからのことである。本論はこの冒頭部分の挿絵に着目し、末息子と猫の表象について分析することで、「長靴をはいた猫」の受容史の一端を跡付けることを目的とする。今回はまず、19世紀前半のフランスにおける「長靴をはいた猫」での冒頭部挿絵を対象とし、そこでの末息子の描かれ方の差異を確認する。この変化は一見わずかなものにもみえるが、テキストでは理由づけのなされない援助者としての猫像へと、挿絵によってあらかじめ読者をいざなうものとなっていることを明らかにする。
著者
福池 秋水 Akimi Fukuike
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.123-138, 2018-03

本研究は、共通語と首都圏方言のスタイルシフトについて、漫画を題材として観察したものである。首都圏方言とは、首都圏に住む人が使用する方言を指す。本研究では、漫画『海街diary』から一組の男女の会話場面を抜き出し、共通語と首都圏方言とのスタイルシフトを観察した。その結果、首都圏方言のくだけた文体は、話者の心内文や「相手に聞かせるための独り言」に見られ、人間関係の距離が縮まると使用されるようになる一方、意識的に距離を縮める場合にも用いられることが観察された。また、一まとまりの談話でも、話題によって共通語と首都圏方言を行き来するスタイルシフトが見られた。このような言語使用は、作者がその登場人物の状況や人物設定、ストーリー展開にふさわしいと考えて創作したものであり、現実の話し言葉と完全に一致するものではないが、首都圏方言の実態をある程度反映したものであると考えられる。
著者
丹下 和彦
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.111-123, 2013-03

本篇は、古来作者以外の人間の手になる改竄の痕が著しいと見なされ、現代に至るまで多様なテクスト校訂の対象となっている。しかしディグル校訂のOCT版を底本とする本稿は底本の示すところを対象とする作品解釈を専らとし、テクスト校訂の問題には立ち入らない。 本篇には一貫した人物像を結べない登場人物が多い。とつぜん変心するメネラオス、曖昧な言動に終始するアキレウス、さらには直前まで死を厭う姿を見せながらとつぜん変心して犠牲死を受け入れるイピゲネイアがそれである。これは作者の人物造形力の弛緩と、その結果としての人物像の破綻であるとしか言いようがない。ただイピゲネイアの「決心」は、そうした人物像や劇の問題点を一挙に解消する力を持っており、またそれと同時に劇にエンターテインメント性を付与する役割を果たしている。
著者
王 峰
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.41-51, 2015-03

本文は現代中国語形容詞の「量の増減」を表すと言う功能をはじめとして、比較の基準や表量のレベルシステムの二つの方面の調査から、作者が「量の増減」を表すのは形容詞の重ね型の主要な功能ではないと結論した。コーパスの分析を通して、現代中国語単音節形容詞の重ね型AA式はカテゴリーの中の理想的なメンバーと密接に連係しているのを発見した。動作行為と関连する時、それは図式として存在する。このために、人々がその形式と関連する物事を理解する時、ゲシュタルト心理が発生する。この言語形式に対応するのはある認識上の繰り返しである。文末には、この形式の教授法について、少々の参考意見を述べてみた。
著者
相原里美
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.135-152, 2014-09

丁玲は1929年初めに短編小説『慶雲里の小部で』を発表した。この物語には、阿英という妓女の一日の生活や内面世界、妓楼での人間模様が詳細に描かれている。ここには、当時の妓女を主人公にした小説としては珍しく、女性の悲壮感や絶望感、あるいは娼妓制度への憤りなどが前面に描かれているわけではない。むしろ、阿英は妓楼での生活に満足しているかのようにさえ描かれている。その一方で、阿英は故郷の陳老三のことを思い出し、彼の元へ帰ることを何度も夢想するのだが、結局妓楼に残って妓女として働くことを選択する。本稿では、阿英を通して語られる女性の内面世界から、中国女性の近代的自我形成と性についての分析を試みたい。