著者
江村 剛志
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.41-73, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
82

本稿では,系列相関のある定常時系列データに対して,コピュラに基づくマルコフ連鎖モデルを当てはめるための統計的手法を総説する.本手法の応用例である統計的工程管理の手法を,正規分布のモデルで詳説する.時系列の話題に入る前に,本稿で必要とされる範囲でのコピュラとマルコフ連鎖の一般的定義を与え,コピュラの数理的性質を解説する.その後,系列相関を持つ定常時系列のモデルをコピュラでモデリングし,データから最尤法でパラメトリックモデルを当てはめるための各種統計手法を紹介する.最後にいくつかのデータの実例を通して,各種手法の利用局面を説明する.実例のデータ解析のためのRコードは付録に与える.
著者
阿部 誠 Makoto Abe 東京大学大学院経済学研究科・経済学部
出版者
日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 = Journal of the Japan Statistical Society (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.271-297, 1999-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

多項ロジット型の離散的選択モデル(Multinomial Logit Model of Discrete Choice)の効用関数に使われる説明変数は通常, 線型または関数変換後の和として設定されるが, この研究では効用関数を個々の説明変数による1次元のノンパラメトリック関数の和とし, 変数の非線的な反応をよりフレキシブルに推測する.このモデルは二項従属変数を対象とするGeneralized Additive Modelsによるロジスティック回帰(logistic regression)を一般化し, 3つ以上の値をとる多項従属変数に対処する.シミュレーションによると, 様々に設定された変数の非線型反応が復元された.このモデルの応用として, スーパーマーケットからバーコード・スキャナーで収集された2種類の商品カテゴリーの世帯別購買パネルデータを用いて, 消費者がマーケティング変数にどのような非線型的反応をしているかを検討した.また, マモグラム経験の医学データにも当てはめられて, モデル構築と診断にどのように役立つかを示した.
著者
金子 隆一
出版者
一般社団法人日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.345-377, 2001-12
著者
鈴木 讓
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.139-167, 2023-09-07 (Released:2023-09-07)
参考文献数
18

モデルが既知ではなく,モデル選択を行ってからパラメータに関する検定や区間推定を行う場合,選択的推論を考慮する必要がある.本稿では,スパース推定という文脈でその問題を検討する.まず,Lee et al. (2016)のLassoに関する選択的推論について述べてからForward Stepwise,LARSなどに適用する場合の多面体,切断分布を示す.最後に,Lockhart et al. (2014)のLassoに対するSignificance TestおよびTibshirani et al. (2016)のLARSに対するSpacing Testについて述べる.本稿は,レビュー論文である.
著者
駒木 文保
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.185-204, 2023-09-07 (Released:2023-09-07)
参考文献数
44

統計的推測の問題を予測の立場からとらえる予測分布の理論について考える.真の分布から予測分布へのKullback–Leiblerダイバージェンスで予測分布の性能を評価すると,多次元正規モデルや多次元Poissonモデルにおいては,Bayes推定の問題がBayes予測の問題の極限として定式化できる.Bayes推定を利用するには事前分布の選択が重要になるため,無情報事前分布あるいは縮小事前分布についての多くの研究がなされている.予測と推定の関係に着目することにより,Bayes推定についての様々な知見をBayes予測に応用すること,Bayes予測の立場からBayes推定について新たな理解をすることが可能になる.このような予測と推定の関係について,特に多次元のPoisson分布を例にとり説明する.
著者
金井 浩 城戸 健一 鈴木 篤 金井 淳
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.255-276, 1990 (Released:2009-01-22)
参考文献数
40

経済指標の時系列信号は,公定歩合の引下げ,戦争の勃発など経済的衝撃による影響を大きく受ける.従って,経済的インパクトに対応するマルチパルス系列が,経済市場という伝達系を駆動し,その応答を観測しているというモデルが構築できる.この時系列モデルに基づく分析を行なう場合,一つの時間窓内に複数の衝撃パルスが存在する場合がある.しかし,従来のBox-Jenkinsモデル等の時系列分析法では,伝達系を駆動する信号は定常白色雑音か単一インパルスに限られるため,マルチパルスによって駆動された伝達系の応答から,各パルスの振幅及び伝達系の特性を決定することができない.本論文では,マルチパルスで駆動された伝達系の応答に,更に雑音が付加された観測信号から,全極型伝達系の特性と駆動パルス系列の振幅を決定する方法を提案する.最後に東京市場の円/ドル為替レートに対して,本分析法を適用した結果を述べる.
著者
加納 隆
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.159-187, 2014-09-26 (Released:2015-04-30)
参考文献数
46

本稿では,動学的確率的一般均衡モデルのマクロ計量経済分析における役割を,Geweke (2010)による強解釈と弱解釈および最小解釈の3分類に従って批判的に略説する.最小解釈の応用例として,Kano and Nason (2014)による消費の習慣形成の金融政策ショック伝播メカニズムとしての役割に関する実証分析を紹介する.最後に将来研究への展望を議論する.
著者
猪狩 良介 星野 崇宏
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.269-293, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
42

マーケティングでは,生存時間解析を用いて消費者の購買タイミングを分析する購買間隔モデルが研究されている.本研究では,観測されない消費者異質性の動的変化を考慮した競合リスクモデルを提案し,複数チャネルにおける購買間隔モデルに応用する.具体的には,競合リスクモデルを用いて,ECサイトとリアル店舗における購買間隔モデルを構築する.さらに,購買間隔の競合リスクモデルにおいて,観測されない異質性の動的変化を状態空間モデルにより捉え,消費者異質性を階層ベイズモデルにより捉えるモデルを提案する.また,購買間隔に加えて購買金額も扱う同時モデルを構築する.提案モデルをECサイトとリアル店舗における購買行動をシングルソースで記録したデータに応用した結果,単一のチャネルのみを扱うモデルや動的変化を考慮しないモデルと比較して提案モデルは優れたパフォーマンスを示すことが明らかになった.加えて,チャネルによるマーケティング変数の効果の違いなども明らかになり,提案モデルの有用性が示された.
著者
古川 恭治
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.131-152, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
23

イベント発生ハザードを区分定数関数とすることで,ポアソン回帰によって生存時間分析を行うことができる.このアプローチは,Cox比例ハザード回帰などと比べて一般的ではないものの,ベースラインハザードの柔軟なパラメトリックモデリング,複数の時間依存共変量やランダム効果を含むモデルへの拡張を一般化線形/非線形モデルの枠組みで行うことができるという利点があり,大規模コホートの長期追跡データ解析ではポアソン回帰に頼らざるを得ない場合も少なくない.本稿はポアソン回帰による生存時間解析手法を定式化し,その特徴と性質について調べることを目的とする.特に,主要時間スケール因子の層別化の影響や時間依存共変量やランダム効果を含む場合の推定性能に焦点を当て,シミュレーションによってCox回帰など他手法との比較を行う.さらに,実データへの適用例を紹介し,ポアソン生存時間回帰が最も効果的とされる状況や今後の拡張について議論する.
著者
本田 敏雄
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.113-129, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)
参考文献数
62

データ収集技術の飛躍的進歩により,説明変数の数pの非常に多い高次元データが得られるようになり,その統計解析が重要な話題となって久しい.そして代表的な解析手法であるLassoなどは,学部生向けのテキストにも紹介されるようになっている.またさらに,説明変数の数pが標本数nの指数オーダーと考えて差し支えないような超高次元データも,統計解析の対象になっている.この解説論文では,生存時間解析でもっともよく使われているといってもよいCox回帰モデルを中心に,(超)高次元の説明変数がある場合の生存時間に関する最近の研究について,著者自身の研究の観点から紹介する.
著者
大石 惇喜 白石 博
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-28, 2018-09-26 (Released:2019-04-02)
参考文献数
9

保険会社において,複合ポアソン過程に基づいた古典的リスクモデルを考えるとき,保険会社の余剰金がある境界を上回った部分に関して株主に配当として支払うという配当戦略問題がある.最適な配当境界は,破産時刻までに支払われる累積配当金現在価値の期待値を最大化するものとして与えられる.本論文ではまず,古典的リスクモデルを仮定し,サープラス過程(保険会社の余剰金を表す確率過程)のサンプルパスから最適配当境界の推定量をM-推定により構成する.M-推定量の一致性を示す際には目的関数の一様収束性が重要となり,それはGlivenko-Cantelliの定理として知られている.Glivenko-Cantelliの定理は関数の一様収束性を,関数族の大きさを測るエントロピーによって述べたものである.本論文では一様エントロピーの有界性を用いて関心のある関数の一様収束性を示すことで,構成した推定量の一致性を証明する.そのために,関心のある関数族が,関数の複雑度を表すVC-指数が3のVC-サブグラフクラスであることを示す.最後にシミュレーションを通して目的関数の一様収束性と,推定量の一致性について確認する.
著者
佐藤 忠彦 領家 美奈
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-31, 2022-09-13 (Released:2022-09-14)
参考文献数
32

本研究は,同一説明変数に対する複数の異質な回帰係数を同時に推定可能にする階層ベイズ回帰モデルを提案し,その有効性を検証することを目的とする.提案モデルの有効性は,数値実験と実データを用いた解析で検証した.数値実験では,真のモデルを精度高く再現できるという意味で,提案モデルの有効性を確認した.また,POSデータを用いた実証分析では,提案した枠組みで市場反応を製品異質性と時点異質性に分解可能であることを示した.提案した枠組みは,反応係数の明示的な要因分解を実現し様々な社会科学現象のモデル化およびそのモデルに基づく意思決定で有効活用できる.
著者
塚原 英敦
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.101-121, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
70

本稿では,21世紀に入り急激に注目が集まった接合関数モデルに関して,その本質的要素を簡単におさらいし,その歴史的展開を短く振り返った後,ファイナンス,保険数理,生存解析・寿命データ分析における応用例の検討を通じて,接合関数モデリングの特徴・利点・欠点を明らかにする.特に,2007–9年の世界金融危機において,接合関数モデルがどのような役割を演じ,どのような批判を浴びたのかについては,詳細に吟味する.
著者
劉 言
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.53-68, 2022-09-13 (Released:2022-09-14)
参考文献数
37

予測に基づく時系列の統計推測について考える.時系列の予測問題は調和可能安定過程を出発点として統一的に扱う.これにより,予測誤差と補間誤差はスペクトル密度関数の汎関数として表現することが可能である.スペクトル密度関数のモデルを当てはめることにより,予測誤差や補間誤差を最小にするコントラスト関数を導入する.多くの安定分布の確率密度関数は陽に表現できないため,時系列モデルの母数推定において最尤法を用いることが難しいが,コントラスト関数を用いれば,最小コントラスト推定量が母数の一致推定量となることが示せる.これに加えて,最小コントラスト推定量の漸近分布を示す.また,重要指標となる母数の仮説検定について,経験尤度比検定法を議論し,近年の理論的研究成果を与える.