著者
駒井 武
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.47-54, 2019-02-28 (Released:2019-09-12)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

東日本沿岸における津波堆積物の性状と地球化学的特性を中心に,津波堆積物に含有する重金属類や塩分の組成について表層土壌や海底堆積物と比較した結果について述べた。また,現場調査の結果として得られた各種分析データを用いてリスク評価を行い,地下水および土壌環境への影響について考察し,津波堆積物のリスク管理の在り方について検討した。津波堆積物では土壌と比べて砒素および鉛の含有量,溶出量が高く,地下水飲用の制限等が必要な場合もあった。一方,多くの場合では,所定のリスク管理を実施した後に津波堆積物を復興資材として活用可能であることが分かった。
著者
齋藤 光代 安元 純 杉山 歩
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.525-545, 2020
被引用文献数
1

<p>本稿では,地下水と生態系との関係についての既存研究の動向を把握するとともに,今後の課題や展開を明らかにすることを目的とし,あらゆる物質循環および生態系に関与する「微生物」の地下水中での動態に加え,地下水に影響を受ける生態系(Groundwater Dependent Ecosystems: GDEs)のうち,特に,地下水流出域に相当する沿岸海域に分布し,物質循環や生物多様性の保全にとって重要な役割を果たす「藻場」と「サンゴ礁」生態系に着目し整理した。微生物については,従来地下水の飲料水適用や汚染浄化を主要な観点とした研究が多く行われてきたが,近年では地下水流動と微生物動態の関係などに着目した研究も徐々に進んできている。また,藻場やサンゴ礁については,海底湧水(Submarine Groundwater Discharge: SGD)の影響が顕著な地域を対象とした研究により,藻場に対しては,SGDが栄養塩の供給源として海草や海藻類の存在量増加に寄与する反面,種の多様性は低下させる傾向にあること,また,サンゴ礁に対しては,SGD経由の栄養塩供給が増加して海域の富栄養化を招いた場合,ある種の藻類の増殖やサンゴの骨格密度や繁殖能の低下を引き起こし,結果としてサンゴ礁の脆弱性を高めることが報告されている。ただし,いずれについても,地下水との関係については未だ科学的に未解明な部分が多く,多様なサイトにおける調査結果の蓄積や新たな手法の適用に加え,生物地球化学,微生物学,および生態学などの分野の研究者が地下水学を通じて連携し,更なる理解を深めていくことが重要である。</p>
著者
井手 淨 鈴木 弘明 古閑 仁美 嶋田 純
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.197-203, 2019-08-31 (Released:2020-03-04)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

熊本地域における地下水観測井の管頭標高値は,2016年4月に発生した熊本地震で変動している可能性が高いが,地震後の再測量に対する方針は管理行政団体毎に異なる。そこで,2017年3月に観測井管頭標高の一斉再測量を実施し,地震後の水位標高値が再測量した値を基準とするよう独自に補正値を求めた。また地震前後の管頭標高値の変動が地震による地盤標高の変動量と整合しないケースも確認された。検証の結果,地震以前の管頭標高値にエラーが考えられた。これについても熊本地震以降の一斉再測量値を基準に地震による地盤変動量を差し引くことで,地震以前の管頭標高値を再現する補正値を併せて求めた。本報告では補正値の導出過程を報告する。
著者
広城 吉成 小田 圭太 Md. Abdul HALIM Abdur RAZZAK 神野 健二
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.25-32, 2008-02-29 (Released:2012-12-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

鉄の多くが水酸化第二鉄として存在するような酸化環境下では,土壌中に存在するヒ素の多くは鉄を含む堆積物に吸着されている.本報は,鉄とヒ素の化学的相互作用に着目し,その第一段階として,カラム実験により酸化還元環境の変化に伴うヒ素と鉄,マンガンの動態について考察した.その結果,土壌が還元環境になると鉄が溶出し始め,同時期にヒ素濃度が増加し始めた.一方,マンガンとヒ素の挙動には相関性がなかった.還元状況下で鉄とヒ素を含む水が酸化環境におかれると,水中の鉄,ヒ素濃度はそれぞれ低下した.
著者
高井 健太郎 田瀬 則雄
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.145-157, 2000-05-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
20
被引用文献数
4 1

本研究では.環境庁による調査でホウ素による汚染が確認されている.千葉県睦沢町の瑞沢川流域と.市原市から大多喜町にかけての養老川流域を研究対象地域とし147本の地下水サンプルを採取した.そして対象地域付近の地下水中のホウ素濃度とホウ素含有地下水の水質の特徴を明らかにし.ホウ素の起源を推定した.分析の結果.147サンプル中21サンプルから旧指針値の0.2mg/Lを超過するホウ素が検出された.ホウ素濃度が旧指針値を超過していた井戸は比較的集中していることが多かった.ホウ素を比較的高濃度に含む地下水では.Na+.HCO3-濃度.pHやECなどの値が高く.弱アルカリ性を示し.Ca2+の値は極端に低く.茶褐色に着色していることが多いなどの特徴があったが.水質データのクラスター分析によってアルカリ非炭酸塩型とアルカリ重炭酸塩型の2種類に分類された.アルカリ非炭酸塩型の汚染地下水についてはホウ素の主な供給源は化石水であること.またアルカリ重炭酸塩型の地下水に関しては地質起源と推定された.
著者
髙本 尚彦 嶋田 純 白石 知成
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.325-343, 2017-11-30 (Released:2018-02-13)
参考文献数
35
被引用文献数
2

地層が堆積した当時の水文情報が残っている可能性のある霞ヶ浦において,海水準変動,塩濃度変化,堆積物の堆積過程といった長期的な変遷を考慮した非定常の2次元鉛直断面地下水流動解析を行った結果,既往調査で得られた2地点のコア間隙水の塩濃度プロファイルを概ね再現することができ,2地点の陸域からの淡水地下水の寄与の違いを定量的に示すことができた。解析結果からも,湖岸に近いSiteK-1は地表水だけでなく陸域からの地下水の影響を受けやすい環境であるのに対し,湖心付近のSiteK-2は陸域からの地下水の影響を受けにくい環境であった。非定常解析を行うことにより,以上なような詳細な水文環境の変遷状況が明らかとなった。
著者
松田 松二
出版者
地下水学会誌
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.53-60_1, 1990
被引用文献数
1
著者
堀池 昭
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.315-325_1, 1994-09-20 (Released:2012-12-11)
参考文献数
16
被引用文献数
1
著者
小寺 浩二 濱 侃 齋藤 圭 森本 洋一
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.237-249, 2014-08-30 (Released:2014-10-21)
参考文献数
12
被引用文献数
2
著者
西村 宗倫 川﨑 将生 斉藤 泰久 橋本 健志
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.125-158, 2017-05-31 (Released:2017-06-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

水循環基本法の制定等を踏まえて,水循環解析の社会的実装の促進が求められる。そこで,国土交通省国土技術政策総合研究所では2016年3月に地方公共団体等向けの手引き書として,水循環解析の手順や必要な資料等を「水循環解析の技術資料」にとりまとめた。これを補足するものとして,本報告は,福井県大野盆地において実施した水循環解析について,モデルの設定手法や再現性の検証手法について詳述したものである。特に,水循環解析の再現性について地下水位に着目した検討を行った結果から,構築したモデルの高い再現性を示した。本報告は,持続可能な地下水の利用と保全に水循環解析を活用することの一助になると考えられる。
著者
Shrestha Suresh Das Karmacharya Roshani Rao G.K.
出版者
地下水学会誌
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.29-40, 1996-02-08
参考文献数
6
被引用文献数
9

ネパール国カトマンズ盆地には礫層を主体とした鮮新・更新統が広く発達している.この礫層は.盆地北部では不圧地下水の帯水層で.南部では被圧地下水の帯水層を形成し.その中間の中央部では半被圧帯水層となっている.これらの帯水層には15m程度の井戸が掘削され.主として飲雑用水として利用されている.盆地全体の地下水流動量は1,380m<SUP>3</SUP>/dayであるが.雨期にはほぼその2倍に増大する.しかしながら.カトマンズ盆地の水利用量の40%をしめる地下水使用量の増加によって.水位低下などの障害が心配されてきた.そこで.特に北部についてはマルチパーパス計画を行うべきである.
著者
浦越 拓野 徳永 朋祥 茂木 勝郎
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.181-197, 2005-05-25
参考文献数
19
被引用文献数
6 3

海底地下水湧出現象は,陸域水循環系の出口のひとつとして,また,陸域起源物質の沿岸域への供給経路のひとつとして重要である.海底地盤中の地下水流れのポテンシャル場や水理特性は,海底地下水湧出現象を規定する要因であり,これらを明らかにすることは,海底地下水湧出現象を理解する上で重要である.そこで,本研究では,海底地盤中の2深度での間隙水圧の長期連続測定から,鉛直間隙水圧分布と水理特性を評価する手法の開発を行い,海底地下水湧出の存在が知られている黒部川扇状地沖合に適用した.その結果,海底面下0.5m及び0.84mでの間隙水圧が静水圧よりそれぞれ0.23kPa及び0.63kPa程度高いことが明らかになった.また,波浪に対する間隙水圧の応答から,地盤のhydraulicdiffusivityが0.3-1.2m<SUP>2</SUP>/sと評価された.これらから,海底地下水湧出の流束は1.8×10<SUP>-6</SUP>-5.6×100<SUP>-5</SUP>m/sと推定された.
著者
川満 一史
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.195-200_1, 1991-09-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
肥田 登 石川 悦郎 太田 由紀子
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.23-33, 1999
被引用文献数
4

六郷扇状地は.39°25'N.140°34'Eの周辺にある.標高90mの扇頂と標高45mの扇端との問は約4kmである.ここで池を用いた地下水人工涵養の実験を実施した.期間は.1998年4月13日から4月27日までの14日間である.涵養池は扇央に設置した.池底の面積は1,045m<SUP>2</SUP>.深さは3mである.扇状地の帯水層は主に砂礫から成り.透水係数は10°~10<SUP>-2</SUP>cm/secのオーダにあり.比産出率は20%強である.<BR>本実験の結果.つぎの点が明らかにされた.1.涵養期間中の池への平均給水量は.71.2l/秒.この間の池底からの平均浸透速度は.24.5cm/時であった.2.涵養池から480m下流の観測井では.給水を開始後2日めより地下水位は上昇を始め.同11日めに最高水位を記録した.この間の水位の上昇高は.1.40mであった.3.涵養を実施している間.涵養池の下部には地下水堆が形成された.4.地下水堆の形成により.涵養池の西~北西方向の一帯において.地下水面は上昇した.扇端にある琴平観測井の4月の地下水位は.平年的には低下するが.人工涵養を実施することによって一定の高さを推移した.5.人工涵養により地下水位の保全を図れる範囲は.扇端の湧泉帯までである.地下水は.この湧泉帯から流出する.
著者
吉村 雅仁 今泉 眞之 佐倉 保夫 唐 常源
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.19-40, 2003

割れ目の幾何(パターン)が岩盤の透水性や内部の物質挙動に与える影響について明らかにすることを目的とした.アクリル製の角柱ブロックを水槽内に異なるパターンで並べることによって,6種類の模擬割れ目岩盤を作り,トレーサー試験を行った.トレーサーの挙動は,最大64箇所の割れ目交差部でトレーサーの電導度を計測することによって把握した.解析の結果,割れ目パターンの違いは流路長や有効間隙率を変化させ,異なる透水性やトレーサープルームの形状を示すこと,平行板からなる割れ目内における機械的分散現象が生じていることを明らかにした.トレーサープルームの形状の成因については,交差部における流線と拡散ゾーンの概念を導入して考察した.