著者
村松 容一 岡崎 公美 大城 恵理 安諸 政俊
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.145-162, 2008-08-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

関東平野中央部の非火山地域に分布する39本の深部温泉井を対象に,主要化学成分を分析するとともに,温泉井の掘削時に回収された岩片の構成鉱物をX線回折法で同定した.さらに,深部流体温度の推定法としてのシリカ地化学温度計の適用可能性を泉温と併せて検討した結果を踏まえて,水一鉱物相互作用の化学平衡論を用いて広域流動機構および水質形成機構を検討した.深部流体温度の推定には,カルセドニー地化学温度計よりも泉温を用いるのが適当である.難透水性の先新第三系基盤岩類(三波川帯,秩父帯,四万十帯)に賦存する断層規制型温泉の泉質はNa-Cl型とNa-HCO3型に属する.一方,上総層群および三浦層群相当層(新第三系と第四系)に賦存する岩相規制型温泉の泉質はNa-Cl型を主とし,一部にはNa-HCO3型も存在する.海水混合比および泉温の二次元分布は,深部流体が関東山地,利根川上流方面ないし足尾山地および八溝山地から地下に酒養された降水と40℃程度に加熱された化石海水の様々な割合の混合によって形成されたことを示唆する.深部流体はNa-モンモリロナイトとカオリナイトに対して過飽和状態にある.水質組成はNa-モンモリロナイトのMgイオン交換反応および斜長石の風化作用によるカオリナイト化に大きく影響されている.
著者
徳永 朋祥 浅井 和見 中田 智浩 谷口 真人 嶋田 純 三枝 博光
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.279-287, 2001-11-30
被引用文献数
2 3

沿岸海底下からの地下水採取技術の開発を行った.ここでは.潜水作業を行うことができるダイバーによって調査が可能な水深(約30から40m)程度までの領域において.海水との混合を防ぎ.かつ大量の地下水採取を可能にすることを目的とした.具体的には.海底下に長さ60cm程度の採水用針を刺し.複数の三方コックとプラスチックシリンジ.マイラーバッグを組み合わせることにより.1回の作業で1リットル以上(最大2リットル程度)の採水を行うことを可能にした.この手法を.黒部川扇状地沖合の淡水湧水地点において適用した.その結果.本手法では.海水との混合をすることなく淡水の地下水を採取することが可能であることを確認した.また.今回の採水では.採水地点(2個所)から各々約1リットルの地下水を採水することができた.採取された地下水の主成分組成および安定同位体の値は.今までに黒部川扇状地の陸域で報告されている値と調和的であった.
著者
岸 和男
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.43-47, 1988
被引用文献数
3 2
著者
富山 眞吾 井伊 博行 小泉 由起子 目次 英哉
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.261-274, 2010 (Released:2012-02-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2 6

休廃止鉱山である宮崎県富高鉱山では、砒素を含む坑内水が未処理のまま河川へ排水されており、将来的な対策として中和処理が検討されている。地表踏査やボーリング調査、鉱山の既存情報から、梅ヒ断層及び二坑ヒ断層に挟まれた区域では高透水性領域が形成されていることが想定される。大王山斜面から涵養した降水は高透水性領域の不飽和部を経て地下水面に達した後、地形的に低い周囲の河川へ流動しているものと考えられる。概念モデルをベースに数値モデルを構築し、降雨と坑内水流量及び地下水位との応答再現を試みた。その結果、おおよそ実測値と整合的な計算結果が得られ、概念モデルの妥当性を示すものと評価できる。
著者
小林 薫 熊谷 幸樹 藤間 律子 近久 博志
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.349-360, 2009 (Released:2012-02-01)
参考文献数
22

地下水流動は、降水、気圧や周辺の井戸利用状況による時間変動、沿岸域の潮汐による日変動、融雪期の季節変動ならびに建設工事に伴う地下水流動阻害などにより変化している。現地の正確な地下水流動特性を把握するためには、地下水流動に影響を及ぼす前述の各種外的要因の定量的データや地盤の間隙水圧などとともに、連続的な地下水流向流速の変化を同時に把握できれば有効なデータになる。このことから、筆者らは地下水流動場の流向流速を簡易かつ連続的に計測することができる連続式流向流速計の開発を目指した研究開発を実施している。本論文は、内陸域や沿岸域の建設工事などで必要となる地下水流動場の流向流速を連続的に計測できる下端部ヒンジ構造を有する浮きセンサを搭載した連続式流向流速計の概要について述べる。次に、流体シミュレーションの結果を基に、開発中の連続式流向流速計に適した浮きセンサの断面形状と塩水および淡水中における各適用限界流速について明らかにする。
著者
酒井 隆太郎 宗像 雅広 木村 英雄
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.311-329, 2009 (Released:2012-02-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

広域地下水流動に関する評価手法確立のための調査の一環として、千葉県養老川流域の小流域において、河川流量および観測点付近の河川水、湧水、井戸水の水質、水素・酸素同位体比等の分析を行った。水文学的検討により、地下水流動特性と地質・地質構造との関係を把握し、地化学的検討から、流出域の地下水の起源や流動経路を推定を試みた。この結果、高透水性を持つ砂岩優勢互層(大福山を含む高標高部)で涵養された地下水の大部分は、地層の走向の方向に流動した後、Ca-HCO3(SO4)型地下水として下流域において流出するが、一部は深部まで流動し、Na-HCO3型地下水と混合した後に、低透水性の砂泥互層の亀裂等を通じて下流域において流出する可能性が推定された。
著者
天野 由記 南條 功 村上 裕晃 藪内 聡 横田 秀晴 佐々木 祥人 岩月 輝希
出版者
公益社団法人 日本地下水学会
雑誌
地下水学会誌 (ISSN:09134182)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.207-228, 2012 (Released:2012-12-14)
参考文献数
43
被引用文献数
1 3

北海道幌延町において,堆積岩を対象とした深地層の研究施設を利用して,地上からの地球化学調査技術の妥当性を検証した。また,地下施設建設が周辺の地球化学状態に及ぼす影響について考察した。地上からのボーリング調査について,調査数量と水質深度分布の予測向上の関係を整理した結果,3本程度の基本ボーリング調査と断層・割れ目帯など高透水性の水理地質構造を対象とした追加ボーリング調査により,数キロメータースケールの調査解析断面の水質分布について不確実性も含めて評価できることが明らかになった。地下施設建設に伴う地下水の塩分濃度,pH,酸化還元状態の擾乱を観察した結果,一部の高透水性地質構造の周辺において,地下坑道への湧水による水圧や塩分濃度の変化が確認された。この変化量は事前の予測解析結果と整合的であった。これらの成果は,他の堆積岩地域における地上からのボーリング調査や地下施設建設時の地球化学調査の計画監理にも参照可能と考えられる。