著者
孟 真
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.364-369, 2013-08-01 (Released:2013-09-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

深部静脈血栓症の診断には客観的な画像診断が不可欠である.現在,超音波診断法とCT静脈造影(CT venography以下CTV)が主に使用されている.超音波診断法は低侵襲で深部静脈血栓症診断の第一選択である.方法はプローブでの圧迫法を基本としてカラードプラ,パルスドプラを併用する.超音波検査は術者の技量・習熟度が検査成績に影響し,下大静脈/腸骨/下腿領域で診断率が下がってしまう.CT肺動脈造影はすでに急性肺塞栓症の第一選択の画像検査である.CT肺動脈造影撮影後にCTVを行うことは早急な診断を要する病態では適している.CTVは下大静脈,腸骨静脈,大腿静脈,膝窩静脈の描出力は高いものの,静脈径の小さい下腿では分解能に限界がある.腎障害,造影剤アレルギー,被曝線量も問題となる.深部静脈血栓症の診断に関しては超音波検査が第一選択であるが,CTVは肺塞栓症合併例や超音波検査困難例などに施設の現状にあわせて超音波診断の相補的な役割を担い,重要性は増している.
著者
辻 肇
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.187-190, 2008 (Released:2008-05-01)
参考文献数
3
被引用文献数
4 2

Point(1)ヘパリンの使用に際しては,効能・効果,原則禁忌,慎重投与に関する十分な検討を行う.(2)ヘパリンの投与法として,静脈内点滴注射法,静脈内間歇注射法,皮下注射法,筋肉内注射法が知られ,病態に応じて選択する.(3)低分子ヘパリンは,DICの治療,血液体外循環時の灌流血液の凝固阻止に用いられる.(4)ヘパリン類製剤(ダナパロイドナトリウム)は,DICの治療に使用される.
著者
射場 敏明
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.444-449, 2016 (Released:2016-08-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

要約:近年,血管内皮上に存在するグリコカリクス(glycocalyx)の役割が注目されている.プロテオグリカン(proteoglycan)やグリコプロテイン(glycoprotein),糖鎖などからなるこの構造は,血管内腔の血液凝固を抑制しているだけではなく,血小板や好中球の血管内腔への接着を制御したり,血管透過性を調節したり,ずり応力などの力学的刺激を感知するなど,多彩な機能を担っていることが明らかにされてきた.極めて繊細かつ跪弱なグリコカリクスの研究は,技術的課題もあってこれまで十分な進展がみられなかった.しかし最近になって検査手法の進歩にともない,ようやく新しい展開がみられるようになってきた.そしてグリコカリクスは敗血症や虚血再灌流障害といった急性疾患のみならず,糖尿病や動脈硬化などの慢性疾患においても,病態形成においても重要な役割を演じていることが明らかにされた.本稿ではグリコカリクスの構造や機能,疾病との関連などについて最近の知見を紹介する.
著者
松原 由美子
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.432-438, 2020 (Released:2020-08-12)
参考文献数
13

Platelets are released from mature megakaryocytes (MKs) and are used for therapeutic application, especially platelet transfusion. Platelet concentrates used for platelet transfusions are currently supplied by volunteer donors. Due to their short shelf life (4 days in Japan and 5 days in US), however, donor-dependent platelet concentrates are associated with practical problems, such as the limited supply and the risk of infection. Thus, new strategies for manufacturing MKs and subsequently platelets from a donor-independent source are urgently needed. Mesenchymal stem cells (MSCs) are known to be non-hematopoietic multipotent progenitor-cells. We found that MSCs/stromal cells differentiated into MKs and platelets. The clinical needs for platelet transfusions are increasing. Adipose tissue-derived MSCs/stromal cells are an attractive candidate cell source because inducing these cells into MK-lineages requires no gene transfer and only endogenous transcription factors containing p45NF-E2/Maf, an MK-inducing factor and endogenous thrombopoietin, a primary cytokine that drives MK lineages. Thus, we developed a manufacturing system for platelets from donor-independent cell source, human adipose-derived mesenchymal stromal/stem cell line (ASCL). ASCL satisfied the minimal criteria for defining MSC by The International Society for Cellular Therapy. ASCL-derived platelets (ASCL-PLT) were obtained with a peak at Day 12 of culture using MK lineage induction media. We observed that CD42b-positive cells expressed a MSC marker CD90 in relation to cell adhesion. The pattern of in vivo kinetics after being infused into irradiated immunodeficient NSG mice was similar to that of platelet concentrates. ASCL-PLT has characterization observed in other platelet populations and might have additional function as MSC. The present protocol is a simple method that requires no feeder cells, further enhancing the clinical application of our approach.
著者
上野 良樹 奥 和代
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.175-182, 2006 (Released:2006-05-30)
参考文献数
26

HITのII型は免疫学的な機序によって起きることが明らかにされているが, I型のHITなどに見られるヘパリンによる血小板への作用は必ずしも明らかにはなっていない. われわれはこれまで全血を用いたin vitroの系においてヘパリンによる血小板凝集が起きる場合に物理的刺激による血小板の活性化と, RGD配列をもつ粘着蛋白のGPIIb/IIIa complexへの結合とそのクラスタリングが必要であることを報告してきた. 今回血小板の凝集を誘起するヘパリンの条件を検討するために未分画ヘパリンによる血小板凝集作用をかきまぜ刺激あるいは寒冷刺激下において低分子ヘパリンおよびヘパリン類似物質(ヒルドイド, ダナパロイド)と比較した. 低分子ヘパリンはかきまぜ刺激下では有意の血小板凝集効果を示したが, 寒冷刺激下ではその作用はほとんど認められなかった. ダナパロイドは寒冷刺激下で軽度ではあるが有意の血小板凝集効果を示した. しかし, ヒルドイドはいずれの刺激下でも未分画ヘパリンより有意に強力な血小板凝集作用を示した. この作用は未分画ヘパリンと同様にRGDSにより阻害された. これらの結果より, ヘパリンによる血小板凝集作用にはその分子量や硫酸化の状態が関与しているものの非特異的な作用であると考えられた.

1 0 0 0 OA 肺血栓塞栓症

著者
長谷川 淳
出版者
The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.36-40, 1990-02-01 (Released:2010-08-05)
参考文献数
1
著者
小泉 淳
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.370-379, 2013-08-01 (Released:2013-09-10)
参考文献数
13

a.急性胸痛・呼吸困難・失神などから急性肺血栓塞栓症が疑われてショック症状を呈する広汎型患者に対しては,ベッドサイドで低侵襲に施行可能な心臓超音波検査や胸部単純X線写真で拾い上げ,PCPSなどで管理しつつ血管内治療を兼ねた肺動脈造影で確定診断することになる.b.非広汎型では下肢静脈を含めたCTが第一に推奨される.c.ヨード系造影剤の使えないアレルギー,腎機能低下症例や,妊婦,臨床的に強く疑われるのにCTで陰性であった場合(末梢性のshower embolismなど),血栓溶解療法の際の治療効果判定例などに核医学検査を施行する.d.MRIは患者管理の困難性,空間分解能の低さ,撮像時間の長さにやや難があるが,CTを施行できない場合の代替手段として,また血栓のagingやperfusionなど,CT,核医学検査同等以上の情報を提供しうる.
著者
篠澤 圭子 野上 恵嗣
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.482-493, 2014 (Released:2014-09-03)
参考文献数
45
被引用文献数
1

要約:APC レジスタンス(APCR)の原因として発見されたFactor V R506Q(FV Leiden)変異は,欧米白人における主要な静脈血栓症のリスクファクターであるが,これまでアジア人からは検出されていない.今回私達は,血漿FV 活性が低下しているにもかかわらず,重篤な深部静脈血栓症をおこした日本人少年のFV 遺伝子からW1920R(FV Nara)変異を同定し,日本人において初めてAPCR に関連する血栓性素因を報告した.FV-W1920R は,APC から受ける不活性化と,APC によるFVIIIa の不活性化におけるコファクターとしての機能の,両者の機能障害によってAPCR を示すことを解明した.とくに,APC によるFVIIIa の不活性化に対するFV-W1920R のコファクター機能は,FVIII のR336 の開裂を完全に阻止することにより,FV-R506Qよりも強い機能不全であることを明らかにした.
著者
小林 達之助 海渡 健 大坪 寛子 薄井 紀子 相羽 恵介
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 = The Journal of Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.443-449, 2009-08-01
参考文献数
20

39歳,女性.2007年5月帝王切開直後からAPTT延長を伴う出血傾向を認め当院入院.APTT71.6秒,FVIII activity 3%,FVIII inhibitor 6BU/mlであり後天性血友病Aと診断.頻回かつ大量の遺伝子組換え活性化第VII因子(rFVIIa)製剤を使用し出血症状は軽減.FVIII inhibitorには副腎皮質合成ステロイド薬による免疫抑制療法を開始したが軽快せず,cyclosporine A(CyA)を併用したところ,inhibitorは約6ヶ月後に消失した.分娩後発症の後天性血友病ではFVIII inhibitorは自然経過にて消失するとの報告もあるが,本例では早期からのステロイド薬とCyAの併用が著効を呈した.分娩後発症の後天性血友病Aはしばしば重篤な出血症状を呈するため,止血療法としてのバイパス療法の施行基準及びCyAを含めた適切な免疫抑制療法の解析が必要である.