著者
道木 慎二 伊藤 悠二 大熊 繁
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.39-47, 2008-03-05 (Released:2008-10-21)
参考文献数
13

ΔΣ変調にもとづくパルス神経回路(DSM-PNN)とそのハードウエア化について述べる.本手法では,パルス信号としてディジタル信号処理分野において注目を集めているΔΣ変調にもとづく1ビットストリーム信号を採用することにより,コンパクトな回路構成を実現することが可能なパルス神経回路の特徴を生かしつつ,ディジタル信号処理の観点から高い精度の演算が実現可能である.この特徴を生かし,特定のモデルや学習アルゴリズムに特化させることなく,各種1ビットストリーム信号の演算器により,様々なモデルや学習アルゴリズムに対応可能な神経回路を構成する.最後に,様々なハードウエア化の実施例の中から,独立成分分析を行うDSM-PNNについて紹介する.
著者
青井 伸也
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.53-63, 2015-06-05 (Released:2015-07-31)
参考文献数
26

ヒトや動物は,冗長で複雑な筋骨格系を巧みに動かし,多様な環境の中で適応的な歩行を実現している.近年の生理学的研究から,生物の運動制御における様々な協調構造(シナジー)の存在が明らかにされ,生体に内在する冗長性を解決する戦略として広く示唆されている.特に筋活動に内在する協調構造は筋シナジーと呼ばれ,ヒトだけでなくサルやラットなど様々な生物で共通する構造が見受けられている.ただし,筋電図など計測データの解析からこのような生物の有する適応的な歩行戦略が垣間見られるが,神経系が実際どのように作用し,適応的な歩行に寄与しているのかは定かではなく,生物の歩行戦略を理解する上で,運動計測と解析に基づく手法には限界がある.そこで近年,解剖学的に詳細な筋骨格系の数理モデルと神経生理学的な知見に基づく神経制御系の数理モデルを統合した神経筋骨格モデルを用い,動力学シミュレーションを介して構成論的に神経制御系の役割を考察する研究が行われている.本解説では,生物の適応的な歩行に見られる筋シナジー構造や神経系におけるその制御に関する生理学的仮説について解説すると共に,生物の神経筋骨格モデルを構築し,その役割を構成論的に明らかにすることを目的とした研究についていくつか紹介する.
著者
多賀 厳太郎
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.23-27, 2013-03-05 (Released:2013-05-17)
参考文献数
39

胎児期から乳児期にかけて,ヒトの脳のマクロな構造と機能がどのように発達するのかについて,実証的な知見が蓄積されてきた.自発活動とネットワークの形成過程に注目し,脳の発達とヒトの行動発現の原理について議論する.
著者
小川 健一朗 三宅 美博
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.7-13, 2013-03-05 (Released:2013-05-17)
参考文献数
17

我々は,ショウジョウバエの頭尾軸形成における遺伝子発現の理論的研究を通じて,多細胞生物における細胞の観測行為と観測結果の関係を数理的にモデル化し,個体差に対する遺伝子の発現パターンのロバスト性に対して新たな説明を与えた.この数理モデルは,発生生物学の問題に限らず,広く生物システムにおける主体の行為と知覚,およびそれに基づく認識のロバスト性に関する現象をモデル化する際に数理的観点から示唆を与えるものと考えられる.そこで,本稿では,ショウジョウバエの頭尾軸形成における遺伝子発現におけるロバスト性の問題を例にして,この数理モデルの特徴について解説を行う.
著者
小川 正
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.62-71, 2019-09-05 (Released:2019-10-31)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿では,視覚探索を行うときに機能する注意の神経機構とその情報処理について述べる.現実世界の視覚環境は複雑であるため,外界を理解するためには眼球運動によって視線をスキャンさせ,詳細を知りたい物体に視線を向ける視覚探索が必要となる.注意には,外界から入力された感覚情報などにもとづいて起動される「外因性のボトムアップ型注意」と,知識・意図などの脳内情報にもとづいて起動される「内因性のトップダウン型注意」があり,これらの注意機能は生体にとって重要と思われる視覚情報を選択することによって合目的な視覚探索行動を可能にしている.大脳皮質において眼球運動系の上位中枢であるLIP野(the lateral intrparietal area)やFEF野(the frontal eye field)はトップダウン型注意の上位中枢であり,注意と眼球運動の神経機構は密接にかかわっている.視覚探索では時間経過とともに必要な神経情報処理が「注意による目標選択」から「目標に向かうサッカード眼球運動の生起」へと変化すると考えられるが,実際に視覚野であるV4野(visual area V4)において前者を反映したニューロン活動から後者を反映したニューロン活動へと神経情報がダイナミックに変化していることを示す研究知見を紹介する.さらに,ニューロン活動においてそのような時間ダイナミクスを生み出すと考えられる視覚運動野(LIP野,FEF野など)から視覚野(V4野など)への神経フィードバック経路について考察する.
著者
伊藤 博
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3-4, pp.107-117, 2020-12-05 (Released:2021-01-08)
参考文献数
45

脳は,外界刺激への反応を最適化するのみならず,内部モデルを作り個々の行動のもたらす結果を推測することで,より長期的で複雑な行動計画を可能としている.空間探索はその能力を端的に示す行動で,一つ一つの行動選択が目的地に到達するためにどのような意味を持ち得るかを,脳内の空間地図に照らし合わせて計算していると考えられる.本稿では,まず空間認知・探索の研究の歴史を振り返り,これまで解明されてきた脳内メカニズムを議論する.こうした研究の多くは,海馬や嗅内皮質領域の活動と,動物の現在地またはその周辺の空間表現との関連を主に探ってきた.しかし,空間探索には他にも様々な計算過程,例えば目的地の決定や経路の選択が必要であり,こうした点に関しては未だに多くの部分が不明である.また脳内空間地図により計画された目的地への経路が,最終的に四肢の動作として表現されるための座標変換も必要となる.このように空間探索行動には,様々な計算が複雑に絡み合っており,それぞれの異なる機能に着目した研究が求められる.こうした問題に対して我々のグループが行ってきた研究の成果を紹介しながら議論したい.
著者
小野 誠司
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.31-40, 2011-03-05 (Released:2011-05-20)
参考文献数
26

Learning new motor behavior is aided by error signals that occur in association with each attempted behavior. Although sensory error inputs are known to be essential for guiding motor learning, the nature and source of error signals are incompletely understood. Therefore, we applied micro-electrical stimulation in the pretectal nucleus of the optic tract (NOT), which encodes retinal error information during smooth pursuit and sends signals to the cerebellum through the inferior olive. Here we would argue that artificial error information (simulated retinal motion) produced by NOT stimulation could provide instructive signals for visually guided motor learning.
著者
矢野 雅文
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.42-47, 2013-03-05 (Released:2013-05-17)
参考文献数
7
被引用文献数
1

新規環境·新規タスクに対する即興的な運動パターンを生成できる能力を得たことが,哺乳類が恐竜や爬虫類に代わって天下を取ったのだとNicholai A. Bernsteinは,著書「デクステリティ巧みさとその発達」で述べている.大脳新皮質の役割は学習による定型動作を獲得するためでなく,過去の膨大な学習結果は運動の即興性に役に立っていて,環境が予測不可能的にしかもダイナミックに変化する時には本質的になる.現代の制御論に基づいた生体運動制御は運動の即興性に関して無力であり,自律的適応を導入してその解決を図る.
著者
山川 宏
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.147-150, 2021-12-05 (Released:2022-01-05)
参考文献数
3
著者
赤石 黎
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.30-36, 2015-03-05 (Released:2015-05-15)
参考文献数
24
被引用文献数
3 1

Neuroeconomicsと呼ばれる研究分野は神経科学と経済学や動物行動学などの行動科学との融合から目覚ましい発展を遂げてきた.この基礎にあるのは,脳が果たす機能を「行動選択に影響を及ぼす変数(value)を設定し,その期待値を,選択を通して最大化する」ことだと捉えるという考えであった.さらに学習理論などから,このvalueは行動の結果により更新されていくと考えられてきた.しかし最近,この単純なvalueの概念について見直しを迫るような研究が相次いで発表されてきている.今回は筆者自身の研究を中心に,行動の選択とvalueの更新の関係性に焦点をあて解説してみたい.
著者
椿 真史
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.28-55, 2021-03-05 (Released:2021-04-05)
参考文献数
30

本稿では,マテリアルズ・インフォマティクスにおけるデータ駆動型機械学習の研究動向について解説する.特に,分子や結晶における物性と機能の問題,量子化学計算による物性データベース,分子や結晶の記述子,そして深層学習アプローチによる物性予測などについて解説する.そして筆者自身の研究も紹介しながら,今後より重要となる機能予測のため,物理化学と融合した転移学習について展望を述べたい.
著者
和田山 正
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 = The Brain & neural networks (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.63-69, 2010-06-05
参考文献数
7
被引用文献数
1

圧縮センシング(compressed sensing)は,スパース信号に対するサンプリング理論である.ランダム線形測定過程により得られるサンプル信号からの原信号の再現可能性,計算量の少ない再現アルゴリズムの構成が圧縮センシングの重要な研究テーマとなっている.本解説では,Candes-Taoらによる原信号完全再現のための十分条件について解説を行う.
著者
鈴木 隆文
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.112-117, 2012-09-05 (Released:2012-10-29)
参考文献数
22

運動出力型のブレインマシンインタフェース(BMI)研究の技術革新が進んでいる.臨床応用を考える場合,その信号源として皮質脳波信号が有望視されている.本稿では運動出力型BMIに関する研究の流れを概観するとともに,閉ループBMI,FESとの統合,人工神経接続,DecNef,デバイス技術などのいくつかの新しい研究潮流について紹介する.
著者
小島 奉子
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.126-134, 2012-09-05 (Released:2012-10-29)
参考文献数
56