- 著者
-
青井 伸也
- 出版者
- 日本神経回路学会
- 雑誌
- 日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.2, pp.53-63, 2015-06-05 (Released:2015-07-31)
- 参考文献数
- 26
ヒトや動物は,冗長で複雑な筋骨格系を巧みに動かし,多様な環境の中で適応的な歩行を実現している.近年の生理学的研究から,生物の運動制御における様々な協調構造(シナジー)の存在が明らかにされ,生体に内在する冗長性を解決する戦略として広く示唆されている.特に筋活動に内在する協調構造は筋シナジーと呼ばれ,ヒトだけでなくサルやラットなど様々な生物で共通する構造が見受けられている.ただし,筋電図など計測データの解析からこのような生物の有する適応的な歩行戦略が垣間見られるが,神経系が実際どのように作用し,適応的な歩行に寄与しているのかは定かではなく,生物の歩行戦略を理解する上で,運動計測と解析に基づく手法には限界がある.そこで近年,解剖学的に詳細な筋骨格系の数理モデルと神経生理学的な知見に基づく神経制御系の数理モデルを統合した神経筋骨格モデルを用い,動力学シミュレーションを介して構成論的に神経制御系の役割を考察する研究が行われている.本解説では,生物の適応的な歩行に見られる筋シナジー構造や神経系におけるその制御に関する生理学的仮説について解説すると共に,生物の神経筋骨格モデルを構築し,その役割を構成論的に明らかにすることを目的とした研究についていくつか紹介する.