著者
松嶋 藻乃
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.3-15, 2015-03-05 (Released:2015-05-15)
参考文献数
62

私たちは,脳の処理能力をはるかに超える感覚入力の中から,重要度に応じて情報をふるい分け,日々意思決定を行っている.本稿では,①認知能力を制限し,②情報を取捨選択するメカニズムについて,サルを用いて研究してきた成果を紹介する.第一に,複数の物体に対して注意·記憶する際,それらの相対位置によって前頭前野ニューロン活動が異なり,それによって相対位置による認知容量の違いを説明できることを示した.第二に,前頭前野には,重要な情報を強調する信号に加えて,不要な情報を無視する信号が存在することを明らかにした.これらは,前頭前野の活動が,認知能力の限界を定めつつ,それの効率的な配分に寄与していることを示唆する.
著者
能川 知昭 根本 幸児 長谷川 雄央
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.182-189, 2014-12-05 (Released:2015-02-05)
参考文献数
24

複雑ネットワーク上の協力現象はユークリッド格子上のそれとは本質的に異なる場合があることが,近年明らかになってきた.本稿ではスモールワールド性を持つネットワークでしばしば観測される臨界相に注目する.臨界相とは,2次相転移の臨界点が有限のパラメータ領域に広がったようなものである.このことからスモールワールドネットワークは臨界的な状態を,パラメータ変化に対してロバストにする構造を持っていると考えられる.本稿ではいくつかの代表的なネットワークのボンドパーコレーションについて,それぞれの相図と基本的な性質を概観し,ネットワーク構造と臨界性の関係を考察する.
著者
西崎 誠 大森 隆司
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.106-116, 1999-06-05 (Released:2011-01-17)
参考文献数
10
被引用文献数
1

Incremental learning of knowledge and context dependency of recognition are important characteristics for an intelligent machine in the real world environment. Unknown objects may appear among known objects in such environment and the context requires change of the recognition result even if the input is the same. The system has to learn which object is unknown, what knowledge is necessary and how the context acts on the recognition process. Associative memory model PATON (Pattern+ton) has been proposed to realize such context dependency of recognition on the basis of the attention vectors. External inputs and candidates for the recognition can both be selected by an attention vector. In this paper, we propose a method of incremental learning involving the attention vectors and the knowledge, based on a reward through conversational interactions between PATON and the environment.
著者
田中 宗 山下 将司 関 優也
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.164-173, 2022-12-05 (Released:2023-01-06)
参考文献数
40
被引用文献数
1

最適化計算の新技術としてアニーリングマシンが注目を集めている.本解説では,アニーリングマシンやブラックボックス最適化の一般論について見てから,アニーリングマシンを用いたブラックボックス最適化の解法ならびに適用事例について紹介する.
著者
藍 浩之
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.73-84, 2011-06-05 (Released:2011-07-22)
参考文献数
38

昆虫は自らの運動で生じた空気振動をうまく利用し行動を制御し,またときには積極的に空気振動を作り出すことによって仲間との通信を行う.外界の空気粒子の振動は,振動源の近接場でのみ生じるため,その振動を受容する感覚器はその振動源の近接場でのみ機能する.本稿では,著者が研究をしてきた2つの事例を元に,昆虫がいかに巧みに振動を受容し,行動に結びつけているかをご紹介する.一つ目はカイコガの翅辺縁部に存在する剛毛感覚子の分布,形態と振動応答特性について,二つ目はミツバチの尻振りダンスで生じる振動をとらえるジョンストン器官の機能と脳内情報処理についての研究である.
著者
毛内 拡
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.71-80, 2021-06-05 (Released:2021-07-05)
参考文献数
18
被引用文献数
1

脳は,神経ネットワークの集合体と解釈されており,神経生理学の主な研究対象は,神経ネットワークにおけるシナプスを介した相互作用である.しかし,血管やグリア細胞など,脳のニューロン意外の構成要素が,脳内の物の流れ(ロジスティクス)に不可欠な役割を果たしている.さらに,脳の細胞外スペースは,細胞外環境の恒常性と代謝老廃物のクリアランスに重要な役割を果たす脳リンパ流の主要な経路であり,神経修飾物質の拡散性伝達や神経細胞が生成する電場の媒質としての役割を担っている.脳の高次機能を理解するためには,神経ネットワークとそれ以外の構成要素との間の「非シナプス性相互作用」を含む,脳内の包括的なコミュニケーション方式を理解する必要がある.本稿では,細胞外スペースとそれを満たす細胞間質液が提供する脳の「アナログ伝達機構」に焦点を当て,生きた脳組織の神経生理学・生物物理学のための神経科学の新たな展開を紹介する.
著者
ますとみ けい
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.12-14, 2020-03-05 (Released:2020-05-07)
参考文献数
1

水彩絵描きのますとみけいです.風景画や乗り物の絵を描いています.また,いわゆる在野の研究者として「素敵な絵を描くにはどうすればいいか」を研究しています.今回編集委員の先生から「大学に所属しない研究者から見た基礎研究の視点」というお題を頂きました.大学院生の頃の思い出と,その後の絵描きとしての活動,私の視点から見た研究についての話題提供ができればと思います.
著者
本田 直樹
出版者
Japanese Neural Network Society
雑誌
日本神経回路学会誌 = The Brain & neural networks (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.146-153, 2010-09-05
被引用文献数
1

去る2009年10月30日から11月3日に,諏訪湖で開催された日本神経回路学会オータムスクールAscone2009(Autumn School for Computational Neuroscience)において,大澤五住先生(大阪大学大学院 生命機能研究科脳神経工学講座 視覚神経科学研究室)の講義が行われました.その講義内容とスライドを元に,筆者が講義録としてまとめたものです.大澤先生が話しているような形式にまとめていますが,筆者の理解で再構成したものです.本内容や表現に関する責任は筆者がおうものとします.
著者
福島 孝治
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.305-312, 2007-12-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

物理のいろいろな分野にスケーリング理論と呼ばれる理論が沢山あり, それぞれの分野で重要な寄与を与えている. 今の世界から長さを2倍大きくすると, 物事はどのようにみえるか? この素朴な問いに答えることが, 「スケーリング理論」に共通する基本的な考え方である. ここではスケーリング理論を概観しながら, その特徴を解説してみたい. 特に, スケーリング理論の考え方を用いて, 計算機実験により有限のスケールで得られた情報から無限大の世界の性質を抽出する方法を紹介する.
著者
和久井 秀樹 平田 豊
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.20-31, 2014-03-05 (Released:2014-05-16)
参考文献数
34
被引用文献数
8 5

日常生活においては,覚醒度の変化が,事故につながることや健康状態を把握するための指標になることがある.そのため,安全·安心な社会を実現するための取り組みとして,ヒトの覚醒度を把握する方法が検討されている.近年では,映像·画像処理技術の進歩により,瞳孔·眼球運動に覚醒度低下状態が感度良く反映されることが明らかになってきた.しかも,本人がまだ眠気を自覚する前からそのような変化は現れる.本稿では,覚醒状態と瞳孔運動および各種眼球運動(サッカード運動,前庭動眼反射,輻輳性眼球運動)との関係についてまとめ,それらに関与する神経機構について考察する.
著者
加沢 知毅 宮本 大輔 後藤 晃彦 朴 希原 福田 哲也 神崎 亮平
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.89-102, 2015-09-05 (Released:2015-10-30)
参考文献数
49
被引用文献数
2

現在の超並列スパコンの発展は,昆虫脳程度の神経回路ならほぼリアルタイムの詳細シミュレーションが可能な計算力を提供しつつある.ここでは,並列化によって提供される膨大な計算力を昆虫脳シミュレーションに適用するために我々が開発してきた技術的進展とその応用,すなわち NEURON シミュレータの並列・最適化を中心に,それを使用した単一ニューロンのパラメータ推定,ボトムアップで再構成する触角葉神経回路シミュレーションやトップダウンで設計する画像認識の機能をもたせる神経回路構築などを紹介する.
著者
下澤 楯夫
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.155-166, 1999-09-05 (Released:2011-01-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1
著者
坂本 一寛
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.174-179, 2013-12-05 (Released:2014-02-07)
参考文献数
24

脳·神経系は極めて複雑であり,取り組むべき問題は無尽蔵にある.しかしながら,それ故に,何を研究すべきか,焦点を絞りにくい面もある.本稿では,脳·神経系の本質に迫るために検討するに値すると思われる諸問題を,
著者
石津 智大
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.119-134, 2022-09-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
129

神経美学(neuroaesthetics)とは,様々な美学的体験(美的範疇)や芸術的活動に関係する脳機能と認知の仕組みを研究する認知神経科学の一分野である.誕生から20年弱の比較的新しい分野だが,美学的体験や芸術についての認知神経科学・心理学的アプローチは各国の研究機関でも重視されている.現在,欧州と北米を中心にロンドン大学ユニバーシティ校,ウィーン大学,マックスプランク研究所,ニューヨーク大学,ペンシルベニア大学,UCバークレーなど主要大学・研究機関において研究講座が開設されている.ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ心理学部では,正式に当分野を修めることのできる修士課程コースも開講され,今後さらなる展開が期待される.知覚・認知と美学的体験との関係を科学の対象として研究した最初の試みは,19世紀末頃のグスタフ・フェヒナーによる実験美学に端を発する.複雑な感性的体験を一つの変数で説明し,共通の要素を見つけることで,多様な感性的体験を定式化しようと試みたのだ.しかしフェヒナーにとってより重要な目的は,刺激への反応の背後に想定される神経活動との関係性を説明することであり,それは心理物理学と実験美学のひとつの目標でもあった.非侵襲の脳機能画像法と認知神経科学の発展により,現在その実証性の理念は神経美学に引き継がれたといえる.本稿では,前半で神経美学,特に視覚における神経美学研究を概観する.続いて後半では,現在注目されている負の感情価を伴う美的感性について仮説を含めて議論する.心理学的・脳機能的な観点から,負の感情価の伴う美的体験について仮説と今後の検討課題を提示することを目的としている.なお本稿では,主に視覚・視覚芸術に関する神経美学を扱う.音楽に関する認知神経科学的検討は,本特集号の大黒による論考を参照されたい.

3 0 0 0 OA ASCONE2009体験記

著者
笹井 俊太朗
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-50, 2010-03-05 (Released:2010-04-30)
著者
池内 与志穂
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.151-161, 2021-12-05 (Released:2022-01-05)
参考文献数
92

脳を作るという夢に向かって,長年にわたって神経の培養技術が開発されてきた.初代培養に始まり,幹細胞分化などによって二次元上で神経回路を構築する技術が発展した.三次元技術の発展に加え,三次元幹細胞培養から自発的に生み出される脳の様な構造を持った組織(脳オルガノイド)の登場により,三次元神経回路を構築する研究が飛躍的に発展した.生物学と工学が交わって神経回路構築研究が発展している様子を紹介し,神経回路の機能獲得に向けた今後の研究の展望について議論する.