著者
鈴木 聡 森松 博史 江木 盛時 清水 一好 松崎 孝 佐藤 哲文 片山 浩 森田 潔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.215-220, 2011-04-01 (Released:2011-10-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

術後の発作性心房細動の発生は,ICUや病院滞在日数,医療費の増加につながることが報告されており,その管理は重要である。我々は,食道癌術後に難治性の発作性心房細動を合併し,短時間作用型β1選択的遮断薬である塩酸ランジオロールを使用した7例を経験した。症例は51~87歳で,いずれも男性であった。複数の抗不整脈薬が無効であり,塩酸ランジオロール投与を開始した。初期の急速投与は行わず,4.3~33.5μg/kg/minと低用量の範囲で開始し,投与前と投与1時間後の心拍数は平均153[140, 167][95%信頼区間] /minから101[88, 116] /min(P<0.0001)と有意な低下を認めた。平均血圧は88[78, 94] mmHgから82[74, 89] mmHg(P=0.37)と有意な変化を認めず,重症な低血圧に陥る症例もなかった。6例では投与開始24時間以内に洞調律に回復した。複数の抗不整脈薬に抵抗性の食道癌術後発作性心房細動に対する低用量の塩酸ランジオロール投与は,大きな血圧の低下なく心拍数の安定をもたらした。
著者
日本集中治療医学会集中治療の労働力調査プロジェクトワーキンググループ 日本集中治療医学会専門医制度委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.205-212, 2014-03-01 (Released:2014-03-19)
参考文献数
10

【目的】集中治療専門医試験受験者において合否と関連ある要因を探索する。【方法】専門医試験(2008~2012年)の343人の出願書類から,受験者の合否・性別・年齢・所属(施設と部門)・他学会の専門医資格・研修分野と期間の情報を収集し,多重ロジスティック回帰分析により合否に関連する要因を探索した。【結果】試験合格率は90.2%で,合格者は男性91.8%,平均39.2(SD 6.2)歳,大学病院勤務53.8%,所属(集中治療27.1%,麻酔31.0%,救急32.3%),麻酔専門医43.0%,平均研修期間5.2年(集中治療1.9年,麻酔1.0年,救急2.0年)であった。合格オッズは研修した分野(集中治療・麻酔・救急)やその期間とは関連していなかった。外科系研修期間(OR=0.08,P=0.01)と外科系専門医資格(OR=0.12,P<0.01)は合格を遠ざける有意な因子であった。
著者
小山 寛介 布宮 伸 和田 政彦 三澤 和秀 田中 進一郎 鯉沼 俊貴
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.163-172, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
46

【目的】下部消化管穿孔の合併症と予後の調査,及び重症化の危険因子に関する検討を行う。【方法】2006年4月から2008年3月までの2年間に,下部消化管穿孔に対する緊急手術後ICU管理を行った50例を対象とした。術後急性期の臓器障害の合併頻度と28日死亡率を後向きに調査した。また重症化の危険因子解明のため,ICU-free days(IFD)をエンドポイントとしてSpearman順位相関分析と多重ロジスティック回帰解析を行った。【結果】下部消化管穿孔術後急性期の臓器障害はショック(40%)が最も多く,次いで播種性血管内凝固(24%)の合併頻度が多かった。また,28日死亡率は6.0%であった。重症化の危険因子としては,Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(オッズ比1.85,P=0.025)と血中の白血球減少(オッズ比20.6,P=0.016)が有意にIFDを減少させる独立危険因子であった。【結論】下部消化管穿孔術後急性期はショックと凝固障害の合併が多い。ICU入室時のSOFAスコア,血中の白血球減少が下部消化管穿孔の重症化に関係することが示唆された。
著者
山内 康太 島添 裕史 石村 博史 鈴木 裕也 熊谷 謙一 海塚 安郎 東 秀史
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.387-394, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
24
被引用文献数
1

【目的】早期離床は術後管理において重要な構成要素の1つであるが,起立性低血圧(orthostatic hypotension, OH)をきたした場合,理学療法の介入が遅れ早期離床の阻害因子となる。本研究では胃癌に対し待機的胃切除術を施行した症例を対象に,術後1日目離床時におけるOHの発症率および発症因子を調査した。【方法】2004年4月から2011年8月までに胃癌で待機的手術を施行し,周術期理学療法を実施した211例を対象とした。調査項目としては,OH発症の有無および術前,術中,術後の3期においてOHに影響したと想定されるすべての因子を診療録より抽出した。【結果】胃癌術後1日目におけるOHは78例(37.0%)であった。多重ロジスティック回帰分析において,OH発症に有意に影響した因子は虚血性心疾患の既往の有無〔odds ratio(OR)2.317,95%confidence interval(CI)1.118~4.805,P=0.024〕,術後血清アルブミン値(albumin, Alb)(OR 0.362,95%CI 0.180~0.725,P=0.004),術後WBC(OR 1.008,95%CI 1.000~1.017,P=0.043),術後平均動脈圧(mean arterial pressure, MAP)(OR 0.968,95%CI 0.947~0.991,P=0.006)であった。【結論】胃癌術後におけるOHは37.0%と高率であり,虚血性心疾患,術後Alb,術後WBC,術後MAPが関連していることが示唆された。
著者
吉冨 郁 又吉 康俊 田村 尚 柴崎 誠一 内田 雅人 原西 保典 中村 久美子 岡 英男
出版者
日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.217-221, 2004-07-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
11
被引用文献数
1 5

酢酸中毒の1例を経験した。患者は59歳の男性で,自殺目的で30%酢酸を約100ml経口摂取し,約30分後に当院救急部に搬送された。激しい腹痛と嘔吐があり,著明な溶血尿が認められた。無尿,呼吸困難,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC),ショックとなったため,翌日ICUに入室となった。入室後,人工呼吸と持続血液濾過透析(continuous hemodiafiltration, CHDF)を開始し,DICに対する治療を行った。上部消化管内視鏡検査では,腐食性胃食道炎が認められた。1ヵ月間のCHDFの後,腎機能は徐々に回復し,人工呼吸も2ヵ月で離脱できたが,遷延する難治性の下血に対し,約3ヵ月の集中治療を要した。酢酸中毒では局所組織障害だけでなく,溶血,DIC,腎機能障害,肝機能障害,ショック,多臓器不全などが起こるため,急性期の適切な治療が重要である。
著者
片山 浩
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 = Journal of the Japanese Society of Intensive Care Medicine (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.115-121, 1998-04-01
参考文献数
12
被引用文献数
3

現在行われている持続血液浄化法の3形態,持続血液濾過(CHF),持続血液透析(CHD),持続血液濾過透析(CHDF)の物質除去効率の違いを,血中尿素窒素(分子量60),ビタミンB12,(分子量1,355),デキストラン(分予量4,400),チトクロームC(分子量12,400),ミオグロビン(分予量17,800)のクリアランスを計測することにより検討した.血液流量は100ml・min-1,浄化器はPAN (polyacrylonitrile)膜を使用した.CHFはいずれの分子量領域においても,濾過量にほぼ等しいクリアランスを示した.CHDは小分子量物質ではCHFと同等のクリアランスを示したが,分子量が増大するに従って,透析液流量を増加させてもクリアランスが増加しにくくなった.CHDFのクリアランスは常にCHDとCHFの間にあった.
著者
柳井 真知 藤谷 茂樹 渡邉 周子 中沢 恒太 林 宏行 若竹 春明 森澤 健一郎 平 泰彦
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.39-44, 2012-01-01 (Released:2012-07-10)
参考文献数
19
被引用文献数
1

【目的】治療開始48時間後にテイコプラニン(teicoplanin, TEIC)の有効トラフ濃度を得るローディングとその安全性の検討。【方法】ICUのmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染症およびその疑い患者を対象とした。48時間後の目標TEICトラフ濃度を15μg/ml前後と設定し,体重とクレアチニンクリアランス(creatinine clearance, CrCl)から1回投与量を決定できるノモグラムを用いて,1日2回2日間,計4回のローディングを施行した。【結果】73例の1回平均投与量は472.6±11.4 mg(8.2 mg/kg),総ローディング量1,890±251.8 mg,48時間後の平均トラフ濃度は17.1±5.8μg/mlであり,腎機能障害などの重篤な副作用は認めなかった。【結論】ノモグラムにより迅速にローディング量を決定でき,腎機能障害などの重篤な副作用を認めることなく安全かつ早期に治療有効トラフ濃度に到達可能である。
著者
谷内 仁 池田 寿昭 池田 一美 須田 慎吾
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.397-400, 2011-07-01 (Released:2012-01-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

プロカルシトニン(procalcitonin, PCT)は全身性細菌感染症のバイオマーカとして有用であり,敗血症の重症度ともよく相関するとされる。今回,感染症を伴わない高PCT血症を呈した悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome, NMS)疑いの一例を経験したので報告する。症例は66歳,男性。中咽頭癌の根治術後,摂食不良となり胃瘻を造設した。3日後より発熱し,血液生化学検査ではCRP,PCT,CKの上昇を認めたため,敗血症および横紋筋融解症が疑われ,ICU入室となった。入室時バイタルサインは安定し,理学所見上感染巣は認めなかった。胃瘻造設後ハロペリドールが増量されていたことから,向精神薬増量によるNMSが疑われた。輸液管理のみでCRP,PCTは低下した。本症例においてPCTが上昇した原因は特定できなかったが,細菌感染症を伴わない悪性症候群の疑い例で,炎症に付随しPCTが上昇する可能性があることに注意する必要がある。