著者
小竹 良文
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.11-16, 2012-01-01 (Released:2012-07-10)
参考文献数
20

人工呼吸器関連肺炎の病態には,気管チューブ周囲からのマイクロアスピレーションおよび気管チューブ表面のバイオフィルム形成が深く関与している。人工呼吸器関連肺炎を予防するための手段として,定期的なカフ圧の調節,声門下吸引などの手段がガイドラインなどにも取り上げられている。さらに,カフ素材および形状の変更,気管チューブ表面の抗菌薬コーティングなどの有用性が報告され,実際に臨床使用が可能になりつつある。
著者
日本集中治療医学会JRC蘇生ガイドライン2015 ALS部門作業部会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.151-183, 2017-03-01 (Released:2017-03-16)
被引用文献数
3

成人心拍再開後の集中治療および予後評価における改訂の要点(学会担当分)を示す。心拍再開後の集中治療【呼吸管理】酸素化に関して,低酸素症の回避を推奨し,高酸素症の回避を提案する。また,心拍再開(return of spontaneous circulation, ROSC)後,動脈血酸素飽和度または動脈血酸素分圧が確実に測定されるまでは100%吸入酸素濃度の使用を提案する。PaCO2に関してバンドル治療の一部としてPaCO2を生理的な正常範囲内に維持することを提案する。【循環管理】バンドル治療の一部として循環管理の目標(例:平均血圧,収縮期血圧)設定を考慮することを提案する。【体温管理療法】ROSC後に刺激に反応がない場合は,体温管理療法の施行を推奨/提案し,体温管理療法を行わないことには反対する。体温管理療法は,初期ECG(electrocardiogram)波形が電気ショック適応の院外心停止に対しては推奨し,初期ECG波形が電気ショック非適応の院外心停止および全ての初期ECG波形の院内心停止に対しては提案する。体温管理療法施行時には,32~36℃の間で目標体温を設定し,その温度で一定に維持することを推奨する。体温管理療法を施行する場合は,維持期間を少なくとも24時間とすることを提案する。ROSC直後,急速な大量冷却輸液による病院前冷却をルーチンには行わないことを推奨する。体温管理療法終了後も昏睡状態が遷延している場合は発熱を防止し治療することを提案する。【てんかん発作の管理】てんかん発作の予防をルーチンには行わないことを提案する。てんかん発作の治療を推奨する。【血糖管理】標準的血糖管理プロトコルを変更せず適応することを提案する。 予後評価【低体温による体温管理療法が施行されたROSC後昏睡患者の予後評価】ROSC後72時間以前に臨床所見のみで予後を評価しないよう提案する。鎮静や筋弛緩の残存が疑われる場合は,臨床所見を継続して観察することを提案する。 それにより予後評価の偽陽性を最小化することができる。単一の検査または所見のみを信用することなく,多元的な検査(臨床所見,神経生理学的な手法,イメージング,あるいは血液マーカー)を,予後評価のため使用することを提案する。予後不良を評価するには,ROSCから少なくとも72時間以後において,両側対光反射消失,もしくは両側の瞳孔および角膜反射消失を使用することを推奨する。予後不良を評価するためにROSCから少なくとも72時間後に計測された短潜時体性感覚誘発電位(short latency somatosensory evoked potential, SSEP)のN20波の両側消失を使用することを推奨する。予後不良を評価するために,BIS(bispectral index)の使用を避けるように推奨する。【体温管理療法を施行していないROSC後昏睡患者の予後評価】ROSC後72時間以降における対光反射消失を予後不良の評価に用いることを推奨する。ROSC後から72時間以内でのSSEP N20波の両側消失を,予後不良の評価に用いることを推奨する。
著者
日本集中治療医学会社会保険対策委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.431-434, 2013-07-01 (Released:2013-08-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

日本集中治療医学会社会保険対策委員会は,診断群分類に基づく診療報酬支払制度における関連データを用いてICUの収入と原価を算出比較し,現在の診療報酬制度の下では基本的に原価割れ状態にあることを明らかにしてきた。今回,生命維持装置(人工呼吸器,血液浄化装置)の使用の有無ならびにICU在室日数に着目して比較検討した。その結果,本邦では特定集中治療室入室患者の約9割が7日以内に退室し,在室日数が長いほど支出超過が増大すると共に,生命維持装置を用いた診療の有無がICU収支の原価割れに大きく影響していることが判明した。今後は本邦における特定集中治療室の層別化に加え,診療プロセスの視点を含めたより適正な診療報酬体系を構築する必要がある。
著者
竹田 雅彦 中田 孝明 織田 成人
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.5-11, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)
参考文献数
49

サイトメガロウイルス(cytomegalovirus, CMV)感染は,免疫不全患者だけではなく正常免疫能を持つ重症患者にも発生し,人工呼吸管理期間,ICU滞在期間,入院期間の長期化や不良な生命転帰と関連する。近年,正常免疫能の重症患者に対するCMV感染予防の有効性を問うRCTが行われるなど,活発な研究が行われている注目の研究領域である。現時点では,正常免疫能の重症患者に対する抗ウイルス薬の予防投与は,CMV再活性化が抑制されるが死亡率などの転帰の改善を認めず,抗ウイルス薬は副作用も多いことから,推奨されるに至っていない。また近年,造血機能障害や腎毒性などの副作用が少ない新規抗ウイルス薬の研究報告がなされている。今後,集中治療領域におけるCMV感染に関する多くの知見の発表が予測されるため,集中治療領域におけるCMV感染に関し注目していく必要がある。
著者
日本集中治療医学会危機管理委員会
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.119-125, 2011-01-01 (Released:2011-07-20)
参考文献数
2
被引用文献数
1 2

各施設の集中治療室における災害に対する対応について,調査を行った(2009年8月時点)。その結果,以下の点が明らかとなった。(1)停電,水,ガスなどのライフラインの備えは,多くの施設で取られている。(2)地震などに備えた医療機器の固定設置,蘇生用具の準備もなされている。(3)災害時の指揮命令系統は,ほとんどの施設でマニュアル化されている。しかし,周知徹底されているかは不明である。(4)ICUに特化したマニュアルを作成している施設は少なく,また,災害訓練を行っている施設は半分に満たない。(5)インフルエンザ・パンデミックなどの危機的感染症に対しては,今後,対策を練るべく議論する必要があると思われた。
著者
森松 博史 内野 滋彦
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-8, 2003-01-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
28
被引用文献数
1

1983年にPeter A. Stewartが提唱した酸塩基平衡に関する新しいアプローチは近年さまざまな分野に応用され始めている。彼のコンセプトのなかでは,(1)水素イオンは水の電離状態によって容易に変化し,(2)これを決定するのはPaCO2, strong ion difference (SID), total weak acidの3つである。水素イオンや重炭酸イオンはこれら3つの因子のバランスによって決定される。アルブミンは酸性化因子として働き,塩素イオンはSIDを変化させることにより酸塩基平衡に重要な役割を果たす。このアプローチを用いることにより,これまで理解が困難であった生理食塩水による代謝性アシドーシスや人工心肺中のアシドーシスがより容易にまた正確に理解できる。Stewart approachによりわれわれの酸塩基平衡に対する理解が深まると信じる。
著者
澤田 健 黒田 浩光 升田 好樹 今泉 均 巽 博臣 小濱 卓朗 秦 史壯 浅井 康文
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.71-75, 2007-01-01 (Released:2008-10-24)
参考文献数
9
被引用文献数
6 4

試験開腹術にて早期診断できなかった非閉塞性腸管虚血症 (nonocclusive mesenteric ischemia, NOMI) の一例を経験した。症例は76歳男性で, 腹痛を主訴に来院し, S状結腸憩室穿孔に対して, 発症から9時間後にS状結腸切除と人工肛門造設を行った。入室24時間後にショックとなり, 腸管壊死を疑い試験開腹術を行った。術中, 腸管壊死を示唆する所見はなかった。その後も血清乳酸値が上昇し, 再手術から30時間後の胸腹部造影CTでは腸管全体の造影効果の低下を認めたが, 腸間膜動脈・門脈などに血栓を示唆する所見はなかった。その後, 血清乳酸値は低下傾向を示した。しかし, 創が離開し腹腔内を観察したところ, 十二指腸から大腸まで壊死しており保存的治療としたが, 多臓器不全により死亡した。開腹による一回の腸管漿膜面からの肉眼的な判断では, NOMIの診断を見誤る可能性がある。血管造影はもちろんであるが, 開腹にて判断がつかない場合には, 滅菌ドレープを用いて被覆した状態での腹壁開放創とした腸管観察も一つの手段と考えられた。また, 腸管虚血による血清乳酸値の上昇を示す症例で, 上昇後にみられる血清乳酸値の低下は腸管虚血の病態改善を示すものではない可能性が示唆された。
著者
横田 泰佑 遠藤 新大
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.383-388, 2017-07-01 (Released:2017-07-05)
参考文献数
49

遊離皮弁は,頭頸部癌・外傷・熱傷患者などの再建術で使用される。皮弁のモニタリングのために,術後はICUへの入室を要する。主な術後合併症は,血栓症・血腫・瘻孔・皮弁壊死であり,術後合併症の発生を認識するために,数時間おきに皮弁の評価を行う必要がある。皮弁の評価は,術後72時間行うことを推奨する報告もあるが,本邦で皮弁のモニタリング目的のみでICUに在室するのは難しいと思われる。遊離皮弁は機械的圧迫により血栓症が発生する可能性があり,安静を保つ必要がある。しかし,興奮と譫妄により安静を保てない可能性がある。現在,遊離皮弁に関する文献の多くは,後ろ向き観察研究であり,今後はランダム化比較試験が課題である。本稿では,ICU管理に必要な遊離皮弁の基本的知識について解説するとともに,問題点を考察する。
著者
甲斐 慎一 横田 喜美夫 山下 茂樹 米井 昭智
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.203-206, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
10

2005年1月~2008年4月に出血により同種血輸血を必要とし当院ICUに入室した帝王切開術後患者12例について検討した。妊産婦の平均年齢は33歳で,疾患は常位胎盤早期剥離4例,弛緩出血2例,前置胎盤2例,癒着胎盤2例,hemolysis, elevated liver enzymes, low platelet count(HELLP)症候群1例,子宮破裂1例であった。8例が産科disseminated intravascular coagulation(DIC)を合併した。ICU入室期間は平均3日,入院期間は平均20日で,全例軽快退院した。平均同種血輸血量は赤血球濃厚液18単位,新鮮凍結血漿15単位,濃厚血小板18単位であった。7例が止血術を要し,うち3例は経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization, TAE)のみ施行,2例は子宮全摘術のみ施行,1例はTAE中に出血性ショックとなり緊急で子宮全摘術を施行,1例は子宮全摘術後も出血が持続しTAEを施行した。産科出血は,迅速な輸血や止血術が肝要であり,院内の緊急輸血体制の整備に加え,産科医,集中治療医,麻酔科医,放射線科医の協力体制を整えることが必要である。
著者
林 成之
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.191-197, 1997-07-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
12
被引用文献数
2 18

脳の低温療法は、強力な脳保護作用を有するが心肺機能や免疫防御系への侵襲が強く,実際の臨床応用は難しいとされてきた。本論文では,その病態機構として下垂体機能低下に基づく細胞性免疫不全が原因であることを報告し,同時に低体温患者の脳温管理法と全身の集中管理法を明らかにした。脳低温管理の脳保護作用は,脳内熱貯留の防止,酸素代謝の低下,フリーラジカル産生の抑制,シナプス興奮の抑制などによって二次的脳損傷機構を防止している間に,障害された神経細胞の修復に必要な酸素と代謝基質を供給し神経細胞内ホメオスターシスの改善を図ることにある。その際,覚醒や知能獲得に機能するA10神経系の興奮性神経細胞死が脳の低温管理によって免れることが,この治療を受けた患者に知能障害の少ない理由であると考えられる。脳低温管理後にA10神経系の賦活療法を併用し,植物状態から脱却せしめた臨床例は,これを逆説的に証明している。