著者
鵜野 伊津志 森 淳子 宇都宮 彬 若松 伸司
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.109-116, 1998-03-10
被引用文献数
1

梅雨期にみられる長距離越境汚染の特徴と大気汚染物質濃度の変化を, 3次元長距離輸送モデルを用いたシミュレーション結果と長崎県対馬, 福岡県筑後小郡, 韓国ソウルで1991年6月に観測されたエアロゾル高濃度の観測と対比し, その汚染物質の濃度変化の特徴を示した。長距離輸送モデルとトラジェクトリー解析より中国大陸〜朝鮮半島で発生した大気汚染物質が, 日本の南岸にかかる梅雨前線の北部を長距離輸送・反応・変質しつつ, 九州北部にもたらされることが明瞭に示された。梅雨前線の南北の移動に伴う大気汚染質の輸送が, 梅雨期の九州から西日本域のエアロゾル濃度レベルに重要であることが判明した。
著者
森 孝司 大河内 博 井川 学
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.157-161, 1997-03-10
被引用文献数
5

1994年4月35日に大山においてpH1.95の霧が観測された。この霧は非海塩起源の塩化物イオン濃度が12.8mmol/lと極めて高く, 塩化水素ガスの吸収によりpHが低下したことを示していた。非海塩起源の塩化物イオン濃度が高くpHの低い霧はこの他にも観測されたが, いずれも夕方を中心とした時間帯に限定され, また濃度は急激に増加し短時間の内に再び減少することから, 局地的な塩化水素ガスの汚染が考えられた。霧水量と霧水内濃度から霧発生前の大気中塩化水素ガス濃度は約2ppbと推測されるが, この値は都市部では普通に観測される濃度であることから, 塩酸により強酸性となる霧は都市近郊山岳部で今後も発生することが予想される。
著者
山本 晋
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.133-144, 2003-05-10

大気境界層は大気と陸面間の熱的,力学的相互作用と物質交換に重要な役割を持っている。そこでタワー,飛行機などを観測プラットホームとした野外観測により,陸面と大気間の熱,運動量,微量物質の交換過程,大気境界層の構造を解明してきた。研究の成果は大きく分けると1)大気境界層の構造の解明とそこでの大気汚染物質の拡散モデル構築,2)地球温暖化問題との関わりでは二酸化炭素の循環,収支の解明と森林生態系のC0_2吸収能の評価に応用されてきた。第1の課題では飛行機観測においては晴天時,日中に平坦陸地上に形成され,高度1500m程度に及ぶ混合層の解析を中心に行った。高タワー観測においては,観測高度が300m程度までであることを考慮して,晴天時の夕方から夜半にかけて高度200m以下に形成される安定接地境界層と早朝から日中にかけての比較的低高度の現象である安定接地境界層解消・混合層形成初期過程を重点的に調べた。第2では大気と森林生態系間のC0_2正味交換量(NEE)を野外でのタワー観測に基づき調べ,NEEと気象条件の関係, NEEの季節・年々変化を解明した。岐阜県高山の冷温帯落葉広葉樹林での1993年からの観測ではNEEは平均1.8tC/ha/年であるが,その年々変動は大きい。なお,日本の代表的な森林での観測から2から5 tC/ha/年程度という結果が得られているが,これらの結果は温帯林がC0_2の吸収源であることを示している。しかし,陸上植物生態系のグローバルな吸収・固定量を推定するには,気候,緯度などの異なる諸地域での多様な植物種に対する結果を更に集結し,総合的に解釈することが必要である。
著者
福崎 紀夫 原 宏 Ayers Gregory P.
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-41, 1999-01-10
被引用文献数
5

降水試料を, (1)無処理一室温, (2)ろ過(洗浄済みの孔径0.45μmメンプランフィルター使用)一室温, (3)チモール添加(40mg/100mL)一室温, (4)無処理一冷蔵(4℃), (5)ろ過(同上)一冷蔵の各方法で21日〜59日間保存しH^+(pH)変化および溶存成分の濃度を比較した。H^+(有機酸)やNH_4^+の保存には, チモール添加が最も有効である。冷蔵保存がこれに次ぎ有機酸以外の主要な成分の保存に, また, ろ過は黄砂現象時のように懸濁物質が多い場合カルシウム化合物などの溶出を防ぐために有効な保存方法と考えられる。これらの結果から, 降水時開放型捕集器を用いて降水試料を捕集する場合であっても冷蔵保存できない場合や有機酸を測定対象項目に含める場合には, 試料捕集ビンにあらかじめチモールを入れて降水を捕集し, 試料を実験室に持ち帰ってから懸濁物質およびチモールの残結晶をろ別し分析時まで冷蔵保存することが推奨される。
著者
板橋 秀一 弓本 桂也 鵜野 伊津志 大原 利眞 黒川 純一 清水 厚 山本 重一 大石 興弘 岩本 眞二
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.175-185, 2009-07-10
被引用文献数
9

日本各地で光化学オキシダント注意報が発令された2007年4月下旬から5月末の期間を対象に,化学輸送モデルCMAQを用いてモデルシミュレーションを行い,光化学オゾン(O_3)を中心に,硫酸塩粒子(nns-SO_4^<2->)などにも着目して,その濃度変化や気象学的な特徴について解析した.シミュレーションの結果は観測されたオゾン濃度などを概ね再現しており,対象とした期間内には九州北部においてO_3とnss-SO_4^<2->が同時に高濃度となる5つのエピソードが見られた.これらの中から九州地域で典型的な越境汚染が起こっていると考えられた3つのエピソードに着目してより詳細な解析を行った.これら3つのエピソード時には,いずれも東シナ海南部に高気圧が位置し,高気圧の北部をまわる西から北西の気流に乗って大陸起源の汚染気塊が輸送されていることが明瞭に示され,それはnss-SO_4^<2->の高濃度域の広がりと合致していた.また,後方流跡線解析から,中国大陸上の汚染気塊がおよそ2日かけて九州北部へと輸送されたことが示された.中国起源の一次汚染質排出による越境汚染の寄与を見積もるため,中国国内の一次汚染質の排出量をゼロとした感度解析も行った.中国起源のnss-SO_4^<2->とO_3には高い相関があり,直線回帰の傾きは気象条件により異なるが0.8〜1.3(ppbv_-O_3)/(μg/m^3_nss-SO_4^<2->)を取り,nss-SO_4^<2->=20μg/m^3に対する中国起源の汚染質に起因するO_3は16〜26ppbvであることが示された.全球モデルで与えているO_3の西側境界濃度レベルの50ppbvを勘案すると,今回着目した3つのエピソード時のオゾン濃度に対する中国起源のO_3前駆物質の寄与率は東アジア起源の約30〜50%に達し,高濃度オゾンエピソードにはアジア大陸を起源とする越境汚染が強く影響していることが示された.
著者
栗田 秀實 植田 洋匡
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.45-64, 2006-03-10
参考文献数
46
被引用文献数
6

中部山岳地域における酸性雨の陸水への影響を検討するため,長野県下の公共用水域水質モニタリング地点(79地点)のうち,人為的な汚濁の影響が小さい上流域の河川,湖沼の27地点(17河川22地点,4湖沼5地点)について,1972〜2003年度の32年間の水質モニタリングデータを用いてpHの経年変化等を解析し,降水のpHとの関係について検討した。酸性雨調査データおよび降下ばいじん調査データによると,1972〜2003年度の32年間における長野県下の降水のpHは5.0前後で,ほぼ横ばいであったと推定された。降水のpHの年平均値は,アジア大陸や首都圏地域からの酸性物質の輸送の影響を受けやすい長野県北部および東部で低く,一方,これらの影響を受けにくい長野県中部,南部で高い傾向を示した。河川・湖沼のpHは27地点のうち15地点で有意な経年的な低下を示した(危険率1%:12地点,5%:3地点)。酸性岩が集水域に広く分布する姫川,中綱湖,青木湖,高瀬川,田川,木崎湖,小渋川,中津川,梓川,松川の他,酸性岩の分布が見られない奈良井川,夜間瀬川および裾花川においてもpHは有意な低下傾向を示し,過去30年間のpHの低下量は0.3〜0.8と推定された。pHの経年的な低下が見られた河川のなかには,アルカリ度(HCO_3^-濃度)の低い河川があり酸性雨の影響が示唆された。pHが有意な経年的な低下を示した15地点のうちで2003年度のpH(回帰式による推定値)が最も低いのは夜間瀬川の6.3,これについで低いのは,木崎湖底層,中津川,中綱湖,青木湖,高瀬川の6.4〜6.8であった。低アルカリ度の温泉水の流人によりアルカリ度が低く,酸性雨の緩衝能が低い夜間瀬川の場合には,融雪初期に顕著なpHの低下がみられた。これらのことから,中部山岳地域上流域の河川・湖沼の一部において,酸性雨の影響によりpHが経年的に低下しつつあり,pHが有意な低下を示す地域は,酸性岩を基盤とする地域以外にも次第に拡大していることが示唆された。
著者
河野 吉久 松村 秀幸
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.74-85, 1999-03-10
被引用文献数
7

都市周辺域におけるスギ衰退の実態調査から, その原因として光化学オキシダントの関与が指摘されている。このため, スギ(Cryptomeria japonica), ヒノキ(Chamaecyparis obtusa), サワラ(Chamaecyparis pisifera)の3年生実生苗に2段階(pH5.6とpH3.0)の人工酸性雨(SAR)と4段階(0,60,120,180ppb)のオゾンを暴露して, 生長に及ぼす両者の複合影響について検討した。実験は自然光型の暴露チャンバーを用いて実施した。pH5.6の純水(脱イオン水)を対照にして, 硫酸 : 硝酸 : 塩酸(当量濃度比で5 : 2 : 3)を含むpH3.0のSARを, 23ヶ月間で4300mm暴露した。オゾンの暴露は, 浄化空気にオゾンを添加し, 毎日09 : 00〜15 : 00の間に所定の濃度(一定)で暴露を行い, 16 : 00〜08 : 00は無暴露とした。ヒノキとサワラはオゾン暴露区において旧葉の黄化と早期落葉が観察されたが, スギでは23ヶ月間のオゾン暴露でも可視害は観察されなかった。一方, いずれの樹種においても, SAR暴露による可視害の発現は観察されなかった。pH3.0のSARとオゾンを暴露した区画において, 樹高と根元直径がpH5.6の区画よりも大きくなる傾向にあった。pH5.6のSARを暴露した区画よりもpH3.0を暴露した区画の方が個体の乾物重量は多かったが, オゾンの暴露は個体の乾物重量に影響を与えなかった。しかし, 高濃度オゾンを暴露した区画の葉の重量は浄化空気を暴露した場合よりも有意に多く, 一方, 高濃度オゾン暴露区の根の乾物重量は減少した。したがって, オゾン濃度の増加とともに地上部/根の乾物重量比が上昇し, pH3.0のSARを暴露した場合に, この比の上昇が加速される傾向にあった。これらの結果は, 高濃度オゾンの暴露によって同化産物の分配が阻害されるとともに, 降雨の酸性度の増加, おそらく硝酸負荷量の増加が同化産物の分配の阻害を加速する可能性を示唆している。このような地上部/根の乾物重量のバランス変化は, 乾燥ストレス感受性の増加につながると考えられる。スギはヒノキに比較して水ストレス感受性であることから, 都市周辺域のスギの衰退原因は, 高濃度オゾンと窒素化合物の負荷量の増大が複合的に原因している可能性が考えられた。なお, オゾンの長期慢性影響を評価する場合には, 個体の乾物重量の変化よりも分配率の変化を指標とした方が良いと考えられた。
著者
沖永 希世 高橋 千太郎 津越 敬寿 工藤 善之 古谷 圭一 荒木 庸一
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 = Journal of Japan Society for Atmospheric Environment (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.12-20, 2000-01-10

地下生活環境における空気質の特性に関する知見を得るために,東京都の営団地下鉄銀座線の駅構内における空気中浮遊粒子状物質の質量濃度,化学組成,並びに粒子径分布について検討した。ダストカウンターによって測定されたSPMの質量濃度の近似値は,おおむね0.06〜0.12mg/m^3であり,いずれの駅でもビル管理法の基準値を下回る結果であった。地下鉄駅構内SPMの大気質量濃度の近似値には各駅ごとに顕著な変動が見られたが,その変動パターンは測定日にかかわらず比較的一定であった。一方,地下鉄駅近傍の地上部分の質量濃度には駅間の変動が認められず,各駅間でみられた質量濃度の差は,換気状態や空調システムといった各駅固有の要因によるものと推察された。SPMの粒子径分布の特徴は粒径範囲0.3〜0.5μmの相対濃度が測定したすべての駅構内で近傍の地上より低い値を示した。一方,粒径範囲0.5〜1.0,1.0〜3.0μmのSPMの相対濃度は駅講内の方が近傍の地上より高い値を示した。すでに大規模な地下街においても,同様な傾向が見いだされており,一般的な地下空間におけるSPMの粒子径分布の特徴と考えられた。駅構内で捕集されたSPMは,SEM-EDXおよび蛍光X線分析により地上で採取されたSPMに比べて相対的に金属ヒューム状粒子が多く,その主成分として鉄が多く含まれていることが示された。
著者
室崎 将史 藤田 慎一 高橋 章 速水 洋 三浦 和彦
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.347-354, 2006-11-10
被引用文献数
5

静岡県と山梨県の県境に位置する富士山(標高3776m)を観測塔に見立て,高度の異なる20地点で2005年7月12日から7月20日までの9日間,パッシブサンプラーを用いてオゾン濃度の鉛直分布を測定した。山麓の都市部3地点(標高30m〜460m)と丹沢山頂(標高1540m)での自動計測器による測定データをもとに,オゾン濃度の時間変化についても解析を加えた。パッシブサンプラーによって観測期間に測定されたオゾンの平均濃度は,混合層内で約20ppbv,混合層より上層で約40ppbvであり,高度1500m付近を境にして大きな変化がみられた。濃度分布のパターンは,過去に報告された観測結果などと矛盾するものではなかった。自動計測器の観測結果から,富士山頂から水平距離が20km以内の山麓の都市部ではオゾン濃度の日変化は大きく,地域規模の大気汚染の影響を受けていることがわかった。一方,富士山頂から東に約30km離れた丹沢山頂では,夜間に富士山麓の都市部と同レベルまでオゾン濃度が低下することがあり,高度1500m付近でも気象条件によっては,地域規模の大気汚染の影響を受ける場合があることがわかった。このためほぼ同じ高度である富士山の中腹で観測されたオゾン濃度の大きな変化は,地域規模の大気汚染の影響によるものと推定された。