著者
吉門 洋
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.188-199, 2004-07-10
参考文献数
13
被引用文献数
8

近年再び高濃度化が注目されている光化学オキシダント(O_X)について,特に注意報発令レベルの高濃度の発生状況が系統的に変化したかどうかを概括的に調べた。対象地域は東京都・埼玉県と群馬県南東部に絞り,1989〜91年と1999〜01年の各3年の6〜8月の間の差異に注目した。まず昼夜別平均濃度や日最高濃度の出現頻度分布を岬べた結果,10年の期間に昼間(5〜20時)平均で若干の例外を除き4〜14ppb(体積混合比),夜間平均でも2〜8ppb上昇し,一日最高濃度が60ppb未満の日の比率は全域平均で66%から50%へ減少する一方で,東京・埼玉には120ppb以上の高濃度の出現頻度が23日から50日というように倍加した地区が多いことがわかった。対象期間中の広域気象条件を毎日の天気図により概括判定した結果,90年頃より2000年前後には梅雨期を含む夏季に高気圧圏内に入る日が増加したことがわかった。高気圧圏内の日が増加すれば局地風発連日の増加が予想され,簡単な判定基準による判定の結果,その事実が確認された。好天日の増加はそれだけで平均気温の上昇や期間積算紫外線入射量の増加につながる可能性もあり,0x高濃度の増加要因の一つに数え得る。東京湾から埼玉南部への海風の内陸進入パターンに注目して,その速度の速い日と遅い日のグループを抽出した。10年の間で速い日の頻度が増加している。速い日は東京や埼玉南部のO_X濃度レベルにはあまり変化がなく,より内陸部で90年頃よりも高濃度になっている。遅い日のグループでは全域的に午後のO_X濃度が大幅に増加したことがわかった。局地風とO_X濃度のこれらの変化が重なって,全般的なO_X濃度上昇傾向の中でも地域的な強弱の差が生まれたといえる。
著者
岩井 和郎
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.321-331, 2000-11-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
48
被引用文献数
7

ドイツ都市大気の測定では, PM2.5の約10重量%に0.1μm以下の超微細 (ナノ) 粒子が含まれている事が報告されている。実験的に酸化銅のナノ粒子をハムスターに吸入させてその体内動態を調べると'粒子は肺胞上皮を通過して肺間質に入り, リンパ管や血管内, 肺門リンパ節に運び込まれる事が見られた。また微小粒子とナノ粒子の動態を比較した定量的実験では, ナノ粒子で遙かに多い量が肺間質からリンパ節に入ることが示されている。健康人の肺に沈着しているナノ粒子には各種金属元素が含まれている事が分析電顕の研究から知られる。また各種排出源からの浮遊粒子状物質は肺障害性を引き起こすが, それは含まれる金属種により異なることが示唆されている。一方組織反応性に乏しい合成レジン, テフロンの蒸気に含まれるナノ粒子を吸入すると, 強い急性反応が起こることも報告されている。このナノ粒子が凝集して粗大塊となったものは直ちに毒性が消失しているという実験成績は, 化学組成よりも粒子が極めて小さいという事が重要であることを示している。もしPM2.5が疫学研究で報告されている心肺疾患死亡に関係するとすれば, ナノ粒子の血管内への容易な吸収は, その急性毒性を説明し得る。
著者
瀬戸 博 大久保 智子 斎藤 育江 竹内 正博 土屋 悦輝 鈴木 重任
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-12, 2001-01-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
37

ヒト肺に蓄積した多環芳香族炭化水素 (PAHs) および炭粉を測定し, それらの濃度と年齢, 性, 喫煙, 居住地, 職歴, 死因等との関連について調べた。1988年から1993年に東京の病院で亡くなった患者の剖検肺試料 (男性477例'女性284例) を分析に供した。PAHsおよび炭粉のレベルは男性の方が女性よりも有意に高かった。主要な蓄積要因は加齢 (暴露期間) で, 次に男性では職歴が, 女性では居住地又は職歴による影響が強かった。職業による比較では, PAHsおよび炭粉のレベルは技術系・技能系労働者および外勤職の方が事務, 管理的職業および主婦よりも高かった。また, 居住地による比較では, PAHsのレベルは区部に居住していた方が区部以外に居住していた場合に比べて高かった。しかし, 炭粉のレベルは地域による差がなかった。喫煙はこれらの物質の主要な蓄積要因ではなかった。男性の肺がん群のベンゾ [a] ピレン, ベンゾ [g, h, i] ペリレンおよび炭粉の濃度は非がん群に比べて有意に高かった。更に, 男性の扁平上皮がん群のPAHsおよび炭粉濃度は非がん群に比べて有意に高かった。一方, 腺がん群では非がん群と差がなく, 外来性物質の蓄積状態において組織型による差異がみられた。これらの結果は, 大気中のPAHsや炭粉を含む微粒子 (PM2.5) が肺がんの増加に影響を及ぼす可能性があることを否定できないことを示している。
著者
溝畑 朗 伊藤 憲男 楠谷 義和
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.77-102, 2000-03-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
21
被引用文献数
8

自動車排気による汚染が特に顕著な東京都内の道路沿道で大気中の粒子状物質 (PM) を測定し, 自動車による影響を調べた。調査時期は1997年12月 (冬季) と翌年6月 (夏季) であり, 期間はそれぞれほぼ2週間であった。冬季には道路沿道の2地点で, また夏季には道路沿道1地点と対照とする1地点で粒径別に採取したPM試料に機器的中性子放射化分析法, イオンクロマトグラフ法, 熱分離炭素分析法を適用して, その化学組成を詳細に分析した。PMおよびその化学成分の粒径別濃度測定結果に数値解析を施し, それぞれの粒径分布を導出した。PMの粒径分布はいずれの測定でも粒径1~2μmが谷となる双峰分布パターンであったが, 化学成分では, 主にその成分を含む粒子の生成由来や発生源を反映して, それぞれ特徴的であった。自動車走行によるPMへの寄与は, 主にディーゼル車排気粒子によるものであった。その主成分である元素状炭素の粒径分布は著しく微小粒径に偏よっていて, ほぼ80%が微小粒子に含まれた。また, 道路粉塵の生成・再飛散やタイヤやブレーキ摩耗塵の発生によって, Alなどの土壌性粒子の指標とされる元素やCu, As, Mo, Sb, Ba, Hfなどを高濃度に含む粗大粒子が顕著であった。水可溶性イオンは炭素成分に次いで多い成分であり, 特に冬季の微小粒子中で大きな割合を占めた。特に, NO3-の前駆物質であるNOxの発生源として自動車排気が大きく影響していると考えられるが, ディーゼル排気粒子によるSO42-濃度への寄与は道路沿道でも小さかった。
著者
川村 知裕 原 宏
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.335-346, 2006-11-10
参考文献数
30
被引用文献数
3

2000年以降,日本での黄砂観測数が増加し,黄砂に対する関心が高まっている。日本の降水に対する黄砂の広域的・長期的影響を明らかにするため,10地点,1998年〜2002年の降水データを解析した。気象官署による黄砂観測記録に従って,降水を観測地点周辺で黄砂が観測されたときの降水(KR),観測地点周辺以外の地点で黄砂が観測されたときの降水(SR),日本で黄砂が観測されなかったときの降水(NR)の3つのタイプに分類した。KRはpHが高く,nss-Ca^<2+>濃度の増加が見られた。これは黄砂の主成分であるCaCO_3が降水中に溶解したためと考えられる。黄砂時の降水はnss-SO_4^<2->, NO_3^-, NH_4^+の濃度も高かった。これは,黄砂と共にNH_3, NH_4^+など大陸から輸送されたものが溶解したためと考えられる。黄砂時と非黄砂時の降水の沈着量の差から黄砂に起因する湿性沈着量を見積もったところ,nss-Ca^<2+>の年間沈着量の18%,春期沈着量の39%を占めた。また,年別では2000〜2002年,地点別では北日本および日本海側で,nss-Ca^<2+>湿性沈着量が増加し,黄砂の寄与が大きいことが示された。反対に,H^+では黄砂により降水中の酸の中和が進むため,沈着量は減少する。しかし,土壌での硝化を考慮すると,黄砂によるNH_4^+の沈着量も多いため,H^+の沈着減少効果は打ち消され,土壌酸性化の効果がある。降水化学の測定値から,pHや濃度だけでなく,沈着量を評価する必要が強調される。
著者
畠山 史郎 片平 菊野 高見 昭憲 菅田 誠治 劉 発華 北 和之
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.158-170, 2004-05-10
被引用文献数
10

近年関東周辺山岳域で見られる森林衰退の原因・として大気汚染物質の影響が重要ではないかといわれている。しかし,この地域でのこれまでの観測は電源の都合により,長期的な観測が出来ず,そのため観潮時の天候に大きく影響されて,大気汚染の影響が十分把握されていない。本研究では電源に太陽電池を用いることにより,実際に森林被害の激しい前白根山山頂付近で,大気汚染物質であるオゾン(O_3)を,約3ヵ月にわたって長期的に観測することで,この地域でのO_3濃度変化を明らかにした。更に高濃度O_3が現れる頻度やその起源,それらが出現する気象条件を考察した。その結果,今回の観測では,期間中の最高濃度は1時間平均値で70ppb弱であり,過去に観測された100ppbを超えるような高濃度は観測されなかった。また,長期間の統計的なO_3濃度変化を調べることにより,この地点でO_3が高濃度になるのは夏季の卓越した南風に加えて,日射強度が大きい時であることが分かった。これは強い日射により,都市域で発生した一次汚染物質が光化学反応を起こしながら,広域な海陸風循環によって輸送されてきた為であると考えられた。また,9月以降の秋季には03の平均濃度が上がると共に日食化か小さくなった。これは山頂付近では自由対流圏大気の影響が大きくなり,アジアのバックグラウンドオゾンが輸送されていて,関東平野部からの汚染空気の寄与が小さくなるためと考えられた。
著者
大原 利眞 若松 伸司 鵜野 伊津志 安藤 保 泉川 碩雄
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.137-148, 1995

最近の光化学大気汚染の発生状況を明らかにするため, 関東・関西地方の大気汚染常時監視測定局にて測定された13年間の光化学オキシダント濃度データ (時間値, 月間値) を解析した。併せて, NMHC, NO<SUB>x</SUB>, NMHC/NO<SUB>x</SUB>の濃度測定データについても解析した。得られた結果は次のとおりである。<BR>(1) 光化学オキシダント濃度の経年動向に関する関東・関西地方に共通した特徴は, 日最高濃度出現時刻が経年的に遅くなっていること及び主要発生源地域から遠く離れた地域 (関東地方では北関東地域や山梨県等, 関西地方では京都・奈良地域) において高濃度が出現しやすくなっている傾向にある。<BR>(2) NMHC/NO<SUB>x</SUB>比は経年的に低下傾向にあり,(1) に示した光化学オキシダント濃度の経年動向の1要因と考えられる。
著者
高木 健作 大原 利眞
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.205-216, 2003

関東地域におけるオゾンの植物影響を, 大気常時監視測定局で測定された光化学オキシダント (O<SUB>x</SUB>) 濃度データ, 収穫量データおよびダメージ関数を用いて定量的に評価した。対象とした植物は農作物8種類 (稲 (水稲), 小麦, 大麦, 大豆, カブ, トマト, ほうれん草, レタス) とスギである。はじめに, 関東地域270局の大気常時監視測定局で測定されたO<SUB>x</SUB>濃度データを用い, O<SUB>x</SUB> オゾンとみなして植物生長期間における3次メッシュ (約1km×1km) 別平均オゾン濃度とオゾン暴露量を算出した。次に, 農作物については植物生長期間別平均オゾン濃度をダメージ関数に入力し3次メッシュ別植物種類別減収率を推計し, その減収率に収穫量を乗じて3次メッシュ別減収量と損失額を推計した。一方, スギに対してはオゾン暴露量をダメージ関数に入力し一本当たりの乾重量減少量を3次メッシュ別に推計した。<BR>推計結果によると, オゾンによって関東地域の植物は大きな影響を受け, 農作物収穫量およびスギ乾重量が大きく減少している。農作物減収による被害総額は年間210億円にものぼると試算された。一般的に野菜類は穀物類に比ベオゾン影響を受け易く, 中でもレタスは平均減収率約8%と極めて大きな被害を受けている。ほうれん草の減収率は約4%程度であるが, その経済価値が高いため損失額約22億円とレタスの約20億円よりも大きくなった。一方, 穀物の中では大豆がオゾン影響を受け易く, その減収率は約4%である。稲の減収率は約3.5%とそれほど大きくないが収穫量が多いことから減収量も多く, それによって損失額も約140億円と莫大になる。スギについては一本当たりの減少量のみが推計され, O<SUB>x</SUB>濃度が高い内陸部における減少量は約1.5kgと評価された。<BR>本研究の結果は, 関東地域におけるオゾンの植物影響が非常に大きいことを示した。一方, 関東地域におけるO<SUB>x</SUB>濃度はやや増加傾向にあり, しかも高濃度域が都市域からその周辺域に拡大している。これらのことから, 植物影響の視点も考慮して光化学大気汚染対策を講じる必要があると考えられる。
著者
坂本 美徳 吉村 陽 小坂 浩 平木 隆年
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.201-208, 2005-09-10
被引用文献数
3

光化学オキシダント(O_x)の原因物質が週日に比べ週末に減少するにもかかわらず, O_xは増加するというweekend effectと呼ばれる現象が米国等で報告されている。1976〜2003年度の大気汚染常時監視データを用いて, 兵庫県におけるweekend effectの有無を検討した。解析した全13測定局でweekend effectは認められ, 全測定期間をとおした全測定局平均の週日と週末の差は, 一酸化窒素(NO), 窒素酸化物(NO_x)及び非メタン炭化水素(NMHC)はそれぞれ-34%, -27%, -16%であるのに対し, O_xは6%であった。weekend effectは地域差があり, 全測定期間をとおしたO_xの週日と週末の差の最大は尼崎市の11%で, 最小は丹波市の1%であった。O_xの週日と週末の差が最大であった1997年度の尼崎市の曜日別の経時変化で, 週日に比べてO_x濃度が高かったのは, 土曜日の午後及び日曜日の終日であった。兵庫県におけるweekend effectの原因として, (1) NO排出量の減少, (2) O_xの生成条件がVOC-limitedの時のNO_x排出量の減少について考察した。
著者
近藤 裕昭 劉 発華
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.179-192, 1998-05-10
被引用文献数
48

1次元の都市キャノピーモデルを作成し, 都市の熱環境を調べた。メンスケール気象モデルの水平1格子程度の空間(数km四方)のビルの配置を簡略化して取り扱い, 平均ビル幅, 平均道路幅, ビルの高度分布をパラメータとして, 道路面や各高度の壁面・屋上面における平均的な熱収支を計算して顕熱量を求めた。また, 人工廃熱も高度別に与えるようにした。すべてのビル高度が33mとした場合, ビル幅と道路幅が30mの時, キャノピーの地上3mの気温はビルが無い場合に比べて午後から夜間にかけて約1K上昇した。道路幅を狭くすると昼間の気温は更に上昇するが, 夜間は気温が下がる傾向を示した。東京駅付近の人工廃熱量の日変化を与えて計算すると, ビルが存在すると地表付近の気温上昇はビルが無い場合に比べて大きく, また廃熱源が地上付近にあった場合の方が屋上に廃熱源を置いた場合に比べて温度上昇が大きいことが示された。
著者
孟 岩 老川 進
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.136-147, 1997-03-10
被引用文献数
9

モデル建物群内の流れ場と拡散場を調べるために風洞実験を行った。本研究のその1では建物群内外における平均速度および乱れの構造を詳細に調べた。モデル建物は, 高さ8cmの立方体を用い, その配置を千鳥状とした。また, 建物の密度を10%から40%まで変化させた。流れ方向と鉛直方向の速度成分の計測は, 乱れのレベルが高いかつ逆流に伴う流れ場を測定できるスプリットファイバープローブを用いて行った。その結果, モデル建物群内の流れ場は, 建物密度を指標として, isolated roughness flow, wake interference flow および skimming flowと呼ばれるような三つのパターンに区分されることが明らかとなった。建物密度の増大に伴い, 建物群内の流れ方向の速度が次第に小さくなり, 建物密度が40%の時にほぼ0となる。また, 建物屋根面上の流れの剥離に伴う大きな乱れの生成は, 建物密度が20%を超えると殆ど見られなくなる。
著者
松村 秀幸 小林 卓也 河野 吉久
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.16-35, 1998-01-10
参考文献数
92
被引用文献数
10

針葉樹のスギとウラジロモミおよび落葉広葉樹のシラカンバとケヤキの苗木に, 4段階の濃度のオゾンと2段階のpHの人工酸性雨を複合で20週間にわたって暴露した。オゾンの暴露は, 自然光型環境制御ガラス室内において, 1991および1992年に観測した野外オゾン濃度の平均日パターンを基準(1.0倍)とした0.4,1.0,2.0および3.0倍の4段階の濃度で毎日行った。オゾン濃度の日中12時間値(日最高1時間値)の暴露期間中平均値は, それぞれ18(29), 37(56), 67(101)および98(149)ppbであった。人工酸性雨の暴露は, 開放型ガラス室内において, 夕方から, pH3.0の人工酸性雨(SO_4^<2-> : NO_3^<3-> : Cr=5 : 2 : 3,当量比)および純水(pH5.6)を, 1週間に3回の割合で, 1時間あたり2.0〜2.5mmの降雨強度で1回8〜10時間行った。シラカンバとケヤキでは, 2.0倍および3.0倍オゾン区において白色斑点や黄色化などの可視障害が発現し, 早期落葉も観察された。ケヤキでは, pH3.0の人工酸性雨区においても可視障害が発現したが, シラカンバでは人工酸性雨による可視障害は全く認められなかった。スギとウラジロモミでは, オゾンあるいは人工酸性雨の暴露による葉の可視障害は全く認められなかった。最終サンプリングにおけるスギ, シラカンバおよびケヤキでは, 葉, 幹, 根の各器官および個体の乾重量はオゾンレベルの上昇に伴って減少した。ウラジロモミでは, 根乾重量がオゾンレベルの上昇に伴って減少した。一方, pH3.0区におけるウラジロモミおよびケヤキの葉および個体の乾重量はpH5.6区に比べて減少した。また, スギ, シラカンバおよびケヤキの純光合成速度はオゾンレベルの上昇に伴って減少した。シラカンバおよびケヤキでは, 葉内CO_2濃度-光合成曲線の初期勾配である炭酸固定効率もオゾンレベルの上昇に伴って低下した。ウラジロモミではオゾン暴露によって暗呼吸速度が増加した。さらに, pH3.0区におけるウラジロモミおよびケヤキの暗呼吸速度もpH5.6区に比べて減少した。オゾンと人工酸性雨の交互作用は, 供試したいずれの4樹種の地上部と根の乾重量比(T/R)において認められ, オゾンレベルの上昇に伴うT/Rの上昇の程度がpH5.6区に比べてpH3.0区において高かった。
著者
田子 博 今井 克江 大谷 仁己 嶋田 好孝
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.339-346, 2003-09-10
被引用文献数
5

三宅島からの火山ガスが群馬県山岳部の霧水に与える影響を見るために,赤城山において霧水の採取および分析を行った。三宅島からの火山ガス放出量が急激に増大した2000年9月以降,霧水中の硫酸イオン濃度が増加し,pHおよびNO_3^-/nss-SO_4^<2->(N/S)が低下した。また,これまでに観測されたことのなかったNO_3^-/nss-Cl^-が1以下となる霧が7回観測されたが,この場合必ずN/Sの大幅な低下を伴っていた。これは,火山ガスの主成分である二酸化硫黄と塩化水素が同時に取り込まれたと考えられ,特に2000年9月14日にはほとんどが硫酸と塩酸で構成された特異的な霧水(pH 2.99)が観測された。このときの霧水中のN/Sは0.07と極めて低かった。このような特異的成分を持つ霧が観測された時期には,地上における二酸化硫黄濃度の実測値あるいは広域拡散シミュレーションの計算結果からも群馬県内に高濃度の二酸化硫黄が移流してきたことが確認されており,三宅島からの火山ガスが赤城山の霧水中の硫化イオンを増大させ,pHを低下させたことがわかった。
著者
早福 正孝 辰市 祐久 古明地 哲人 岩崎 好陽
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.122-130, 2002-03-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
11
被引用文献数
1

家庭用焼却炉を用いて3種の落ち葉 (ケヤキ, スダジイ, シラカシ) を焼却し, その結果を用いてダイオキシンの生成要因を考察した。葉, 焼却排ガス, 焼却灰中のダイオキシン類の濃度は, 葉の種類による大きな違いはなかった。しかしケヤキの排ガス中のダイオキシン類濃度のみは, スダジイ, シラカシに比べると高濃度であった。このケヤキの排ガス中ダイオキシン類の高濃度は, 葉中の塩素含有量に影響を受けているものと思われた。そこで, 都内の公園や街路における14種類の樹葉の塩素含有量を調査した。その結果, ケヤキの葉中の塩素含有量が最も多かった。焼却排ガス中のダイオキシン類濃度 (Y: ng-TEQ/m3N) と焼却物の塩素含有率 (X:%) の間にY=308X1.3(R2=0.9485n=12)の関係式が得られた。この式から, 塩素含有率が10倍ずつ増加すると, 焼却排ガス中のダイオキシン類濃度は約20倍ずつ増加することになる。塩素含有量の多いケヤキの葉の焼却排ガスは, 低塩素化ダイオキシン類を多く生成させた。
著者
尾崎 則篤 竹内 真也 福島 武彦 小松 登志子
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.238-249, 2005-11-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
30
被引用文献数
1

大気粉塵中 (小径粉塵; 粒径7.0μm未満, 大径粉塵; 粒径7.0μm以上) および堆積粉塵中の13種類の多環芳香族炭化水素類 (PAHs) の含有量の減少特性を調査した. 方法としては, 大気粉塵および堆積粉塵を郊外地域で捕集, 捕集後にその場に数日おき減少量を測定することによって評価した. 測定は一年間継続的に行い減少速度係数kを求め, 各測定期間における, 全PAHsのkの中央値Kmedを用いて評価した. Kmedは最大で0.3d-1であった. Kmedは全体として小径粉塵の値が大きかった (0.1~0.3d-1). 季節性に関しては小径粉塵は夏に値が大きく冬に小さいという傾向が明確に得られたが, 大径, 堆積は必ずしも明確な傾向は得られなかった. 堆積粉塵に関しては予想に反して冬に値が高い傾向が得られた. PAHs含有量については, 小径粉塵については夏に低く冬に高いという季節性が見られ, 本観測で得られたKmedと強い相関を持った. このことから大気中のPAHsの濃度の季節変動は粉塵付着態PAHsの大気中での減少特性に強く依存していることが示唆された. 本研究の結果により大気中のPAHsの含有量およびそのパターンの変化には, その大気中での減少が強く影響を与えている可能性があることが示された.