著者
高田 兼則 谷中 美貴子 池田 達哉 石川 直幸
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.41-48, 2008 (Released:2008-06-17)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

日本の麺用小麦はオーストラリアからの輸入小麦銘柄(ASW)と比べて製麺適性が劣っている.西日本の小麦品種には高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)が Glu-A1座の対立遺伝子がコードするサブユニットが欠失型(null)で Glu-B1座が7+8,Glu-D1座が2.2+12や2+12をもつ品種が多数を占める.そこで,これらの高分子量グルテニンサブユニットの小麦粉生地物性への影響を小麦品種「ふくさやか」を反復親として,8種類の準同質遺伝子系統を作出して分析した. Glu-D1座が2.2+12をコードする系統では, Glu-A1座が欠失型の場合,Glu-A1座がサブユニット1をコードする系統と比べて不溶性ポリマー含有率が有意に低く,小麦粉の生地物性も弱かった.とくに日本品種に多く見られるnull,7+8,2.2+12のサブユニット構成は最も弱い物性を示した.一方, Glu-D1座が2+12をコードする系統では, Glu-A1座のサブユニットの有無による不溶性ポリマータンパク質や生地物性への影響は小さかった.これらのことから Glu-A1座とGlu-D1座の対立遺伝子の組合せが,小麦の加工適性に大きく影響していることが明らかになった.これまでHMW-GS構成はSDS-PAGEを用いて判別するのが一般的であったが,サブユニット構成によっては Glu-A1座のサブユニットの判定が困難な場合がある.そこで,Glu-A1座のサブユニット1(Glu-A1a),2*(Glu-A1b)およびnull(Glu-A1c)を判別するPCRマーカーを開発した.
著者
佐藤 裕 横谷 砂貴子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.127-134, 2008-12-01
被引用文献数
1

イネは自殖性作物ではあるが,冷害年に他殖率が上昇し,周囲の他品種との交雑率が上昇することが経験的に知られている.しかしながら,低温による雄性不稔化が交雑率を上昇させることを実証するデータは,これまでに得られていない.そこで本研究では,低温によるイネ花粉の雄性不稔化が交雑率に及ぼす影響を明らかにするために,穂ばらみ期の小胞子初期に低温処理したイネと無処理のイネにおける交雑率の違いを調べた.種子親としてモチ品種「はくちょうもち」,花粉親としてウルチ品種「ほしのゆめ」を供試した.種子親に稔実した種子について,キセニアの観察とSSRマーカーにより交雑の確認を行った.花粉親区の規模を大きくした圃場試験では,花粉親由来のウルチ花粉と種子親由来のモチ花粉をヨード・ヨードカリ溶液染色により識別して空中花粉密度を調べた.人工気象室内での試験では,対照区の交雑率が0.19%であったのに対し,低温処理区では1.28%と6.7倍にまで高まった.圃場試験では,低温処理区における種子親由来の空中花粉密度が,対照区比で約40%にまで減少した.交雑率は,花粉親からの距離1mの対照区では0.02%であったのに対し,低温処理区では5.55%と278倍にまで高まった.花粉親からの距離5mの対照区では,交雑が全く認められなかったのに対し,低温処理区では2.96%の交雑が認められ,花粉親から5m離れていても低温処理により大幅に交雑率が高まることが明らかとなった.さらに,低温処理による稔実率の変化と交雑率との間には,花粉親からの距離1mの低温処理区でr=-0.653^<***>,同5mの低温処理区でr=-0.462^<**>と有意な負の相関関係が認められた.以上の結果により,低温による雄性不稔化で自花の花粉密度と稔実率が低下したイネでは,交雑率が大幅に高まることが実証された.
著者
古川 一実 田中 淳一
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.109-115, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
16
被引用文献数
2 4

チャでは形質転換体の作出が数多く試みられてきたにも関わらず,再現性のある形質転換系が確立しているとは言い難い状況にある.これは効率的で安定した培養系が確立していないことが最大の要因である.効率的で安定した培養系を確立するためには,培養条件のみならず,その材料も検討する必要がある.我々は材料の遺伝的能力に着目し,チャ遺伝資源130系統の自然交雑種子を用いて高い体細胞胚形成能を示す系統のスクリーニングを行った.外植体には,自然交雑で生じた果実の未熟種子内部の子葉を用いた.次亜塩素酸ナトリウムによる表面殺菌後,幼葉および幼根を切除した外植体をMS培地(3.0 mg/l 6-benzylaminoprine(BA),3.0%ショ糖および0.2%ゲランガムを含む)に置床し25 °C,暗黒条件下で培養を行った.外植体の反応は,まったく変化のなかったもの,肥大したもの,体細胞胚の形成が認められたものの3タイプに大別でき,品種・系統間でその反応は明らかに異なった.体細胞胚は,カルスを経由せず子葉の表面から直接形成された.中国導入系統‘枕 -Ck2’を種子親とした自然交雑種子の子葉培養において高い体細胞胚形成率が認められ,この系統が形質転換系の確立のための有望な材料であることが明らかとなった.
著者
Makara Ouk Sophany Sakhan Sarom Men
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.65-71, 2009 (Released:2021-11-13)
被引用文献数
2
著者
田中 淳一 太田(目徳) さくら 武田 善行
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.149-154, 2003 (Released:2003-12-18)
参考文献数
12
被引用文献数
3 7

ツバキの園芸品種‘炉開き’はその形態的特徴,発見された地域や状況等から,ヤブツバキ(Camellia japonica)の変種ユキツバキ(C. japonica var. decumbens)とチャ(C. sinensis)の種間交雑種であると考えられてきた.しかし,決定的証拠ともいえるDNAについて‘炉開き’の雑種性について検討した例はなかった.‘炉開き’について,DNAマーカーの一種であるRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)およびSSR(Simple Sequence Repeat)マーカーによる解析を行った.RAPDによる解析においては,‘炉開き’から検出されたRAPDバンドの全てがチャ,ヤブツバキのいずれかより検出された.さらに,チャでは多型が全く検出されなかったチャのSSRマーカー(TMSLA-45)についてヤブツバキを調査したところ,チャとは異なる増幅産物が検出され,‘炉開き’はチャとヤブツバキの増幅産物を共有していることが確認された.これらの結果は‘炉開き’が種間交雑種であることを強く支持するものであった.続いて母性遺伝RAPDまたはそれをe-RAPD(emphasized-RAPD)化したものを用いて‘炉開き’の細胞質を調査し,日本在来のチャの細胞質とは異なることを確認した.これらの結果より,‘炉開き’は種子親がヤブツバキ,花粉親がチャの種間交雑種であると結論された.また,チャと‘炉開き’を交雑し,両者の形態的特徴を色濃く反映する一個体を得た.この個体について調査し,ヤブツバキ由来のRAPDおよびSSRマーカーが‘炉開き’を経由してこの個体へと遺伝していることを確認し,チャ育種における‘炉開き’のヤブツバキの遺伝子の導入のための橋渡し親としての利用に道を拓く結果を得た.
著者
舘山 元春 坂井 真 須藤 充
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-7, 2005-03-01
参考文献数
23
被引用文献数
4 9

複数の低アミロース性母本に由来する系統を供試し,イネの食味に大きく影響する胚乳アミロース含有率の登熟気温による変動を調査した.日本の寒冷地域で作付けされている,「ミルキークイーン」(<i>wx-mq</i>保有),「彩」(<i>du(t)</i>保有),および「スノーパール」の低アミロース性母本に由来する育成系統と,「山形84号」(<i>wx-y</i>保有),「探系2031」,対照としてうるち品種の「つがるロマン」(<i>Wx-b</i>保有)を供試した.人工気象室,ガラス温室および自然条件を組み合わせ,低,中,高温の3つの温度条件で登熟させた時の胚乳アミロース含有率を測定した.「つがるロマン」のアミロース含有率の変動幅は12~23%(高温区~低温区)であり,登熟気温変動1 &deg;C当たりのアミロース含有率の変動幅(&Delta; AM/ &deg;C)は0.8~1.1%であった.これに対し「ミルキークイーン」由来の系統,ならびに「山形84号」のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より小さかった.一方,「スノーパール」の母本で「ミルキークイーン」や「山形84号」とは異なる <i>Wx</i>座の突然変異による「74wx2N-1」に由来する系統のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より大きく, &Delta; AM/&deg;Cは「つがるロマン」の1.4~1.9倍であった.「探系2031」のアミロース含有率は,「つがるロマン」と他の低アミロース系統の中間であり, &Delta; AM/&deg;Cは「つがるロマン」とほぼ等しかった.「ミルキークイーン」由来の系統あるいは「山形84号」と,「74wx2N-1」に由来する系統間に見られるアミロース含有率の温度による変動幅の差は,その保有する低アミロース性遺伝子の違いによる可能性が示唆された.<br>
著者
佐々木 武彦
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.15-21, 2009 (Released:2011-03-05)
著者
森田 明雄 小西 茂毅 中村 順行 清水 絹恵 横田 博実
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-9, 2004 (Released:2004-03-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

日本で育成された緑茶用品種の中から29品種を選び,それぞれ一番茶生育期前(3月1日)の成葉と摘採適期の一番茶新芽を採取し,全窒素,全遊離アミノ酸,テアニン,タンニン,カフェイン,ビタミンC含量を近赤外分光法により測定した.その結果,一番茶では,育成年と茶の滋味に関係する全窒素,遊離アミノ酸並びにテアニン含量との間に正の相関が認められた.つまり,育成年が新しい品種ほどそれらの窒素成分含量が高かった.しかし,同じ窒素化合物でも,苦味成分であるカフェイン含量には育成年の新旧に応じた差はなく,また渋味成分であるタンニン含量は反対に育成年との間に負の相関が認められた.一方,一番茶生育期前に採取した成葉でも,一番茶と同様に育成年と全窒素,遊離アミノ酸,テアニン含量との間に正の相関が認められ,育成年の新しい品種ほどこれらの窒素成分含量が高かった.しかし,成葉においては,育成年とタンニン含量との間に有意な相関はみられなかった.また,一番茶と一番茶生育前の成葉の全遊離アミノ酸含量同士の間に正の相関が示された. 次に,上述の煎茶用品種の中から1960年以降に育成された10品種を選び,一番茶摘採前期,後期,終期に相当する5月4日,14日,17日の3回,一心五葉芽の一心三葉部分のみを採取し,全窒素含量と可溶性窒素(全遊離アミノ酸に相当)含量を分析した.その結果,いずれの収穫日においても,摘採適期に収穫した場合と同様に,育成年と全窒素並びに可溶性窒素含量との間に高い正の相関を示した. これらの結果から,チャの育種では,近年の栽培等の技術の進展を背景に,滋味成分である窒素成分含量が高く,渋味成分であるタンニン含量の少ない茶葉をもつ個体が選抜されたことが示された.また,摘採適期に収穫した一番茶以外でも,一番茶生育期前の成葉または摘採期前期から終期までの新芽の一心三葉部分のみを試料に用いた成分分析値も,チャの成分育種の効率化に有効な資料として活用できることが示された.
著者
叢 花 長峰 司 菊池 文雄 藤巻 宏
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.117-123, 2004 (Released:2004-09-18)
参考文献数
15

新彊ウイグル自治区(以下新彊と略称)は,中華人民共和国の西北端に位置し,緯度上は日本の中北部から樺太南部に相当する.新彊の内陸性乾燥寒冷気候は,日本などの東アジアの海洋性湿潤温暖気候とは対照的である.現在,イネは新彊の主要食用作物にはなっていないが,南部では1400年以上も前から,栽培が行われていた記録が残っている.本研究では,新彊の地方品種(16点)と改良品種(13),日本品種(42),中国品種(40),その他の国の品種(85)の196品種を供試して,形態・生態的特性,生理・生化学的特性,品質・成分特性,アイソザイム多型などを調査し,新彊イネの特性を明らかにした.その結果,新彊イネは,地方品種,改良品種とも極早生・やや長稈・長穂で分げつが少なめで生育量が小さく,やや大粒で止葉がきわだって大きく,穂発芽しやすい特徴がみられた.また,エステラーゼ・アイソザイムの分析結果では,新彊の地方・改良品種のいずれもが日本品種と同様の Est-1遺伝子座の1AとEst-3座の12Aの二つのバンドをもつ遺伝子型であった.中国雲南省からミャンマー,ラオス,北ベトナムなどの多様性中心からイネが北上するに伴い,寒冷環境に適応するために,感光性を失い極端に早生化したと考えられる.このため,新彊品種は,極早生・少分げつなど,北海道品種と共通の特徴をあらわしたが,大きな止葉とやや大粒できわめて穂発芽しやすいなどの異なる特徴も持っていた.また,玄米のアルカリ崩壊性や胚乳アミロース含有量に関し,日本品種より大きな変異がみられた.自然選択や人為選抜の影響を受けにくいアイソザイム多型に関しては,新彊品種は,日本品種と同一の遺伝子型であった.このことから,エステラーゼ・アイソザイム遺伝子と寒冷適応に関する遺伝子が連鎖している可能性も考えられる.