著者
小林 麻子 清水 豊弘 冨田 桂 林 猛 田野井 真 町田 芳恵 中岡 史裕 酒井 究 渡辺 和夫 両角 悠作
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.138-143, 2018
被引用文献数
4

福井県内の生産者や流通業者から高く売れる米への要望が高まっていた。さらに,地球規模での気候変動の影響で,福井県でも高温登熟による玄米外観品質の低下が懸念されていた。寒冷地南部における「コシヒカリ」の高湿登熟耐性は"やや弱"とされており,高温登熟下でも玄米外観品質が安定して良好な品種が求められていた。以上のような状況を背景として,育成地では,福井県の新たなブランド米となりうる良食味で高温登熟耐性に優れる「ポストこしひかり」品種の開発を行ってきた。
著者
佐藤 宏之 鈴木 保宏 奥野 員敏 平野 博之 井辺 時雄
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-19, 2001 (Released:2011-03-05)

イネ(Oryza sativa L.)品種コシヒカリの受精卵に,メチルニトロソウレア(MNU)突然変異原処理を行って育成された品種ミルキークイーンの低アミロース性の遺伝子分析を行った.ミルキークイーンとその野生型であるコシヒカリを正逆交雑したF1種子のアミロース含量は両親の中間値を示したが,ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF1種子よりも,コシヒカリ/ミルキークイーン由来F1種子の方が高いアミロース含量を示した.従って,ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子には量的効果があることが分かった.また,ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF2集団のアミロース含量は,コシヒカリ型とミルキークイーン型が3:1に分離し,さらにミルキークイーン/コシヒカリ//ミルキークイーン由来の戻し交雑集団のアミロース含量が,野生型と低アミロース型が1:1に分離したことから,ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子は単因子劣性であると考えられた.次に,イネのアミロース合成に関与する既知の遺伝子,wx並びにdu1,2,3,4及び5との対立性を検定した結果,ミルキークイーンにおいて突然変異を生じた遺伝子は,wxの対立遺伝子であることが示唆された.
著者
舘山 元春 坂井 真 須藤 充
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
pp.1-7, 2005 (Released:2011-03-05)

複数の低アミロース性母本に由来する系統を供試し、イネの食味に大きく影響する胚乳アミロース含有率の登熟気温による変動を調査した。日本の寒冷地域で作付けされている、「ミルキークイーン」(wx-mq保有)、「彩」(du()保有)、および「スノーパール」の低アミロース性母本に由来する育成系統と、「山形84号」(wx-y保有)、「探系2031」、対照としてうるち品種の「つがるロマン」(Wx-b保有)を供試した。人工気象室、ガラス温室および自然条件を組み合わせ、低、中、高温の3つの温度条件で登熟させた時の胚乳アミロース含有率を測定した。「つがるロマン」のアミロース含有率の変動幅は12-23%(高温区-低温区)であり、登熟気温変動1℃当たりのアミロース含有率の変動幅(ΔAM/℃)は0.8-1.1%であった。これに対し「ミルキークイーン」由来の系統、ならびに「山形84号」のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より小さかった。一方、「スノーパール」の母本で「ミルキークイーン」や「山形84号」とは異なるWx座の突然変異による「74wx2N-1」に由来する系統のアミロース含有率の変動は「つがるロマン」より大きく、ΔAM/℃は「つがるロマン」の1.4-1.9倍であった。「探系2031」のアミロース含有率は、「つがるロマン」と他の低アミロース系統の中間であり、ΔAM/℃は「つがるロマン」とほぼ等しかった。「ミルキークイーン」由来の系統あるいは「山形84号」と、「74wx2N-1」に由来する系統間に見られるアミロース含有率の温度による変動幅の差は、その保有する低アミロース性遺伝子の違いによる可能性が示唆された。
著者
高津 康正 眞部 徹 霞 正一 山田 哲也 青木 隆治 井上 栄一 森中 洋一 丸橋 亘 林 幹夫
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.87-94, 2002-06-01
参考文献数
17
被引用文献数
1

21種のグラジオラス野生種について特性調査および育種素材としての評価を行ったところ,草丈,葉数,葉・花の形態,小花数および開花期等には種によって大きな違いがみられた.また草丈が10cm程度で鉢物に利用可能なもの,現在の栽培種にはみられない青色の花被片を有するものなど,育種素材として有望な野生種が見出された.香りを有する種は全体の52.3%を占め,香りのタイプもチョウジ様,スミレ様などさまざまであることが示された.さらにこれらの野生種について到花日数,小花の開花期間,稔実日数および1さや当たりの種子数を調査し育種上重要な情報を得ることができた.フローサイトメトリーによる解析の結果,野生種においては細胞あたりのDNA含量が多様で,種によってイネの0.9〜3.5倍のゲノムサイズを有するものと推定された.本法による倍数性の判定は困難であるが,種の組合せによっては交雑後代の雑種性の検定に利用可能であることが示唆された.
著者
高田 兼則 谷中 美貴子 池田 達哉 石川 直幸
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.41-48, 2008 (Released:2011-01-21)

日本の麺用小麦はオーストラリアからの輸入小麦銘柄(ASW)と比べて製麺適性が劣っている。西日本の小麦品種には高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)がGlu-A1座の対立遺伝子がコードするサブユニットが欠失型(null)でGlu-B1座が7+8、Glu-D1座が2.2+12や2+12をもつ品種が多数を占める。そこで、これらの高分子量グルテニンサブユニットの小麦粉生地物性への影響を小麦品種「ふくさやか」を反復親として、8種類の準同質遺伝子系統を作出して分析した。Glu-D1座が2.2+12をコードする系統では、Glu-A1座が欠失型の場合、Glu-A1座がサブユニット1をコードする系統と比べて不溶性ポリマー含有率が有意に低く、小麦粉の生地物性も弱かった。とくに日本品種に多く見られるnull、7+8、2.2+12のサブユニット構成は最も弱い物性を示した。一方、Glu-D1座が2+12をコードする系統では、Glu-A1座のサブユニットの有無による不溶性ポリマータンパク質や生地物性への影響は小さかった。これらのことからGlu-A1座とGlu-D1座の対立遺伝子の組合せが、小麦の加工適性に大きく影響していることが明らかになった。これまでHMW-GS構成はSDS-PAGEを用いて判別するのが一般的であったが、サブユニット構成によってはGlu-A1座のサブユニットの判定が困難な場合がある。そこで、Glu-A1座のサブユニット1(Glu-A1a)、2(*)(Glu-A1b)およびnull(Glu-A1c)を判別するPCRマーカーを開発した。
著者
田中 勲 小林 麻子 冨田 桂 竹内 善信 山岸 真澄 矢野 昌裕 佐々木 卓治 堀内 久満
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.39-47, 2006-06-01
参考文献数
31
被引用文献数
18

イネ日本型品種コシヒカリとアキヒカリの交雑F<sub>1</sub>の葯培養に由来する半数体倍加系統群を用いて,食味に関与する量的形質遺伝子座(quantitative trait loci: QTLs)の検出を試みた.食味は食味官能試験による「外観」と「粘り」,アミロース含量およびビーカー法による炊飯光沢によって評価した.その結果,第2染色体のDNAマーカーC370近傍,OPAJ13および第6染色体のR2171近傍に,コシヒカリの対立遺伝子が食味官能試験の「粘り」を増加させるQTLが検出された.また,第2染色体のOPAJ13近傍にコシヒカリの対立遺伝子がアミロース含量を低下させるQTL,第2染色体のC1137近傍にコシヒカリの対立遺伝子が炊飯光沢を増加させるQTLが検出され,「粘り」を増加させるQTLとの関連が示唆された.以上の結果から,コシヒカリの良食味には,第2染色体に見いだされる一連のQTLが大きく影響していると推察された.<br>
著者
坂本 知昭 片山(池上) 礼子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-19, 2019-06-01 (Released:2019-06-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

サツマイモ「兼六」は塊根にβ-カロテンを含む特徴がある良食味品種で,1930年代に石川県農事試験場で選抜された.苗条および塊根の形態的特徴が「安納いも」のそれらと酷似していたため,「安納いも」5品種・系統と「兼六」の比較を試みた.「兼六」,「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の成葉はいずれも波・歯状心臓形で,新梢頂葉にはアントシアニンが蓄積し紫色を呈していたが,「安納イモ1」の成葉は複欠刻深裂で頂葉は緑色だった.「兼六」,「安納3号」,「安納紅」の塊根皮色は紅であったのに対し「安納イモ4」と「安納こがね」は白であったが,これら5品種・系統の塊根にはβ-カロテンの蓄積が認められた.一方「安納イモ1」の塊根皮色は赤紫で条溝が多かったほか塊根にβ-カロテンは含まれていなかった.27の識別断片を用いたCleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法によるDNA品種識別では「兼六」と「兼六」を交配親に作出された「泉13号」および「クリマサリ」さらにその後代品種「ベニアズマ」の識別はできたものの,「兼六」と「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の識別はできなかった.45の識別断片を用いたRandom Amplified Polymorphic DNA(RAPD)法によるDNA品種識別では「兼六」と「泉13号」,「クリマサリ」,「ベニアズマ」だけでなく「安納イモ4」および「安納こがね」の識別も可能となったが,「兼六」と「安納3号」,「安納紅」の識別はできなかった.以上の結果と「安納いも」が戦後の種子島で見出された在来系統であった経緯を考え合わせると,「安納いも」のルーツはかつて全国に普及していたとされる「兼六」ではないかと結論づけられた.
著者
佐藤 宏之 鈴木 保宏 奥野 員敏 平野 博之 井辺 時雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.13-19, 2001-03-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
21
被引用文献数
9 11

イネ (Oryza sativa L..) 品種コシヒカリの受精卵に, メチルニトロソウレア (MNU) 突然変異原処理を行って育成された品種ミルキークイーンの低アミロース性の遺伝子分析を行った. ミルキークイーンとその野生型であるコシヒカリを正逆交雑したF1種子のアミロース含量は両親の中間値を示したが, ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF1種子よりも, コシヒカリ/ミルキークイーン由来F1種子の方が高いアミロース含量を示した. 従って, ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子には量的効果があることが分かった. また, ミルキークイーン/コシヒカリ由来のF2集団のアミロース含量は, コシヒカリ型とミルキークイーン型が3: 1に分離し, さらにミルキークイーン/コシヒカリ//ミルキークイーン由来の戻し交雑集団のアミロース含量が, 野生型と低アミロース型が1: 1に分離したことから, ミルキークイーンの低アミロース性を支配する遺伝子は単因子劣性であると考えられた. 次に, イネのアミロース合成に関与する既知の遺伝子, wx並びにdu 1, 2, 3, 4及び5との対立性を検定した結果, ミルキークイーンにおいて突然変異を生じた遺伝子は, wxの対立遺伝子であることが示唆された.
著者
河野 和男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 = Breeding research (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.9-15, 2012-03-01
被引用文献数
1

一般向け科学誌としては世界で最も影響力の大きいものの一つと思われる『Scientific American』の2010年5月号にキャッサバの報文が出ていた(Nassar and Ortiz2010)。内容は,キャッサバは8億人以上もの人々の食生活を支えている大作物であり,その更なるポテンシャルは最大級で,今後ますます社会の関心と研究の重要度が高まるべきものであるとする妥当なものであったが,記事のヘッドラインにもなっている「カロリー生産高で世界第3位の作物」という記述にはやや驚いた。同じ年の暮れには『品種改良の世界史―作物編』(鵜飼保雄,大澤良 編2010)という百科事典的な本が刊行されてここには21の作物種が論じられていたが,キャッサバが取り上げられていなかったのにはもっと驚いた。「世界史」というタイトルであり「人間社会を支えてきた代表的な作物を選んで」と書かれているので,この本の著者たちは世界の重要作物を何らかの客観性を持たせて選んだつもりであろう。仮にこれが今の日本の学識経験者の常識だとし,冒頭のキャッサバの扱いを世界の常識だとすれば両者の間に大きなギャップがある。これ自体興味深いが,世界の作物統計といったマクロデータと私自身の体験といういわばミクロのハードデータから,世界認識の違いや現在日本の内向き思考までを考えてみたい。
著者
新倉 聡
出版者
日本育種学会
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.153-160, 2007 (Released:2011-01-21)

アブラナ科野菜における生殖形質の遺伝学的研究とその育種への展開。イネやコムギは世界的に見て、主食となる穀物であることに疑いはない。しかしヒトは主食を摂るだけでは、健康的でかつ文化的な食生活を送ることができない。現在世界中には数百種の野菜が存在し、副食として欠かせないものとなっている。その農業生産的側面としては、国内をとってみても、野菜作付け面積ではダイコン、キャベツ、ホウレンソウ等を筆頭に、多くの作付けが為されている。その中でアブラナ科は300属3000種から成る重要な作物種であり、Brassica napusに属する油糧用ナタネ、世界中で栽培されB.oleraceaに属するキャベツ、ブロッコリー、主に東アジアを中心に利用が為され多くの在来品種が発達している、B.rapaに属するハクサイ、カブ、ツケナ類ならびにRaphanus sativusに属するダイコン等約40種が特に重要品目として挙げられる。
著者
原田 竹雄
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.169-174, 2014

食べごろに熟れたリンゴ(Malus×domestica)をほお張る時,その特有の芳醇な香り,そして絶妙なバランスの甘味と酸味が私たちに至福をもたらすものである。「エデンの園」にリンゴがあったように,リンゴ栽培は紀元前から行われており,特に栽培が古くから本格化したヨーロッパでは様々な童話や逸話にも登場する。また,近年においてもニューヨーク市の愛称名やコンピューター会社の社名になっているほど,リンゴは世界中の人々に愛されてきた。リンゴは世界における果樹としてはバナナ(Musa)に次ぐ生産量を占め,実に多くの国で栽培されている。他殖・永年性作物であることから多くの品種が存在し,例えば果実に限っても,熟期,形態,果皮・果肉色など実に遺伝的多様性が大きい。果実日持ち性も品種によって収穫後の商品価値を保持できる期間が異なり,短いものは長期保蔵に不適であって収穫後すぐに出荷され,消費者に食される必要がある。一方,長いものは冷蔵やCA(controlled atmosphere)貯蔵などと組み合わせることで,出荷時期をさらに延長することも可能となる。リンゴは他の果実に比べ日持ち性が高い特徴があるものの,上述のとおり果実の日持ち性の良否は商品価値を大きく決定することから,リンゴにおけるポストハーベスト学の主課題として日持ち性の研究が世界中で進められ,品種間の違いの原因が追及されてきた。果樹の特徴である一世代の長い期間やその栽培管理労力の大きさが障壁となって,リンゴ果実特性の分子遺伝学的研究は容易には本格化できない点があった。しかし,果実ライプニングのモデル植物とされるトマト(Solanum lycoperisicum)からの知見とリンゴの全ゲノム解析情報(Velasco et al. 2010)から,リンゴの日持ち性の違いに関わる分子機構の理解が飛躍的に進行している。本総説はリンゴのライプニングに関するこれまで解明された最新の分子機構を紹介する。