著者
楠見 孝 子安 増生 道田 泰司 Manalo Emmanuel 林 創 平山 るみ 信原 幸弘 坂上 雅道 原 塑 三浦 麻子 小倉 加奈代 乾 健太郎 田中 優子 沖林 洋平
巻号頁・発行日
2011-04-01 (Released:2011-04-06)

本年度は最終年度として,以下の3つの課題を実施し,市民のための高次リテラシーと批判的思考の観点からその成果を統合的に考察した。そして,5年間の成果を研究書『市民リテラシーと批判的思考』として出版した。課題1「市民リテラシーと批判的思考」は2テーマに分かれる。 課題1-1「市民リテラシーと批判的思考のアセスメント」では,メディア,統計,リスク,人口学,健康等の分野における市民リテラシーが批判的思考態度に支えられていることを,市民対象の調査によって明らかにした。あわせて,これらの高次リテラシーのアセスメントツールを開発した。課題1-2「批判的思考育成のための教育プログラム作成と授業実践」では,小学校の音楽,高校の探究学習,大学(教養,専門,外国語,教職教育)において,批判的思考向上のための学習者間インタラクションを重視した教育実践をおこないその効果を分析した。課題2「神経科学リテラシーと科学コミュニケーション」では,批判的思考を支える推論と情動について、哲学研究と神経生理学実験に基づいて検討した。また,市民を主体とする科学コミュニケーション活動の意義を,福島原発事故後の放射能リスクをトピックとして検討した。課題3「ネットリテラシーと情報信頼性評価」では,第一に,福島原発事故後の放射能リスクに関する情報源の信頼性評価とネットリテラシーの関連を,5年間のパネル調査に基づいて,時系列的に明らかにした。第二に,対人コミュニケーション場面での信頼感形成過程を長期にわたるコミュニティのテキストコミュニケーションから明らかにした。第三に,批判的思考を,情報通信技術を通じて行われる群衆の知性に基づいて検討するとともに,情報信頼性判断支援のための日本語文の事実性情報を自動解析する技術を開発した。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.169-181, 2012-03

本稿の目的は,大学教員として中学生に心理学の授業を計画し,実施したプロセスを報告することである。授業は90分,18名の中学3年生を対象に行われた。テーマは盲点の錯覚を中心とした知覚心理学としたが,テーマをどのように設定し,授業をどのように構想し,実施したのか。生徒の反応はどうであったか。このような点について報告することで,今後の中等教育における心理学教育について考える基礎資料とするのが本稿の狙いである。実践を実施した結果,盲点を中心に実験体験を通し,自分たちでも考えながら心理学に触れることの有効性が確認された。今後の課題としては,講義時間の長さや考える時間の確保,意見表出の方法などの方法論的な部分が挙げられた。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.161-170, 2002-03

批判的思考を行うためには,「共感」や「相手の尊重」のような,soft heartが必要になることが論じられた。それは第一に,批判を行う前提として「理解」が重要だからであり,相手のことをきちんと理解するためには「好意の原則」に支えられた共感的理解が必要だからである。このことは,-聴して容易に意味が取れると思われる場合でも,論理主義的な批判的思考を想定している場合でも同じである。共感的理解には,自分の理解の前提や枠組みをこそ批判的に検討する必要がある。そのことが,臨床心理学における共感のとらえられ方を元に考察された。また,批判を行うためには理解の足場が必要であること,それを自分と相手に繰り返し行うことによって理解が深まっていくことが論じられた。最後に,このような「批判」を伴うコミュニケーションにおいては,「相手の尊重」というもう1つのsoft heartも重要であることが,アサーティプネスの概念を引用しながら論じられた。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.333-346, 2004-02

本稿では,批判的思考が良い思考であるのかどうかについて,意思決定と問題解決に焦点を当てて検討した。まず,すぐれた意思決定はきわめて批判的思考的であり,創造的な問題解決には,批判的思考的な技能が活かされていることが確認された。しかし,潜在的意思決定や暗黙の前提の存在を指摘することは,他者には受け入れられがたいことも多く,問題解決から離れる可能性のある,必ずしも良いとはいえないものであることが指摘された。これらは「解決・評価志向」と「探究志向」の批判的思考という枠組みで考察され,批判的思考の持つ「良さ」と「良くなさ」の2面性について論じられた。
著者
道田 泰司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.193-205, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
30
被引用文献数
2 or 0

本研究の目的は, 大学での半期の授業の中でさまざまな形で質問に触れる経験をすることが, 質問に対する態度や質問を考える力に効果を及ぼすかどうかを検討することであった。授業では毎回, グループで質問を作ること, 個人で質問書を書くことに加え, 半期に1回グループで発表させることで, 質問することが必要となる場面を作った。授業初回と学期の最後に, 質問に対する態度の自己評定と, 文章を読んで質問を出す課題を行った。2年度に渡る実践の両方において, 学期末の調査で質問に対する態度が全般的に向上しており, 質問量も増加していた。質問量の増加は, 事実を問う質問や意図不明の質問によるものではなく, 高次の質問の増加である可能性が示唆された。その変化がどのように生じたのかを知るために, 質問量と質問態度それぞれについて, 事前テストでの成績によって学生を4群に分けて事後テスト結果を検討した。その結果, 事前テスト上位群以外の学生の質問量および質問態度が向上していることが示された。以上の結果より, さまざまな形で質問に触れる経験をさせた本実践の効果が示された。
著者
道田 泰司 Michita Yasushi
出版者
琉球大学教育学部
雑誌
琉球大学教育学部紀要 (ISSN:13453319)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.105-117, 2007-08
被引用文献数
4 or 0

本稿では,問いのある教育がどのようにありうるのかについて,いくつかの教育実践や実践研究を取り上げ,主に思考力育成という観点から考察した。質問書方式の実践では,大学生の8割以上が疑問を持ち考えるようになったことが示されている。質問の質を高める方法としては,質問語幹リスト法が挙げられ,これを用いた実践研究が検討された。また,わからないときだけでなくわかったつもりでいるときに質問を出すことの必要性も論じられた。最後に,小学校における質問力育成教育をいくつか概観し,質問力を育成するための示唆を得た。最後にこれらをいくつかの観点から整理し,今後の課題を検討した。