著者
松尾 睦 細井 謙一 吉野 有助 楠見 孝
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.43-57, 1999 (Released:2011-08-16)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

本研究の目的は、自動車販売会社における営業担当者の知識獲得プロセスを検討することにある。販売方略に関する手続的知識は、定性的および定量的な質問紙調査によって測定した。分析対象となる108名の営業担当者を、経験年数に応じて新人群 (営業経験3年未満) 、中堅群 (3年~9年) 、ベテラン群 (10年以上) に分類した上で、手続的知識と販売業績について相関分析を行ったところ、営業経験を積むほど手続的知識と販売業績の正の相関が強まることが明らかになった。この結果は、営業担当者の知識が経験によって宣言的レベルから手続的レベルに変換されるというAnderson (1982、1983) の認知的スキル獲得モデルによって解釈できるとともに、エキスパート研究における10年ルールと対応するものである。
著者
岸谷 和広
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.33-52, 2016 (Released:2017-05-25)
参考文献数
52
被引用文献数
1

本稿の目的は、ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)上でのコミュニケーションに関する双方向性(双方向コミュニケーション、ユーザーコントロール、反応性)とSNSがユーザーに提供する価値、SNSに対するユーザーのロイヤルティとの関係を検討することである。同時に、それぞれの関係に対するSNSの技術的・社会的特性(プラットフォーム)の影響(モデレート分析)を検討する。プラットフォームとして、フェイスブックとツイッターを取りあげ、それぞれのユーザーに対してインターネットによる質問紙調査を行い、共分散構造分析を用いて分析した。その結果は、1)それぞれのプラットフォームにおいて、双方向性と反応性は、社会価値と情報価値それぞれに対して正の影響を与えていたのに対して、ユーザーコントロールは、情報価値に対して負の影響を与えていた。2)プラットフォームの効果として、フェイスブックユーザーはツイッターユーザーよりも情報価値が与えるサイトロイヤルティへの影響が大きいのに対して、ツイッターユーザーはフェイスブックユーザーよりも社会価値が与えるサイトロイヤルティへの影響が大きいことがわかった。その結果を受けて理論的そして実践的含意を論じ、本研究の問題点と将来の研究の方向性を示した。
著者
武居 奈緒子
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.17-35, 2006 (Released:2011-05-20)

本研究の目的は、新興呉服商が、卸売商支配の流通で、どのように成長し最終的に百貨店業態へと業態革新を遂げたのかについて、一次資料に基づいて論証することである。新興呉服商の仕入革新の特徴は、流通チャネルの短縮化、安定的仕入れルートの確保、仕入商品の拡大からなる。新興呉服商と産地の仲買との共存と離脱という呉服商の革新的行動は、大規模小売商としての道を切り開き、大量販売・高品質による信用・多品目取扱いの基盤となり、日本における百貨店の原型が形成されることが明らかとなる。
著者
高嶋 克義
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.33-51, 2007 (Released:2011-05-20)
参考文献数
43
被引用文献数
3

小売業態論は, 小売業態を分析単位として小売業態革新のダイナミクスにおける特徴を捉えるアプローチであり, 新規参入業者による業態革新と業態への収敏化という傾向を想定している。本研究では, これらの傾向を革新者のジレンマやドミナント・デザインといった技術革新論の視点で捉え直すとともに, この想定が抜本的アウトプット革新という限定的な革新概念からもたらされることを説明する。そのうえで, 抜本的革新一漸進的革新, アウトプット革新一プロセス革新という多様な革新を考慮し, 小売企業の組織能力による革新への影響を考えることで, 小売業態革新の展開には2つの対照的なパターンが存在することを理論的に導き出す。
著者
堀口 哲生
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-15, 2019 (Released:2019-05-31)
参考文献数
82

企業間競争の激化等の要因により,企業は技術的・市場的に新規性の高い新製品を以前よりも頻繁に導入することが求められている。このような新規性の高い新製品開発においては,新製品開発者が如何に正しい判断を行えるかという点が大きな課題となる。本研究では,先行研究,統計分析の結果をもとに,戦略的状況における意思決定の行われ方として,分析的判断,直観的判断,連想的判断の3つが存在することを明らかにした。その上で,技術的・市場的に新規性の高い新製品開発において,どのような意思決定がより有効なのかについて明らかにした。
著者
中川 宏道 星野 崇宏
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.1-15, 2017

<p>値引きとポイント付与とでは,どちらのセールス・プロモーションの効果が大きいのであろうか。本研究では,食品スーパーにおける集計された購買履歴データを用いて,ポイント付与に関するプロモーション弾力性および値引きの弾力性の推定をおこない,両者の効果の比較をおこなった。プロモーション弾性値の測定の結果,ベネフィット水準が高くなるほど値引きの弾性値が高くなる一方,ポイント付与の弾性値は低くなる傾向が確認された。これらの結果,商品単価が低く値引率・ポイント付与率も低いときには,ポイント付与の方が値引きよりも売上効果が高くなることが確認された。小売業が低いベネフィット水準においてプロモーションをおこなう場合には,値引きよりもポイント付与の方が有利であることが示唆される。</p>
著者
木村 純子 ラッセル W.ベルク
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.39-55, 2004

本稿は、消費文化の受容について考えることを目的としている。分析対象として日本で活発に行われている西洋文化としてのクリスマス消費を取り上げる。これまでの議論は、西洋文化に日本文化を従属させる (グローバル論者) 、あるいは日本文化に西洋文化を従属させる (伝統論者) といった「西洋中心の文化帝国主義モデル」であり、文化を本質的なものとして捉え、日本の文化状況を均質化に行き着くものとして理解していた。ところが、消費文化の受容過程に目を凝らすと、実際は、文化は西洋か日本かのいずれかに均質化していくわけではない。本稿が依拠する変容論者は、消費文化の受容を日本人が主体的に異文化を受け止め利用していく過程 (=文化の再生産) と捉える。文化の再生産には、二つのしかたがある。一つは西洋をなじみのあるものに変えるしかたである。もう一つは西洋を西洋のまま維持するしかたである。このことから、日本の文化は、均質化に向かっているものとしてではなく、異類混交とした状況にあるものとして理解されるべきである。
著者
石田 大典
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.27-41, 2018 (Released:2018-11-17)
参考文献数
73
被引用文献数
1

過去に取り組まれてきた市場志向研究において,3つのタイプの市場志向(先行型,反応型,萌芽型)がイノベーションや新製品パフォーマンスへ及ぼす影響については十分に議論されてきたが,そのメカニズムについては必ずしも明らかにされていない。そこで本研究では,製品開発チームの学習プロセスに着目し,市場志向と新製品パフォーマンスを結び付ける媒介要因として検討した。日本の上場製造業企業から得られたサンプルを基に分析を行ったところ,先行型市場志向と反応型市場志向は製品開発チームの市場学習を促進させ,萌芽型市場志向は製品開発チームのアンラーニングを促進させていた。また,製品開発チームの市場学習は新製品優位性を高め,結果として新製品パフォーマンスを高めていた。一方,アンラーニングはマーケティング創造性を高めていたが,マーケティング創造性は新製品パフォーマンスへは結びついていなかった。
著者
大竹 光寿
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1-15, 2017 (Released:2018-06-30)
参考文献数
86

本論文では,既存ブランドの海外展開をきっかけにしてブランド・アイデンティティが再構築され,企業成長を遂げていくプロセスを検討する。特に注目するのは,市場環境が変化しているのにもかかわらず,ブランドに対する信念や組織能力,ブランド・イメージに捕らわれるあまり,ブランドの革新が進まず,従来の組織活動が継続してしまうという慣性である。こうしたブランド・マネジメントの慣性は,ブランドの原点に立ち返りそれを現在直面している状況に合わせて解釈するという創造的原点回帰を通じて,ブランドの理想像としてのブランド・アイデンティティが再構築されることで緩和されうる。国内外で生じた慣性が相互に緩和されることで企業成長が実現されていく点が示される。
著者
井上 淳子
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.2_3-2_21, 2009 (Released:2012-02-07)
参考文献数
42
被引用文献数
2

本研究では、消費者の態度であるブランド・コミットメントによって実際の購買行動が説明できることを確認した。コミットメントに関する先行研究の検討と複数カテゴリーのデータを用いた分析から、ブランド・コミットメントの要素として感情的コミットメント、計算的コミットメント、陶酔的コミットメントの3つを特定するとともに、ブランドの購買確率やバラエティ・シーキング行動、推奨行動との関係を明らかにした。ブランド・コミットメントの各次元は消費者の行動に対して明確に異なった影響を及ぼしており、これらの結果はブランドをマネジメントしていく上での有効な示唆を含んでいると考えられる。
著者
白 貞壬
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.35-51, 2003

この論文の目的は、段階別戦略行動というカギ概念に注目しながら、グローバル・リテーラーの海外戦略の意思決定や戦略行動が、参入時、参入後に段階別に変化することを指摘することである。小売企業のグローバル化をめぐる理論は、ドメスティック行動からグローバル行動への戦略行動の拡大プロセスを理論的に解明しようとしてきた。しかし、小売企業のグローバル行動の中で、標準化-適応化問題という戦略行動が参入時と参入後で変化するということに対して、認識がやや希薄であった。この問題を明らかにするために、日本におけるグローバル・リテーラーであるトイザらスとカルフールの戦略行動の変化を時系列に追い、従来対立すると考えられてきた標準化-適応化戦略が参入時、参入後の段階においていかに統合されるかを分析した。
著者
梅澤 伸嘉
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.95-102, 2003 (Released:2011-05-20)

新しい市場を創造した先発商品を「新市場創造型商品」と呼ぶならば、そうした「新市場創造型商品」は市場で長期間NO.1のシェアを保ち続ける確率が高いこと、その主たる要因が消費者の評価に関係していることを実証的に明らかにした。同時に、後発がその市場でNO.1になれる確率はきわめて小さいことなども検証し、先発優位か後発優位かの議論に関して1つの展望を切り開いた。
著者
近藤 公彦
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.4_3-4_16, 2010

小売業者にとってPOS 情報は、効果的なマーチャンダイジング(MD)を実施し、取引先に対して有利に交渉を進めるうえできわめて重要な情報である。このため、POS 情報は取引先に全面的に公開しないことが常識と考えられてきた。コープさっぽろはこの常識を覆し、POS 情報を全面開示することによって取引先からのMD 提案の仕組みをつくり、新たなチャネル・パートナーシップを構築した。本研究はコープさっぽろをケース研究の対象とし、協働MD 組織の役割、取引先とのwin-win 関係、模倣困難性などの視点からPOS 情報開示に基づくチャネル・パートナーシップ構築の理論的検討を行い、チャネル研究の新たな課題を提示する。
著者
清宮 政宏
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.91-112, 2004 (Released:2011-05-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1 2

従来、成果主義ベース管理 (またはアウトプット管理) と行動主義ベース管理 (またはプロセス管理) の対比で研究がなされてきた営業管理様式であるが、行動主義ベース管理の優位点や必要性が提起されてきながら、営業管理においてそれを採用することによる効果や成果との因果関係についてはあいまいなものであった。今回の研究では、この営業管理様式と営業成果の因果関係を詳細に分析するため、営業管理様式を構成するものを、6つの管理方式に分け (アウトプット管理、リレーション管理、プロセス管理、行動量管理、管理方式のレビュー・修正、報奨) 、また営業成果も3つに分けて (営業員への効果、顧客における効果、企業での成果) 、これらの管理方式とそれぞれの営業成果との因果関係の検証をこころみた。その結果、アウトプット管理と報奨は、弱いながらも直接的に企業への成果に寄与するのに対し、リレーション管理、プロセス管理、管理方式のレビュー・修正は、営業員への効果、顧客における効果に強く直接的に寄与し、結果的に企業での成果を高めることが確認された。