著者
田村 正紀
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1_49-1_56, 2009 (Released:2012-01-27)
参考文献数
8

小売店舗が地理空間的に近接立地して集積するのか、それとも一定距離を置いて分散的に立地するのかは同業種集積論の基本問題である。業種のこの集積パターンの実証的識別にさいしては、無店舗地点を含む共通空間にもとづく絶対的集中指標を使うと、この指標の特性によって集積パターンを誤認する。近接立地か分散立地かの集積パターンの識別にさいしては、その業種の有店地点間での偏りを捉える相対的集中指標を使わねばならない。
著者
吉田 満梨 水越 康介
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.17-34, 2012-03-31 (Released:2013-12-28)
参考文献数
71

本稿では、近年注目を集める実践的転回( practice turn)を考察し、消費経験論への再接続を試みる。 1980年代に Hirschmanや Holbrookを中心に展開された消費経験論は、今日では、消費文化理論(Consumer Culture Theory: CCT)の名のもとに、多様な研究分析が蓄積されるようになっている。我々のみるかぎり、こうした研究には、実践的転回の萌芽をみることができる。実践概念への注目は、 CCTはもとより、多くの消費者行動論やマーケティング論においても、新たな研究方針を提示することにつながる。具体的に言えば、実践概念の下では、主観的かどうかという点ではなく、主観と客観や個人と構造という視点自体がどのようにして形成され、またどのように消費行為に影響を及ぼすことになるかを問うことになる。
著者
寺本 高
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1_1-1_17, 2009 (Released:2012-01-27)
参考文献数
47
被引用文献数
7

本研究では、特定のブランドに対するコミットメントという消費者の態度状態と小売店頭でのプロモーション時の購買行動、ロイヤルティの関係を明らかにした。具体的な研究のアプローチとして、Dick and Basu(1994)が提示したロイヤルティとコミットメントの構造化の概念と、青木(2004)が提示したコミットメントの水準によるプロモーションへの反応の違いの概念の2点を分析した。実証分析の結果から、「真のロイヤルティ」、「潜在的ロイヤルティ」、「見せかけのロイヤルティ」という、ロイヤルティとコミットメントの構造化が可能であればこそ抽出できる消費者セグメントを導くことができた。また特定のブランドに対するコミットメントが強ければ、そのブランドが価格の値引きを行わなくても購買する傾向にあることが確認された。
著者
増田 明子 松井 剛 津村 将章
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.25-32, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本論文では,鹿児島県志布志市が公開したネット動画の炎上事例をもとに,消費者がストーリーについて表明する多様な解釈,すなわちナラティブが,どのようにうねりを持って集合現象になるのかを,消費文化理論の観点から検討した。3種類の定性データを分析した結果から,理論的示唆として,多様なナラティブの発生によって論点が細分化,同質化,差別化して論点が収束・発散するプロセスは,社会が抱える矛盾を解消するロジックを見出す神話的プロセスであることが明らかになった。本事例から導かれた3つの神話的プロセスとは「反セクシズム神話」,「反反セクシズム神話」,「メタ的神話」である。
著者
中川 宏道 星野 崇宏
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.1-15, 2017 (Released:2017-07-31)
参考文献数
37

値引きとポイント付与とでは,どちらのセールス・プロモーションの効果が大きいのであろうか。本研究では,食品スーパーにおける集計された購買履歴データを用いて,ポイント付与に関するプロモーション弾力性および値引きの弾力性の推定をおこない,両者の効果の比較をおこなった。プロモーション弾性値の測定の結果,ベネフィット水準が高くなるほど値引きの弾性値が高くなる一方,ポイント付与の弾性値は低くなる傾向が確認された。これらの結果,商品単価が低く値引率・ポイント付与率も低いときには,ポイント付与の方が値引きよりも売上効果が高くなることが確認された。小売業が低いベネフィット水準においてプロモーションをおこなう場合には,値引きよりもポイント付与の方が有利であることが示唆される。
著者
重松 佳
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-26, 2022 (Released:2022-10-27)
参考文献数
143

企業価値の決定要因として非財務情報の開示の重要性が増す中,顧客満足度は,企業業績の先行指標として,マーケティング領域の関係者以外も関心を寄せる指標となりつつある。しかし,顧客満足度と企業業績の関係性を検証している企業は少なく,顧客満足度の開示も進んでいない。マーケティング研究において,顧客満足度と企業業績に関する研究は,マーケティング-ファイナンス・インターフェイス研究分野の一領域に位置付けられ,約30年間にわたり蓄積されている。そこで本稿は,マーケティングの代表的指標である顧客満足度が,実務において企業業績に結びつけて語られていないという問題意識のもと,既存研究で蓄積された顧客満足度と企業業績の関係性についての知見が実務で活用されるよう,既存研究の整理を行い,総括と今後の研究課題を提示する。
著者
芳賀 康浩
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.3-24, 2014 (Released:2015-07-29)
参考文献数
60
被引用文献数
2 3

近年の CSR ブームを背景に,単なる責任論ではなく,より積極的な戦略論としてのソーシャル・マーケティングが注目されている。それに伴って,CSR 活動とマーケティング成果の関係を明らかにしようとする実証研究が急速に蓄積されている。しかし,そうした諸研究の成果を総合する理論的基盤は用意されていない。そこで本稿では,ソーシャル・マーケティングが登場し,マーケティング研究の一領域として認められるようになる際に基礎概念として用いられた交換概念を再検討し,その有効性を確認する。そのうえで,戦略的ソーシャル・マーケティングの展開方法への示唆を得るために,CSR 活動に関する戦略的意思決定の基礎となる CSR 活動のターゲットやその戦略目的に関する代替肢を識別する。
著者
高嶋 克義
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.61-76, 2013-03-31 (Released:2014-11-01)
参考文献数
31

環境変化に対応してマーケティング戦略の転換が要請される状況において,企業がその戦略転換を実行できないことがある。この問題については,これまで移動障壁として市場構造要因による説明がなされてきたが,本研究では企業が組織的な要因により戦略転換が制約される局面を捉えることにする。とくに脱コモディティ化のための製品差別化戦略の転換を例にあげて,企業がある組織アーキテクチャを選択し,それと補完的な制度と組織能力が形成されることに基づいて,その組織アーキテクチャと整合しない別の戦略への転換の困難性がもたらされる局面を説明するものである。
著者
近藤 公彦
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-46, 2002 (Released:2011-05-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1

この論文の目的は、ニチイ (現マイカル) によるビブレの業態開発プロセスをケース・スタディの対象としながら、イノベーションと競争の視点から業態開発における研究モデルを探ることにある。このケース・スタディを通じて発見された事実は、次の2点である。第1に、新業態の開発は既存業態との異業態性を克服するなかで行われるものであり、そのプロセスにおいて商品調達、商品政策、および販売方法の3つの側面でイノベーションが引き起こされたこと、第2に、開発された新業態の競争優位は地域的可変性と時間的可変性から構成される業態可変性を基礎としていること、である。
著者
近藤 公彦
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.77-89, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
63
被引用文献数
1 2

ICTの発展を背景に,小売業の新たな成長モデルとしてオムニチャネルが大きく注目されている。オムニチャネルは歴史的に,電子商取引,クリック&モルタル,マルチチャネル,クロスチャネルから発展し,消費者にシームレスな買い物経験を提供するための統合的なチャネル管理を中心的な課題としてきた。オムニチャネルは米国のそれを標準型として研究されてきたが,その態様は各国の小売環境のもとでの企業の成長プロセスに規定される。米国型オムニチャネルが単一業態オムニチャネルを基本としているのに対し,日本型オムニチャネルは複数の業態から構成される多業態オムニチャネル,およびロジスティクス・ハブとしての店舗ネットワークの2つから特徴づけることができる。この日本型オムニチャネルを理論的に研究する際,多業態オムニチャネル,オムニチャネル・オペレーション,チャネル・コンフリクトとカニバリゼーション,オムニチャネル小売企業の出自,オムニチャネル行動のプロセス,オムニチャネル・ショッパーの特性,定性的・定量的アプローチ,および国際比較の8つの重要な課題が指摘される。
著者
本田 一成
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.3-21, 2005 (Released:2011-05-20)
参考文献数
91
被引用文献数
1 1

本稿は小売経営においてすでに重要課題の1つとされているパートタイマー活用の現状と展望についての文献サーベイを行う。パート活用の内実は、職場における量的な基幹化と質的な基幹化であり、それらの実態のみならず、基幹化に対する企業の反応に着目して検討する。調査に基づく諸研究によると、小売業においてパートタイマーの量的および質的基幹化の進展が認められ、また小売企業の今後の基幹化意欲も旺盛である。ただし、小売業における今後の一層のパート基幹化には、基幹化によって職場に発生する諸問題を回避することや、基幹化を促すための処遇制度をさらに整備することなどが必要となる。
著者
西本 章宏 勝又 壮太郎
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.15-25, 2018 (Released:2018-11-17)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,コンジョイントデザインを用いた消費者のWillingness to Pay(支払意向額)測定方法を比較し,予測精度が高いWTP測定方法を特定することである。本研究では,分析対象として,コンビニエンスストアでの昼食の購買状況を設定し,調査対象者に対して,コンジョイントデザインを用いた4つのWTP測定方法(自由回答方式,第一価格オークション,ヴィックリー・オークション,BDM方式)を試みている。その後,調査対象者には,実際にコンビニで昼食を購入してもらい,そのレシートデータを提供してもらっている。そして,本研究では,WTP測定方法において想定されるバイアスを考慮したモデルによって,各測定方法におけるWTPを算出し,最も予測精度が高いWTP測定方法は自由回答方式であることが明らかになった。
著者
松原 優
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.31-40, 2022 (Released:2022-09-29)
参考文献数
38

本研究の目的は,消費者のブランド・スイッチングと消費者のアイデンティフィケーションおよび幸福感の関係を縦断調査に基づき明らかにすることである。2時点の調査に基づく検証の結果,ブランドを通して得られる消費者の幸福感(ブランド・ハピネス:Consumer Happiness through Brand)がブランド・スイッチング行動を抑制する要因であることが明らかとなった。本研究は消費者の幸福度がブランド・スイッチング行動に及ぼす影響を縦断的な調査によって検証した初めての研究であり,本研究により得られた結果は,既存の消費者の幸福感およびブランド・スイッチングに関する知見を拡張するものである。
著者
森山 一郎
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.101-118, 2016 (Released:2017-05-25)
参考文献数
21

小売業者主導の垂直的流通システムについては、これまで資本統合を伴わない管理型を中心に検討が進められてきた。しかし、実際には、小売業者が生産段階の垂直統合に乗り出す例は少なくない。このような企業型と呼ぶべき生産段階への関与は、小売業者主導の垂直的流通システムに関して看過されてきた嫌いがある。そこで本稿では、その最も初期的な事例であり、かつ長期にわたる取り組みを経て品質面での競争優位を獲得したダイエーの牛肉事業を取り上げ、その展開プロセスとそれが成果を生むに至った要因を検討した。本稿における検討の結果、ダイエーの牛肉事業が垂直統合を通じて競争優位を獲得することができたのは、それが牛肉という漸進的な技術・品質改善が有効な商品分野であったこと、垂直統合の継続性が担保されたこと、過度に物量を追求しなかったことによるものであることが示唆された。このような検討結果は、小売業者主導の垂直的流通システムに関して、垂直統合の観点も含め、さらに詳しく検討する余地があることを示している。
著者
寺﨑 新一郎
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-32, 2017 (Released:2019-10-29)
参考文献数
55

本研究の目的は急速かつ不可逆的なグローバル化に起因する,外国に対する肯定的な消費者態度を社会的同一性理論に基づき整理した上で,消費者行動研究にとって有用な消費者アフィニティ,消費者世界志向,消費者コスモポリタニズムに焦点を当てレビューすることである。レビューの結果,セグメントの特徴,各態度が単独で消費者反応にもたらす効果に関する先行研究が多くみられること,他の理論との複合的な効果や,製品ではなくサービスを対象とした研究は限られていることなどが明らかになった。また,外国に対する肯定的な態度を,否定的なそれと分けて考えるのではなく,統合的に捉えることで,この研究領域に新しい理論的貢献が期待できることが示唆された。
著者
藤井 誠 関 隆教
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.57-63, 2018 (Released:2019-10-29)
参考文献数
41

本稿では,サービス組織における現場従業員(Front-Line Employees:FLE)のクリエイティビティがもたらす負の側面について,探索的事例研究を行う。具体的には,塚田農場の事例を通じて,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別してしまうことで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じるという現象を「クリエイティビティの意図せざる結果」と概念化することで,クリエイティビティが引き起こす負の1つの側面を見出した。今後の研究の展望として,FLEのクリエイティビティを財務成果へと着実に結びつけるには,FLEのクリエイティビティがどのような局面において財務成果に正の影響を与えるのかを深耕していく研究が必要となることを提起した。
著者
西本 章宏 勝又 壮太郎 本橋 永至 石丸 小也香 高橋 一樹
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.29-54, 2016 (Released:2017-01-31)
参考文献数
75
被引用文献数
1

本研究の目的は、コンテクスト効果の一種であるプライミング効果の枠組みを用いて、ある製品に対する支払意向額の判断において、当該製品とは異なるカテゴリーの製品との接触が消費者の支払意向額に与える影響を検証することである。また、プライミング効果の影響を調整する要因として、「製品カテゴリーに対する消費者の事前知識」と「製品カテゴリー間の類似性」を考慮する。さらに、消費者行動研究の視点から、価格競争に巻き込まれないための脱コモディティ化戦略の一施策を提示する。
著者
畢 滔滔
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-26, 2002 (Released:2011-05-20)
参考文献数
28

本論文では, 広域型商店街に立地する大型店舗は商店街全体の集客力にどのような影響を与えるか, また, 商店街内部の大型店舗と中小小売商の共存共栄の関係はいかにして形成されるか, という問題を, 東京都台東区の「アメ横」商店街の事例研究を通じて明らかにした.広域型商店街内には, 買回り品を中心的に取扱う大型店舗が立地するため, これらの大型店舗はより広い地域の消費者を引き付けることができる.しかし, 大型店舗に引き付けられる顧客は, 商店街の中小小売商の店舗までにも商品を探しに行く保証がなく, 広域型商店街において大型店舗と中小小売商が自然に共存共栄の関係にはなりえない.商店街内部の中小小売商は, 大型店舗と共存共栄の関係を形成するために, 大型店舗によって引き付けられた消費者の欲求を注意深く観察し, その欲求を満たすことができるように業種と品揃えを調整すべきである.これによって, 商店街内部の小売店舗の競争は激化するが, この競争活動の存在こそが, 商店街全体の集客力が向上し, 商店街の小売店舗間の共存共栄の関係が形成される最も重要な要素である.
著者
池田 剛士
出版者
日本商業学会
雑誌
流通研究 (ISSN:13459015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.23-34, 2009 (Released:2011-05-20)
参考文献数
13

本稿では独占企業による第三級の価格差別と財の品質選択 (垂直的製品差別化) について考察する。2つの独立した市場間での価格差別が経済厚生及び、財の品質に与える影響が求められ、主に以下のことを明らかにする。 (1) 価格差別は常に財の品質を向上させる。 (2) 価格差別により、財から得られる効用の低い消費者グループの価格が引き下げられる。 (3) 価格差別は総供給量を増加させない場合でも、品質向上効果により必ず総余剰を増加させる。 (4) 二つの市場の問の嗜好の差が大きいとき、価格差別はパレート改善をもたらす。