著者
石田 千尋
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-26, 2008

本稿では、『古事記』允恭代に記される木梨之軽太子と軽大郎女の兄妹相姦と皇位継承をめぐる変事を伝える譚をめぐって、そこに収載された十二首の歌のうち、文脈上重要な位置づけにある二首の歌についての再解釈を中心に、『古事記』はどのように歌と散文を連綴しているか、またそれによってできごとがどのように伝えられているかを考察する。
著者
車 勤
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.A95-A108, 2011 (Released:2020-07-20)

普遍的に実効力のある倫理は、現代社会に固有な形態である「貨幣・商品社会システム」を根拠にしなければならない。そのシステムの原型を描いたアダム・スミスに、「構成関係」から社会をとらえたスピノザを重ね合わせ、取りだしたのが「互恵交換」の倫理である。その構成要素は以下の6つ。1.人々の対等性、2.恵みを構成関係者全体で享受する、3.与え返される程度に与える、4.人を騙さず、期限などの約束を守る、5.説明責任、6.離脱する自由。これらを社会形成原理として徹底的に実現すること。それはまた、理性の平和的な使用〜略奪目的でも飼育目的でもない〜になる。
著者
森本 光彦
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.A1-A15, 2010 (Released:2020-07-20)

IT化の目覚ましい進展により世界の新聞メディアは電子新聞の登場などで紙の媒体としてのあり方に大きな変革を迫られつつある。逆境の中にあるという点では共通しているものの、経営の悪化から身売りや廃刊が目立つ米欧の新聞に対し、日本の新聞はやや事情を異にする。日本の場合、広告費収入より購読費収入の方が大きい。しかも高い宅配率に支えられているため販売部数の急激な落ち込みが避けられており、米欧のような急速な経営悪化を免れている。米欧主要紙では電子媒体を通じて「ネット購読」を有料とする課金化の動きが目立つのに対し、そこまで経営が悪化していない日本の全国紙の場合、将来を見越した対応には各社間での開きが目立つ。本稿では、米欧の新聞と比較しながら日本の新聞を取り巻く環境の変化と現状を見、その上で今後生き残るための諸条件について考察する。
著者
黒田 浩司
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.44-64, 2017 (Released:2020-07-20)
被引用文献数
1

本論文はSCT(Sentence Completion Test)の臨床的な活用についてまとめたものである。SCTは臨床家であれば誰もが知っている投映法であり、利用している臨床家も多いが解説書・実用書は少なく、研修会も少ない。SCT には多様なものがあるが最も多く活用されているのは精研式SCT であることや、投映法心理検査の中でSCT の有する特徴を論じている。さらに、SCT を施行する際に留意しなければならないことをまとめ、SCT を解釈する具体的な方法・視点について紹介した。最後に臨床例を1例示し、SCT を中心に理解を進める場合と、ロールシャッハ法や描画法と組み合わせたテスト・バッテリーを組んで理解する場合の実例を示した。
著者
劉 楠
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.13-29, 2021 (Released:2021-04-01)

研究目的は、1960~1970年代生まれの父親を対象に、稼ぎ主責任とケアする男性性から父親像を掴むことと、男性性による男性問題を明かにすることである。中国山西省出身の父親13名を対象にインタビュー調査を行った。結果、以下の点が明かにされた。(1)父親役割は、子どもの「方向性を示す灯台のような存在」であること。中国現代社会の情勢、例えば、コネを使い地位向上を果たすこと、社会の両面性(プラス面とマイナス面「腐敗」)について、父親は子どもと冷静かつ客観的に議論することによって、子どもにより客観的な世界観を持たせることができた。父親が方向性を示す役割を持ち、母親は生活面での世話を担うという棲み分けがはっきりしている。(2)稼ぎ主責任は子どもの数が多いほどその思いが強い傾向にあること。長男の結婚などにより高額なお金が必要となるような時には親戚などから借りることが多い。なかには、生活費稼ぎのためギャンブル等に手を染める父親の事例もあった。よって、男性問題の解決を目指すには、女性、子どもがよりよい暮らしをするためにも、男性を含めたコンクルージョンサポート体制の構築が急務と示唆される。
著者
杉山 崇
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-15, 2005

近年、中流層が解体し始め、社会階層の分断化が進むことが予想され、その背景に労働市場の変化が指摘されている。分断化が進むことによって、新たな富裕層が誕生することも予想されるが、同時に新たに失業者、フリーターといった正規雇用職につけない階層が生じることも予想される。本稿ではこのような社会変動の影響で無力感、アイデンティティの拡散、自己批判、被害的な妄想観念などの問題が浮上してくる可能性を指摘し、これらの問題への予防的な対応としてキャリア発達カウンセリングの視点の重要性を強調した。
著者
山本 明歩
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-14, 2018

我々が言語を用いる際には一定数の言い間違えが生じる。これらの言い間違えは我々が言葉を創出する過程についてのなんらかのヒントを与えてくれる可能性があると考えられ、研究の対象となってきた(寺尾 2006)。例えば、寺尾が幼児の言い間違えに多く見られる要素として挙げている音位転倒は、幼児が一度に処理できる音韻要素の容量について多くの示唆を与えてくれるものである。しかしながら、文法などのより一般的な言語運用能力について考察する上では、また新たなアプローチが必要になると考えられる。そこで、本稿では発話に見られる「言い間違い」ではなく、映画の原稿に見られる非文を分析し、それによって文法構造の背景となる人間の認知パターンについての分析を試みた。その結果、様々な非文の中では主語の省略が最も多く見られたが、特に、主語が図ではなく地として機能する場合に省略が生じる傾向が見られた。つまり、本来の文章の一部を省略すること自体が、「その文章の中のどの部分に話し手の注意を引き付けたいのか」という話し手の意図を反映するものであり、例えば命令文に見られる主語の省略も、同様の機能を果たしているのではないかということが示唆された。
著者
深津 容伸
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-7, 2013

これまで日本人とキリスト教の主題について、キリスト教に焦点を当て、キリスト教が日本人にどう関わってきたか、今後どう関わるべきかを論じてきた。本論文においては日本人に焦点を当て、日本人の宗教観、宗教意識を探り、それらに対し、キリスト教はどのように関わりえるかを考察したい。日本人は古来から大陸からの影響を多大に受けてきたが、政治的に支配を受けることはなかった。そのためかどうかは定かではないが、原始宗教であるアニミズム・シャーマニズムの宗教意識を、今日に至るまで持ち続けている(外来の宗教である仏教もこれらと同化することにより土着することができた)。その結果、日本人は宗教意識の中には、呪いや汚れに対する恐れが潜在的に存在する。こうした日本人の宗教意識に対し、キリスト教はどのように関わってきたか、また関わりえるかを論じたい。
著者
奥村 弥生
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.A59-A68, 2011 (Released:2020-07-20)

本研究では,情動の抑制と統制可能感という二つの次元から捉えた表出統制モデルを提示し,情動への評価との関連を通して検討を行った。大学生186名に質問紙調査を行った。分析の結果,怒りの場合は,統制可能感が高いと情動への否定的評価が低く,肯定的評価が高いことが示された。悲しみの場合は,男性の場合に抑制と統制可能感の交互作用が認められた。抑制が高い場合に,統制可能感が低い方(出せない)が高い方(出さない)よりも否定的評価が高いことなどが示された。これについて,各情動の特徴や性役割期待の影響という視点から考察を行った。以上の結果から,抑制と統制可能感による二次元表出統制モデルの有用性と,各スタイルにおける情動への評価の違いが示された。
著者
渡辺 信二
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-28, 2020 (Released:2020-12-01)

高村光太郎の初版『智惠子抄』は、日本で最も多くの部数を売り上げた愛の詩集であると高い評価を受けているが、この論文は、『智惠子抄』が詩作品だけではなくて、短歌や思い出の記に当たるエッセイを含むことに着目して、『智惠子抄』を単なる詩集というよりは、むしろ、全体を「光太郎」と「智惠子」の愛の生活に関する一創作作品とみなす。その上で、そこに収録された殆どの詩作品が、日記圧縮版か、熱情の戯れ言、「心的衝動」や「エネルギー放出」の排出物であり、たかだか、詩もどきにすぎないけれども、唯一「レモン哀歌」のみが一人称と二人称を使い分け、作品中の時間を2重化することによって、作品構成上、及び、時間構成上、虚構となり得ており、その点で、高く評価に値することを示そうとする。
著者
荒井 直
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.121-146, 2017 (Released:2020-07-21)

E. M. フォスターの小説『眺めのいい部屋』(1908年)に、フィレンツェのサンタ・クローチェ寺院で、ジョットの壁画を前に、イギリス人牧師が同じ国から来た観光客に次のように語る場面がある。「この教会が、ルネサンスの汚染が現れる以前、中世のまことに篤き信仰心から建てられたことを思い出してください。このジョットのフレスコ画は、あいにく今では修復によって損なわれてしまってはおりますが、これらがいかに解剖学や遠近法の罠にとらわれずにいるか、ご覧ください」。当時のフォスター(を読むほどの階級)の読者には、この牧師の言葉が、中世美術礼讃者で(ありオックスフォード大学スレイド美術講座教授でも)あったジョン・ラスキンの『フィレンツェの朝:イギリス人旅行者のための手短なキリスト教美術研究』(1875-77 年)の安直な受け売りであることが分かったのではないだろうか。ジョットの壁画を、ルネサンス美術の嚆矢とすべきか中世美術最後の達成とすべきか、あるいは、それ以外の把握の仕方があるのか、私は知らない。しかし、ルターの神学が、 宗教改革という「汚染が現れる以前」の「中世のまことに篤き信仰心から建てられた」ものであり、 今私たちが当たり前だとするルター像は、もしかすると、プロテスタント(とくにルター派)の神学や教理史による「修復によって損なわれてしまって」いるのではないか、という疑問は当然あり得るだろう。『眺めのいい部屋』の牧師は悪役であるが、この疑問について、彼と同じように先学の著作の受け売りをするという悪役をつとめ、さらに、宗教改革に帰結したルターの「神学的突破」をもたらした「中世」的背景を、もう少し大きな窓から眺めるというのが、附論2での私の課題である。 受け売りなので引用が多く読みにくく、かつ講座参加者とのティータイムのトークで与えられた課題に長めの注で対応したりしたのでくどいエッセイではなってしまったのではないかと危惧するが、キリスト教の現状や人間の文化の来し方行く末について思いを廻らせる一助となればと念う。
著者
深津 容伸
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
no.5, pp.17-25, 2006-12

16世紀以来、キリスト教は日本の社会、文化に深い影響を及ぼしてきた。にもかかわらず、キリスト教信仰はいまだ浸透しているとはいえない。キリスト教の禁教の解除とともに、百数十年にわたり宣教に従事してきた海外の宣教団体も、日本への宣教のあまりの困難さ(それはキリスト教信仰に対する日本人の拒絶意識の強さからくると思われるが)に直面し、日本でのキリスト教宣教は失敗したと結論付けて、日本から引き上げつつある。そこには国家権力による弾圧や国家神道の出現、国粋主義の台頭という政治的理由があるにせよ、一般民衆の宗教意識との衝突という不幸な面もあることを見逃すことはできない。それはキリスト教信仰に内在する原理主義的側面、すなわち異教の排除、偶像礼拝の禁止に起因する衝突である。そしてこの衝突は今日に至るまで続いており、日本人とキリスト教信仰の間に根深い断層帯を作ってきたといえる。本稿では、この原理主義の由来を明らかにするとともに、古代イスラエルの宗教観が本来いかなるものであったか、またはヨーロッパ世界でのキリスト教伝道、戦国時代における宣教師たちの伝道姿勢がいかなるものであったかを踏まえて、今後のキリスト教のあり方について提案するとともに、再考を促すものである。
著者
川島 秀一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.33-48, 2011

周知のように、『注文の多い料理店』は、賢治文学の巻頭を飾る童話集であり、この「どんぐりと山猫」はその冒頭に配される物語です。もじどおり、賢治文学の出発を告げるテクスト。その〈広告文〉では、「山猫拝と書いたおかしな葉書が来たので、こどもが山の風の中へ出かけて行くはなし。必ず比較をされねばならないいまの学童たちの内奥からの反響です」と記されます。この《おかし》という言葉をめぐって、その招待の理由である〈裁判〉の中から立ちあらわれてくる《意味》の陥穽と、その世界のなかに漂い浮遊しはじめる〈いま〉の〈こども〉たち。変貌しはじめる世界を前に、自意識の翳りをおびはじめた主人公の一郎は、まさに〈おとな〉への境目に立っています。作品は、なによりも〈いのち〉の始原をめぐる〈問い〉をひそめつつ、《意味》に憑かれたようにして生きる《空虚な身体》を顕在化させ、〈いま〉という時間を徹底的に批判し、また相対化しています。本稿は、これら問題の分析とあわせて、賢治文学における「どんぐりと山猫」の意味についても考察しようとするものです。
著者
深津 容伸
出版者
山梨英和学院 山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-7, 2009

筆者は先に「日本人とキリスト教」(「山梨英和大学紀要」第5号、2006年)において、日本におけるキリスト教のあり方の問題点について論じた。本稿では、山梨に視点を移し、さらに具体的に考察していく。山梨では、C.S.イビーが宣教師として初めて山梨入りをし、精力的にキリスト教伝道を展開した。そしてわずか三年という期間ではあったが、彼が山梨のキリスト教の基礎を築いたと言える。彼は、かつてジョン・ウェスレーが行ったサーキット・システムという巡回伝道の方策を独自に取り、山梨の各地に説教場を造り、それらの多くが現在、教会として成り立っている。県内唯一のキリスト教主義学校である山梨英和学院創立の原動力となったキリスト者たちも、それらの教会の一つである甲府教会の信徒たちだった。以上のように、彼は、山梨のキリスト教にとっては最重要の人物であるが、本国カナダでは必ずしも理解が得られず、山梨の伝道も、彼の思惑通りとはいかなかったと言える。本稿では、彼の苦闘や問題点を探ると共に、先の論文で提示した、日本人にとってのキリスト教のあり方について提起する。
著者
深津 容伸
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.A-1-A-8, 2011

日本に初めてキリスト教がもたらされたのは、1549 年にフランシスコ・ザビエルが来日してからであった。以後、多くの宣教師たちによって日本伝道がなされてきたが、カトリックのイエズス会による伝道には現地への適応主義という特徴があった。日本研究や日本人が信じる仏教研究を重視し、日本人に合わせたキリスト教伝道を行った。それはすなわち、ヨーロッパのキリスト教を持ち込むことを避けたということである。日本人に受け入れ易いキリスト教の内容やあり方を目指し、外来の宗教であるキリスト教が日本人の感性と働突しないように努めた。後に、明治期に入るとプロテスタントによる伝道が開始するのであるが、宣教師たちはキリスト教原理を重んじ、それに日本人を適応させようとした。本稿では、この両者の違いが日本人に何をもたらしたか、日本人はキリスト教にいかなる印象を抱くに至ったかを論じていく。
著者
杉山 崇
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.A9-A16, 2004-12

This research examined perceived-being-accepted and perceived-being-rejected in depressive processes. There are two hypotheses and one assumes perceived-being-accepted and perceived-being-rejected as causes participating in depression. Another presupposes that they are the phenomena as results which accompany to depressive process. Then, the author, adjusting the influence of the depression to precede (time 1), examined the influence which perceived-being-accepted and perceived-being-rejected (time 2) have on later depression (time 3). 260 undergraduates participated in three times research. In the result of partial correlation analysis, adjusting the influence of the depression to precede perceived-being-accepted and perceived-being-rejected predicted later depression. It suggested that perceived-being-accepted and perceived-being-rejected would be the causes of depression.
著者
三上 謙一
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.17-32, 2005-12

Stern(1985)はその代表的著書「乳児の対人世界」において、成人の精神分析の中で再構成された「臨床乳児」と発達心理学の中で直接観察された「被観察乳児」との対話を提唱した。その後、Sternの研究は親-乳幼児心理療法の統合的モデルを提唱し、さらに近年は「心理療法において変化はどのようにして生じるのか」という心理療法過程の研究に取り組んでいる。このSternの研究の展開の背景には精神分析におけるパラダイムのシフト、心理療法実証研究の発展と証拠に基づく心理療法の要請、心理療法の統合や折衷を模索する動き、という3つの主要な流れがあると思われる。その点でSternの研究は単に従来の精神分析理論を最新の発達的知見でアップデートしたものというよりも、むしろ精神分析の基盤を揺るがし、精神分析の枠を超え出るような仕事であるように思われる。本研究ではまず母子相互作用研究が心理療法過程の理解にどのような貢献をしているのかを論ずる。次にSternらの研究を中心に、心理療法過程を扱っているいくつかの研究を取り上げ、今後研究を発展させていくために何が必要とされるのかを考察してみたい。
著者
木村 寛子
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.A83-A94, 2011

本稿の目的は、予測を外す表現や非常識な発想をおかしみと共に受け入れる方法を明らかにすることである。そこで、予測とのずれ、常識とのずれを含むユーモアエッセイを分析資料とし、資料から読み取ることのできるずれを確認したうえで、理解主体がずれの他に読み取っているものや感じとっていることを、周囲の表現を見ながら明らかにするという手順で分析を行った。分析の結果、ずれを生み出す表現主体の着眼点や、本題とは無関係な理屈、常識的ではない発想の中にある日常性などを、理解主体はずれの他に読み取っていること、そこからさらに表現主体の心理や現状を想像できるようになることが明らかになった。表現主体の発想を理解し、心情を想像することは、理解主体が表現主体に共感したり期待を抱いたりすることにもつながるだろう。このような過程を通して理解主体の中に生まれる共感や期待が、ずれをおかしみと共に受け入れるために重要だと考えられる。
著者
車 勤
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.A95-A108, 2011

普遍的に実効力のある倫理は、現代社会に固有な形態である「貨幣・商品社会システム」を根拠にしなければならない。そのシステムの原型を描いたアダム・スミスに、「構成関係」から社会をとらえたスピノザを重ね合わせ、取りだしたのが「互恵交換」の倫理である。その構成要素は以下の6つ。1.人々の対等性、2.恵みを構成関係者全体で享受する、3.与え返される程度に与える、4.人を騙さず、期限などの約束を守る、5.説明責任、6.離脱する自由。これらを社会形成原理として徹底的に実現すること。それはまた、理性の平和的な使用〜略奪目的でも飼育目的でもない〜になる。
著者
宅間 雅哉
出版者
山梨英和大学
雑誌
山梨英和大学紀要 (ISSN:1348575X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.113-135, 2005-12

本稿では、第四十四回衆議院議員選挙の結果が、オーストラリア国内の新聞によってどのように報道されたかを比較し、検討する。扱うのは現地時問2005年9月13日付けのAustralian、Australian Financial Review、Daily Telegraph、Sydney Morning Herald四紙で、選挙結果を扱ったそれぞれの記事と社説を対象とする。記事については、選挙結果を総合的に理解する上で重要な7項目を比較の基準として、共通点・相違点等を検討する。また、社説については、それぞれの特徴と主張を概観する。