著者
岸田 未来
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.23-35, 2010 (Released:2018-10-01)

スウェーデン大企業の多くは, スフェアと呼ばれる, 銀行や投資会社を核とする企業の集団に属しており, その大株主は取締役派遣等を通じて企業経営に影響を及ぼしてきた。しかし1980年代以降の金融市場自由化は, この企業統治体制に変容を迫るものであった。本稿は, ストックホルム株式市場における株式所有構造の変化をふまえて, ヴァレンベリ・スフェアに属するアセア/ABB 社の企業統治体制の変化を分析した。 株式市場における外国人投資家の急増は, スフェアの安定していた株式所有構造を外部から揺るがす主要因であり, スフェア企業内でも, 激化する国際競争に生き残るため, 英米型の経営手法を取り入れざるを得なくなっている。これに応じて, 社会的に企業のコーポレート・ ガバナンスを監視する制度も整えられてきた。 スウェーデン企業における英米流経営スタイルの浸透は, 伝統的なスウェーデンの労使協調体制にも影響を及ぼすことが予測される。
著者
木下 綾
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.37-49, 2010 (Released:2018-10-01)

The most visited art museums in the world are characterized by their long histories and their locations in densely populated metropolises. However in order to think about the art museum management in the age of globalization, it will probably need a management style with a new perspective. Without a long history and being away from a metropolis, Louisiana Museum of Modern Art in Denmark has achieved an international reputation. It has become one of the models for art museums in suburban areas. It may suggest an effective art museum management style for the 21st century. This paper investigates one of the features of Louisiana, that is to emphasize the interplay between “art, architecture, and landscape,” based on the museum's vision and the development of the sculpture park. Their vision aimed at filling the gap between the people and the arts by providing a relaxed environment. In order to realize it, they built a museum which harmonizes the arts and the landscape, and eventually developed a sculpture park. Together with their active participation in the international art scene, they could create a unique landscape of its own.
著者
横山 真理
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.61-70, 2010 (Released:2018-10-01)

アリス・テグネールは、子ども期特有のものの見方、感じ方や生活や遊びの世界を反映した膨大な数の歌を創作し、「子どもの歌」の概念の形成に寄与した。テグネールによる子どもの歌が20世紀前半までの初等教育における音楽科の授業に与えた歴史的意義は、礼拝で扱う賛美歌が主な教材であった時代に、 宗教教育に従属した音楽の授業の目標から音楽的感受の形成という教育による人間形成を目指す目標への転換を促す実践的な力となり、新しい目標を実現し得る音楽的環境 (教材を構成する子どものための文化的素材) を学校内外で用意した点にある。本稿で分析した音楽教科書は、編纂過程、曲目の分類や配列、題材、民間伝承歌の集成、押韻詩による音楽的特質、構図や挿絵の効果等、幼児学校用音楽教科書として画期的な特徴を持ち、民衆学校制度発足以降の変遷をたどった音楽の授業における教材の歴史の到達点がそこに表れていると意義づけられる。
著者
伊藤 和良
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.21-32, 2008 (Released:2018-10-01)

日本では1995年の地方分権推進法以来、12年ぶりとなる2007年4月に、地方分権改革推進法が施行され、第2期地方分権改革がスタートした。分権改革の第二ステージに向けて、各自治体は第1期地方分権改革で残された改革課題を自ら検証するとともに、地方分権改革推進委員会での議論などを踏まえ、今後、どのように分権改革を進めていくのか、その先見性が問われている。スウェーデンの地区委員会は、60年代と70年代に行われた二度の合併を経た後、91年の新地方自治法の制定に至る地方分権の制度実験のなか、大きな期待感を持って導入されたものである。制度創設から20年以上が経たいま、地区委員会はスウェーデンの地方自治を展望する上で当初の意図を超えて動き始めている予感もある。本論文は、日本における住民自治の拡充及び近隣政府の議論を進めるための一助として、スウェーデンの地方制度改革の歴史を踏まえ、地区委員会の現況と課題を整理、紹介したものである。
著者
児玉 千晶
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.33-45, 2008 (Released:2018-10-01)

海外での俳句受容は明治初期に来日したイギリス、フランス、ドイツの外交官及び御雇外国人らによる、俳句の翻訳と解説から始まった。スウェーデンの俳句受容はアメリカでの受容より少し遅れ、1933年に初めて新聞紙上において俳句が紹介された。1999年にはスウェーデン俳句協会が設立され、季語・定型に拘らないことを基本としながらも、古典俳句を手本とし、俳句の本質を追究する姿勢で俳句集の出版、協会誌の発行、句会・講座等の活動を行っている。スウェーデン人の自然観はドイツ人などと比べ、自然に対しての共存意識や一体感があるため、自然を軸とした俳句への理解・共感を持ち易かったと思われる。また、一句の中に対立する季節の季語が同時に現われやすいのは、四季の長さがほぼ等分の日本と違って、スウェーデンでは夏と冬(光と闇) のコントラストが大きく、双方が常に人々の意識から消えないためと考えられる。
著者
五月女 律子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.47-55, 2008 (Released:2018-10-01)

スウェーデンの対EU政策においては、1990年代半ばまではECとどのように経済的に良好な関係を保つかが重要であり、1960年代から70年代初頭にかけてのEC加盟の是非に関する国内での議論の結果、加盟申請は見送られた。1995年のEU加盟後は、加盟国としてEUにどのように影響を及ぼすか、また自国にとって不利にならないようなEUレベルでの政策をいかに実現するかが、課題となっているといえる。スウェーデン政府はEUに対して、平和維持活動、環境保護、途上国援助、社会政策、男女平等、情報公開などの分野で積極的な働きかけを行っている。EU レベルでの政策に対して国内世論の支持が低い分野では、スウェーデン政府はEUに対して積極的に行動を起こせない場合もあるが、EU議長国の立場や欧州委員会での委員のポストで影響力を行使し、他の加盟国との協力や連携も進めつつ、EUの中での存在感とスウェーデンの目指す政策の実現を模索しているといえる。
著者
三浦 一浩
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.67-79, 2008 (Released:2018-10-01)

いわゆる「緑の党」が出現して以降、エコロジー的、個人主義的、平等主義的なイデオロギー、参加的な組織構造、 若者や高学歴者を中心とした支持基盤を持つ政党が「ニュー・ポリティクス政党」として論じられてきた。デンマーク社会主義人民党は1959年にデンマーク共産党が分裂して結成された政党であるが、70年代以降、 新しい社会運動と結びつく中で、ニュー・ポリティクス政党としての側面を強めていった。現在でも左派的、平等主義的志向と共にエコロジーや官僚主義批判などリバタリアン的な主張を併せ持っている。また、その党組織構造は概して開かれたものであり、支持者の間に女性や若者、高学歴者が多いなどニュー・ポリティクス政党の特徴を良く備えた政党である。 社会主義人民党の存在は、 近年の「緑の党」に偏しがちなニュー・ポリティクス政党研究に一石を投じるものであり、より幅広い枠組みの (再) 提示が必要であると言えよう。
著者
斉藤 弥生
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-15, 2009 (Released:2018-10-01)

介護労働に不安定雇用が多く、低賃金という状況を、スウェーデンでは、他業種との労働条件格差、女性職場と男性職場の格差の問題として捉え、解決しようとしている。本稿では、介護職員の労働条件を向上させるために、スウェーデンにみられる3 つの取り組みについて、整理分析を行った。まず第一に、「パートタイム失業」 という新たな概念を生み出し、強いられたパートタイム就労を顕在化させ、社会問題とした。第二に、「ジェンダーフリーポット」の合意である。これは、2007年労使協約に向けたLOによる要求事項の一つに盛り込まれたもので、月給2万クローナ未満の女性に対し、一律、月額205クローナの給与の上乗せをするというものである。この恩恵を受けたのは、まさに介護職員であった。第三に、介護分野における多様な働き方の開発と提案が労使により検討され、実施されている。このような近年の課題に対するアプローチが、中央労使交渉システム、連帯賃金政策などの伝統的なスウェーデンモデルのもとで行われている点は興味深い。 スウェーデンモデルが時代と共に変容していることは多くの先行研究で指摘されているが、 同モデルは介護職員の労働条件を向上させるための装置として、今なお重要な役割を果たしている。
著者
藪長 千乃
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.17-27, 2009 (Released:2018-10-01)

1990年代以降のフィンランドでは、所得格差が拡大している。格差の拡大は、地域間でも進行している。こうした状況を生み出した背景として、自治体内部の構造変化、全国レベルでの政策や状況の変化、さらに国際環境からの圧力が考えられる。まず、包括補助金制度の導入と地方自治法の全面改正により、基礎自治体が大幅な運営と財政に関する裁量権を手に入れた。広域・ 全国レベルでは、基礎自治体以外の自治単位や圏域が設定されたほか、自治体及びサービス構造改革プロジェクトが開始され、基礎自治体の枠組みそのものの位置づけが変化している。また、選択的に地域に対して重点的に資源を投下するプログラムも導入されている。EU・EMU加盟、グローバリゼーションの進展を背景理由としてこうした一連の改革が推し進められたといえる。格差の拡大は、こうした構造の中で、国際競争に耐えうる基盤形成のための努力の反映といえよう。
著者
伊藤 正純
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.33-43, 2006 (Released:2018-10-01)

スウェーデンの1950年代以降の教育改革は、義務教育改革、高等学校改革、大学改革とも、(1 )教育の機会均等を保証する総合化と(2)職業教育に理論教育と同等の地位を付与することの試みだった。それは、平等・連帯を培いながら、社会的経済的変化に対応した職業人養成のための教育実践だったといえる。したがって、日本と比較すれば、スウェーデンの教育理念は職業教育重視ということができる。 ところが、この試みは1970年代までと、1980年代以降では、とりわけ90年代以降では内容を異にする。 前者は大学をリカレント教育の原理で再編する方向に進むが、後者は大学を高度情報化社会の担い手育成の場に再編する方向に進む。リカレント教育はコムブックスなどの成人教育の場に移っていった。以上のことを、図表を使いながら明らかにした。
著者
渡辺 博明
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.65-74, 2007 (Released:2018-10-01)

スウェーデンの環境党は支持率5 %前後の小政党であるが、1998年から2002年までの2期8年にわたって閣外協力の形で社民党政権を支え、その影響力は無視できないものとなっている。環境党は88年に議会進出を果たした当初、他党との協力の可能性を否定していたが、やがて社民党との交渉を通じた政策決定への関与を模索するようになり、98 年選挙で「要政党」 となると閣外協力に踏み切った。かつて圧倒的な優位を誇った社民党の勢力に翳りが見え始め、同党と環境党および左翼党との協力が進むと、他方で保守・中道4党も、従来には見られなかった周到な協力体制の構築によって政権奪取を目指し始めた。左右二大陣営間のバランスの変化が環境党の議会政治戦略の変化につながった一方、同党が「左派ブロック」入りしたことで、今日のスウェーデンの政党政治において、多党化と政党支持構造の流動化にもかかわらず、「ブロック政治」の作用が強まることとなった。
著者
渡辺 博明
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.15-25, 2005 (Released:2018-10-01)

スウェーデンでは、1920年代以降、最大勢力の社会民主主義を中心に、共産主義、保守主義、自由主義、農民勢力のそれぞれの政党からなる5 党制の時代が長く続いた。 しかし、1980年代末から新党の参入が相次ぎ、長期安定を誇った同国の政党システムにも明確な変化が表れた。 その背景には、政党支持構造の流動化と政治的争点の多様化があった。他方、そうした変化が進む中でも、主要政党が左派と右派に分かれて対峙する「ブロック政治」の枠組みは、双方に新たな政党を加える形で存続し、それと結びついた社民党の優位も続いている。こうしたことから、スウェーデンの政党システムについては、時とともに不安定化要因を多く抱え込みながらも、今までのところ、包括的な対抗軸に基づいて作動する従来の形態が辛うじて維持されているといえる。