著者
張 袁松 清水 一彦 塩見 邦博 梶浦 善太 中垣 雅雄
出版者
社団法人 日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1_39-1_46, 2008 (Released:2008-10-06)
参考文献数
18

日本産ジョロウグモ(Nephila clavata)の牽引糸遺伝子のcDNAをクローニングし,その塩基配列を初めて報告した。塩基配列から推定される日本産ジョロウグモ牽引糸タンパク質のアミノ酸配列をカイコのフィブロインH鎖や他のクモ牽引糸のものと比較した。牽引糸の繰り返し配列においてAn,(GA)nやGGX配列など共通の特徴を確認できた。クモ牽引糸タンパク質の繰り返し配列のコドン使用頻度をカイコのH鎖フィブロインと比較すると,同様の傾向があった。しかしながら,親水性と疎水性の分布は両者で大きな違いが見られた。引張り強度試験では,日本産ジョロウグモ牽引糸がカイコ繭糸よりも明らかに強いことが分かった。これらのことから,クモ糸を吐くカイコを作出してカイコH鎖フィブロインをクモ牽引糸タンパク質と置き換えること,あるいは両者の混合糸を作らせることにより,糸の強さや性状の異なる新しいシルクの創出が期待される。
著者
加藤 駿 石崎 良祐 三橋 亮太 清水 智恵 島田 順 普後 一
出版者
社団法人 日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1_039-1_042, 2014 (Released:2014-05-26)
参考文献数
7

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故で,福島県内は放射性物質の甚大な汚染をうけた。桑園とクヌギ畑の土壌,桑やクヌギ葉,幼虫,蛹,繭等の放射性物質濃度の測定,作業環境の空間放射線量等の具体的なデータを収集し,養蚕業や天蚕業に及ぼす放射性物質の影響について考察した。調査地の空間放射線量測定の結果,飼育室内の空間放射線量は,圃場に比較して特段高い値ではなかった。2012年5月と9月測定時の桑園およびクヌギ畑土壌中の放射性Cs濃度は,Cs-134,Cs-137ともに1000Bq/kg以上の値を示していた。しかし,9月時点の桑葉とクヌギ葉の放射性Cs濃度は,いずれも厚生労働省の定める一般食品中の基準値(100Bq/kg)を下回っていた。カイコ幼虫,蛹と繭についてはCs-134,Cs-137ともに検出限界値以下であった。天蚕の繭からはCs-134が20.7Bq/kg,Cs-137は36.3Bq/kg検出された。これらの結果から,福島県での養蚕業あるいは天蚕業への放射性物質の直接的な影響はないと考察した。
著者
長岡 純治
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1_011-1_024, 2014

アントニ・ファン・レーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek,1632-1723)は,自作の顕微鏡を駆使することで,細菌や原生動物などを発見し,また,赤血球や筋肉の横紋などを観察したことはあまりにも有名な話である。同時に,彼はバッタのような無脊椎動物を含むあらゆる動物の精液を観察することで,運動する能力を有する赤血球より小さな細胞,すなわち,精子を発見すると共に,精子が懸濁されている精漿部分にスペルミンの結晶を見出し,単純な液体ではないことを報告した。しかし,あらゆる動物の精巣で形作られた精子は,自発的に運動能を獲得するわけではないし,ましておや,受精能も持つわけでもない。例えば,哺乳類精子は,精巣の細精管の中でその形は完成するが,その後,セルトリ細胞から放出・排精されても,本来の運動能も受精能力も持たない。そして,オスの生殖輸管である精巣上体とそれに続く輸精管,さらに射精により,メスの生殖輸管である膣,子宮,輸卵管へと移動することで,次第に運動パターンと激しさが変化していき,その過程で受精能が獲得(capacitation)される。
著者
梶浦 善太
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック = Sanshi-konchu biotec (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.13-16, 2009-04-01
被引用文献数
1

ヤママユガは重さ5〜7mgの卵を150〜200個を産卵します。この重さはカイコ卵0.5mgの10倍以上で、鱗翅目ではヨナグニサンの卵に次いで大きな卵です。私は、このような大きな卵がどのようにして作られてくるか興味がありました。卵のタンパク質はビテリン(Vn)とその他の未同定なタンパク質からなっています。ヤママユガ科ではVnは卵全タンパク質の70〜80%を占めています。Vnの前駆体タンパク質ビテロジェニン(Vg)のmRNAは5齢(終齢)の末期から蛹初期の限られた時期に雌脂肪体で発現し、そこでVgを大量に合成します。合成されたVgは血液中に蓄積された後、発達し始めた卵母細胞へ受容体を介して取り込まれ(エンドサイトーシス)、顆粒として貯蔵されます。卵母細胞に蓄積したVgがVnで、胚子の栄養源として利用されます。私はこのような胚発育に重要な役割を持つVgの、雌、時期、さらには組織特異的な遺伝子発現調節機構を解明することを目標にしてきました。
著者
齊藤 準
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック = Sanshi-konchu biotec (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.153-158, 2011-12-01

チョウ目幼虫で共通してみられる色彩的特徴の一つは,緑色の体色が多いということである。アオムシなどという呼び方もあるように,彼らの多くはなぜか緑色をしている。幼虫は主に植物の葉を食べて成長することから,緑色は彼らの生息環境の中で保護色として天敵から逃れるために役立つものと考えられる。では,緑色の色彩発現はどのようなメカニズムによっておこるのか? 本稿では,大型絹糸昆虫の野蚕類でみられる緑色発現に重要な役割をはたす青色色素のピリンとその結合タンパク質の性質と生理機能について紹介する。