著者
本多 牧生 乙坂 重嘉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.225-228, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
10

福島第一原子力発電所(FDNPP)事故由来の粒状態放射性セシウムの海洋内での輸送状況を把握するため,2011年7月にFDNPP南東沖大陸斜面に沈降粒子捕集装置を設置し,その後3年間に捕集された粒状物質の放射性セシウムを測定した。その結果,2014年初夏になってもFDNPP事故由来の放射性セシウムが検出され,毎年秋季になると増加する傾向があること等が観測された。捕集粒子の主成分が鉱物粒子であること,海水中の溶存放射性セシウム濃度から推定される粒状態放射性セシウムフラックスより捕集されたフラックスがはるかに大きいことからFDNPP事故由来の放射性セシウムが沈着したFDNPP沖海底堆積物が再懸濁し,大陸斜面に水平方向に輸送されている様子が窺えた。また秋季に見られた放射性セシウム濃度とフラックスの増加は台風が接近・通過することで,より浅い水深の海底堆積物が再懸濁し水平輸送されたと推定された。
著者
八木 絵香
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-34, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

エネルギー・環境戦略に関する「国民的議論」において,世界初の試みとなった政府主催の「討論型世論調査」。これらの結果に接した人々,特に筆者が出会う原子力分野の人々に少なくない感想は,「あれは『特殊な』人達の声で,サイレントマジョリティの考え方は違う」というものである。本当に討論型世論調査で示された国民の声は「特殊な」人々の声なのだろうか。その結果はどう読み解かれるべきだったのか。このような観点から,2012年夏のエネルギー・環境戦略に関する国民的議論を振り返り,今後のエネルギー政策の具現化に向けて,改めて原子力専門家が問われる役割について解説する。
著者
堀 啓一郎 山路 斉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.593-597, 2017 (Released:2020-02-19)
参考文献数
30

東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きて半年後に開催された2011年9月のIAEA総会において「原子力安全に関するIAEA行動計画」が承認された。これに基づいて実施されてきたIAEAの福島第一原子力発電所の事故に関する活動は2015年の最終報告書の完成をもって終了した。現在はフォローアップとして福島の経験を踏まえた安全確保,安全規制に関する考え方を取り入れるためのワークショップ等が適宜開催されている。
著者
岸田 一隆
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.416-420, 2020 (Released:2021-02-01)

2019年12月に開催された「再処理・リサイクル部会セミナー」における岸田の基調講演の内容を,その時の講演のスタイルとともにまとめた。コミュニケーションの基本構造から解き明かし,伝え方や心構えについて注意を払うことを解説した。大切なのは,コミュニケーションを担う双方の間に共同体意識を生むことであり,共に未来を作り出してゆくという意識を持つことである。そのためには,自らも変わる準備がなくてはならない。
著者
北村 俊郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.338-341, 2013 (Released:2019-10-31)
参考文献数
4

福島第一原発事故から2年が経過し,電力会社は防潮堤建設や非常用電源の増強などの対策を進めているが,それは主に直接的原因に対応するものである。国会事故調の委員長がいみじくも「メイドインジャパン型の災害」と評したが,今回の事故の背景には,日本社会に根ざす問題が多々存在する。事故は,この国の原子力開発の歴史の集大成であり,その過程でのさまざまな誤りの帰結と言ってよい。
著者
木島 佑一 山本 洋一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.156-160, 2016 (Released:2020-02-19)
参考文献数
7

日本原子力研究開発機構(原子力機構)では,包括的核実験禁止条約(CTBT)国内運用体制の下で国際監視制度(IMS)施設のうち放射性核種の監視のための観測所及び公認実験施設を整備し,運用を行っている。また,IMS観測所から得られる放射性核種観測データの解析及び評価を行う国内データセンターも整備し,運用を行っている。本稿ではCTBTの概要と原子力機構の活動に関して解説するとともに,これまで国内の放射性核種観測所で得られた観測結果のうち,2013年2月の第3回北朝鮮核実験を含む特異な人工放射性核種観測事例を2つ紹介する。
著者
岩崎 利泰 冨田 雅典
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.668-673, 2009 (Released:2019-06-17)
参考文献数
6

放射線防護において,放射線が人に与える影響を表すためのモデルとして,しきい値なし直線(LNT)モデルがある。これは基準を安全側に考えるための管理目標値を示すためのものであるが,時として放射線はどんなに微量であっても量に応じた影響があるとの誤解の元となっている。電力中央研究所(電中研)では,低線量や低線量率のときに実際にどのような影響があるかを明らかにするため,生物学的な機構面から取り組んでいる。その概要について紹介する。
著者
鈴木 哲 田邉 賢一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.79-83, 2022 (Released:2022-02-10)
参考文献数
6

東芝エネルギーシステムズと富士電機が共同開発している小型モジュール高温ガス炉は,固有安全性を活用して原子炉格納施設を簡素化すると共に,プラントを4モジュール構成とすることで大型軽水炉並みの電気出力を得るコンセプトである。また,早期実用化のため成熟技術である蒸気タービンを採用し,蓄熱設備との接続により電力需給変動を吸収する機動的運用を検討している。本稿では本高温ガス炉のプラント概要と,実用化に向けた取り組みについて紹介する。
著者
堀田 亮年 中田 耕太郎 佐田 幸一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.727-731, 2010 (Released:2019-09-06)
参考文献数
9

シミュレーション技術が幅広い産業分野に普及するとともに,その信頼性をいかに確保するかということへの関心が高まっている。ISO9001の導入以来,検証(Verification)と妥当性確認(Validation)が品質管理のキーワードとなったが,シミュレーションのVerification & Validation(V&V)が今脚光を浴びつつある。原子力においては古くから存在し,かつ新しい側面も持つこのテーマについて計算科学技術部会における取り組みを中心に紹介する。
著者
佐藤 一憲
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.19-23, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
3

米国およびカナダにおいては,福島第一原発事故以降も原子力を温室効果ガスのほとんど出ないクリーンエネルギーと位置付け,エネルギー・ポートフォリオの重要な要素として引き続き利用してゆく方針である。一方,数年前には予測されていなかったシェールガス革命と呼ばれる状況は原子力発電所の新規建設の環境を一変させている。このような環境下での両国での原子力開発や発電等の動向について解説する。
著者
青山 道夫 山澤 弘実 永井 晴康
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.46-50, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1

福島第一原発事故により大気および海洋に放出された放射性物質の観測された核種,推定された放出量,放出の時間経過について,現在明らかになっていることを概観した。また,放出された核種について,その大気中,陸域および北太平洋での挙動についても纏めた。さらに,今後の研究課題として,良くわかっていないことを,1から3号炉の放出の配分と核種組成および海洋内部での中央モード水の挙動の観点で整理した。
著者
斯波 正誼
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.794-798, 2012 (Released:2019-10-31)
参考文献数
11

本稿は,福島第一原子力発電所の事故のような原子炉事故を防止するため,内外の原子力発電所で実施された津波に対する対策や全交流電源喪失などに関する多数の安全対策を紹介し,これらの対策の原子炉事故に対する実効性について論じている。そして内外の軽水炉の安全対策の脆弱な部分に関する情報に注意し,安全対策を強化することの重要性を強調する。