著者
長瀧 重信
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.36-40, 2012 (Released:2019-09-06)
参考文献数
5

災害時に流言蜚語はつきものである。原子力災害も例外ではない。筆者は事故4年後の1990年にソ連邦が外国との交流を開始したときに現地を訪れ,事故後10年目までは,多くの研究プロジェクトに参加し数え切れないほど現地に赴き,10年目,20年目の国際機関のまとめのコンファランスまで出席することができた。健康影響に対して科学的な調査が可能になり,様々な調査の結果が発表されるようになると,それぞれの発表,論文の科学的な信憑性を検討することが大きな仕事になり,自分の主力は国際的な科学的な合意形成に移行した印象がある。初期の流言蜚語の時代からまとめの発表にいたるまでの経験を具体的に紹介し,原子力災害の対応の問題点などを示したい。
著者
山岸 功 三村 均 出光 一哉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.166-170, 2012 (Released:2019-10-31)
参考文献数
9
被引用文献数
2 8

福島第一原子力発電所事故の収束に向けた取組みにおいて,2011年12月にステップ2の完了が宣言された。原子炉の冷温停止状態を支える循環注水冷却に関しては,仮設の水処理設備が稼動しているが,恒久的な水処理設備の設置,汚染水処理で発生した2次廃棄物の保管・処理・処分への取組みも求められている。本稿では,汚染水処理の現状を整理し,吸着剤の性能,今後の処理・処分に関わる技術的課題を解説する。
著者
有馬 朗人 澤田 哲生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-4, 2018 (Released:2020-04-02)

「科学技術立国をめざしてきた日本の技術が,2005年を節目に凋落し始めている。大学進学率の上昇によって政府のサポートが十分にいきわたらなくなり,科学技術を推進する学と官とのスクラム体制も弱体化した」――東大総長,文部大臣,科学技術庁長官を務めた有馬氏は,今の日本の科学技術の水準の低下をこう憂える。そのための処方箋として同氏は,エネルギーや科学技術を進めていく司令塔を作ることと,科学技術推進のために予算措置を含めた高等教育の強化を訴える。また,原子力界に対しては未来を見据えた視点で将来を切り開いてほしいと述べた。
著者
山澤 弘実
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.811-815, 2010 (Released:2019-09-06)
参考文献数
6

僅かではあるが再処理施設や原子炉から放出される放射性核種の中で,炭素14が最も線量寄与が大きいことは,意外と知られていない事実である。環境中に放出された炭素14が我々に与える影響を合理的に評価するためには,環境中物質の中で最もダイナミックな炭素の循環に紛れ込んだ炭素14の動態把握が必要である。これまでのFP核種の環境移行研究とは異なる炭素14固有の特徴を踏まえて,研究の現状を述べる。
著者
宮坂 靖彦
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.32-35, 2012 (Released:2019-09-06)
参考文献数
9

東京電力福島第一発電所のシビアアクシデントについて,事故時の対応,規制等の観点から十分に調査・検証する必要がある。それにしても原子力発電所の全交流電源喪失(SBO : Station Blackout)規制はなぜ遅れたのか。また,地震・津波の発生の可能性は,専門家から知らされていたのになぜ耐震規制に反映できなかったか。日本の原子力施設の耐震対策は,1995年兵庫県南部地震から数年後に本格検討が始まり,大幅改訂の耐震設計審査指針が公表されたのが2006年9月である。この間に新潟地震があったといえ,あまりに遅く残念である。改めて,安全研究の重要性と適切な規制体系の再構築が必要である。独立した規制機関の再構築が検討されているが,その第一歩はこれまでの対応を解明することである。 本報では,洪水による外部電源喪失事象,津波による冷却ポンプ機能喪失など教訓とすべき事象,米国及びフランスのシビアアクシデント規制の状況,わが国の規制取り組み等に関する提言を含め解説する。
著者
松永 武 ユーリ トカチェンコ
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.684-688, 2011 (Released:2019-09-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

福島原子力発電所の損壊により大気中に放出された放射性核種は,地表面の広域汚染をもたらしている。地表面土壌に沈着した放射性核種の一部は河川に移行する。河川での放射性核種の移行は長期的である一方,降雨時の短期変化も重要であり,さまざまな時間スケールを伴っている。また,放射性核種ごとの挙動の相違も大きい。本稿では,チェルノブイリ事故・大気圏内核実験影響の関連研究を参照し,河川における放射性核種の移行の特徴をまとめた。
著者
太刀川 英輔
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.454-457, 2023 (Released:2023-07-10)

高レベル放射性廃棄物最終処分場の実現のために,日本の戦略の中で足りないものは一体何なのか。そのために今までの考え方をより創造的に発展させた戦略を描けないだろうか。こうしたテーマに,国際的に活躍するデザイナーである太刀川英輔が向き合い,デザイン戦略をまとめた。生物の進化と人間の創造力を対比させることで,創造性と言う複雑な現象を構造化した,太刀川の提唱する進化思考を用いて見えてきた可能性はどのようなものだったのか。その戦略の一部を,進化思考の構造になぞらえて,この論考ではご紹介したい。
著者
目黒 芳紀
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.643-648, 2011 (Released:2019-09-06)

我が国最初の商用BWR発電所として,敦賀発電所1号機(以後,敦賀1号)は昭和44年に試運転を開始したが,当初より1次冷却系の腐食に起因する放射線量率の上昇,燃料健全性への影響等の,いわゆるクラッド問題が発生し,この対策に全力をあげて取り組むこととなった。1次冷却系材料の腐食を抑制すること,原子炉内へのクラッド持込みを抑制すること等,水化学面からの改善対策を実施した。その結果,昭和50年代半ばにはクラッドの発生は大幅に減少し,BWRクラッド問題解決の技術的基盤を構築することができた。敦賀1号で得られた水化学改善の成果は,その後のBWR発電所の運営に反映され,今日の水化学技術の礎となった。
著者
坂東 昌子 田中 司朗 今井 匠 真鍋 勇一郎 和田 隆宏
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.122-134, 2017 (Released:2020-02-19)
被引用文献数
1

従来の低線量被ばくの影響評価そして放射線防護の枠組みを一新する可能性のある理論が開発されている。その名をモグラたたき(WAM)モデルと言う。このモデルが導く最も重要ことは,低線量被ばくの影響はモグラたたきのように潰されていって,時間経過とともにその影響が蓄積してはいかないということである。これは現行の放射線防護の基盤であるしきい値なし直線(LNT)モデルが70年にわたって築いてきた枠組みにチャレンジするものである。ここでは,このことを議論した2016年秋の大会企画セッションの内容を紹介する。
著者
真田 哲也
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.760-764, 2011 (Released:2019-09-06)
参考文献数
7

2011年3月11日に発生した東日本大震災は地震による直接的な被害はもとより,それによって引き起こされた大津波により,さらに多くの壊滅的な被害をもたらした。今回の事故では,ベントや水素爆発による原子炉建屋の損傷により放射性物質の環境への放出があり,広範囲にわたり空間線量率の上昇や農畜産物の汚染,汚染水の漏えいによる,海水や海産物への影響が報告されている。 放射性物質の環境への放出はやがて飲食物の汚染へと広がり,最終的には人への内部被ばくの直接の要因となるため,それらの放射能濃度を把握することは極めて重要である。本稿では平常時の日本人の食物摂取による預託実効線量を評価した結果を概説し,現在では天然の放射性物質(ポロニウム210およびカリウム40)からの寄与が大きいことについて述べる。
著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.460-464, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
13

本稿では脱分化(リプログラミング)というプロセスをとらずに,甲状腺がんの発症を説明する「芽細胞発がん説」を解説し,従来から一般的な発がんモデルとして使用されてきた脱分化に伴う甲状腺がん多段階発がんモデルとの相違性ならびに関連性について解説する。
著者
佐田 務
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.686-688, 2009 (Released:2019-06-17)
被引用文献数
1

新聞やテレビなどのマスメディアは原子力について,マイナスの側面だけを強調して報道することがある。また原子力に携わる人の間では,そのような報道が,原子力に対する世論醸成に悪い影響を与えるとの懸念が示されることがある。しかしながらマスメディアのそうした姿勢の背景には,原子力がもつ固有の要因や,それを取り巻く社会状況が関わる。さらにそこにはメディア側と,メディアに対する原子力関係者の間の認識のずれの問題もひそむ。ここではラスウェルのモデルなどをもとに,こうした原子力をめぐるマスメディア報道の構造と,それをめぐる状況の一端を分析する。