著者
飯田 哲也
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-100, 2012 (Released:2019-10-31)

東日本大震災と福島原発事故は,日本の近現代史にとって第三の転換期となる。これを機に「ベストミックス」から「持続可能なエネルギー」へと大きな方向性を転換し,経済合理性,民主主義,そして正義や倫理を反映したエネルギー政策に転換することが望まれる。持続可能なエネルギーではない原子力は縮小・廃止を目指し,その道のりは市場と民主主義に委ねるべきだろう。環境ディスコースなき日本の知と政治の退廃という現実から出発し,私たち国民自らの手で,まともな環境エネルギー政策に改革すべきときだろう。
著者
住吉 光介 千葉 敏
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.754-758, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
9

天空にとつぜん現れ他の星々を圧倒して急激に輝きやがて消えて行く超新星。その名に反し超新星は新しい星の誕生ではなく星の終焉をかざる大爆発である。宇宙に存在する重い元素の多くはこの時合成される。われわれの世界は超新星爆発の残滓からできている。鍵を握るのは素粒子ニュートリノであり,星が進化し超新星爆発に至る道筋は原子核や核力の性質から理解できる。高度な計算機シミュレーションによりこの道筋の理解が進んでいる。中核を担うのはニュートリノ輸送計算であり,この計算は原子力における中性子輸送計算と多くを共有する。
著者
遠藤 典子
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.329-334, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
2

福島第一原子力発電所事故(以下,福島第一事故)による損害の賠償を求める訴訟が,全国の地方裁判所(支部を含む。以下,地裁)で提起されている。これらの訴訟の多くは,東京電力と並んで,国を被告としている。その最初の判決は,平成29年3月17日の前橋地裁が言い渡した東京電力と国の一部敗訴である。これに加え,続く9月22日の千葉地裁判決,10月10日の福島地裁判決を通じ,国の違法性について,「津波の予見可能性」,「結果回避可能性」などの争点が浮かび上がってきた。前橋地裁と福島地裁は,規制権限を行使しなかったとして国の違法性を認め,3地裁ともに国の予見可能性を認めた。東京電力に対しては,中間指針等ⅰを上回る精神損害の増額を求めるものとなった。本論考は,国家賠償を中心にこれらの争点を整理し,原子力損害賠償制度や安全規制へ及ぼす影響を検討するものである。
著者
橘川 武郎
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.22-26, 2012 (Released:2019-09-06)
参考文献数
3
被引用文献数
1

東京電力・福島第一原子力発電所の事故を契機にして,日本では,エネルギー政策の根本的見直しが進められている。電源構成の見直しに当たっては,①再生可能エネルギー利用発電の拡充,②節電による電力使用量の削減,③技術革新による石炭火力発電のゼロ・エミッション化,の3要素を独立変数とし,原子力発電のウエートは,これら3要素の進展具合によって,「引き算」で決まると考えるべきである。それでも,2030年時点では,原子力発電のウエートが20%程度残ると考えられるが,バックエンド問題の解決の困難さから見て,原子力発電は,長期的には停止されることになると見込まれる。
著者
石田 健二 岩井 敏 原口 和之 賞雅 朝子 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.162-167, 2021 (Released:2021-02-10)
参考文献数
14

近年,幹細胞生物学の進展が目覚ましい。特に,体内の幹細胞動態に係る研究については,国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)も注目し,2015年12月には発がんリスクに関する幹細胞の役割に着目したICRP Publication 131(以降「Publ.131」と記載)「放射線防護のための発がんの幹細胞生物学」を刊行した。この中で注目すべき点は,「放射線による発がんの標的となる細胞は各組織内の幹細胞,場合によってはその前駆細胞であろうと考えられている(Publ.131の第1項)」ことにある。本特集では,放射線リスク研究のブレークスルーとして最近,期待感が高まっている幹細胞研究の現状を調べ,被ばくの標的細胞を「幹細胞または前駆細胞」とみなすことによってがんリスク評価にどのような変更(パラダイムシフト)がもたらされるかを解説する。
著者
宮野 廣 中村 隆夫 成宮 祥介
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.447-451, 2012-07-01
参考文献数
3
被引用文献数
1

<p> 2007年7月に中越沖地震が発生し,更にその3年半後に東日本大震災が日本を襲った。いずれの場合にも震源近傍の原子力発電所は大きな地震動に見舞われたが,その後に大津波が発生したかどうかにより事故の明暗が大きく分かれることとなった。今,私達は今回の福島第一原子力発電所事故の未曽有の過酷さの前に,4年半前に起きた中越沖地震のことをともすると忘れがちになるが,2つの地震の共通点は,原子力発電所が設計の想定を大きく超えた地震動に見舞われたことにある。日本原子力学会は,中越沖地震の後,「原子力発電所地震安全特別専門委員会」を設置し,設計想定を超える地震に対してどのように安全を確保すべきかを検討してきた。そして東日本大震災が発生した昨年初めには,ほぼその検討結果が報告書としてまとまりつつある状況にあった。福島第一原子力発電所事故後の緊急事態からようやく立ち直りつつある現在,今回取りまとめた地震安全ロードマップに関する報告書の意味するところ,すなわち「原子力発電所の安全をいかに確保すべきか」を改めて問い直してみることが重要である。日本原子力学会は,この報告書の提言しているところを原点とし,引き続き「原子力安全」の確保のあり方について検討していくことが求められている。</p><p> 今回,4回のシリーズで,本委員会の活動に参加した日本原子力学会の委員,及びその検討に協力した日本地震工学会,日本機械学会の委員により,本委員会が取りまとめた地震安全ロードマップ報告書の内容と,中越沖地震及び東日本大震災を踏まえた原子力安全確保のあるべき方向について解説する。</p>
著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.450-454, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
15

これまで甲状腺がんに限らず,一般に発がんのメカニズムは,「多段階発がん説」に基づいて説明されてきた。すなわち,正常な体細胞(機能細胞)に変異が段階的に蓄積し,正常な体細胞が良性腫瘍となり,それががん化して次に悪性のがんに進展するというものである。しかし近年,“幹細胞ⅰ”の研究が進むにつれて,組織や臓器の細胞を生み出す組織幹細胞が,がんの主な発生母地であるといわれるようになってきた。本稿では,変異蓄積による「多段階発がん説」のモデルと,それでは説明できない子供に多く発生する血液がんの発症メカニズムのモデルについて解説する。
著者
内藤 正則
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 = Journal of the Atomic Energy Society of Japan (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.473-478, 2011-07-01

<p> 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴う大津波が,関東から東北地方の太平洋岸に面する原子力発電所を襲った。特に,福島第一原子力発電所に設置されている1号機から4号機までの4プラントは甚大な被害を受けた。これら4プラントから環境に放出された放射性物質の量は,チェルノブイリ原発事故の約1/10と言われている。現在はすでに被害の拡大は抑えられ,核燃料から発生し続ける余熱(崩壊熱)を安定に除去する,いわゆる冷温停止状態を維持するための方策がとられつつある。しかし,ここに至るまで,なぜ多量の放射性物質の環境への放出という大惨事が起きたのであろうか。格納容器の過圧を防止するためのベントや核燃料の冷却を維持するための注水作業が遅れたことが一因として挙げられているが,直接的には水素爆発による原子炉建屋の損傷が,その後の事故の推移を決定づけたといえる。本稿では,「なぜ水素爆発が起きたのか」という点に焦点を絞って,現状で得られているプラント情報に基づいて解説する。</p>
著者
都筑 和泰 笠井 滋 守屋 公三明 鈴木 成光 新井 健司
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.229-233, 2009 (Released:2019-06-17)

2006年の総合エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会報告(原子力立国計画)などにおいて,2030年以降に発生すると予想される代替需要に備えるため,「次世代軽水炉を開発すべきである」ということが指摘されてきた。これを踏まえ,2006~2007年度にはフィージビリティスタディ(FS)を実施し,2008年4月には,(財)エネルギー総合工学研究所を中核機関として実際の開発に着手した。現在,「世界最高水準の安全性と経済性を有し,社会に受け入れられやすく,現場に優しい,国際標準プラント」の実現に向け,技術開発を推進している。