著者
小坂 啓史
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.6, pp.21-29, 2014-01-31

本稿は, 福祉社会学でのケアをめぐる研究において, ケアの場に対する相互行為分析の応用可能性, 有効性について検証することを目的とした方法論的考察であり, とくにエスノメソドロジーに焦点をあててその確認を行った. まず, ケアを 「ケア」 として成立せしめている状況は, その場における人びとの相互行為によってつくられることを確認した上で, 社会福祉の近接領域での比較的数少ない先行研究のうち, 2 つを検討した. その結果まず第 1 には, 科学的理論化の態度が他者理解の本質とはなりえず, それが根ざす他者と共にある社会的場面での実践においてケア (療育) が問われるべきで, そのための経験的研究が促されることについて確認しえた. また第 2 に, エスノメソドロジーの観点に基づくビデオエスノグラフィーを用いた研究について検討し, この方法がケアの場のように言葉を介さないような空間においても分析が有効であること, さらに社会福祉領域でのケアに関しても応用可能であるとみなされ, ケアという相互行為の社会学的解明にとって有効であることが確認できた.
著者
亀山 麻衣子
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.10, pp.49-57, 2018-01

本研究の目的は, 精神障害者への就労支援を行うなかで遭遇した困難な状況を支援員が乗り越えられた要因について明らかにすることである. 支援員3 名を対象に半構造化面接を実施し, 質的帰納的分析を行った. その結果,【適切な境界線を引く】, 【視点を変え利用者を把握する】,【受容する対応に切り替える】,【同僚からのサポートを得る】,【家族からの精神的な支えを得る】,【気持ちを切り替える】,【学びを積み上げる】の7 カテゴリーが抽出された.
著者
伊藤 修毅 朴 恵貞
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-62, 2017-01-31

本研究ノートは, 主に知的障害児・者を対象としたセクシュアリティ教育の変遷をまとめたものである. 資料を整理した結果により, 4 つの時代に区分した. 1 つ目は「黎明期」と呼べるもので, 山本直英が萌芽的実践を結集し, 1 冊の本を出版するに至った. この本の執筆者たちが, "人間と性" 教育研究協議会障害児サークルを結成し, 実践的研究を進めている. 2つ目は, 「第一次発展期」と呼べるもので, 世論にも後押しされ, 障害児・者のセクシュアリティ教育の実践が発展していった. 3 つ目の時期は, 「バックラッシュ期」と呼べるもので, 障害児へのセクシュアリティ教育を糸口とする教育内容への政治的介入から始まる. その後, 12 年にわたる法廷闘争の間は, 障害児・者への性教育実践の停滞期となった. 4 つ目の時期は「第二次発展期」と呼べるもので, 七生養護学校事件の最高裁判決後の時期である. 加えて, 障害者権利条約を批准したことも大きな影響を与えている.
著者
松井 奈都子 西島 千尋
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.10, pp.141-152, 2018-01

本報告は, 日本福祉大学子ども発達学部の科目「音楽専門研究Ⅱ」における「弾き歌い」の指導に関するものである. 伴奏をしながら歌う「弾き歌い」は, 特にピアノや吹奏楽などの音楽経験のない学生にとって容易ではないため, さまざまな試みがなされている. 筆者らは「音楽専門研究Ⅱ」(および関連科目「音楽専門研究Ⅰ」) において, ①指番号を明記した楽譜が効率的なピアノ伴奏の習得につながる, ②楽譜の要素別(拍子, リズム, 演奏記号) の理解が楽譜の効率的な理解につながるとする二つの基本方針にもとづいた実践を行ってきた. 本報告はその取り組みの一つである, 2017 年度前期の「音楽専門研究Ⅱ」(松井クラス) における実践をまとめたものである. 実践の結果, 個々の学生により差は見られたものの, 指番号の意識化により反復練習の重要性に気づいたり, 拍子やリズムの意識化により弾き歌いがスムーズになることに気づいたりするなど, ①および②の方針にもとづいた取り組みに学習効果があった.
著者
今井 理恵
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.8, pp.15-23, 2016-01

中学校期は, 学習内容の高度化, 教科担任制や移動教室などの学習環境の変化, 複数の小学校出身者との出会いと友人関係の複雑化, 部活動での人間関係の構築, 進路選択などを含んで, 生活場面と学習場面において大きな変化が伴う. さらに, 思春期とも重なり, 身体的に成長していく一方で精神的には未熟な部分もあるため, 中学校での生活と学習に不安や葛藤を抱えて苦しんでいる子どもは少なくない.2008 年学習指導要領改訂の力点の一つである「言語活動の充実化」が教科での学習において重視される一方で, 体験活動の充実を図ること, すなわち, 特別活動の役割がこれまでにも増して重要な位置に置かれていることを鑑みても, 中学生の自立を支える教育活動として特別活動の果たす役割は大きい.そこで本論では, 今日の中学生の人間関係をめぐる問題と自立観について指摘し, 特別活動の目標と特質について整理する. そのうえで, 中学校特別活動実践を基に,中学生の自立を支える特別活動に求められる視点として,第一は, 特別活動を通して困難さを抱える他者に共感し,応答する関係をつくる, 第二は, 学校行事を通して, 子どもの今を問い直し, もう一つの生きるに値する世界をつくりだす, 第三は, 学級や学校での生活づくりを問い直す, 以上3 点を提示した. その際, 思春期である中学校期の自立に課題を抱えることの多い発達障害児を中心に検討した.
著者
澤田 好江
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.113-127, 2018-01-31

本稿は, 2007 年度の小学校6 年生を対象にした, ボールに着目させた総合的な学習の一実践である. 筆者は当時, 小学校教員であった. 担任していた学級には4 人の外国人の子どもが在籍し, 彼ら彼女らは「いじめ」や排除の対象となっていた.また, 野球, サッカー, バレーボール, バスケットボール等のスポーツに親しむ子どもが多く, 子ども達は, 身近なボールから課題を見つけ, その課題を追究する中で, ボール製造国に視点を移させながら, ボール製造国が実は学校に行けない子ども達の多い国, 紛争や戦争に巻きこまれたり, 貧困な国であったりする事実に気付いていく. 子ども達は自分の決めた「マイカントリー」(発展途上国) を調べる中で, スポーツ用品店の方, ボール製造社や新聞社へ質問状を送り, 係りの方から返答をもらう活動, 国際センターへの聞き取り調査, 外国人留学生や海外ボランティアの経験のある保護者, セーブチルドレンの会の方の講演会等, 様々な活動を通じて, それらの方と繋がりながら, この探究活動を行っていった. そして, 発展途上国の子ども達の置かれた状況=貧困, 格差, 紛争, 児童労働, 非識字率の高さ, 生活困難等を調べていきながら, 世界でどのような取り組みが行われ, 日本に住む自分達は果たして「幸せ」と言えるのか, 真剣に討論し, 考えていった実践である. 結果として, 本実践は, 2008 年度版学習指導要領, 並びに2020 年度版新指導要領の目標にも合致し, なおかつ地球市民教育という観点からも意義ある学びであったこと. また, 学級内の子ども達に, 外国人の子どもへの「いじめ」や排除を乗り越えさせ, 「共生」, 「理解」を学級内に培っていきたいという, 教師の総合的な学習に期待する願いも達成できたこと. この2 点を結論付けようとするものである.
著者
玉腰 和典
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-46, 2017-01-31

本研究は, 学校体育研究同志会の生活体育時代におけるバレーボール教材研究の特徴を明らかにしていくことを目的とした. 学校体育研究同志会における生活体育時代のバレーボール教材研究史は前期と後期に区分でき, 前期においては瀬畑実践に代表されるように, 「グループ学習と校内競技大会の計画・運営」(9 人制バレーボール) が実践課題となっていた. その後, 実践を通してつきあたった「運動疎外の克服」が課題とされるとともに, 運動文化の本質を見失わず子どもの喜びを高める「中間項」教材の追求がなされていく. そして後期においては生活単元方式が後退する一方で, 吉崎実践に代表されるように「運動文化の疎外要因を解消するルールづくりをふまえた, パス・ラリーゲームから始めるグループ学習とクラスマッチの計画・運営」(6 人制バレーボール) が実践課題となっていることが明らかとなった. また吉崎実践と同時期に中村が高校生との対話を通して9 人制バレーボールにひそむ疎外要因について追求しており, そこで得られた知見はのちのバレーボール教材の研究につながる重要な契機となっていると考えられる.