著者
亀山 麻衣子
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.10, pp.49-57, 2018-01

本研究の目的は, 精神障害者への就労支援を行うなかで遭遇した困難な状況を支援員が乗り越えられた要因について明らかにすることである. 支援員3 名を対象に半構造化面接を実施し, 質的帰納的分析を行った. その結果,【適切な境界線を引く】, 【視点を変え利用者を把握する】,【受容する対応に切り替える】,【同僚からのサポートを得る】,【家族からの精神的な支えを得る】,【気持ちを切り替える】,【学びを積み上げる】の7 カテゴリーが抽出された.
著者
伊藤 修毅 朴 恵貞
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-62, 2017-01-31

本研究ノートは, 主に知的障害児・者を対象としたセクシュアリティ教育の変遷をまとめたものである. 資料を整理した結果により, 4 つの時代に区分した. 1 つ目は「黎明期」と呼べるもので, 山本直英が萌芽的実践を結集し, 1 冊の本を出版するに至った. この本の執筆者たちが, "人間と性" 教育研究協議会障害児サークルを結成し, 実践的研究を進めている. 2つ目は, 「第一次発展期」と呼べるもので, 世論にも後押しされ, 障害児・者のセクシュアリティ教育の実践が発展していった. 3 つ目の時期は, 「バックラッシュ期」と呼べるもので, 障害児へのセクシュアリティ教育を糸口とする教育内容への政治的介入から始まる. その後, 12 年にわたる法廷闘争の間は, 障害児・者への性教育実践の停滞期となった. 4 つ目の時期は「第二次発展期」と呼べるもので, 七生養護学校事件の最高裁判決後の時期である. 加えて, 障害者権利条約を批准したことも大きな影響を与えている.
著者
瀬地山 葉矢
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-9, 2022-01-31

本稿では,里親養育における里親の支援ニーズと実際の支援方法について,既存の調査と先行研究に基づいて整理をした.支援方法のなかでも,とりわけアタッチメント理論に基づく子どもと親子関係の理解,および親子関係支援プログラムについて取り上げ,検討を行った.その結果,現場の特徴を踏まえたうえで,アタッチメント理論を適切に活用することにより,里子の行動を理解する手がかりが得られる可能性があること,また親子関係支援プログラムでは,子どもの行動やその対応方法について,ファシリテーターによるアタッチメントの視点に基づいた助言が,子どもの変化や里親のサポートにつながることが示唆された.さらにファシリテーターは,それ以外にも,里親の安全感・安心感を高め,視点の変換を養育者にもたらすことが示唆された.
著者
松山 有美
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
no.12, pp.47-52, 2020-01-31

本研究は, 保育における多様性を論じるための試論として, 保育内容「言葉」に注目した. 特に, 米国における調査を通して, 保育における「多ような有りよう」は, いかに保障されうるのかを検討した. そこには, 子ども一人ひとりがどのような言葉を使っても・使わなくても, 発達が保障される保育の土壌と保育者の姿があることが明らかとなった.
著者
三橋 広夫
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.75-87, 2020-01-31

浅川巧は, 朝鮮民芸・陶芸の研究家・評論家だった. 朝鮮半島で植林事業を行う傍ら, 朝鮮半島の陶磁器と木工を研究・紹介した. 彼の墓はソウル郊外の忘憂里共同墓地にある. 当時の多くの日本人とは違って朝鮮人と対等につきあった人物の一人として知られる. 彼の生き方を学んで, 韓国コリョ高麗大生は「日本の誤った政策に対しては警戒するものの, 日本の人々まで嫌うのはやめなければならないと」という認識を獲得した.
著者
玉木 博章
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
no.14, pp.51-74, 2022-01-31

本研究ではこれまで9 人の若手女性保育者にインタビュー調査を行い,様々な状況にある彼女達の語りから今後の保育者養成のヒントを得ようとしてきた.本稿では,本研究を研究史の中で高く評価した市原(2021)の知見を参照しつつも,市原との見解の違いを明らかにするため,他の同種の調査でも希な追跡調査を試みた.それらからは,保育者のキャリア形成における媒介的コミュニティの重要性を凌ぐ効果を持つパートナーの存在や,職場でのベテラン保育者のリカレント教育の重要性が明らかになった.また保育者達のキャリア形成における恋愛模様の変化や,パートナー等へ再帰的に依存する様相,つまり再魔術化とも看取できる様相が看取できた.そして今後の課題として,キャリアの広域化を可能にするため,敢えて遠回りするようなキャリア教育の実現を提案すると共に,遠回りの典型例として四大生と短大生とのキャリア意識の違いを明らかにする必要性を示唆した.
著者
三橋 広夫
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
no.13, pp.75-88, 2021-01-31

「元始,女性は太陽であった」を書いた平塚らいてうは,日本のフェミニズム運動に邁進していった.当時の戸籍制度に囚われることもなく,女性の権利拡張をめざした.また,母性主義をめぐって与謝野晶子や山川菊栄らと論争をくり広げた. 日中戦争,アジア太平洋戦争期には軍部に協力したらいてうだったが,戦後は平和運動に一身を捧げたと言っても過言ではない.そうしたらいてうが一貫して追及したものは何か,#MeToo 運動が盛んな韓国高麗大生とともに考えた.
著者
松井 奈都子 西島 千尋
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.10, pp.141-152, 2018-01

本報告は, 日本福祉大学子ども発達学部の科目「音楽専門研究Ⅱ」における「弾き歌い」の指導に関するものである. 伴奏をしながら歌う「弾き歌い」は, 特にピアノや吹奏楽などの音楽経験のない学生にとって容易ではないため, さまざまな試みがなされている. 筆者らは「音楽専門研究Ⅱ」(および関連科目「音楽専門研究Ⅰ」) において, ①指番号を明記した楽譜が効率的なピアノ伴奏の習得につながる, ②楽譜の要素別(拍子, リズム, 演奏記号) の理解が楽譜の効率的な理解につながるとする二つの基本方針にもとづいた実践を行ってきた. 本報告はその取り組みの一つである, 2017 年度前期の「音楽専門研究Ⅱ」(松井クラス) における実践をまとめたものである. 実践の結果, 個々の学生により差は見られたものの, 指番号の意識化により反復練習の重要性に気づいたり, 拍子やリズムの意識化により弾き歌いがスムーズになることに気づいたりするなど, ①および②の方針にもとづいた取り組みに学習効果があった.
著者
今井 理恵
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
no.8, pp.15-23, 2016-01

中学校期は, 学習内容の高度化, 教科担任制や移動教室などの学習環境の変化, 複数の小学校出身者との出会いと友人関係の複雑化, 部活動での人間関係の構築, 進路選択などを含んで, 生活場面と学習場面において大きな変化が伴う. さらに, 思春期とも重なり, 身体的に成長していく一方で精神的には未熟な部分もあるため, 中学校での生活と学習に不安や葛藤を抱えて苦しんでいる子どもは少なくない.2008 年学習指導要領改訂の力点の一つである「言語活動の充実化」が教科での学習において重視される一方で, 体験活動の充実を図ること, すなわち, 特別活動の役割がこれまでにも増して重要な位置に置かれていることを鑑みても, 中学生の自立を支える教育活動として特別活動の果たす役割は大きい.そこで本論では, 今日の中学生の人間関係をめぐる問題と自立観について指摘し, 特別活動の目標と特質について整理する. そのうえで, 中学校特別活動実践を基に,中学生の自立を支える特別活動に求められる視点として,第一は, 特別活動を通して困難さを抱える他者に共感し,応答する関係をつくる, 第二は, 学校行事を通して, 子どもの今を問い直し, もう一つの生きるに値する世界をつくりだす, 第三は, 学級や学校での生活づくりを問い直す, 以上3 点を提示した. その際, 思春期である中学校期の自立に課題を抱えることの多い発達障害児を中心に検討した.
著者
江村 和彦
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
no.13, pp.39-47, 2021-01-31

本研究は,保育者をめざす学生の表現領域における美術,芸術の捉え方を揺さぶる試みの実践研究である.保育者として,芸術表現の多様なあり方を知るきっかけとして,アール・ブリュットの鑑賞活動を取り上げた.アール・ブリュットとは,障害者が制作した絵画,彫刻などの自由な表現のことを指す.学生は,施設運営者や学芸員による解説のもとアール・ブリュットの作品鑑賞を行った.鑑賞後のコメントから学生が多くの重要な気付きをしていることが明らかになった.それは,①作品の制作過程そのものがその人の生きている証であり,自分の生活の一部であること,②作者に寄り添った職員との関係性そのものがアール・ブリュットであること,③これまでの美術観を超えて作り手を想像する行為は共感性を育むことができること,である.今後は,様々な作品を鑑賞する機会を設け,保育者に必要な「みる力」を養う造形教育の在り方を模索したい. his research is a practical study of an attempt to shake art and the way of thinking of art in the field of expression of students aiming to be childcare workers. As a childcare worker, I took up the appreciation activity of Art Brut as an opportunity to learn about various ways of artistic expression. Art Brut refers to free expressions such as paintings and sculptures made by people with disabilities. Students watched Art Brut work under the guidance of facility operators and curators. Comments after the appreciation revealed that the students had many important notices. It is (1) that the production process of the work itself is a living proof of the person and a part of one's life, (2) that the relationship with the staff who is close to the author itself is Earl Brut, and (3) this. The act of imagining the creator beyond the artistic view is that empathy can be fostered. In the future, I would like to provide opportunities to appreciate various works and explore the ideal form of modeling education that cultivates the "power to see" necessary for childcare workers..
著者
天池 洋介
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.23-38, 2021-01-31

PISA などの国際学力調査において,フィンランドは世界一の好成績を修めたとして注目されているが,その要因についてグローバル化の視点から考察したものは少ない.本論ではグローバル化の一つの形態である,北欧協力における初等・中等教育政策について,グローバル化の諸層と国境を越える福祉国家の視点から考察をした.PISA をはじめグローバル化し,競争が激化する教育政策の中で,EU はヨーロッパ地域において一元的にベンチマークを設定して,ヨーロッパの文脈を踏まえた独自の教育政策を展開している.さらに北欧協力は北欧地域において,平等を基調とした北欧の文脈に沿った初等・中等教育政策を行っている.それはベンチマークなどによる一元的な管理ではなく,各国の多様性を重視する北欧型福祉国家が,国境を越えて展開する教育政策である.
著者
三橋 広夫
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
no.12, pp.75-87, 2020-01-31

浅川巧は, 朝鮮民芸・陶芸の研究家・評論家だった. 朝鮮半島で植林事業を行う傍ら, 朝鮮半島の陶磁器と木工を研究・紹介した. 彼の墓はソウル郊外の忘憂里共同墓地にある. 当時の多くの日本人とは違って朝鮮人と対等につきあった人物の一人として知られる. 彼の生き方を学んで, 韓国コリョ高麗大生は「日本の誤った政策に対しては警戒するものの, 日本の人々まで嫌うのはやめなければならないと」という認識を獲得した.
著者
天池 洋介
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:24352802)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.29-45, 2020-01-31

グローバル化によって, 教育が国際貿易における商品となり, 教育政策が人的投資戦略に転換している. EU では各国の教育政策が資格枠組みを通して統合化されるとともに, エラスムス計画をはじめとするヨーロッパの次元での教育政策が展開している. 北欧の次元の教育政策としてノルドプラスがあるが, その内容も歴史的変遷も, ヨーロッパの次元の教育政策と類似している. しかしノルドプラスは北欧諸国・バルト諸国の統合を目標とはせず, あくまで国家間の多様性を保持したまま, 弱点を補い合い相乗効果を発揮するシナジーを形成する, 共同による国家間制度である. ノルドプラスは, 北欧諸国間における共同の原理によって, 競争的なグローバル教育市場を組み替えている.
著者
澤田 好江
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.113-127, 2018-01-31

本稿は, 2007 年度の小学校6 年生を対象にした, ボールに着目させた総合的な学習の一実践である. 筆者は当時, 小学校教員であった. 担任していた学級には4 人の外国人の子どもが在籍し, 彼ら彼女らは「いじめ」や排除の対象となっていた.また, 野球, サッカー, バレーボール, バスケットボール等のスポーツに親しむ子どもが多く, 子ども達は, 身近なボールから課題を見つけ, その課題を追究する中で, ボール製造国に視点を移させながら, ボール製造国が実は学校に行けない子ども達の多い国, 紛争や戦争に巻きこまれたり, 貧困な国であったりする事実に気付いていく. 子ども達は自分の決めた「マイカントリー」(発展途上国) を調べる中で, スポーツ用品店の方, ボール製造社や新聞社へ質問状を送り, 係りの方から返答をもらう活動, 国際センターへの聞き取り調査, 外国人留学生や海外ボランティアの経験のある保護者, セーブチルドレンの会の方の講演会等, 様々な活動を通じて, それらの方と繋がりながら, この探究活動を行っていった. そして, 発展途上国の子ども達の置かれた状況=貧困, 格差, 紛争, 児童労働, 非識字率の高さ, 生活困難等を調べていきながら, 世界でどのような取り組みが行われ, 日本に住む自分達は果たして「幸せ」と言えるのか, 真剣に討論し, 考えていった実践である. 結果として, 本実践は, 2008 年度版学習指導要領, 並びに2020 年度版新指導要領の目標にも合致し, なおかつ地球市民教育という観点からも意義ある学びであったこと. また, 学級内の子ども達に, 外国人の子どもへの「いじめ」や排除を乗り越えさせ, 「共生」, 「理解」を学級内に培っていきたいという, 教師の総合的な学習に期待する願いも達成できたこと. この2 点を結論付けようとするものである.
著者
玉腰 和典
出版者
日本福祉大学子ども発達学部
雑誌
日本福祉大学子ども発達学論集 = THE JOURNAL OF CHILD DEVELOPMENT (ISSN:18840140)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-46, 2017-01-31

本研究は, 学校体育研究同志会の生活体育時代におけるバレーボール教材研究の特徴を明らかにしていくことを目的とした. 学校体育研究同志会における生活体育時代のバレーボール教材研究史は前期と後期に区分でき, 前期においては瀬畑実践に代表されるように, 「グループ学習と校内競技大会の計画・運営」(9 人制バレーボール) が実践課題となっていた. その後, 実践を通してつきあたった「運動疎外の克服」が課題とされるとともに, 運動文化の本質を見失わず子どもの喜びを高める「中間項」教材の追求がなされていく. そして後期においては生活単元方式が後退する一方で, 吉崎実践に代表されるように「運動文化の疎外要因を解消するルールづくりをふまえた, パス・ラリーゲームから始めるグループ学習とクラスマッチの計画・運営」(6 人制バレーボール) が実践課題となっていることが明らかとなった. また吉崎実践と同時期に中村が高校生との対話を通して9 人制バレーボールにひそむ疎外要因について追求しており, そこで得られた知見はのちのバレーボール教材の研究につながる重要な契機となっていると考えられる.