著者
佐野 美奈
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.93-102, 2013-01-31

この研究の目的は、音楽的表現育成プログラムの実践過程で4歳児の「音への気づき」を起点とした活動の展開の特徴を考察することを通して、活動の要素の変容について明らかにすることである。4歳児のこの活動事例について、保育園で3年間の実践過程を検討した。その結果、実践2年目と実践3年目に活動の要素が増し、展開の可能性が示された活動の特徴が見い出されることがわかった。実践1年目で「音への気づき」については、生活音に限定されていた。実践2年目では、虚構体験がその活動の対象となった。特に、ストーリー化の過程において、パターン化された表現形式を経験することによって、子ども達に自発的表現が多く生じていた。同時に、動きから3段階目の音楽的諸要素の認識に向けた活動の特徴も見られた。実践3年目では、擬音語、擬態語のイメージによって歌詞を創造したり、クリエイティブ・ムーブメントを生じたりする展開が特徴的であった。
著者
村井 尚子 ムライ ナオコ Naoko MURAI
出版者
大阪樟蔭女子大学学術研究会
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.175-185, 2016-01

本研究は、子どもにとっての「家」のもつ意味を現象学的人間学的な手法をおよびリアリスティック・アプロー チを用いた授業を展開することで、学生とともに探究する試みを扱ったものである。現象学的人間学の方法は、1950 年代のオランダユトレヒト学派によって用いられるようになり、現代カナダの現象学的教育学者マックス・ヴァン= マーネンによって深化されることで各国の教師教育の現場で活用されるようになっている。さらに、リアリスティッ ク・アプローチは、現代オランダの教育学者F・コルトハーヘンによって、学び続ける教師を養成するための教師教 育の手法として開発された。筆者はこれらの手法を参考にしながら、学生と共に創るワークショップ型の授業を実施 し、家のイメージの抽出、絵本や映画における家の意味についての考察、学生自身のお留守番の経験を振り返るといっ た方法を用いて、様々な角度から子どもにとっての「家」の有り様を明らかにした。この授業を通じて、学生達は、 家族が子どもの成育に与える影響を自ら体感的に理解し、家庭の有り様と子どもとの関係に感受性豊かに気づき、教 師・保育者として子どもの育ちの基盤を支えていくことの意義を看取したと言える。
著者
長尾 知子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-27, 2013-01

1920年代まで存在を疑われたカナダ文学が世界文学の仲間入りを果たしたのは、20世紀も末に近い。本稿は、そのような後発ぶりを示すカナダ文学の背景となる事情を探ると同時に、展開のプロセスに伴う、カナダとカナダ文学が抱えるジレンマの背景を浮き彫りにしたい。まず、英系カナダ文学の発展に寄与したフライとアトウッドの足跡に言及した上で、カナダ文学の後進性を物語る、日加両国の事情を確認した。日本でのカナダ文学の受容のプロセスを翻訳事情と研究状況の観点から概観し、カナダ本国での研究状況、初期の出版事情、その背景となる歴史的・地理的事情を探った。さらに、英系カナダ文学に影を落とすジレンマの背景を、初期アメリカ文学の場合と比較し、事例として、植民地時代の作家ジョン・リチャードソンとスザンナ・ムーディーの置かれた英系カナダ文学の状況を考察した。最後の事例には、ポストモダニズムを先取りしていたゆえに、再評価を待たねばならなかったハワード・オヘイガンの代表作を取り上げ、ジレンマの諸相に目を向けると共に、アメリカ文学とは異なる英系カナダ文学の独自性を読み取った。
著者
越智 砂織 オチ サオリ Saori OCHI
出版者
大阪樟蔭女子大学学術研究会
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 = Research bulletin of Osaka Shoin Women's University (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.117-124, 2018-01

本論文は、企業が特許権を保有したまま国内外の第三者に無償提供する、いわゆる「知的財産のオープン化(特許の無償開放)」が法人税法 22 条 2 項にいう無償の役務提供に該当するか否かについて論じたものである。知的財産のオープン化とは、同業他社に自社技術を解放することによって、自社技術の技術標準化を図ることを目的としたものである。本論文では、無償取引が収益を認識するのかという問題提起を行い、収益の擬制や役務提供の範囲について検討した。結果として、特許の無償開放は無償の役務提供に該当し、それは法人税法上、みなし特許収入として益金に算入されるべきであると結論づけた。
著者
越智 砂織 オチ サオリ Saori OCHI
出版者
大阪樟蔭女子大学学術研究会
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 = Research bulletin of Osaka Shoin Women's University (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.105-116, 2018-01

本論文は、企業が特許権を保有したまま国内外の第三者に無償提供する、いわゆる「知的財産のオープン化(特許の無償開放)」が法人税法 22 条 2 項にいう無償の役務提供に該当するか否かについて論じたものである。知的財産のオープン化とは、同業他社に自社技術を解放することによって、自社技術の技術標準化を図ることを目的としたものである。本論文では、無償取引が収益を認識するのかという問題提起を行い、収益の擬制や役務提供の範囲について検討した。結果として、特許の無償開放は無償の役務提供に該当し、それは法人税法上、みなし特許収入として益金に算入されるべきであると結論づけた。
著者
伊豆原 月絵
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.49-54, 2011-01-31

筆者は、神戸ファッション美術館との学館協同事業の一つとして、復元研究を行い、細部にわたって計測をした第一次資料を基に、第二次資料および構成図を作り、実物ドレスの制作を行った。 本論文では、18世紀中葉の衣服制作の技術的な変遷を解明するために、制作時期が、およそ10年離れているとされる2体の復元したドレスについて、裁断と縫製などの衣服制作技術について、比較検討を行った。 ドレスは、布地が手織りの織物で作られているため、縫製段階で、「ねじ曲げる」「折り目をずらす」などの工夫がされていた。例えば、腰の膨らみを強調するために、手織りの織物の特性である独特の打ち込みの甘さを用いて、「ねじり」を入れ縫うことにより、元に戻ろうとする糸の力を用いて、布地を押し上げ膨らみをもたせるなどの技術や、織り布を倹約するための「布テープ」によるほつれ止めの手法の発達などがあげられる。ドレスの復元制作の過程から、18世紀中葉の衣服製作の技術の変遷を考察した。
著者
伊豆原 月絵
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.40-48, 2011-01-31

本研究は、1700年代を中心に、1600年代中葉以降のフランス宮廷を中心とした欧州貴族の女性にみられる美意識を明らかにすることを目的とする。往時の女性に対する観察者の「美意識」については、図像資料や文献資料を基に論じた。文献資料からは、1600年代から1700年代初期までは、情感を表現する眼差しや表情を「美しい」としていたが、1700年代の中葉にかけて、次第に女性の外見に重きをおいた記述が増え、「豊かな胸」「見事な肩」「背が高い」などの外見的特徴が主な美の構成要素になっていく。 また、美しさを構成する要素は、「真直ぐ伸びた背中」、「高い胸」のデコルテと「なで肩」であり、それは、姿勢と体型に関係がみられることを、人体解剖学的見地より考察し、新しい視点を示唆した。
著者
伊豆原 月絵
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.3-14, 2012-01-31

フランス宮廷では、18世紀になると、宮廷晩餐会用の女性の衣裳は、華やかさを増し、花紋様の重厚なブロケードに刺繍の装飾を重ね、さらにレースをあしらった豪華で装飾的な衣裳が好まれていた。一方、私的なサロンによる交流が広がるにつれ、公の衣裳の重厚さに対して、私的な衣装の美意識は、軽やかさが求められ、その美意識は、宮廷の衣裳にも反映していった。往時は、中国風庭園、家具、陶器、織物、衣裳など、アジア風のデザインが流行し、様々な事象にシノワズリーの影響がみられ、インド製の木版捺染や手描き更紗とともに、アジアから舶載された絣織の「シネ」は珍重され、フランスのみならず、欧州各国に染織技法とともにその紋様表現は、伝播していく。18世紀になると絣は、需要の拡大とともに発展し、宮廷女性衣裳の生地としてフランスで盛んに織られるようになった。 本論文では、神戸ファッション美術館の所蔵品のローブ・ア・ラ・フランセーズに用いられた絣織「シネ・ア・ラ・ブランシュ」の織物を復元することを目的に、往時のシネの製作技法について、アジアの絣の技法の調査を踏まえ比較検討を行う。
著者
飼原 壽夫
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.215-223, 2013-01-31

ウェブサイト開設に関して、今や、ネットワークには、道具も情報も十分に提供されているにもかかわらず、組織の方針としてトップダウン方向で推進されない限り、まだまだ、敷居を高く感じさせる面が多くある。本稿では、サイト立ち上げに伴う問題解決の視点や手順を、具体例から幾つか紹介した。先ず、現状調査に始まり、ウェブサイト構成の検討、CMSの機能検討、開発ツールの選択、運用体制の検討の必要性を示した。続く制作では、動画ファイルや、PowerPointファイルの取り扱い方、ページ遷移をせずに多くの情報を盛り込む工夫(jQueryの活用)、統合開発環境のソフトで利用できる便利ツール、翻訳サービスによる国際対応と翻訳の改善手段、SEO対策ツール、サイト内検索ボックスに至るまで、一般によく目にする機能の実現に際してヒントとなるように、実施手段の選択時の視点を紹介した。
著者
豊嶋 幸生
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.153-168, 2012-01-31

モダンデザインが普及する前の、ヨーロッパの都市の主要建築は、多くの装飾を持った古典的な様式建築である。開国によって、日本でも、明治維新直前から、昭和の初期まで、多くの西欧風様式建築が建設された。こうした建築の、明治初期の主な設計者は、明治政府によるお雇い外国人建築家で、外国人から建築を学習した日本人建築家が、その跡を継いでいく。その中の、代表的な人物が、英国人のジョサイア・コンドル、片山東熊、辰野金吾等である。この論文は、これらの建築家による作品の装飾についての研究をするためのもので、目的は、日本で、洋風建築に多く使われてきた装飾要素を抽出し、どのような装飾スタイルが、日本人に受け入れられてきたかを確認し、分析することである。西欧の装飾文様と、日本の伝統的な装飾文様との関連性についての考察も、目的の一つである。
著者
小林 政司
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.225-230, 2013-01-31

迷彩(camouflage)柄は、自然の環境を象徴する優れたデザイン性と色彩調和を有しているものが多く存在するものの、残念なことに、しばしば戦場で使用されるためにマイナスのイメージが非常に強いというのが現状であろう。今回は、そのような迷彩柄の平和利用の一環として、デザイン作業の背景として用いることを提唱する。こうした柄と色彩を有する背景は、特に実践的なカラースキームの決定を行う場面で効果的であると予想される。実践的な試みとして、本報告では太子山向原寺(明日香村)において行われた芸術祭Soul of Asuka 2011に使用する提灯のデザイン作業時に迷彩柄の背景を応用した。また、屋外での展示を前提とした作品を屋内で展示する際の背景用に迷彩柄のデザインを行った。
著者
森田 園子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.195-204, 2015-01-31

日本の雇用において中小企業は重大な役割を果たしている。本稿は、その中小企業における女性役員・取締役のあり方が大企業と異なっているのか、異なっているとすればどのように異なっているのか、又その要因は何かを明らかにする前段階として、この課題を見るべき論点を明らかにするためのものである。そのため、ヒアリング調査は経営者であると同時に周辺企業を俯瞰する立場にあり、自らもまた働く女性として経験を積んで来た女性を対象とした。ヒアリングを通して得た知見により、今後検証を進めるにあたっての論点は以下のとおりとした。第1は、「役員・取締役に至る経緯」、第2は「システム整備」である。第1点は、女性管理職・役員にまで至った要因は何であったのかである。第2点は具体的な就業環境のシステム整備に力点をおくものである。そこには、育児休業などの制度整備が重要であることは言うまでもないが、ここではそのような制度を補完するものとして、もっとも具体的な人事管理システムとしての「業務の配分」や「働き方」のシステム整備を取り上げることとした。
著者
徳永 正直 Masanao TOKUNAGA
出版者
大阪樟蔭女子大学学術研究会
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-53, 2016-01

近年「道徳」の教科化による道徳教育の充実が要請されているが、「道徳」授業の評判はあまり芳しくない。 なぜなら「道徳」授業は予め設定された道徳的価値の「教え込み」(inculcation)に終始しているので、結果的に、 子どもに「偽りの自己」としての「良い子」を演じさせる「隠れたカリキュラム」に陥っているからである。このよ うな「道徳」授業を改善し、子どもたちの道徳的判断の発達促進を期待されたのが「モラルジレンマ授業」であった。 だが、道徳的判断の発達を促進することができても、道徳的行為の実践に結びつかないという批判がなされてきた。 コールバーグはこの批判を克服するために新たに「ジャスト・コミュニティ・プログラム」を提唱した。そこでは子 どもたちのコミュニティへの参加が促進され、具体的な問題解決のための民主的な手続きとしてのモラルディスカッ ションを通じて、共同体や仲間に対して責任を担う主体性のある子どもが育てられる。したがって、このジャスト・ コミュニティ・プログラムによる道徳教育は、「能動的市民の育成」をめざす「市民性教育」の基礎を構築する可能 性を秘めているのである。Der bisherige Unterricht über die sittlichen Erziehung in Japan ist für <inculcation> oder <indoctrination> gehalten worden. Im Unterricht haben viele Schüler und Schülerinen <good boys> und <nice girls> als ein sog. falsches Selbst gespielt. Dagegen im von Lawrence Kohlberg vorgeschlagenen Moral Dilemma Programm äußern sie sich als ein sog. wahres Selbst und durch die Moraldiskussion können ihre Entwicklungsstufe der sittlichen Urteilskraft erheben. Trotzdem hat Kohlberg erst später gemerkt, daß die sittliche Urteilskraft nicht unmittelbar zu der sittlichen Praxis führt. Dann hat er nochmals ein neues Just Community Programm vorgeschlagen. Darin geht es um die Moraldiskussion, konkrete Probleme in der Gemeinschaft, z.B. in einer Klasse zu lösen. Dadurch entsteht die sittlich gute Atmosphäre und kommunikative Alltagspraxis bei Jürgen Habermas. Ich bin davon überzeugt, daß das Just Community Programm sog. <citizenship education> begründen kann.
著者
川上 正浩
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.55-65, 2011-01

本研究では、野菜・果物等の具体的な対象に対して、一般的な大学生が具体的にどのような色のイメージとの連合を持っているのかについて質問紙調査によって明らかにすることを目的とした。まず、"赤"、"橙"、"黄色"、"黄緑"、"緑"、"紫"、"茶色"の7色を基本色とし、野菜・果物等の名称が42個選択された。また、先述の7色を基本色とし、35色の色見本を作成した。調査対象者の課題は、質問紙に記載された野菜・果物等の名称からイメージする色を色見本から選択し、該当する番号を回答欄に記入することであった。大学生201名を対象とした調査の結果が報告され、たとえば"トマト"に対しては、76%の調査対象者が本調査の色番号3番の色と対応するイメージを持っていることが示された。本研究の結果は、概念と色との連合に対する解釈に際し、客観的な指標を与えるデータベースとして活用されることが期待される。
著者
杉浦 隆
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.103-114, 2013-01-31

占領期における様々な改革の中で教育改革は最も大きいものの一つである。この改革にはCIEと教育刷新委員会が大きな役割を果たした。その中で「文化問題」を扱った、第11特別委員会の会議録を通して、戦後の外国語教育政策に関する議論を概観し、いくつかの問題提起を行う。
著者
村井 尚子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.203-212, 2013-01-31

親や教師として我々は、なぜ子どもをケアするだろうか。ヴァン=マーネンはそれは非媒介的で直接的な出会いによるとし、その契機をレヴィナスの「顔」の到来という理論によって読み解く。レヴィナスによれば、他者との出会いとは、その人の「顔」を見ること、私を呼ぶその人の声を聞くことである。そのことによって私は、不可避的に応答することを迫られる。つまりケアする責任を感じるのである。しかしデリダによれば我々は、いっときには一つのこと、一人の他者のことしかケア(気にかけることが)できない。他の多くのケアを必要としている他者への責任を担えないという事実は、我々に倫理的痛みをもたらす。しかし、ヴァン=マーネンはその痛みこそを大切にする。教師は特定の生徒の「顔」に向き合っていると感じ、その生徒について気にかけているからこそ、自分が責任を負っている多くの、ときに「顔のない」他の生徒すべてに対して繊細でいられるのである。
著者
武田 雅子 岡村 眞紀子 岡村 眞紀子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.117-122, 2012-01-31

原著Ryme's Reason [Rhyme's Reason]は、詩、特に英語の詩・韻文の法則、またその特質を、実際に詩を使って分かりやすく説明した書である。「詩」で「詩」を、「韻文」で「韻文」を説明するところが、本著の特色であり、面白くユニークなところである。そこがまた翻訳を困難にしてもいるのであるが。本稿はその冒頭「詩とは何か」から「韻律について」の前半部分の翻訳である。「詩」は、我々の生に不可欠なものとして確と存在するが、その定義は不可能に近い。一方、「韻文」はまず、その韻律から説明が可能になる。英詩はヨーロッパ古典の伝統に則りつつも、言語の特質の違いから、韻律の拠って立つところが、音節の「量」(quantity)から「強さ」(stress)へと大きく変化し、独自性を形成した。その独自性を活かした韻律をiamb(弱強格)、trochee(強弱格)、spondee(強強格)、dactyl(強弱弱格)、anapest(弱弱強格)と分類する。また行における「歩」の数からも説明が可能となり、iambic pentameter(弱強五歩格)といったふうに詩型は定義付けられる。
著者
塚口 眞佐子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.159-173, 2013-01-31

1920-30年代の社会背景からモダンデザイン史を読み解くシリーズの7稿目である。今稿は英国のモダン住宅事情を取り上げる。30年代を迎える頃に、英国では最初のモダン住宅がようやく姿を見せ始める。大陸ヨーロッパとは周回遅れと言ってよいだろう。特に伝統的住宅に強く固執する国民性の中、どのような層が設計者として住まい手として計画に加わったのか。そこにはコスモポリタニズムという共通項が、極めて明白に浮かび上がる。さらに、集合住宅が労働者階級向けと概念されていた大陸と異なり、進歩的知識人の入居を想定して計画された集合住宅が、初期の頃から誕生する特異性がみられる。入居者もまたコスモポリタニズムへの親和性を見せる層であった。前稿で取り上げたナチスを逃れ英国に亡命した左派芸術家やユダヤ人建築家が移り住んだのも、これらの集合住宅であった。今稿では、ハイポイント、ウィロウロードの家、ローンロード・フラッツ、この3件の事例を紹介し、稿を改めて事例を追加し総括を行うこととする。