著者
瀬沼 文彰
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.45-59, 2014

若い世代は、他の世代に比べよく笑っていると言われる。他の世代に比べて楽しいことも多いのかもしれないが、筆者がフィールドワークをしているとそこには少なからず不自然な笑いが見え隠れしていた。笑い合うことで仲間同士、安心し合ったり、実際は「つまらない」と感じているのにも関わらず空気を読んで笑って楽しいふりをしてみたり、まじめな話を避けるためにふざけてばかりいる若者もなかにはいた。これらの笑いは、楽しいから/面白いから笑うというよりもその場の状況や空気に合わせて笑っているように思える。感情はもっと自然であってもいいのではないだろうか。本稿では、若い世代のこうした笑いに着目し、その実態を抽出しつつ、整理し、そこから読み取れる意味を感情社会学の枠組みから考察することが最大の目的である。こうした考察を通して、現代人の笑いのあり方を問い直すことにしたい。
著者
高岡 しの
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.63-74, 2015

本研究は、他者と関わる際にストレスを感じるような場面(以下、対人ストレス場面)のシナリオを用いて、ストレス対処のために産出された具体的なユーモアについてボトムアップ的に分類することを目的とした。大学生396名を対象に、対人ストレス場面を提示し、自身がおもしろおかしく過ごすためにどう考えるかを自由記述で尋ねた。得られた回答についてKJ法を参考に分類した結果、大きく5つのカテゴリーにまとめられた。5つとは、他者を積極的に楽しませようとする「遊戯的ユーモア対処」、相手からの行動を引き出して場を和ませようとする「受動的ユーモア対処」、自らの欠点をさらそうとする「自虐的ユーモア対処」、皮肉やからかいなどの他者に対する攻撃性を含むような「攻撃的ユーモア対処」、話の内容を先読みするなど自分で楽しみを見出すような「自己中心的ユーモア対処」であった。人は場面によってユーモアを使い分けて対処していること、得られたユーモア対処のカテゴリーは、理論的に提唱されたMartin et al.(2003)のユーモアの機能的分類と類似していることも明らかとなった。
著者
長島 平洋
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.79-89, 2009-07-11 (Released:2017-07-21)

土子金四郎著「洒落哲学」は日本最初の笑い学研究である。「洒落哲学」の内容、成立事情を説明する。「洒落哲学」を批判した大西祝の「洒落哲学を評す」の摘要を示し、最後に大西祝の論文「滑稽の本性」の内容を示して、「洒落哲学」が近代日本での笑い学研究の魁であることを証明する。付では「洒落哲学」のうち洒落の種類を表にして紹介する。
著者
やまだ りよこ
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.49-55, 2020 (Released:2021-04-19)

日本笑い学会の研究企画の一環として昨年から「聞き書き」に取り組んでいます。ジャンルを問わず制作や研究など活動を通して長く「笑い」に携わり、同時に、歩みそのものが表からは見えない一つの分野の歴史の側面や裏面を物語る・・、そんな方々にお話を聞いておきたい、体験談を記録に残したいと手探りでスタートした「拾遺録」です。 関西の演芸、特に漫才はめまぐるしい時代の変容と呼応して変化を遂げていますが、活動した時代がほぼ重なる大瀧哲雄さんの道筋と現場で得た哲学からは、普遍的な笑芸の本質も垣間見えてきます。通常の研究ノートとは異なる一人語りのしゃべり言葉でまとめていますが、一貫した笑芸への情熱が伝わり、「笑い」の力も間接的に示してくれているように思います。
著者
佐々木 沙和子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.39-47, 2020 (Released:2021-04-19)

本研究は、発達障がい幼児と保育者との笑いを伴う関わり合いに関する実践を行い、幼児の言葉の拡がりに着目してその変化を検証することを目的とした。児童発達支援センターに通所する幼児と担当保育者との関わり合いの記録を分析した。その結果、笑いを伴う関わり合いによって幼児が言葉で意思を伝えたいという思いが強まり、本人なりの言葉の拡がりが見られた。本研究を通して、保育者による本人の興味・関心に合わせた寄り添い方に重点を置いた取り組みの必要性と共に、笑いを伴う発達支援の可能性について示唆された。
著者
石田 聖子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.3-16, 2017 (Released:2018-01-13)

二十世紀初頭ヨーロッパに興ったアヴァンギャルドでは悉く笑いが称揚された。笑いは転換期に相応しい表現を創造する格好の契機と考えられたためだ。イタリアでは未来主義者アルド・パラッツェスキが宣言「反苦悩」を執筆し、笑いと創造の関係を鋭く照射した。本稿では、諸アヴァンギャルドのうち、ダダ、シュルレアリスム、未来派の宣言と理念の検討を通じて笑い認識を創造性との関連で探る。ダダ、シュルレアリスムにおいて笑いは主に伝統的な価値を揺るがせ無効化する手段として注目された。他方、未来派宣言「反苦悩」では、伝統的価値観が一掃された後、新たな価値を白紙状態から創造する手法が説かれた。アヴァンギャルドの時代に「反苦悩」が訴えたのは笑いの有用性に加え、人間と身体、そしてその笑いとの関係においてもひとつの転換点を迎えた事実であった。本稿ではまた「反苦悩」の一部を本邦初訳して紹介 する。
著者
石田 万実
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.45-57, 2021 (Released:2022-03-31)

男性が中心となってきた日本の笑いにおいて、女性の感覚が取り入れられ、女性の「本音」が語られたとき、どのようなことが表現されているのか、「女のホンネ」をテーマにしたNHK総合の番組『祝女』を事例に、放送当時の意識調査を参照しながら分析、考察を行った。 分析の結果、様々な状況や立場にある女性の恋愛や結婚に対する「本音」が笑いとともに表現されていることがわかった。家事役割や尽くすことなど従来の「女らしさ」への抵抗が見られる一方で、男性には従来の「男らしさ」を求めるといった女性の矛盾した「本音」が表れていた。しかし恋愛や結婚にテーマが集中しており、当時の調査で「男性の方が優遇されている」と感じている人が多かった職場をはじめとする社会の様々な場における女性の境遇に対する「本音」はほとんど語られていなかった。