著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.90-106, 2018 (Released:2018-12-27)

動物ショーやテレビ番組に出演するチンパンジー・パンくんの映像作品を用いて、パンくんの感情表出についての分析を行った。映像作品でのパンくんは、着衣で二足歩行を行うことが多く、自然なチンパンジーの姿とは大きく異なっていた。テレビ番組用の映像と動物ショーの本番の映像では、それ以外の動物園などでの映像と比べて、チンパンジー本来の姿とのズレが大きく、感情表出に関しては、ポジティブな笑顔や笑いの表出よりも、恐怖・不安・不満といったネガティブな表出が多い傾向があった。とくにテレビ番組では、パンくんに試練を課し、不安やストレスを与えるシーンもしばしば見られた。このようなパンくん自身の感情表出以外に、テロップ、ナレーションや、チンパンジーの音声の追加によって、パンくんの感情を演出または改変する場面もあった。以上の結果を元に、ショーやテレビにチンパンジーが出演することの問題点について議論した。また、動物の福祉を考える上で、笑いや遊びに注目する意義について考察した。
著者
大平 哲也
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.3-18, 2020 (Released:2021-04-19)

笑いと健康に関する研究はここ数十年で飛躍的に報告数が増えてきた。それに伴い研究手法及び研究対象についても変遷がみられるようになってきた。そこで本稿では、2010年以降の笑いと身体心理的健康及び疾病との関連について文献的レビューを行うとともに、今後の課題を提示することを目的とした。文献検索の結果、うつ症状、不安、睡眠の質に関する無作為介入研究が複数行われるようになり、エビデンスレベルの高いメタ分析もいくつか報告されていた。また、生活習慣病、要介護等の身体疾患への影響も前向き研究での報告が増えてきた。これらの研究を、観察研究(①笑いと死亡、要介護との関連、②笑いと生活習慣病との関連、③笑いと認知機能との関連)、及び介入研究(①笑いが生活習慣病・身体的指標に及ぼす効果、②笑いが心理的指標に及ぼす効果)に分けて研究内容を概説した。加えて、日常生活において笑いを増やすことに関連する因子についても文献をもとに考察した。本研究の結果、笑いはストレス関連疾患及び生活習慣病など様々な疾患の予防・管理に有用である可能性があることが示唆された。
著者
西田 元彦 大西 憲和
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.27-33, 2001-07-14 (Released:2017-07-21)
被引用文献数
1
著者
池田 正人
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.42-55, 2018 (Released:2018-12-27)

乳児の微笑には、外部刺激がなくても睡眠中に出現する自発的微笑と、外部刺激に反応して起こる外発的・社会的微笑がある。先行研究では、自発的微笑が成長に伴い社会的微笑になるという立場と、2つの微笑は並存し、置き換わるわけではないという立場がある。 本研究は、1名の乳児から自発的微笑と、養育者による外部刺激を提示したときの外発的・社会的微笑を週1回以上の間隔で測定し、成長に伴う微笑反応数の変化や、微笑時の顔の形態等から2つの微笑の関係を調べた。 週齢0週から51週まで1年間調べた結果、自発的微笑の頻度は出生直後の高水準が、週齢13週以降減少するのに対して、外発的・社会的微笑は週齢13週までの間増加した。その後は、どちらの微笑も頻度は減りながら併存していた。また、出生後から1年間通して、自発的微笑は口を閉じ、外発的・社会的微笑は口を開けるという形態の違いが見られたことから、2つの微笑は出生時から質的に異なるものであると考えた。
著者
丸毛 美樹
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.19-33, 2015-08-01 (Released:2017-07-21)
被引用文献数
1

2005年から2006年にかけて『ユランズ・ポステン』を発信源として起きた「ムハンマドの風刺画」問題が、今回は『シャルリ・エブド』を中心として繰り返された。この問題をめぐって、「表現の自由」やイスラームに関する様々な議論がわき起こった。本稿では、「表現の自由」をめぐる問題、イスラーム世界の現状、フランス社会におけるムスリムの状況を概観する中で、主として風刺の成立する枠組みという観点から「ムハンマドの風刺画」問題について考察する。今回の事件において問題とすべきなのは「表現の自由」とイスラームという宗教との対立ではない。風刺は弱者を抑圧する力ではかなわない相手(権力者や権威)の悪行や腐敗、矛盾などを暴くために用いられる、機知と悪意の融合した抵抗の表現である。すでに社会的排除に苦しんでいる人々をただ愚弄することのみが目的のように見える、社会的弱者に向けられる悪意の表現は、嘲笑のための表現にしかならない。「ムハンマドの風刺画」はそもそも風刺として成立していなかったのだと言えよう。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.90-106, 2018

動物ショーやテレビ番組に出演するチンパンジー・パンくんの映像作品を用いて、パンくんの感情表出についての分析を行った。映像作品でのパンくんは、着衣で二足歩行を行うことが多く、自然なチンパンジーの姿とは大きく異なっていた。テレビ番組用の映像と動物ショーの本番の映像では、それ以外の動物園などでの映像と比べて、チンパンジー本来の姿とのズレが大きく、感情表出に関しては、ポジティブな笑顔や笑いの表出よりも、恐怖・不安・不満といったネガティブな表出が多い傾向があった。とくにテレビ番組では、パンくんに試練を課し、不安やストレスを与えるシーンもしばしば見られた。このようなパンくん自身の感情表出以外に、テロップ、ナレーションや、チンパンジーの音声の追加によって、パンくんの感情を演出または改変する場面もあった。以上の結果を元に、ショーやテレビにチンパンジーが出演することの問題点について議論した。また、動物の福祉を考える上で、笑いや遊びに注目する意義について考察した。
著者
石田 万実
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.32-44, 2014-08-02 (Released:2017-07-21)

本稿は、日本のお笑い番組において登場人物がどのように表現されてきたのかを分析し、笑いの中にどのようなメッセージがあるのか、また、男性が女性を演じる「女装」がどのような役割を持つのかを明らかにすることを目的としている。このため、日本のコミックバンド「ザ・ドリフターズ」が出演したコント番組、『8時だョ!全員集合』と『ドリフ大爆笑』のDVDを研究対象とし、内容分析を行った。分析の結果、ザ・ドリフターズのコント番組では、ジェンダーに関する当時の価値観や秩序が笑いとともに再生産され、メッセージとして視聴者に伝えられていた傾向があることがわかった。その中で女装は主に、男性が「女らしさ」「母親らしさ」を演じ、笑いをおこすために利用されていた。しかし一方で、女性が女性を演じる場合は表現されない「女性に期待される役割の風刺」は、男性が女装をすることによって可能となっていた。
著者
青砥 弘幸
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.47-61, 2015-08-01 (Released:2017-07-21)

本研究は、学校教育における「ユーモア能力」育成の在り方を検討していくための基礎的な知見を得ることを目的として、大学生に対して実施した「「笑い」に関する意識調査」の結果をもとに、現代の若者の「笑い」に対する意識や実態、その課題についての考察を行うものである。特に(1)人間関係形成力としての笑い、(2)レジリエンスとしての笑い、(3)言語能力としての笑い、(4)伝統文化としての笑い、(5)笑いによる過剰な攻撃、(6)笑いに関する判断力の不足、(7)笑いによる呪縛、(8)笑いによる逃避、の8つの観点から検討を行った。その結果、これまで印象論的に語られることの多かった現代の若者の「笑い」に関する実態や課題について具体的な知見を生み出すことができた。
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.122-127, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)

笑いに関する質問紙調査を通して、大学生および大学院生(以下、大学生)における笑いの性差について検討した。24の質問について、19歳〜25歳の大学生108名(男性50名,女性58名)の回答を分析、比較した。6男性の平均年齢は20.82歳(SD=1.38)、女性の平均年齢は20.43歳(SD=0.62)であった。その結果、女性は男性よりも、人をバカにする笑いを好ましく思っていなかった。また、女性は、笑うことは健康につながると思っており、「笑い」を色に例えると暖色系だと感じる傾向がみられた。一方、男性は、異性を笑わせたいと思う欲求が女性よりも強いという結果が示された。本調査は、大学生という発達段階の一部の対象者を取り上げた結果ではあるが、笑いやユーモアの研究を進めるにあたっては、対象者の男女構成比に配慮し、得られた結果についても性差の影響を考慮に入れる必要性が示唆された。
著者
森田 亜矢子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.17-41, 2018 (Released:2018-12-27)

本稿では、心理的援助に関する笑い研究とユーモア研究について、1900年以降に英語と日本語で出版された学術論文を整理し、研究の動向を記述した。論文の検索には、PsycINFOデータベースとPsycArticlesデータベース、および、J-STAGEデータベースを用いた。得られた論文をキーワードで分類し、年代で整理して記述したほか、研究のアプローチや内容にもとづいて、(1)病者に特有な笑いやユーモアの特徴に関する研究、(2)心理療法の技法としての笑いやユーモアの可能性を論じる研究、(3)パーソナリティ特性としての笑いやユーモアと精神的健康との関わりに着目する研究、(4)ユーモアのストレス緩和効果に関する研究、(5)心理的資源をもたらす笑いやユーモアの作用に着目する研究、の5つに大別して記述した。また、今後の課題として、「ユーモアの社会的作用についての検討」、「プロトコルの作成」、「因果関係の明確化」、「効果の検証」、「作用機序の解明」の5つを挙げ、それぞれについて述べた。笑いやユーモアを用いて行う心理的援助は、およそ60年の研究の蓄積を経て、発展を続けている。その対象は、精神疾患や身体疾患を有する人々から健常者まで幅広い。研究手法については課題が残されているが、慢性的な疾患を抱える人々にとって、長く続く治療を楽しいものにする笑いやユーモアには、期待が集まっている。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.5-18, 2014-08-02 (Released:2017-07-21)

ヒトはなぜ笑うのだろうか?古くから数多くの研究者が取り組んできた問いだが、その答えは未だに完全に明らかになったとは言えない。この問いには、視点の異なる様々な内容が含まれている。この壮大な問いの答えに近付くためには、まず、この問いに具体的にどのような論点が含まれているかを整理する必要がある。そこで本論では、ニコ・ティンバーゲンが提示した「行動に関する4つのなぜ」の分類を参照しながら、笑いに関する研究の論点の整理をおこなった。具体的には、近接要因(笑いの発生要因・メカニズム)、究極要因(生存・繁殖上の機能)、発達過程、進化史の4つの視点について、どのような研究がおこなわれているかを概観した。それぞれの領域において、どのような問題が未解決のまま残されているかにも触れた。究極要因と進化史についての研究がやや遅れているが、今後の発展の余地が大きく残されていることを示した。
著者
大島 希巳江
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.14-24, 2011

欧米などの低コンテキストな多民族社会と、日本のような高コンテキスト社会では人々の間で語られるジョークや笑い話の種類およびスタイルが異なる。コミュニケーションにおいて必要とされる要素がそこにはあらわれると思われる。そこで2010年4月から2011年3月の1年間で「日本一おもしろい話」プロジェクトを運営し、サイト上で日本各地からおもしろい話を募集した。毎週、投稿された話をサイトに掲載し、おもしろいと思う話に投票してもらうというシステムをとり、日本人がおもしろいと感じる話を分析することを試みた。その結果、560の有効な投稿があり、1949票の投票がされた。投票により、毎月のトップ10までを決定し、それらの話の分類と分析を行ったところ、多くが投稿者の体験談であることがわかった。全体としては言い間違いや同音異義語を使った、言葉に関する話が最も多かった。また、年代でみるとおもしろい話の多くは40代、50代、30代からの投稿であった。性別でみると、女性は突発的な偶然から起きる言い間違い・聞き間違いなどに関する話が最も多く、男性からの投稿は作り込まれた言葉遊び、文化・社会を反映した笑い話などが多いことがわかった。今回のプロジェクトで日本人のユーモアの傾向が一部明確になり、また今後の研究の貴重な資料になると考えている。
著者
山田 英徳
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.86-95, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)

欧米では80年代ごろから笑いが治療法の一つとして認識されるようになった。また、笑いは病院や老人ホーム、小児病棟や福祉施設などで、心や身体の病気に対し癒しの効果を上げている。しかし、笑いの生理学的な分野からの解明や実践的試みがされてきているが、脳機能からアプローチした研究はほとんど皆無である。そこで、我々はこの笑いに注目し、特に微笑みというものが相手に対してどのように影響を与えているのかについて、脳血流量の測定を行った。その結果、検者が被検者に微笑みかけるだけで被検者の前頭前野の脳血流量が上昇することが分かった。そこで、初対面の人、顔見知りの人、親しい人など被検者と検者の関わる度合いによって、微笑みが相手に与える影響についてどうなるかを研究した。我々医療従事者は、患者さんと関わるときに微笑みかけることがある。医療従事者と患者さんとの関係において、この微笑みがどのようなものなのか考えてみる。
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.19-37, 2020 (Released:2021-04-19)

幼児期後期における嘲笑理解の発達について、他者感情理解、心の理論および道徳性の観点から検討するため、2つの実験を行った。実験1では、年少時に調査した年長児7名(男児3名,女児4名,平均年齢6歳4か月)に対し、感情理解課題、心の理論課題、笑いの攻撃性理解課題および絵画語い発達検査(PVT-R)の追跡調査を行った。実験2では、実験1の7名を含む年長児10名(男児6名,女児4名,平均年齢6歳4か月)を対象に、笑いの攻撃性比較課題を実施した。その結果、幼児期後期の嘲笑理解の発達には、語い年齢、他者の感情理解や心の理論、失敗を笑うことに対する道徳的判断および相手を失敗させる行為か否かを判断する故意性の理解が相互に関連している可能性が示唆された。嘲笑を含む笑いの攻撃性の理解には、高次の心の理論や道徳性の発達が絡んでいることから、本研究で用いた「笑いの攻撃性理解課題」と「笑いの攻撃性比較課題」について、笑われたことが原因でネガティブな感情になることを説明することや攻撃の意図を判断することは、高度な心の理論(AToM)の観点から検討していく必要があることが示唆された。
著者
二本松 直人 若島 孔文
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.72-89, 2018 (Released:2018-12-27)

本研究では、若者の特徴的なコミュニケーションのなかで頻繁にみられる攻撃的な笑いの受け手の反応・対処にはどのような種類が存在するのかを検討した。大学生・大学院生196名(有効回答数は183名,男性93名, 女性88名, 性別不明2名, M =20.21,SD =2.25)を対象に質問紙調査を行った。先行研究に基づいて収集・作成した攻撃的な笑いへの反応項目合計25項目について因子分析を行った結果、3因子が抽出された。1つ目は、相手と一緒になって自分をからかうような「協調反応」(α=.86)である。2つ目は、否定的な感情を相手に伝える「否定・拒否反応」(α=.73)で、3つ目は肯定とも否定とも捉えることのできない「曖昧反応」(α=.68)である。そしてコミュニケーション・スキル尺度とユーモア態度尺度によって、本尺度の併存的妥当性を確認した。その後、本尺度を用いたクラスタ分析を行い、「非笑い志向型(N=74)」、「真剣切り返し型(N=35)」、「芸人型(N=23)」、「雰囲気優先型(N=46)」の4つの具体的な反応像を見出した。本尺度については信頼性・妥当性の観点から修正されるべき項目や因子はあるものの、攻撃的な笑いの反応タイプの分類が若者に対する支援の一助として役立つ可能性は高い。