著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.90-106, 2018 (Released:2018-12-27)

動物ショーやテレビ番組に出演するチンパンジー・パンくんの映像作品を用いて、パンくんの感情表出についての分析を行った。映像作品でのパンくんは、着衣で二足歩行を行うことが多く、自然なチンパンジーの姿とは大きく異なっていた。テレビ番組用の映像と動物ショーの本番の映像では、それ以外の動物園などでの映像と比べて、チンパンジー本来の姿とのズレが大きく、感情表出に関しては、ポジティブな笑顔や笑いの表出よりも、恐怖・不安・不満といったネガティブな表出が多い傾向があった。とくにテレビ番組では、パンくんに試練を課し、不安やストレスを与えるシーンもしばしば見られた。このようなパンくん自身の感情表出以外に、テロップ、ナレーションや、チンパンジーの音声の追加によって、パンくんの感情を演出または改変する場面もあった。以上の結果を元に、ショーやテレビにチンパンジーが出演することの問題点について議論した。また、動物の福祉を考える上で、笑いや遊びに注目する意義について考察した。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.90-106, 2018

動物ショーやテレビ番組に出演するチンパンジー・パンくんの映像作品を用いて、パンくんの感情表出についての分析を行った。映像作品でのパンくんは、着衣で二足歩行を行うことが多く、自然なチンパンジーの姿とは大きく異なっていた。テレビ番組用の映像と動物ショーの本番の映像では、それ以外の動物園などでの映像と比べて、チンパンジー本来の姿とのズレが大きく、感情表出に関しては、ポジティブな笑顔や笑いの表出よりも、恐怖・不安・不満といったネガティブな表出が多い傾向があった。とくにテレビ番組では、パンくんに試練を課し、不安やストレスを与えるシーンもしばしば見られた。このようなパンくん自身の感情表出以外に、テロップ、ナレーションや、チンパンジーの音声の追加によって、パンくんの感情を演出または改変する場面もあった。以上の結果を元に、ショーやテレビにチンパンジーが出演することの問題点について議論した。また、動物の福祉を考える上で、笑いや遊びに注目する意義について考察した。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.5-18, 2014-08-02 (Released:2017-07-21)

ヒトはなぜ笑うのだろうか?古くから数多くの研究者が取り組んできた問いだが、その答えは未だに完全に明らかになったとは言えない。この問いには、視点の異なる様々な内容が含まれている。この壮大な問いの答えに近付くためには、まず、この問いに具体的にどのような論点が含まれているかを整理する必要がある。そこで本論では、ニコ・ティンバーゲンが提示した「行動に関する4つのなぜ」の分類を参照しながら、笑いに関する研究の論点の整理をおこなった。具体的には、近接要因(笑いの発生要因・メカニズム)、究極要因(生存・繁殖上の機能)、発達過程、進化史の4つの視点について、どのような研究がおこなわれているかを概観した。それぞれの領域において、どのような問題が未解決のまま残されているかにも触れた。究極要因と進化史についての研究がやや遅れているが、今後の発展の余地が大きく残されていることを示した。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.20, pp.17-31, 2013-08-31

産まれたばかりの新生児は、睡眠中にときおり「自発的微笑」と呼ばれる笑顔に似た表情を見せる。ヒトの胎児や、チンパンジーの新生児にもこの表情が見られることがわかっている。本稿では、この自発的微笑にとくに注目しながら、新生児と乳児の笑いの発達と進化について論じた。前半で、ヒトとチンパンジーの自発的微笑と社会的微笑の発達過程についてまとめた。後半ではいくつかの末解明の問題に焦点を当てて考察し、今後の研究の課題と展望を示した。(1)自発的微笑は快の表出なのかどうか、(2)自発的微笑と社会的微笑は発達上どのような関係にあるのか、(3)自発的微笑はなぜ進化したのか(どのような機能を持つのか)という問題について考察した。さらに、チンパンジーとの比較を元に、見つめ合いのコミュニケーションの発達が、ヒトの笑いの表出と他者の笑いへの反応性に大きな変化をもたらした可能性があるということについて論じた。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.21, pp.5-18, 2014-08-02

ヒトはなぜ笑うのだろうか?古くから数多くの研究者が取り組んできた問いだが、その答えは未だに完全に明らかになったとは言えない。この問いには、視点の異なる様々な内容が含まれている。この壮大な問いの答えに近付くためには、まず、この問いに具体的にどのような論点が含まれているかを整理する必要がある。そこで本論では、ニコ・ティンバーゲンが提示した「行動に関する4つのなぜ」の分類を参照しながら、笑いに関する研究の論点の整理をおこなった。具体的には、近接要因(笑いの発生要因・メカニズム)、究極要因(生存・繁殖上の機能)、発達過程、進化史の4つの視点について、どのような研究がおこなわれているかを概観した。それぞれの領域において、どのような問題が未解決のまま残されているかにも触れた。究極要因と進化史についての研究がやや遅れているが、今後の発展の余地が大きく残されていることを示した。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.46-55, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)

動物の「笑い」に関するさまざまな記述を整理しながら、動物の行動を「笑い」と認める場合の基準について議論した。ある動物が「笑っている」ということを認めるためにはまず、その行動が生じる社会的文脈が、ヒトの笑いが生じる文脈と似ているということを示す必要がある。表情や音声などの行動形態の類似から、動物が「笑っているようだ」と思ってしまう例も多いが、それが見られる文脈にヒトの笑いとの類似性が認められない場合には、それを「笑い」と見なすべきではない。ヒトの笑いと進化的に同じ起源を持つ行動なのかどうかを問う場合には、行動の類似性だけでなく、種間の系統関係との対応についても検討する必要がある。ヒトの笑いと起源が同じと考えられる行動としては、仲間同士の遊びにおける類人猿の笑い声が挙げられる。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.17-31, 2013-08-31 (Released:2017-07-21)

産まれたばかりの新生児は、睡眠中にときおり「自発的微笑」と呼ばれる笑顔に似た表情を見せる。ヒトの胎児や、チンパンジーの新生児にもこの表情が見られることがわかっている。本稿では、この自発的微笑にとくに注目しながら、新生児と乳児の笑いの発達と進化について論じた。前半で、ヒトとチンパンジーの自発的微笑と社会的微笑の発達過程についてまとめた。後半ではいくつかの末解明の問題に焦点を当てて考察し、今後の研究の課題と展望を示した。(1)自発的微笑は快の表出なのかどうか、(2)自発的微笑と社会的微笑は発達上どのような関係にあるのか、(3)自発的微笑はなぜ進化したのか(どのような機能を持つのか)という問題について考察した。さらに、チンパンジーとの比較を元に、見つめ合いのコミュニケーションの発達が、ヒトの笑いの表出と他者の笑いへの反応性に大きな変化をもたらした可能性があるということについて論じた。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.19, pp.46-55, 2012-07-21

動物の「笑い」に関するさまざまな記述を整理しながら、動物の行動を「笑い」と認める場合の基準について議論した。ある動物が「笑っている」ということを認めるためにはまず、その行動が生じる社会的文脈が、ヒトの笑いが生じる文脈と似ているということを示す必要がある。表情や音声などの行動形態の類似から、動物が「笑っているようだ」と思ってしまう例も多いが、それが見られる文脈にヒトの笑いとの類似性が認められない場合には、それを「笑い」と見なすべきではない。ヒトの笑いと進化的に同じ起源を持つ行動なのかどうかを問う場合には、行動の類似性だけでなく、種間の系統関係との対応についても検討する必要がある。ヒトの笑いと起源が同じと考えられる行動としては、仲間同士の遊びにおける類人猿の笑い声が挙げられる。
著者
野村 亮太 石田 聖子 福島 裕人 森田 亜矢子 松阪 崇久 白井 真理子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.111-114, 2022 (Released:2023-02-27)

笑いに関する研究は世界中でおこなわれています。本欄では、英語で発表された笑い学の最近の研究成果を紹介しています。笑いに関する研究は、医学、心理学、社会学、哲学、文学、言語学、動物行動学など、多様な学問領域の専門雑誌に掲載されています。幅広い分野で展開されている世界の研究動向について共有することで、国内での笑い学の研究がさらに発展することにつながればと考えています。 本号では計6本の研究論文についての紹介記事を掲載することになりました。記事の執筆には、6名の研究者にご協力いただきました。どうもありがとうございました。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.18-32, 2016 (Released:2016-12-20)

乳幼児にとっての笑いの重要性を疑う者はいないだろうが、保育における笑いとユーモアの意義については、これまであまり議論がおこなわれてこなかった。そこで本稿では、保育実践において楽しい笑いを重視する意義について論じた。また、具体的にどのように乳幼児の笑いとユーモアの発達を援助すれば良いかを考察した。乳幼児の笑いは純粋で楽しいものが多いが、攻撃性を帯びる笑いや秩序を乱す笑いなど、負の側面を持つものもある。さらに、不満やストレスを反映した笑いもあることを考えると、子どもの笑いは多い方が良いとは一概に言えないことになる。これらの負の側面を持つ笑いに対して、保育者はどのように向き合えば良いかについても論じた。これらの議論を通じて、今後さらにどのような実証的な研究が必要かを提示した。
著者
松阪 崇久
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.431-446, 2008
著者
西田 利貞 中村 美知夫 松阪 崇久 松本 晶子 座馬 耕一郎 松本 晶子 座馬 耕一郎 島田 将喜 稲葉 あぐみ 井上 英治 松本 卓也
出版者
財団法人日本モンキーセンター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

採食、道具使用、毛づくろい、遊び、求愛誇示、威嚇誇示のいずれの分野でも文化的行動パターンが見られ、その発達過程の概要を明らかにすることができた。社会的学習のプロセスとして検討した「対角毛づくろい」は形式自体は母親によって「モールディング」で伝達される可能性が高いが、細かいパターンは試行錯誤で決まるようである。記録された40以上の新奇行動のうち、いくつかは「流行」と呼べる程度まで頻繁に観察されるにいたったが、文化として固定される確率は低いことがわかった。