著者
野村 亮太
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.5-15, 2021 (Released:2022-03-31)

本研究の目的は、落語家の師弟関係の系譜に対して、ネットワーク分析を適用することで、職業落語家が出現して以降の約230年に渡り続いてきた落語の師弟関係ネットワーク(i.e., 落語家ネットワーク)の特徴を定量的に明らかにすることであった。古今東西落語家系図を基礎資料としてネットワーク分析を行った結果、落語家ネットワークは平均次数2.00を示す木構造であり、かつ、スケールフリー性を有することが明らかになった。この結果から、新たな入門者が弟子になって落語家ネットワークが拡大する際に、優先的選択(Barabasi & Albert, 1999)というメカニズムが関与する可能性が示唆された。また平均次数が2.00であることからは、この状況が続けば、落語ネットワークが頂点(落語家)数を維持しながら、拡大し続けることが示唆された。最後に、今後の研究の展望として、落語家ネットワークをテンポラル・ネットワークとして分析する重要性について議論した。
著者
野村 亮太 石田 聖子 福島 裕人 森田 亜矢子 松阪 崇久 白井 真理子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.111-114, 2022 (Released:2023-02-27)

笑いに関する研究は世界中でおこなわれています。本欄では、英語で発表された笑い学の最近の研究成果を紹介しています。笑いに関する研究は、医学、心理学、社会学、哲学、文学、言語学、動物行動学など、多様な学問領域の専門雑誌に掲載されています。幅広い分野で展開されている世界の研究動向について共有することで、国内での笑い学の研究がさらに発展することにつながればと考えています。 本号では計6本の研究論文についての紹介記事を掲載することになりました。記事の執筆には、6名の研究者にご協力いただきました。どうもありがとうございました。
著者
やまだ りよこ
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.91-101, 2022 (Released:2023-02-27)

日本笑い学会の研究企画の一環として取り組んでいる「聞き書き」。長く「笑い」に携わり表からは見えない側面や裏面を知る、そんな現場にいた方の体験談を記録に残す<拾遺録>第二弾です。 今回は、上方漫才のレジェンドー夢路いとし・喜味こいしのマネージャーとしてお二人を長く支え続け、それ以前からも裏方として関西の笑芸界を間近で見つめてきた津田愼一さんの歩みを一人語りの形でまとめました。コロナ禍のため長い休止をはさんで2回計7時間におよんだインタビューは昭和の上方笑芸史を物語る貴重な回想録ともなり、そのため特別に「その1」「その2」にわけて構成。「その2」は次号に掲載します。
著者
鵜子 修司 成瀬 翔
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.53-69, 2022 (Released:2023-02-27)

現状、研究者たちがユーモアを明晰に定義できていないことは、批判されるべきである。この事実は、研究者たちが「ユーモアとは何か」について、非専門家の期待に応える知識を示せないというだけでなく、ユーモアを研究するための基本的な道具を持たないことをも意味している。これは約四半世紀前にWillibald Ruchが既に提起していた問題である(Ruch, 1998)。彼はこの問題を二つに改めている。すなわち、「これまで我々はどのようにユーモアを用いてきたか」および「我々はどのような科学概念としてユーモアを理解したいか」である。本稿では、これらを「Ruchの問題」と総称し、特に後者の問題に答えるため必要な議論のロード・マップを提示した。これはユーモアを定義するために、「どのような型を採るべきか」および「どのような要素を含めるべきか」という、二つの問いに大別された。これらは問題に対処するトップ・ダウン/ボトム・アップな方針に、それぞれ対応する。
著者
藍木 大地
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.37-52, 2022 (Released:2023-02-27)

本論文は、戦前に活躍したユーモア作家・辰野九紫が『新青年』に発表した「青バスの女」を取り上げて、それが受容された理由と、その作品の面白さ・斬新さについて考察した。辰野が『新青年』に初登場した1929年は、文壇としても読者としても「ユーモア小説」を希求していた時期だった。特に出版社は多くの読者を獲得するため、新たなユーモア作家の発掘が急務だった。講談社系の雑誌に多くの作品を発表していた佐々木邦の対抗馬として、『新青年』を発行する博文館が見出したのが辰野九紫であった。「青バスの女」に描かれた〈ユーモア〉は、風刺や登場人物のおかしさだけでなく、地の文に見られる様々な技巧により生み出されていた。「青バスの女」以降、辰野九紫は博文館の大衆向け雑誌『朝日』に作品を発表するなどして、戦前の「ユーモア小説」界で、佐々木邦・獅子文六とともにその普及に努めていくのだった。
著者
ハリト ムズラックル
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.17-35, 2022 (Released:2023-02-27)

トルコには、「メッダーフルック」(Meddahlık)という、一人の語り手が仕草や声色で複数の人物を造形し、聴き手の興を誘う話芸があった。語り手であるメッダーフ(Meddah)は、「人々の暮らしの中の滑稽な場面を鋭い観察眼とともに再現しリアルな場面を表現」していた(Jacob 1904:13)。メッダーフルックは会話を中心とした表現方法で物語を進め、聴き手を想像の世界へ導いていた。宗教や聖人伝説を語ることからスタートしたメッダーフルックであったが、次第に宗教色が薄れ、人々の実生活にかかわる噺が増えた。しかし、20世紀に入ってから、娯楽の多様化や西洋演劇の受容によってほんのわずかに演じられる程度にまで衰退し、メッダーフルックを職業とする語り手が現在ではほとんどいなくなった。 本研究では、落語の口演形式との比較の上で、メッダーフルックの構造分析を行い、落語とメッダーフルックには共通する要素が多くあることを明らかにした。また、歴史的な背景の分析も行った結果、メッダーフルックと落語の成立に「宗教性」が関与しているという点においても共通していることを検証した。
著者
青砥 弘幸
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.3-16, 2022 (Released:2023-02-27)

本稿では、学級におけるクラスクラウンの意味や役割について、まず、海外における先行研究を確認した。そこでは、クラスクラウンとは、継続的に学級に笑いをもたらす児童生徒であり、さらに「反抗的クラウン」と「遊戯的クラウン」という区別の必要な2つのタイプが存在していることが明らかにされていた。特にこのうちの「遊戯的クラウン」は文化人類学における「トリックスター」概念との関連性が非常に高いと考えられる。そこで、共同体におけるトリックスターの社会的役割に関する知見を援用して検討することで、クラスクラウンが、学級に内在する学校教育的な秩序や規範である「教室秩序」からの逸脱行為により、それを相対化し、共同体としての学級に変化をもたらす存在である可能性が指摘された。その変化として「教室秩序の破壊」「教室秩序の維持・強化」「教室秩序の創造」の3パターンを示した。
著者
影山 貴彦
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.91-99, 2010-07-10 (Released:2017-07-21)

映画「ディア・ドクター」。昨年、2009年に劇場公開されたこの作品は極めて高い評価を各界より受け、多くの賞を受賞している。本論文においては、「ディア・ドクター」を題材として取り上げ、作品がより優れたものになった大きな理由として「笑い」を掲げ、その仮説提起によって論を進めたものである。作品の原作・脚本・監督を手がけた西川美和、そして本作品で主演を務めた老若男女を問わず人気を博している芸人・笑福亭鶴瓶という二人をキーワードに据え、互いを具に考察するなかで、両者の出会い、キャラクターの絡み合いが、映画に独特の化学反応とも呼ぶべき相乗効果を生み出したと唱えている。また、作品における「脚本・演出の笑い」と「演者のアドリブの笑い」についても言及し、それぞれの「笑い」の存在が反発することなく融合したことにより、作品に極めて効果的な深みを生み出す結果となった、と展開させている。
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.12-23, 2009-07-11 (Released:2017-07-21)

本研究の目的は、自然言語処理技術を援用して、熟達した噺家の語りに〈核〉として現れる中心的な概念を明らかにすることである。インタビューの逐語記録(芸談)をデータとし、複数の語が同一の文に同時に含まれるという共起情報を利用して、語によって表現される信念どうしの相互関係を推定し、信念地図を作成した。この手法は、先入観によるバイアスや見落としの危険性を低減させ、噺家の信念地図の時系列的な変化や師匠と弟子とのあいだの信念地図の類似性を客観的・定量的に検討することを可能にするものである。
著者
高橋 恵子 田松 花梨 松本 宏明 鮎川 順之介 今泉 紀栄 三道 なぎさ 柳生 奈緒 栗田 裕生 長谷川 啓三 若島 孔文
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.3-17, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)
被引用文献数
1

東日本大震災の発災後に被災者自身の手によって行われた「震災川柳」の取り組みについて、参加者が震災川柳の心理的効果をどのように認知していたかを明らかにし、今後の災害後の心理的支援を検討する手がかりを得ることを目的とする。本研究は、調査1(インタビュー調査)と調査2(質問紙調査)によって構成される。調査1では、震災川柳の役割には5つのカテゴリーがあることが示され、さらに、個人内/個人間において効用を持つことが考えられた。さらに調査2では、震災川柳を自ら詠む人(投稿参加)と発表される川柳を聞く人(傍聴参加)という参加形態と、心理的効果の認知との関連を検討した。その結果、投稿参加、傍聴参加ともに、震災川柳により「明るい気持ちになる」ことが分かった。これらのことから、震災という非常事態において、震災川柳が心理的支援の一つの形態として有効である可能性が示唆された。
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-45, 2016

青年期における笑いに対する意識や態度の性差について多角的に検討するため、笑いに対する積極性尺度を作成し、ユーモア志向性および笑わせたい相手との関連から考察した。笑いに対する積極性尺度の作成にあたり、18 ~ 31 歳の大学生261 名(男性70 名,女性191 名; M = 19.37,SD =1.37)の回答を分析した結果、最終的な笑いに対する積極性尺度は第1因子から第4 因子の「笑いに対する好感」「笑わせ欲求」「笑いに対する自信」「お笑いへの親しみ」の4因子で構成された。性差を検討したところ、男性の方が「笑わせ欲求」の得点が高く、恋愛関係にある相手を笑わせることを女性よりも重視していることが確認された。一方、女性は男性よりも「笑いに対する好感」の得点が高かったことから、日常的に笑いがある生活をより重視し、コミュニケーションに笑いがあることを望むからこそ、笑わせてくれる相手やよく笑う他者を魅力的だと感じている可能性が示唆された。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.18-32, 2016 (Released:2016-12-20)

乳幼児にとっての笑いの重要性を疑う者はいないだろうが、保育における笑いとユーモアの意義については、これまであまり議論がおこなわれてこなかった。そこで本稿では、保育実践において楽しい笑いを重視する意義について論じた。また、具体的にどのように乳幼児の笑いとユーモアの発達を援助すれば良いかを考察した。乳幼児の笑いは純粋で楽しいものが多いが、攻撃性を帯びる笑いや秩序を乱す笑いなど、負の側面を持つものもある。さらに、不満やストレスを反映した笑いもあることを考えると、子どもの笑いは多い方が良いとは一概に言えないことになる。これらの負の側面を持つ笑いに対して、保育者はどのように向き合えば良いかについても論じた。これらの議論を通じて、今後さらにどのような実証的な研究が必要かを提示した。