著者
小西 瑞穂 山田 尚登 佐藤 豪
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-38, 2008-09-30
被引用文献数
2 7

自己愛人格傾向がストレスに脆弱な素因であるかを検討するために,大学生174名(男性72名,女性102名)を対象として縦断的調査を行った。自己愛人格傾向の高い者は最近1ヶ月以内のストレッサー経験量が多いと精神的健康が低下するという仮説を立て,精神的健康のネガティブな側面をストレス反応,ポジティブな側面をハッピネスとして測定した。階層的重回帰分析の結果,自己愛人格傾向の高い者がストレスイベントを多く経験した場合,男性では抑うつ反応および自律神経系活動性亢進反応,女性では身体的疲労感が増加し,一方ストレスの少ない状況ではこれらのストレス反応が自己愛人格傾向の低い者や平均的な者に比べて最も少なかった。つまり,自己愛人格傾向には個人の精神的健康を部分的に支える働きがあるが,それはストレスの少ない状況に限定されたものであり,ストレスの多い状況ではストレス反応を生起しやすい,ストレスに脆弱な素因と考えられる。
著者
緒方 康介
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.118-126, 2011-11-30 (Released:2012-05-22)
参考文献数
15

本研究の目的は因子分析と多母集団同時分析を用いて,S-M社会生活能力検査における因子構造の不変性の確認と知的障がい児への適用に関して因子不変性を検証することである。児童相談所のケース記録から2歳から18歳までの知的障がいの有る/無い児童のデータ1,002名分(女児292名,男児710名)を抽出した。K式発達検査のDQを基に対象児童は,1)障がい無群,2)軽度群,3)中度群,4)重度群の4群に分類された。知的障がい児の場合,理論的な1因子モデルの因子構造の不変性は低くなった。一方,1因子モデルに替わるものとして2因子モデルの方が知的障がい児に対しての適合度が高かった。本研究知見により,S-M社会生活能力検査を知的障がい児に適用する場合には理論モデルとは異なったモデルを用いて社会生活能力を測定する必要があることが明らかとなった。
著者
外山 美樹
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-12, 2006 (Released:2006-10-07)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1 2

本研究の目的は,小学4年生,6年生ならびに中学2年生を対象とし,社会的比較を行った後,その個人に生じる感情や行動について発達的に検討すること,ならびにそれが個人のパーソナリティ特性とどう関連しているのかを検討することであった。領域別コンピテンス,競争心,情緒性のどのパーソナリティ特性が社会的比較によって生じる感情や行動に強く影響を及ぼすのかを検討するために,3つのパーソナリティ特性を説明変数に,社会的比較の結果下位尺度を各々基準変数とする重回帰分析を学年別に行った。本研究の結果より,社会的比較を行った後に,その個人に生じる感情や行動は,パーソナリティ特性や発達段階に応じて異なることがわかった。小学生(4年生ならびに6年生)においては,領域別コンピテンスが特に,社会的比較によって生じる感情や行動と強く関連していた。一方,中学2年生においては,競争心が社会的比較によって生じる感情や行動に影響を及ぼしていた。
著者
齊藤 千鶴
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.79-90, 2004
被引用文献数
7

本研究は,摂食障害傾向に及ぼす個人内要因と社会文化的要因を包括的に検討することを目的とした.321名の青年期と成人期の女性に,社会的変数としてやせ志向文化への態度と性役割観に関する尺度を,個人内変数として自尊感情と相互依存的自己概念に関する尺度を提示し,回答してもらった.その結果,"社会文化的な規範に過剰に適応しようとする自己理解が,自らの自尊感情を低下させて,摂食障害傾向を形成するであろう"という仮説モデルが支持された.これらの結果により,摂食障害がやせ志向文化と性別役割という社会文化的影響を受けることが明らかにされ,またその影響を受けやすくする個人の特性の一部を示すことができたといえよう.
著者
荒川 歩 原島 雅之
出版者
Japan Society of Personality Psychology
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-14, 2010

本研究では,ウェブログを対象として,そこで,「性格」という概念がどのような場合にどのように用いられているかを明らかにすることで,人にとって性格に言及することにどのような意味があるのかを明らかにすることを目的とした。合計24時間の間にアップされた714のウェブログから「性格」という言葉の用例を収集し,ボトムアップに分類した。その結果,他者の性格について言及したものは,17カテゴリ132個,自分の「性格」について言及したものは,26カテゴリ220個観察された。他者の性格については,先行研究において帰属の機能として指摘されていた解釈と予測という文脈に加えて,他者を一貫して,嫌なもの,または良いものとして主張するために,好きな–良い(または嫌な–悪い)性格といった感情的な評価の言及も認められた。他方,自己の性格については,統制不能なものとして理解され,他者にもそのように理解するように求める場合があることがうかがわれた。これらの結果から,パーソナリティ心理学ではあまり論じられていないが,一般の人の日常生活の会話においては重要な機能を果たす「性格」概念があることが明らかになった。
著者
小平 英志 小塩 真司 速水 敏彦
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.217-227, 2007-01-31
被引用文献数
7

本研究の目的は,対人関係で経験される抑鬱感情と敵意感情に焦点を当て,仮想的有能感と日常の感情経験との関連を検討することであった。調査1では,仮想的有能感尺度および自尊感情尺度が実施された。続く調査2では,大学生445名(男性238名,女性207名)を対象に,1日のうち印象に残っている対人関係上の出来事とそれに対する抑鬱感情・敵意感情を7日間に渡って記入するように求めた。その結果,他者軽視傾向が強く自尊感情の低い『仮想型』が,抑鬱感情,敵意感情の両方を強く感じていること示された。また,7日間の評定値の変動に関しても,他者軽視傾向が弱く自尊感情の高い『自尊型』と比較して大きいことが示された。本研究の結果から『仮想型』に分類される個人は,特に対人関係に関わる出来事に関して,日常から不安定で強い抑鬱感情,敵意感情を経験していることが示された。
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.117-128, 2010-01-31 (Released:2010-02-28)
参考文献数
25
被引用文献数
1 2

本研究では自己充実と競争という2種の達成動機と自尊心の高低・不安定性の2側面との関連を検討した。達成行動は自我脅威への脆弱性に阻害される。また,自尊心の高低と自我脅威への脆弱性の関係は,自尊心の不安定性に調節される。一般には高自尊心が達成行動に結びつくと考えられがちであるが,上記のことから自尊心の高低と達成動機の関係も,自尊心の不安定性に調節されると考えられる。大学生・大学院生57名を対象とした1週間の日誌法の調査により,この予測を検証した。その結果,自尊心が安定している場合は自尊心が高いほど自己充実的達成動機が強いことが示された。対照的に,自尊心が不安定な場合,自尊心が高いほど自己充実的達成動機が弱いという結果が得られた。一方,競争的達成動機については自尊心の高低・不安定性との関係が見られなかった。これら結果の理論的・実践的示唆について論じた。
著者
林田 太郎 佐藤 純
出版者
Japan Society of Personality Psychology
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-11, 2009
被引用文献数
3

本研究の目的は,これまで我が国の心理学において取り上げられることがなかった自己憐憫について,過去の事例研究や自由記述の結果をもとに概念を整理し,その結果に基づいた尺度を作成して実証的に検討することであった。研究1では,大学生に自己憐憫の経験を尋ね,自己憐憫とは日常的な場面でも生じるもので,その内容としては他者を意識した感情や反応があることが明らかにされた。研究2では,その結果をもとに自己憐憫尺度を新たに作成し,322名の学生を対象に質問紙調査を実施した。確認的因子分析の結果から,3因子モデルが妥当であることが確認された。また,α係数や再検査信頼性係数は十分な値を示し,信頼性が確認された。妥当性を検討するために統制感,孤独感,怒りの表出との相関を検討した結果,ある程度予想通りの結果が得られ,妥当性を確認することができた。
著者
谷(仙谷) 真弓 山崎 勝之
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-10, 2004-09-30

Locus of Control(統制の位置;以下LOC)は,これまでに児童の健康や行動上の問題との関連が数多く見出されている.子どもにおけるその測度では,標準化された質問紙がいくつか見受けられるが,それらの質問紙は,この領域の研究結果を混乱させるいくつかの欠点を持っている.そこで本研究では,新しい児童用外的統制性質問紙(GEQC)の開発を試みた.調査Iでは,4〜6年生466名の児童を対象に,因子構造の検討を行った.その結果,一因子構造が明らかとなり,計16項目が採用された.調査IIでは,4〜6年生1,349名の児童を対象にこの質問紙を実施し,加えて,担任教師による,外的統制性を強くもつ児童の指名(ノミネート)調査と児童自身による同特性の仲間評定調査を実施した.さらに,4〜6年生の児童205名に,約5週間の間隔で質問紙を2回実施し,再検査法による質問紙結果の信頼性についても検討した.こうして,調査IIでは,信頼性と構成概念的妥当性が検討された.その結果,本質問紙が構成概念的妥当性と安定性,内的整合性を兼ね備えていることが明らかになった.
著者
西村 佐彩子
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.183-194, 2007-01-31
被引用文献数
5

曖昧さに対する態度は,これまで曖昧性耐性の低さという,否定的態度を中心とした一次元的な観点から論じられてきた。本研究は,曖昧さへの態度を多側面から測定する尺度の作成を行い,適応との関連を検討した。研究1では,曖昧さへの態度尺度の因子分析を行った結果,曖昧さへの態度は,肯定的態度と否定的態度を含んだ,複数の側面(曖昧さの"享受","不安","受容","統制","排除")から構成されることが示唆された。研究2では,曖昧さへの態度と適応の関連を検討するため,適応の指標として,強迫傾向,抑うつ傾向,愛着スタイルを取り上げた。その結果,強迫傾向,抑うつ傾向,愛着スタイルの不安定型はそれぞれ曖昧さへの否定的態度との関連がみられたが,愛着スタイルの安定型は曖昧さへの肯定的態度との関連がみられた。曖昧さへの態度の各側面によって,適応との関連の仕方が異なることが示された。
著者
勝間 理沙 山崎 勝之
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-55, 2007-09-20
被引用文献数
1

本研究では,攻撃性について,反応的表出性攻撃,反応的不表出性攻撃および道具的関係性攻撃の3分類を用い,児童における3タイプの攻撃性から正負感情への影響を検証した。小学校4年生〜6年生718名を対象に,日本語版児童用正負感情尺度とP-R攻撃性質問紙を行った。その結果,不表出性攻撃の高い児童は低攻撃児よりも高いネガティブ感情を示したが,表出性攻撃児および関係性攻撃児においてはネガティブ感情との関係は見られなかった。この結果は,先行研究を支持するものであり,不表出性攻撃児の問題性をさらに強調し,将来の抑うつ対するネガティブ感情によるスクリーニングの可能性が論議された。
著者
荒川 歩 原島 雅之
出版者
Japan Society of Personality Psychology
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.194-207, 2009

刑事事件の判例文において「性格」という言葉がどのようなときにおいて用いられるのかについて探索的に検討した。裁判所ウェブサイト上の判例検索システムを用いて判例を抽出した。裁判年月日が平成8年1月1日から10年間の判例について,「性格」という言葉を含む刑事事件のみを対象とした。その結果182件が該当し,346のカードに分けられた。その内容をまとめると,被告人に関しては,「犯罪事実の認定や量刑判断には直接結び付けられていない経緯における記述」,「被告人の性格に基づく犯行理解」,「事件の背景としての被告人の性格」,「量刑判断の材料としての性格」の4つの側面で論じられており,それぞれで扱われる性格特徴も異なっていた。これらのことは,それが事実認定や量刑判断にどこまで影響しているかはわからないが,性格という概念が,事件を理解し,評価するうえで様々な側面で用いられていることを示すと考えられた。
著者
田中 麻未
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.149-160, 2006 (Released:2006-03-31)
参考文献数
36
被引用文献数
5 3 6

本研究は,個人内要因である身体的発達および,パーソナリティ特性と心理社会的要因であるネガティブ・ライフイベンツが,思春期の抑うつに及ぼす影響について検討した.中学生518名を対象にして身体的発達,パーソナリティ特性,そしてネガティブ・ライフイベンツからなる質問紙に回答してもらった.階層的重回帰分析の結果,Cloningerのパーソナリティ理論の気質因子である損害回避と友人問題に関するネガティブ・ライフイベンツの嫌悪感が,抑うつを高めることが明らかとなった.さらに,損害回避とネガティブ・ライフイベンツの嫌悪感との間に交互作用が見られた.この結果から,ネガティブ・ライフイベンツの嫌悪感が増加すると,損害回避の高い中学生は,損害回避の低い中学生よりも抑うつが高まることが示唆された.また,女子では,身体的発達と抑うつとの間に正の相関関係が示された.
著者
菊池 章夫 有光 興記
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.137-148, 2006 (Released:2006-03-31)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

628名の大学生の回答をもとに確認的因子分析を繰り返すことで,6つの自己意識的感情(対人的負債感・個人的苦痛・恥・罪責感・役割取得・共感的配慮)を測定する12シナリオ(場面)・72項目からなる尺度 (KA-JiKoKan-12) が構成された.この尺度の信頼性は,α係数・再テスト信頼性係数とも十分なものであった.その妥当性は,これらの感情に対応あるいは関連する他の特性的尺度(罪悪感喚起状況尺度・状況別羞恥感情質問紙・対人的反応性指標・心理的負債感尺度)および行動指標(攻撃性質問紙・向社会的行動尺度)との関係を分析することで検討された.得られた結果はいずれもおおむね満足すべきもので,この尺度が十分な妥当性を持つことを示していた.「全体的考察」では,こうした結果を背景にして,シナリオ方式の利点や問題点,この尺度が測定している感情の性質,弁別的妥当性の問題などが論じられた.