著者
宇都宮 浄人
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.133-140, 2019 (Released:2020-04-27)
参考文献数
17

日本では採算の合わない地域鉄道の運営に関して公的関与が議論されているが、財政事情等から模索が続いている。一方、地域鉄道の再生を進めるオーストリアをみると、法律上で、連邦と州の役割、インフラと運行サービスの両面に対する財政支援が明確に制度化されていることがわかる。また、オーストリア中部3州の予算書からは、近年道路建設・維持から公共交通関連に予算配分をシフトさせていることも確認できる。オーストリアの連邦と州の関係は、日本の国と県の関係と似通ったところもあり、日本の地域鉄道の再生と今後の運営に、オーストリアの制度や財政支援の方法は参考になるものと思われる。
著者
坂西 明子
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.165-174, 2010 (Released:2019-05-27)
参考文献数
12

1990年代に、京阪神都市圏では都心の雇用が減少し、郊外の外縁部の雇用が大きく成長する就業地の郊外化が生じた。地域間の雇用成長の差異は、都市圏全体としての通勤トリップ数と利用交通手段に影響を与えた。鉄道分担率の高い大阪市では男女とも雇用が減少し、郊外では女性の自動車を利用した通勤トリップ数が増えている。通勤トリップは就業に付随する派生需要であり、その動向を検討する上で、雇用の地域別変化や通勤者の属性と関連付けた考察が重要であることが示唆される。
著者
古畑 真美
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.113-120, 2014 (Released:2019-05-27)
参考文献数
5

現在、国際民間航空機関(ICAO)では、航空機内で行われた安全阻害行為を適切に取り締まるため、1963年「航空機内で行われた犯罪その他のある種の行為に関する条約」(通称、東京条約)を改正する議論が行われている。半世紀を経て東京条約の改正が必要とされるに至った背景には「規則に従わない乗客」(Unruly Passenger)の世界的な増加傾向がある。本稿では、現行法では対処が難しい「越境する安全阻害行為」に対する取り締まりのあり方について検討する。
著者
石島 佳代
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.109-116, 2019 (Released:2020-04-27)
参考文献数
25

2018年3月、自家用車利用率と大気汚染の抑制を第一の目的として、フランスの首都パリで公共交通の無料化案が発表されたが、同年10月、その実現の見送りが決定した。フランスでは現在およそ30の中・小規模都市で公共交通が無料化されている一方、大都市ではその実現は依然難しい。本稿では、パリにおける公共交通無料化構想の背景に特に焦点を当てて考察し、公共交通が公益性を追求して整備・運営されている実態、特に採算ではなく社会的利益を生む手段として重視されていることを明確に示す。
著者
松本 秀暢 堂前 光司
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.101-108, 2016 (Released:2019-05-27)
参考文献数
19

現在、我が国では自転車交通事故は年間約11万件発生しており、全交通事故件数の約2割を占めている。今後、運輸部門からの二酸化炭素排出量の削減に向けて、自転車利用は高まることが予想され、自転車交通安全対策の強化は急務となっている。本研究では、自転車交通事故死傷者数を説明するモデルを構築した上で、我が国における自転車交通事故の要因を分析した。そして、オランダの事例を紹介しながら、我が国におけるこれからの自転車交通安全対策について検討した。分析結果からは、特に自転車走行環境整備、そして自転車交通安全教育の推進が、自転車交通事故低減に効果的であることが明らかとなった。
著者
鈴木 裕介
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.115-122, 2021 (Released:2022-04-08)
参考文献数
11

わが国では2017年5月に自転車活用推進法が施行され、国や地方自治体によって、交通体系の1つとして自転車の活用が推進されている。しかし、自転車の活用が進む中で、自転車事故は無視すべきではない問題である。確かに近年の自転車事故は、交通事故全般の発生件数と同様に減少傾向にあるが、自転車事故の社会的費用は2018年で3,444億円と推定され、自転車事故の発生をいかに抑制していくかという課題とともに、自転車事故の被害をいかに減らしていくかという施策も議論しなくてはならない。そこで本稿は、自転車事故の対策として、海外でも導入事例があり、国内でも導入が検討されている自転車用のヘルメットの着用施策に焦点をあて議論を進める。具体的には18歳以下及び75歳以上の自転車運転者に対し、頭部を保護するヘルメットの着用義務化を行った場合の効果を分析する。そしてヘルメット着用に関する施策のあり方について議論する。
著者
田邉 勝巳
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.171-180, 2009 (Released:2019-05-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1

2006年6月に施行された道路交通法改正により、違法駐車の取締り業務の一部が民間委託され、取締りが強化された。東京都で最も早く民間委託が導入された地域の取締りは2年間で5倍以上となり、主要路線の合法駐車を含む路上駐車(二輪車を除く)の台数は58.9%減少した。外部費用の削減額は年間81億円程度と試算され、委託費を十分に上回る成果を得ている。現時点で道路交通法改正の費用対効果は高いが、最適な取締り水準、民間委託導入の程度など、多くの政策課題が残されている。
著者
水谷 淳 酒井 裕規
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.173-180, 2019 (Released:2020-04-27)
参考文献数
8
被引用文献数
1

2015年3月の北陸新幹線延伸によって東京-金沢間が80分短縮されて2時間半となり、羽田-小松線・富山線の航空旅客数は両路線とも4割減となった。本稿は、北陸新幹線の金沢延伸の影響について、航空旅客属性と航空運賃の視点から考察した。その結果、属性に関しては、延伸後に観光客のシェアが増大した一方でビジネス客のシェアが減少したこと、運賃に関しては、延伸直後に富山線の運賃が大きく低下したものの、2年後には低下に歯止めがかかっていること、小松線では延伸直後には富山線ほどの大きな運賃低下はなかったものの、2年後もさらに低下が進んでいることが明らかとなった。
著者
板谷 和也
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.105-114, 2011 (Released:2019-05-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1

鉄道路線の廃止が届出制となった2000年以降、各地で鉄道廃線事例が増加しているが、これらの廃線事例を主体的に取り上げてその動向を論じた研究は限られている。そこで本研究では2000年以降の廃線事例における存廃問題に関わった主体を明らかにし、その活動の方向性を類型化した。その結果、2000年代前半は陳情主体の従来型の廃線プロセスが多かったが、近年では市町村が主に関わり、自力での存続可能性を検討した事例が多くなってきていることが分かった。
著者
寺田 英子
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.109-118, 2007 (Released:2019-05-27)
参考文献数
11

本研究では、高齢者と障害者を対象とした乗合バスサービスの福祉割引制度について、中国地方の6つの公営バス等で行なったインタビュー調査をもとに、一般会計から特別会計への資金の繰り入れ、および福祉政策としてのバスサービスの位置付けについて考察する。運賃割引によるミニマムの交通サービス供給という点から、自治体内の福祉関係部署と交通局の役割分担に関する情報を整理し、地方都市における高齢者と障害者に対する運賃助成額、および公営バスの経営メリットとされてきた一般行政部門との連携した政策が実施できていないことを明らかにした。
著者
渡邉 亮 遠藤 俊太郎 曽我 治夫
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.39-46, 2017 (Released:2019-05-27)
参考文献数
6

鉄道の廃線敷は、土地利用の転換・活用が難しく、特に地方部で有効に活用されている事例は少ない。しかし、一部では観光施設として有効活用されている事例もある。本研究では、国内3事例、海外1事例について、誕生の背景や施設の保有・運営形態、採算性等をヒアリング調査した。その結果、鉄道時代を上回る集客力を有し、一定の収支を確保している事例が確認でき、廃線敷を活用した施設が新たな観光資源として都市と地域の交流を生む可能性を秘めていることが明らかとなった。
著者
橋本 悟 小澤 茂樹
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.115-124, 2010 (Released:2019-05-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1

鉄道貨物輸送とトラック輸送は輸送サービスの質が異なる。本稿では鉄道貨物輸送の規模の経済や全要素生産性上昇率を推定し、これらを用いて鉄道貨物輸送とトラック輸送の輸送サービスの輸送特性を比較した。その結果、鉄道貨物輸送には規模の経済が発生し、長距離輸送に優位な輸送モードであることが確認できた。一方で、トラック輸送の全要素生産性上昇率は鉄道貨物輸送のそれよりも高いことが確認できた。
著者
松本 涼佑
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.71-78, 2020 (Released:2021-04-12)
参考文献数
11

普通列車グリーン車の価格は、グリーン車自体の需要を左右することに加えて、同じ列車に併結される普通車両の需要にも影響を及ぼすと考えられる。そのため特に混雑が問題視される平日朝の通勤において、グリーン車価格の変化が需要に与える影響は重要な研究テーマである。そこでグリーン車の価格が営業キロ51kmを境に210円変化する2段階の価格体系に着目し、Regression discontinuity designを適用することによって、平日朝の通勤におけるグリーン車需要の価格弾力性を推定した。分析の結果、価格弾力性は有意に1を超え、価格感応度は高いことが分かった。適正な価格設定は、本価格弾力性の推定値、および現状の普通車両とグリーン車の混雑度を基に、慎重に検討される必要がある。
著者
藤井 大輔
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.143-152, 2012 (Released:2019-05-27)
参考文献数
13
被引用文献数
2

2008年に着工した長崎新幹線の並行在来線である長崎線は、これまでの整備新幹線の並行在来線の措置と異なり、JRが新幹線開業後も並行在来線での列車運行を担うことになった。この「長崎方式」とも呼ばれる方式を考察した。また、既に開業した整備新幹線の並行在来線転換第三セクター鉄道事業者を旅客輸送量と経営状況の面から横断的に分析した。いずれの事業者でも旅客輸送量の減少は続き、軌道1kmあたりで算出した鉄軌道事業営業損益も赤字決算が続いていることが明らかとなった。
著者
田村 正文 田村 亨
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.105-114, 2010 (Released:2019-05-27)
参考文献数
9

本稿では、コンパクトシティを対象として、従来平面空間のみで分析されることが多かった都市経済モデルを用いて、都市内部の垂直方向への空間構造の分析のモデル構築を提案するものである。特に地方都市においては郊外化が進んでおり市街地周辺のコンパクト化が進展している。しかしながら市街地への住民の集中により、垂直方向への空間構造が住民厚生の低下に繋がる可能性がある。そこで、本稿では、この問題に対する基礎的なモデルの構築を試みるものである。
著者
岸 邦宏
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.75-82, 2013

本研究は、北海道新幹線新函館~札幌間の並行在来線区間における余市町、倶知安町において、都市間公共交通サービスレベルに対する住民のニーズを分析することを目的とする。すなわち、JR利用者の多い余市町と倶知安町で札幌方面への移動における公共交通に関する意識調査を行い、鉄道の存続やバス転換等、都市間公共交通のあり方を明らかにするものである。分析の結果、鉄道の場合は駅での乗換が生じるため、都市間バスが自宅の最寄りのバス停から乗換無しで札幌に行ける場合は、鉄道よりも都市間バスの満足度が高いことがわかった。
著者
渡邉 亮 遠藤 俊太郎
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.125-132, 2019 (Released:2020-04-27)
参考文献数
10

近年、特に地方部において、公共交通の輸送需要の根源となる沿線人口が大きく減少しており、今後さらに人口減少が進めば、大量輸送に適した鉄道の特性が発揮できず、その維持が困難となることも想定される。本研究では、2018年3月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の地域別将来推計人口(平成30 年推計)」をもとに、JR線の沿線人口やその構成が今後どのようになるかを線区別に集計・分析した。その結果、今後人口が増加する線区でも定期旅客輸送のベースとなる年少人口や生産年齢人口の伸びは期待できないこと、輸送密度が低い線区ほど人口減少ペースが速いことなどが明らかとなった。