著者
松井 祐興 野田 大介
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.143-147, 2017-03-31 (Released:2017-05-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1

咽頭から頸部皮下まで刺入した歯ブラシによる深達性穿通性損傷の小児例を報告する. 症例は 1 歳 9 ヵ月男児. 室内用ジャングルジムから歯ブラシを加えたまま, 顔面から落ちて歯ブラシが咽頭に突き刺さり受傷した. 造影 CT で歯ブラシは右副咽頭間隙から右頸動脈内側を通り, 右側頸部皮下まで歯ブラシが達していることが判明した. 歯ブラシの柄により全身麻酔時のマスク換気が妨げられるという問題があった. そこで, 鎮静を行い自発呼吸下に, 皮膚を切離し, 歯ブラシの植毛部をニッパにて切断して皮膚側より摘出し, 歯ブラシの柄を口腔内から引き抜いた. その後, 全身麻酔を導入し, 皮膚切離を行い, 温生理食塩水にて洗浄を行った. 口腔内穿通性損傷では, 集学的な治療体制が整っている施設で治療すべきである.
著者
渡辺 哲生
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.9-17, 2016-03-31 (Released:2016-06-23)
参考文献数
12
被引用文献数
9

扁桃周囲膿瘍, 深頸部膿瘍ともに致死性を有する疾患で耳鼻咽喉科医として理解しておかなければならない疾患である. 疾患の理解のためには浅頸筋膜, 深頸筋膜浅葉・中葉・深葉からなる筋膜と舌骨上と下に区分される間隙についての解剖を理解する必要がある. 傍咽頭間隙が深頸部の中心的な間隙であり, 縦隔と連続する間隙が臨床的に重要である. 扁桃周囲膿瘍, 咽後膿瘍, 傍咽頭間隙膿瘍, 顎下間隙膿瘍のいずれも治療の際に外科的治療,気道確保を念頭におかなければならない.
著者
名倉 宏 安藤 紀昭 大谷 明夫
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.147-151, 2000-02-29 (Released:2010-06-28)
参考文献数
10

扁桃は, 口腔や鼻腔より侵入する抗原を摂取し, その抗原情報を認識し, それらの抗原侵襲から生体を防御することを主要な機能としている.口蓋扁桃の陰窩は粘膜表面から洞状に陥凹, 分岐することにより, 広い面積で抗原と接触し, それらに対する能率的な免疫反応を誘導することが, 想像されている.陰窩を被覆する上皮細胞は網目構造をとり, その間に多数のT, Bリンパ球が介在していて, リンパ上皮共生関係にある.この上皮細胞には.リンパ装置の濾胞域の樹状細胞と類似した細胞膜抗原 (MHC class II抗原, DC54, CD106, CD21, CD80/86) が発現されている.これらのことから陰窩上皮細胞は, 陰窩の抗原を摂取し, 抗原提示とT細胞の活性化, B細胞の分化とclonal expansion, 成熟を司っているものと考えられる.
著者
千葉 伸太郎 足川 哲夫 徳永 雅一 森山 寛 林 成彦 宮崎 日出海
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.443-451, 1997-06-01 (Released:2011-07-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

(目的) 小児の睡眠呼吸障害と睡眠時の成長ホルモン (GH) 分泌への影響について検討した.(対象と方法) 1995.7.1~1996.6.30にAdenotonsillectomyを行った患児のうち, いびきのエピソードを認めた24例に術前後で血中ソマトメジンC値を測定した.(結果) 24例中15例で増加, 6例で不変, 3例で減少し, 全体で平均170.46±91.58ng/mlから222.0±114.29ng/mlへと有意に増加を認めた.(結論) アデノイド, 扁桃肥大によるいびきを伴う小児では睡眠呼吸障害のため深睡眠の出現が影響を受けGH分泌が減少し, 手術により睡眠呼吸障害が改善するとGH分泌が増加すると推察した.
著者
根本 純江 冨田 寛
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.165-172, 2014

心因性味覚障害とは, その患者が訴える味覚障害が, 味蕾の味覚受容機構の障害か, 神経伝達路における障害であるよりも, 心身症, 神経症, うつ, 人格障害等の心理的要素が強く関与し, 心療内科あるいは精神科の併用治療が必要と考えられる病態である. 先行研究では, 亜鉛欠乏性, 薬剤性, 全身疾患性等に比べて, 改善率や通院継続率が低いことが報告されている. 本研究は, 2011年~2012年の2年間に当院で診断, 治療した味覚障害340症例中, 心理面の関与が疑われた症例57例 (男性14例, 女性43例) について, 病態改善の向上を目的に, 管理栄養士との医療連携により, 心理療法 (認知行動療法, 簡易精神療法等) や栄養指導を実施した結果, 味覚検査における治癒, 有効を合わせた累積有効率, 通院継続率が向上したので報告する.
著者
愛場 庸雅
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.135-140, 2011 (Released:2011-09-14)
参考文献数
8
被引用文献数
4

味覚障害患者の長期的動向を探るため, 1992年~2009年に大阪市立大学付属病院および大阪市立総合医療センターで診療した味覚障害患者1,594名 (男565名, 女1,029名) について, 患者数, 年齢性別構成, 血清亜鉛値の変動, 原因別頻度を調査した.患者数は徐々に増加しており, 特に高齢者の割合が増加する傾向が見られた. 原因別の頻度は, 特発性が半数を占めていたが, 亜鉛欠乏や薬剤が大きな影響を及ぼしていると考えられた. また血清亜鉛値の低い患者が増加する傾向にあった. これは, 高齢者人口の増加や, 食生活の変化による国民の亜鉛摂取の減少, 薬剤の濫用などの社会問題を反映しているものと思われた.
著者
川名 尚
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.237-242, 2002-06-01 (Released:2010-06-28)
参考文献数
8

単純ヘルペスウイルス (Herpes Simplex Virus, HSV) の感染部位は皮膚粘膜であり口腔咽頭もその主なものの一つである.特にHSVの1型は口腔内の感染が自然感染部位であり, 口腔咽頭のHSV感染は耳鼻咽喉科の日常診療でしばしば見られると思われ改めて産婦人科医の私が論述するまでもないと思う.しかし, 最近はgenital-oralという性行動様式が頻繁に行なわれるようになり, 性器に感染しているHSVが口腔咽頭にも感染することがあり本シンポジウムに単純ヘルペスウイルス感染という課題がとりあげられたものと思う.筆者は性器ヘルペスの臨床研究を行なってきたが, 口腔咽頭についての検討を行なってこなかったので直接本学会の会員の方にお役に立てることは出来ない.そこで性器ヘルペスの臨床を述べてgenital-oral transmissionの背景をご紹介することで責めて果たしたいと思う.
著者
廣瀬 肇
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.25-30, 1991-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
13

Motor speech disorders (dysarthria) comprise a group of speech disorders resulting from disturbances in muscular control due to impairment of any of the basic motor processes involved in the execution of speech. During the period of 10 years from 1980 to 1989, the incidence of motor speech disorders in the author's clinic was 16.7% (248 out of total of 1, 485 patients with language and speech disorders). In clinical practice, it is quite important not to overlook progressive neurological diseases, such as bulbar palsy . In this paper, points of clinical examination are described together with perceptual and acoustic methods of evaluation of pathological speech. The importance of total rehabilitation of dysarthric subjects is emphasized, and the use of different types of speech aids is recommended.
著者
山村 幸江 吉原 俊雄
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.61-65, 2009 (Released:2010-06-01)
参考文献数
21

耳下腺腫瘍の診断におけるRI検査の有用性を検討した. 99mTcO4- シンチグラフィーはWarthin腫瘍とオンコサイトーマでは集積を示し, 診断の補助に有用である. 67Gaシンチグラフィーは耳下腺の高悪性度癌では一般に集積を示すが, 低悪性度癌での集積は半数程度であり, 良性腫瘍の多形腺腫やWarthin腫瘍にも集積する. 従って 67Gaシンチは主に高悪性度耳下腺癌の遠隔転移と再発の検索に有用である. 最近普及が進んでいるPETは, 悪性腫瘍の全身検索や再発の早期診断に有用であり, 67Gaシンチと比較して病変検出率は高い.
著者
朴澤 孝治 高橋 悦 安達 美佳
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.167-170, 2011 (Released:2011-09-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1

扁摘パルス療法後も尿所見の緩解が得られなかったIgA腎症症例のうち, 遺残扁桃が認められた24例について検討した. 遺残扁桃の部位は, 下極22例91.7%, 上極3例12.5%, 扁桃窩中央8例33.3%であり, 三角ひだ内の副扁桃 (中間扁桃) が増殖した例が1例あった. 再手術後1年以上の経過観察が行えた13症例のうち11例84.6%で尿潜血が消失し緩解が得られた. 遺残扁桃摘出術後, 尿所見が陰性化するまでの期間は1~5ヶ月で平均2ヶ月であった. 以上より, 遺残扁桃がIgA腎症の予後に与える影響は大きく, 扁摘パルス療法を行った後も, 尿潜血が持続するときは, 遺残扁桃を疑い精査する必要があると考えられた.
著者
白崎 英明
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.97-101, 2019 (Released:2020-06-10)
参考文献数
22

血小板活性化因子(PAF)はロイコトリエンなどと同様な脂質メディエーターであるが,肥満細胞や好酸球などから産生される.血小板活性化作用以外にも好酸球遊走活性化などのさまざまな生理活性を有する.鼻粘膜に対してはPAF刺激で鼻閉が引き起こされる.PAFを標的にした薬剤として,スペインでH1受容体拮抗作用とPAF受容体拮抗作用の2つをあわせ持ったルパタジンが開発され,本邦においても2017年11月末に発売となった.PAFは好酸球から大量に遊離され,PAFは最も強力な好酸球遊走作用のある脂質メディエーターであるため,本剤を用いることにより各種の好酸球性炎症が改善される可能性が充分期待される.
著者
岩井 大 島野 卓史 馬場 奨 金田 直子 岡崎 はるか 完山 理咲 小西 将矢 宇都宮 敏生 友田 幸一 福森 崇之
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.157-163, 2012 (Released:2012-08-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Forestier病は全身の靱帯・腱付着部の硬直・骨化を示す強直性脊椎骨増殖症 (diffuse idiopathic skeletal hyperosteosis) の1つである. 頸椎で生じたものでは喉頭や咽頭・食道を圧迫して咽喉頭違和感や呼吸障害・嚥下障害をきたす. 進行例には切除術が選択されるが, 十分な病変切除がされたにもかかわらず, 手術効果が即座に出ない例も認められ, 症状発生には, 病変の物理的な喉頭・食道圧迫だけでなく, 局所での浮腫や繊維化を含めた炎症の機序が考えられている.我々は今回, 本疾患の5例に対し手術的治療を行った. 病変部の正確な切除と上・下喉頭神経などの温存を図ったが, 症例1・2では不十分な手術成績であった. そこで, 手術に際し骨病変切除で生じる椎骨と骨膜間の死腔を減少させるため骨膜を寄せて縫合する処置を追加し良好な成績を得た. こうしたことから, Forestier病の手術に際し, 椎前部の死腔縮小処置が局所の炎症を低下させ, 術後の症状回復を早めるのではないかと考える.
著者
柊 光一 澤木 修二
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.67-72, 1990-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
12

Saibokuto was given to 81 patients with abnormal sensation in the throat with or without dry sensation, and Bakumondoto to 18 patients with abnormal sensation in the throat with dry sensation.Saibokuto was effective in 71% of the 81 patients, in 76% of the patients without dry sensation, and in 64% of those with dry sensation. It was less effective in patients over 70 years of age.Bakumondoto was effective in 78% of the patients dry senation, and it was more effective in the older patients.No side effects were noted with either drug.
著者
余田 敬子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.225-234, 2007-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
45
被引用文献数
8

頻度が少なく診断に難渋しがちな「特殊な上咽頭炎」として, 結核, 放線菌症, マイコプラズマ, クラミジア, サイトメガロウイルス感染症を呈示した. 臨床的特徴として, 結核は20-40歳代の女性に白苔を伴う腫瘤または潰瘍性病変を, 放線菌症は男性に悪性腫瘍を疑う腫瘤性病変を, マイコプラズマは年長の小児から20代前半の若年者にイチゴ状に腫脹したアデノイドを, クラミジアは成人型封入体結膜炎に併発して発赤・腫脹を呈することが多い. サイトメガロウイルスの1例は33歳男性で, 上咽頭に肉芽腫性病変を認めた. これらの上咽頭炎は, 耳閉感, 咽頭痛, または鼻閉を訴え, 上咽頭の詳細な観察と組織生検を契機に診断に至る場合が多い.
著者
濱本 隆夫 平川 勝洋 竹野 幸夫 立川 隆治 樽谷 貴之
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.213-216, 2012 (Released:2012-08-25)
参考文献数
10

近年, 身の回りには種々の化学製品が多くなり, それらに接触する機会が増えるとともに, アレルギー性接触性皮膚炎が問題となっている. 医療分野, 特に歯科治療では金属なくして治療を行うことは考えられず, 用途, 種類も多岐にわたる. 歯科治療に用いられる金属材料は通常生体には問題はないとされていても, その量, 種類によってはアレルギーを引き起こす可能性があることが知られている. 今回耳下腺腫脹の原因検索に難渋し, 歯科金属アレルギーが原因であると推測された症例を経験した. 口腔病変をともなう患者を診察する際には金属アレルギーについても留意を払わねばならないと考える.
著者
船山 さおり 伊藤 加代子 濃野 要 井上 誠
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.41-47, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

近年,味覚障害患者が増加している.味覚外来における治療効果を検討することを目的として臨床統計を実施し,亜鉛補充療法の効果について調査した.対象は2012年12月より2017年12月までの5年間に当院味覚外来を受診した患者172名(男性56名,女性116名)とした.患者の既往歴,服用薬剤,診断について単純統計を行った.さらに亜鉛製剤投与による自覚症状の改善に関わる因子を多変量解析により探索した.患者の平均年齢61.1歳であった.亜鉛欠乏性および特発性と診断された99名に亜鉛製剤を処方した.自覚症状の改善があった者は82.8%であった.ロジスティック回帰分析の結果,自覚症状改善に関わる因子は,病悩期間や亜鉛/銅(Zn/Cu)比であることが示された.