著者
地引 英理子 杉下 智彦
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.153-168, 2021

<p><b>目的</b></p><p>  本研究では日本人の医療及び非医療従事者が保健関連の国際機関へ就職を考慮するに当たり、いかなる勤務条件が揃えば望ましい選択肢として選択するかを「離散選択実験(Discrete Choice Experiment)」の手法を用いて明らかにするために、その第一段階として質的調査により対象者が重視する「属性(Attributes)」を分析するとともに、選択属性に合致した就職支援策を提言する。</p><p><b>方法</b></p><p>  日本人の医師、看護職、公衆衛生大学院卒業者、非医療従事者、学生等で①保健関連の国際機関への就職を希望する人(以下、希望者グループ)、②現在就職している人(以下、現職者グループ)、③過去に就職していて離職した人(以下、離職者グループ)の合計20人を対象に、予め用意した11の属性から、国際機関勤務に当たって重視する属性を全て選び順位付けしてもらった上で、半構造化インタビュー調査を実施した。逐語録を作成し属性に関する内容を抽出後、グループ毎にコード化・カテゴリー化し、他のグループの回答と比較、分析した。</p><p><b>結果</b></p><p>  対象者が重視する属性を点数化した結果、全グループで国際機関勤務に当たって重視する属性として「仕事の内容」、「自己実現の機会」、「能力向上の機会」が上位3位を占め、次いで「勤務地」が同率2位(現職者グループ)と4位(希望者・離職者グループ)だった。しかし、希望者・現職者グループを通じて「ワーク・ライフ・バランス」、「給与額」、「福利厚生の充実度」、「仕事の安定性(長期契約)」といった勤務条件面への重視は全11属性中5位~8位と中位から下位を占めた。また、両グループで「帰国した時の所属先の有無」は9位、「子供の教育の機会」と「配偶者の仕事の機会」は同率10位だった。離職者グループでは「ワーク・ライフ・バランス」と「仕事の安定性(長期契約)」は同率5位を占め、その他の属性は選択されなかった。</p><p><b>結論</b></p><p>  保健関連の国際機関勤務を目指す日本人は、より良い待遇や職場・生活環境よりも、経験や専門性を活かし、能力向上や自己実現を求めて国際機関を受ける傾向があることが分かった。より多くの人材を国際機関に送り出すための支援策として、属性の選択順位に従い、第一義的には国際機関勤務のやりがいに関するキャリア・ディベロップメント・セミナーの開催が有効と考えるが、国際機関におけるワーク・ライフ・バランス、女性の働きやすさ、給与とセットにした福利厚生制度に関する広報も有効と考える。また、インタビューを通じて明らかとなった国際機関の雇用契約の不安定さと「帰国後、国際機関での経験を正当に評価し受け入れてくれる組織・病院が少ない」という課題に関して、中長期的には帰国者の受入機関の増加のための働きかけが必要と考える。</p>
著者
水元 芳 パンチャランティ ノングラック パラディパッセン マンダナ スミタシリ スティラック
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.161-168, 2006

本研究は、近年増加する高血圧症が取り組むべき課題として掲げられるタイにおいて、異なる社会経済的階層人口が混在するナコンパトム県プトモントン地区での高血圧症と生活習慣に起因するリスク因子の究明を試みたものである。40歳以上の女性224名を対象とした症例対象研究であり、データは質問票を用いた面接法で収集された。<br>調査対象地区において、高血圧と最も関係の深い因子は肥満であった(OR=2.05, 95% CI=1.62-3.63)。糖尿病もまた同地区における高血圧のリスク因子であり(OR=2.42、95% CI=1.08-5.43)、肥満者で糖尿病を有する対象者が高血圧症を併発するリスクは通常の約4倍も高くなることが認められた(OR=4.10, 95% CI=1.17-15.72)。タイでは、一般的に塩分の過剰摂取が近年の高血圧症増加の主要な原因と考えられている、しかし、本研究結果では、高血圧症の有無と塩分摂取量の間に有意な関係は認められず、今後この対象地域で高血圧症対策のプログラムを展開させる際には体重コントロールを重点的に行うことが効果的であり、生活習慣病予防対策を講じる際には地域の人々の生活習慣に係る特性を踏まえたプログラム作成が効果的であることを示唆している。
著者
梅田 麻希 藤田 さやか 那須 ダグバ潤子 陶 冶 竹村 匡正
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.135-149, 2021 (Released:2021-10-13)
参考文献数
22

目的  2018年6月に発生した大阪北部地震災害(震災)において、在留外国人(外国人)が直面した困難や支援ニーズを記述すること、その結果に基づき災害時に求められる外国人支援を円滑にするための具体的な方策を提示することを目的とした。方法  本研究は、半構造化面接により収集したデータを用いた質的記述的研究である。対象は、大阪府北部地震発生時に関西地方に居住していた在留外国人(9名)とその支援者(6名)である。逐語録に起こしたインタビューデータを読み、意味のまとまり毎にコードをつけて、発災時の困難や必要な支援に関する情報を抽出した。これらのコードに共通するカテゴリーから、さらに上位のテーマを抽出した。結果  在留外国人のインタビューからは、«経験した困難»«地震災害に対する準備性に影響を与える要因»«災害時情報ニーズ»の3テーマが抽出された。外国人と日本人との間には、地震経験など震災に対する準備性に影響を与える要因の違いが存在し、外国人が災害時に状況を理解したり、対処したりする際に困難を生じさせていた。また、災害情報に関するニーズが挙げあられ、ITを活用した情報提供が望まれていた。支援者のインタビューからは«実際に行った支援»«支援を行う際の困難や障壁»«求められる支援・対策»の3つのテーマが抽出された。支援者らは、直接的な情報提供や相談支援だけでなく、多機関間のコーディネートを担っていた。災害時に円滑に支援を行うためには、平常時の訓練や機関間協定が役に立つ事が示された。支援・対策の課題としては、効果的な情報伝達や日本人と外国人とのコミュニュケーションの促進、文化的多様性への対応などが挙げられた。これらの課題に取り組むためにも、日頃から当事者、支援者双方の災害に対する関心を高め、災害対応の体制を構築しておく必要があるとの認識が示された。結論  本研究の結果から、外国人は、震災が発生した際に、状況や対処方法の理解に関する困難に直面し、災害情報に関する支援ニーズを有することが明らかになった。外国人の支援ニーズに応えるためには、災害経験や文化の多様性を前提とした情報伝達やコミュニケーションを促進すること、多様な機関が円滑に連携するための体制を構築することなどが必要だと考えられる。
著者
天野 静 渡辺 裕 鳥居 潤 川口 レオ 青山 温子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.23-29, 2009 (Released:2009-04-28)
参考文献数
21

開発途上国では、これまで主に人口増加を抑制することに重きが置かれ、不妊症はあまり注目されてこなかった。しかし実際には、不妊症は途上国において重要な問題であり、アフリカ諸国などでは、女性の不妊率は、先進国の 3倍にあたる約 30%にのぼる。不妊症の原因として最も多いのが卵管障害であり、性感染症や、中絶・分娩後の不適切な処置による骨盤内感染がその原因としてあげられる。第二に多いのが男性不妊である。しかし、途上国では、不妊症は女性側のみの責任とみなされがちであり、不妊症により女性は、夫やその家族から激しい差別を受ける。また、不妊症の夫婦は、コミュニティーからの孤立・偏見に悩まされたり、経済的問題を抱えたりすることも多い。このように、途上国において不妊症がもたらす社会的影響は甚大である。 途上国での不妊治療は、夫婦双方の診察や精査を行わないまま進められていることが多い。治療内容としては、主に性感染症の治療、タイミング療法、ホルモン治療など、あまり費用のかからないものが中心である。都市部など、一部の地域においては、生殖補助医療(assisted reproductive technology: ART)が行われている。 ARTは、卵子および精子を扱う不妊治療を指し、先進国では 1980年代以降、広く行われるようになってきた。また、 ARTは、途上国の不妊症の原因として多い、卵管障害や男性不妊に対して効果的な治療であるため、途上国における潜在的需要は高いと考えられる。しかしほとんどの途上国にとって、その費用は高額である。また、技術的・倫理的規制が不十分、もしくは存在しない国もある。 途上国の不妊症の問題解決には、まず途上国、先進国の双方がその問題の大きさを認識し、実情を調査することが必要である。不妊症の発生率、原因、そして現在行われている治療の有効性などをはっきりとさせ、何が足りないかを把握することにより、優先度を考え、対策を立てていくことが重要である。不妊症の原因を正しく検査し、適切な治療方法を選択する体制の確立により、少ない費用でも不妊症の問題の改善が図れるであろう。また、 ART普及のためには、高額な薬剤の価格引下げなどの国際的協力や、治療状況を技術的・倫理的観点から監視するシステムの構築が必要である。同時に、不妊症に対する正しい知識などについて、人々に対する教育を行っていくことも途上国の不妊症問題の解決において重要である。
著者
黒岩 宙司
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.83-92, 2006 (Released:2006-10-20)
参考文献数
30

グローバリゼーションにともない国際保健医療の分野でもパートナーシップの重要性が言われている。1992年から2001年まで行われたラオスにおける「公衆衛生プロジェクト」と「小児感染症予防プロジェクト」は国際機関とのパートナーシップのもとに成功した。最大の成功要因はWHO総会で世界プログラムが決議され政治的なコミットメントが得られたことで、そこから共通の目的、共有された単一の政策的枠組み、パートナーシップが生まれ、資金的な裏づけが可能になった。しかしながら次々と国際機関から発信される保健政策には途上国の現場での検証が乏しい。現場で起こる問題点を科学的に分析することが重要で、援助と各省庁の利権を断ち切ることが求められる。外交の一環としてパートナーシップがあることを認識した上で、日本はアジアの一員として環境と文化とニーズを尊重し、国際社会と成熟したパートナーシップを構築する必要がある。そのために国際機関へのモニタリング・評価は重要である。
著者
奥野 ひろみ 小山 修 安部 一紀 深井 穫博 大野 秀夫 中村 修一
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.247-256, 2008 (Released:2009-01-28)
参考文献数
24

目的 カトマンズ近郊 A村をフィールドとして、人口、経済力、情報量などの増加が母親の妊娠、出産、育児という保健行動にどのような影響を及ぼしているのか、 2001年と 2006年の実態の比較から考察を行い、都市部近郊地域の母子保健の課題を明らかにする。方法 ネパール国ラリトプール郡 A村で、0~12か月児を持つ母親へ聞き取り調査を実施した。就学歴のある母親とその児群と就学歴のない母親とその児群および全体について、 2001年と 2006年のデータを比較した。結果 2006年に少数民族の母親の増加がみられた。妊婦検診、分娩、児の罹患時に利用した施設は病院が多く、この 5年間でいずれも増加傾向がみられた。また、妊婦検診費用が約 7倍、分娩費用が約 2倍となっていた。児の発育状況では、カウプ指数が 1ポイント上昇した。児の一般的な感染症への疾患の罹患は減少した。考察 海外への出稼ぎなどにより収入の増加した中間層と、地方からの移入者で経済的な課題を持つ層の 2極化がみられた。妊婦や児が病院での健康管理を積極的に受けている理由は、病院に対する安全や安心の意識に加え、中間層の増加による消費文化の意識が考えられた。経済的な課題を持つ層は、ハイリスクグループと捉えることができ、安価で身近な場所でのサポートの必要性が示唆された。育児の課題は、「栄養改善」や「感染症対策」から「栄養のバランス」などに移行していることが示唆された。
著者
岩本 あづさ 堀越 洋一
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.249-259, 2017

<p><b>背景と目的</b></p><p>  国立国際医療研究センター国際医療協力局は、国際協力機構 (Japan International Cooperation Agency、以下JICA)の委託により、2003年から毎年「アフリカ仏語圏地域母子保健集団研修」を実施してきた。その中で研修員達が、研修中の見聞をそのまま自国へ持ち帰っても、日本と異なる状況の中で現場に適用させることは難しいことが、明らかになってきた。それを克服する方策の1つとして、「母子保健サービスの改善」という中心主題への親和性が高いと考えられた「ラボラトリー方式の体験学習(以下、「体験学習」)を導入した。しかし、研修員の多くは「体験学習」を研修期間全体の学びの手段として意識できず、「体験学習」と「その後の研修プログラム」を別々に捉えてしまい、「体験学習」を十分に活かしていないという課題が事後調査等から抽出された。そのため、2013年度の研修では「体験学習」の方法に工夫を加え、いくつかの新しい取り組みを導入し、研修生が「体験学習」を、研修全期間を通じた学びの方法として意識的に活用できるための工夫を行った。</p><p><b>方法と活動内容</b></p><p>  本研修の参加者は、来日前に自国にあるJICA事務所に提出する「インセプションレポート」を「体験学習」の題材として活用し、グループワークによって全研修員の共通課題を抽出した。また、共通課題の「マトリックス」を全研修員で一つ作成し、分析ツールとして活用した。さらに毎週末、研修のふりかえりの時間を設けた。これら全ての過程において、研修を通じて気づいたこと、感じたこと、学んだことを全員で繰り返し話し合い、合意内容を「マトリックス」内に加筆していった。これらの新しい取り組みにより、研修開始時の「体験学習」が研修全期間を通じた学びの方法として以前より意識的に活用できるようになったと考えられた。また研修員それぞれが「自分達自身が学びのリソースである」ことを意識して、その後のグループワークや議論に積極的に参加し学びを深める機会を増やすことができた。</p><p><b>結論</b></p><p>  仏語圏アフリカからの参加者を対象とした母子保健集団研修に「体験学習」を取り入れ、その活用方法を工夫することで、研修開始時の「体験学習」を研修全期間を通じた学びの方法として以前より意識的に活用できるようになった。また、本研修の「体験学習」から得た「自分を含む自分達自身が貴重なリソースである」という気づきは、自国でのそれまでの働き方を違った視点で見ることができる力にもなると考えられた。</p>
著者
栗山 美香 垣本 和宏 野崎 威功真 Pauline Manyepa Matilda K Zyambo
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.59-70, 2012

<B>目的</B><BR>ザンビアのリビングストン市の抗HIV治療(ART)の状況やART登録者数、治療脱落率を検証し、さらにART患者の背景にある治療促進要因と障害要因について検討し、治療脱落者を減少させつつ治療を拡大する方策について考察することを目的とした。<BR><B>方法</B><BR>2009年10月にリビングストン市保健局の関係者へのARTの展開に関して聞き取りや関連資料を収集した。また、27名の治療脱落者とフォーカスグループディスカッション(FGD)を実施し、治療中断と再開の経緯について経験を語り、その要旨を分析した。<BR><B>結果</B><BR>リビングストン市内においてARTが可能な医療施設が拡大しているが、その半数の施設においてCD4数が測定できず、治療開始時期の遅延を招いていた。抗HIV治療薬(ARV)と問診は原則無料サービスであったが、レントゲン撮影や合併症治療で実質患者負担が発生していた。治療脱落率(追跡不可能患者の率)の平均は、22.7%(範囲 : 0-30.6%)であった。患者数が多く医療スタッフ不足のARTセンターでは、脱落患者のフォローアップが徹底されていなかった。<BR>FGDでは食糧不安、羞恥心、副作用や合併症など、複数の要因が重なり合って影響し合うことで、絶望感や内服への精神的ストレスを増大させていた可能性が伺えた。治療開始半年から数年後の体調回復から完治したと思い込み中断した例、医療サービスの可用性と医療従事者の態度を理由に挙げた例もあった。服薬中断は知識の欠如や弱い継続意志など患者側の内的要因のみならず、貧困や医療システムなど患者を取り巻く周囲の外的環境も影響しており、治療継続の動機づけと協力的な環境整備によって患者の服薬管理能力を伸ばしていくことが不可欠と討議された。<BR><B>結論</B><BR>ARTの継続に対して、薬剤管理体制や医療機器管理体制、人材の不足、さらには患者側には食糧不足、副作用と合併症、羞恥心、医療スタッフの態度などが障害要因となってART患者が治療を中断していることが判明した。脱落患者追跡システムの機能、服薬カウンセリングの継続提供、ARTセンターの小規模診療所への展開は今後のARTサービス向上の鍵となってくることが示唆された。
著者
黒岩 宙司
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.83-92, 2006

グローバリゼーションにともない国際保健医療の分野でもパートナーシップの重要性が言われている。1992年から2001年まで行われたラオスにおける「公衆衛生プロジェクト」と「小児感染症予防プロジェクト」は国際機関とのパートナーシップのもとに成功した。最大の成功要因はWHO総会で世界プログラムが決議され政治的なコミットメントが得られたことで、そこから共通の目的、共有された単一の政策的枠組み、パートナーシップが生まれ、資金的な裏づけが可能になった。しかしながら次々と国際機関から発信される保健政策には途上国の現場での検証が乏しい。現場で起こる問題点を科学的に分析することが重要で、援助と各省庁の利権を断ち切ることが求められる。外交の一環としてパートナーシップがあることを認識した上で、日本はアジアの一員として環境と文化とニーズを尊重し、国際社会と成熟したパートナーシップを構築する必要がある。そのために国際機関へのモニタリング・評価は重要である。
著者
李 節子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.7-12, 2004
被引用文献数
1

在日外国人の健康問題, 保健医療課題を明らかにすることを目的して, 外国人人口統計・人口動態統計を分析した。以下のことが明らかとなった。<br>・1980年代後半から在日外国人人口, 国際婚姻が急増し, 日本における多民族化が進んでいた。<br>・日系ブラジル人人口は, 20歳代から30歳代の生産年齢人口に集中し, 日本で出生した15歳未満の子どもの人口が年々増加, 定住化傾向がみられた。また, 全死亡数に占める「傷病及び死亡の外因」が高くなっていた。<br>・在日韓国・朝鮮人は高齢化, 少子化が進み, 65歳以上の総外国人登録者人口の8割を占めていた。<br>・「韓国・朝鮮」の三大死因は悪性新生物(がん), 心疾患, 脳血管疾患死因であり, 日本人の死亡動向と類似していた。<br>・在日外国人の健康課題は大きく3つ分類される。在日韓国・朝鮮人については老人保健, 近年, 移住した外国人については母子保健と労働衛生, そしてすべての外国人に対しては, 移住, 異文化, マイノリティであることに起因した精神保健の問題である。
著者
安川 康介 William Stauffer
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-109, 2013-06-20 (Released:2013-07-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

第三国定住の過程において、難民の健康診断は人道的及び公衆衛生学的な観点から重要である。2010年より、日本はアジアで初の第三国定住の試験的プログラムを開始し、今後受け入れる難民の数が増加する可能性がある。日本でのより充実した難民受入医療体制を整備していくための有用な資料となるように、本稿では、多くの難民を受け入れてきた実績を有する米国の難民受入体制の概要及び難民の健康診断についてまとめた。米国への難民の審査及び受け入れはUnited States Refugees Admission Programを通して、国連難民高等弁務官事務所や国際移住機関などの国際機関、米国の関係省庁、非政府組織の密な連携のもとで実施されている。入国前の健康診断では、米国疾病予防管理センターの作成するマニュアルに基づいて、活動性肺結核や未治療の性感染症などの公衆衛生学的に問題となりうる疾患、危険な行為を伴う身体疾患・精神疾患、薬物依存・乱用等の有無が診断される。2007年以降、従来の胸部X線と喀痰塗抹による結核検査に加え 培養検査と感受性試験が追加されたことにより、米国内での難民結核症例数は減少傾向にある。米国に定住した難民には、90日以内の健康診断が推奨されており、検査項目は入国前の推定治療の有無や難民の出身地を考慮したものとなっている。Voluntary agenciesによる支援や医療通訳サービスが、難民の医療受診に重要な役割を果たしている。難民の健康診断ガイドラインの存在や医療通訳制度など、様々な長所を有する米国の難民受入医療体制だが今後の課題として、国内外の医療従事者間のコミュニケーションの向上、各州における受入医療体制の標準化、精神疾患の診断・治療の向上などが必要である。
著者
村上 仁 神田 未和 中島 玖 澤柳 孝浩 曽我 建太 濱田 憲和 池上 清子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.49-64, 2020

<p><b>目的</b></p><p>  本研究の目的は、日本でSDGsの保健目標(目標3)とジェンダー目標(目標5)を相乗的に達成していくために日本が取るべき具体的方策を、ジェンダー分析に基づいた日本とイギリスの比較から明確化することである。</p><p><b>方法</b></p><p>  日本では、ジェンダー平等を目指して活動する機関のジェンダー専門家8名と産婦人科医2名に、イギリスでは、保健とジェンダーの分野に深く関わりのある政府組織、市民社会、アカデミアから9名に、性と生殖に関わる健康・権利ならびにジェンダーに基づく暴力対策の現状につき、詳細面談および文献調査を実施した。テープ起こしをした原稿につき、質的内容分析を実施した。</p><p><b>結果</b></p><p>  「避妊・人工妊娠中絶」、「性感染症対策」、「性教育」、「婦人科系がん対策」、「ジェンダーに基づく暴力対策」の各項目につき、ジェンダー視点からみた日英の現状を明らかにした。比較の結果、特に「避妊・人工妊娠中絶」、「性教育」、「ジェンダーに基づく暴力対策」につき、両国の取り組みに差が見られた。イギリスではジェンダー・トランスフォーマティブ(女性の状況の改善だけでなく女性の社会的地位を改善し、彼女たちが権利を十分に行使できることを目指す)な取り組みが行われている一方、日本ではそのような取り組みに未だ踏み出していない施策として、1)避妊法の選択肢の確保と費用の低減化(緊急避妊薬へのアクセス改善を含む)、2)人工妊娠中絶を女性の意志のみで実施できるようにすること、3)人間関係を含めた包括的な性教育の体系的な実施、4)ジェンダーに基づく暴力に対応する戦略策定の4点が明らかとなった。</p><p><b>結論</b></p><p>  結果から導かれた4点を進めることで、日本においてSDGsの目標3と目標5を相乗的に達成していけると思われる。そのためには、政策決定への市民社会の参画の拡大と、女性議員比率の向上が助けになると考えられる。</p>