著者
山本 高行 稲葉 歩 川口 淳一郎
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.35-44, 2003 (Released:2003-12-16)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本論文では,いわゆる空力上昇径路を飛行する機体の最適誘導則を新たに提案する.まずDCNLP法により最適解を示す.次に直接最適法であるSQP法により別の解を示す.後者の手法ではある直交関数で表現された操舵角を利用することにより,効率的にまた容易に実行することができる.本論文の主な結果は操舵則の解析的表現を示したことである.これは最適性の議論に関連するものである.これによ り従来の線形タンジェント則は揚力を発生しない機体のみに適用可能であることがはっきりと結論される.同時に最適誘導則は三角関数形式を従来の線形タンジェント則に加えることで得られることが結論づけられる.本論文で得られた結果はさらに数値的デモンストレーションによる誘導方策へと最適化プロセスを拡張している.線形化遷移運動が解析モデルによく一致しているため,本論文の結果 は実際的な正当性を示すことに成功している.機体パラメタがノミナル値から変化したり,パラメタ値に対する感度といった誘導計算例もまた示される.
著者
竹中 信一 山極 芳樹
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-10, 2004 (Released:2004-03-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

固体ロケット打ち上げ直後,ロケットから多量の排出物が地球大気圏に放出される.この排出物中の成分によってオゾン層が破壊され,一時的,局所的にオゾンホールが生じ大量の紫外線が地上に降り注ぐことが予想されている.そのため,我々は固体ロケット排出物によるオゾン層への影響について,実用的な解析モデルの構築を目指しており,今回,3次元モデルを構築し,Titan IV Plumeにおける観測データとの比較をおこなった.その結果,解析モデルは観測データを模擬できており,発射8分後,オゾン密度は破壊以前の37%まで減少し,発射60分後には92%まで回復することが示された.
著者
夏目 耕一 佐伯 孝尚 川口 淳一郎
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.11-18, 2004 (Released:2004-03-27)
参考文献数
4

多くのフォーメーションフライトミッションでは衛星群は適切な相対位置関係を維持することが求められる.現在衛星フォーメーションフライトに関する相対航法,誘導制御に関する研究が盛んに行われている.しかしながら,それらの研究の多くは,複数衛星をある幾何的な配置に誘導,維持するための燃料消費を前提とした積極的な制御に関する研究である.本来は燃料消費を抑制しミッション寿命の長期化を図るという意味でも,制御をすることなく衛星間の相対位置を受動的に,または自動的に維持したいという要求があるのだが,そのような研究はかなり稀である.また,過去のフォーメーションフライト関連の論文は慣性系での運動を扱ったものや,軌道運動を考慮したとしても円軌道周りの線形化された簡単なHillの方程式を扱ったものがほとんどである.しかし,実際の衛星ミッションは円軌道のみとは限らず,むしろ楕円軌道が必要とされるものも多い.そこで本研究は,楕円軌道上で軌道制御を積極的に行うことなく衛星群の相対位置関係を維持する軌道の設計法について扱った.軌道設計の際の解は解析的に得られ,結果は相対位置関係をよく保つものであり有意であることが分かった.
著者
佐伯 孝尚 夏目 耕一 川口 淳一郎
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.19-25, 2004 (Released:2004-05-15)
参考文献数
5

In recent years, there has been impending interest in the formation flying with many satellites. Multiple satellite system enhances the missions' flexibility with less total mass and cost, and realize some missions that were impossible with a single satellite. At the Institute of Space and Astronautical Science (ISAS/JAXA), the plasma and magnetic field observation missions with several satellites is under investigation. The mission under consideration is designated as SCOPE(GEOTAIL-II). The observation area of the SCOPE mission is twenty or thirty earth radii away from the center of the earth where the geomagnetic field has interaction with the energetic particles from the sun. Therefore its orbit becomes highly elliptic. In the observation area, the formation of plural satellites is requested to constitute a polygon that assures the high spatial resolution observation. This study show the orbital design method for the SCOPE mission. The frozen property that maintains high spatial resolution near the apogee is found feasible for elliptic orbit. Numerical examples are presented with practical illustrations.
著者
梅原 広明 高橋 正昭 大坪 俊通 久保岡 俊宏
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.27-34, 2004 (Released:2004-06-22)
参考文献数
13

衛星通信等の発展にともない,静止衛星の数や利用度は増え続けている.静止軌道上で安全な運用を行うには,静止軌道のみならずその付近を運動する多数の衛星や漂流物体の軌道を正確に把握することが不可欠である.光学観測は,人工衛星からの受信電波を観測する方法より,周波数の不明な衛星,さらに周波数を発しない物体をも検出することができる長所を備えている.そのため,日本を含めた様々な国で光学観測施設が建設され観測が始められている.しかし,たとえ観測施設を増やしたところで観測領域は広大である.したがって,広域的・体系的・効率的な観測方法の構築が必要不可欠となっている.本論では,観測地から見える静止軌道を覆うように撮像領域を重ねるスキャン観測を基本にして,検出した多数の物体軌道を効率的に決定することができる観測手順を既定した.まず,静止軌道上の二点を交互に見続けるようなスキャンを二晩かけて行う.これによって,検出された物体それぞれの離心率ベクトル以外の軌道要素が概算される.軌道傾斜角がスキャンの視野角より大きな物体に対しては,追跡観測が必要ではあるが,既に他の軌道要素がほぼ正確に求められているため,各物体に対する追跡観測を単純・迅速に行うことができる.すなわち,多数の物体の軌道要素を二晩のスキャンと一晩の追跡観測から決定することができる.しかも,南北方向の運動がスキャンの視野角より10倍以上大きな物体をも軌道決定を行うことができる.通信総合研究所鹿島宇宙通信研究センターにおける光学望遠鏡を用いて観測手順が十分に機能することを示したが,様々な性能の光学観測機器で観測することができるよう,観測手順は性能変数による文字式で表現されている.
著者
奥山 圭一 座古 勝
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.35-43, 2004 (Released:2004-06-23)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

軽い熱防御材料は,アブレータを完全に炭化するまで使用することで実現できる.今回,研究対象としたアブレータは,2層式の完全炭化型の炭素繊維強化フェノール樹脂(CFRP)である.アブレータ母材は,炭化材と比較して重い.したがって,母材層を残す従来の設計手法を採用したアブレータは,完全炭化させたアブレータと比較して重くなる.本研究において,全炭化させた2層式アブレータの表面温度は,従来法と比較して大きくなることが確認された.しかしながら,全炭化させた2層式アブレータの表面損耗量は,従来法と大差がなかった.これは,拡散律速領域(700Kから3000K)において,表面損耗量が表面温度の増減に強く影響されないためと考えられる.
著者
武田 和也 河島 信樹
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.45-48, 2004 (Released:2004-08-07)
参考文献数
5
被引用文献数
4 5

我々は月にある氷を確認するため月の極地域にローバーを送り込み氷の直接探査を考えているが,ここで問題となってくるのがローバーのエネルギー源である.そこで半導体レーザーを光源として利用してローバーにエネルギーを伝送することを考え,実証実験を行うため月氷探査ローバーのモデルを作製し,およそ1kmの距離でエネルギー伝送可能な半導体レーザーシステムを開発した.受光素子としてGaAs太陽電池を用いて太陽電池パネルを作製し(半導体レーザーに対して実験室レベルで20%の変換効率)ローバーモデルに搭載した.実験はローバーと半導体レーザーの距離1.2kmで行われ,ローバーモデルの駆動(無線LANを用いてパソコンによる1.2km遠隔操作)を確認した.
著者
小島 寧 棚町 健彦 狼 嘉彰
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49-58, 2004 (Released:2004-09-14)
参考文献数
6
被引用文献数
1

環境観測, 通信, 惑星探査等で活躍する人工衛星の姿勢軌道制御系(以下, AOCSと呼ぶ)は, 搭載ミッションの要求を満たすために, 高精度な指向決定, 安定度を実現する重要な制御サブシステムである. 宇宙空間においてAOCSに問題が発生し, 迅速な回復措置がとられなかった場合, 衛星は姿勢を喪失し, その結果, 通信途絶, 電力確保不能のような致命的な状態に至る可能性もある. また, 衛星, 地上における通信システムリソースの制約に伴い, テレメトリ数や通信可能時間に上限が生じ, 異常回復を目的とした地上側での迅速な対応は極めて困難な状況にある. とくに, スラスタ異常に代表されるように異常発生から機能喪失に至るまでの時間が短時間の場合に深刻である. さらに, 宇宙空間における人工衛星異常時の軌道上サービスによる迅速な修理作業も, 現時点においては実用レベルまで至っていない. 一方, 地球温暖化等の世界的な気候変動研究に役立つデータを提供する地球観測衛星のユーザは, ミッションの継続性とリアルタイム性を強く要求しており, 衛星としては, ミッションを可能な限り継続できるよう, 故障が発生した場合でも, 自動的に機能・性能を回復できる機能を有することが重要である. 以上のような観点から, ミッションの継続, 安全性の確保, 運用負担の軽減を目的として, AOCSの設計フェーズにおいて, 十分な耐故障性を考慮しておく必要がある. 特に, 軌道上において自動で異常・故障を検知して, 分離し, AOCS機能を自動回復させる機能(Fault Detection, Isolation and Recovery, 以下 FDIRと呼ぶ)は耐故障設計のキーとなる重要な機能であり, FDIRシステムを構築することにより, 高い耐故障性を有するAOCSが実現可能である. 本稿では, 2002年12月14日に種子島宇宙センターから打上げられた環境観測技術衛星「みどり?」(以下, ADEOS-IIと呼ぶ)のAOCSの耐故障設計, 特に新規の複合航法におけるFDIRシステム(以下, 複合航法用FDIRと呼ぶ)について述べる. ADEOS-IIのAOCSは, 地球観測プラットフォーム技術試験衛星(以下, ADEOSと呼ぶ)のAOCSにGPSR受信機(以下, GPSR), ピッチ軸用の精太陽センサ(以下, FSSHと呼ぶ)を追加し, GPSRの軌道位置及び時刻情報に基づき, FSSHデータを姿勢誤差補正に用いることでAOCSの性能向上を図ることができる. これを複合航法と呼んでおり, ADEOS-IIはGPSR情報をAOCSに取り込んだ日本初の地球観測衛星である. さらに, 上述の複合航法にFDIRシステムを採用することにより, AOCS機器の故障への耐性をより高めている. また, 以下に示すような既存のFDIRを超える特徴を有しており, 新規性を有している. (1)複合航法で使用しているAOCSコンポーネントの異常をモニタしているだけでなく, 複合航法に対し, 独立に並行動作させているADEOSで実績のある定常航法の姿勢決定系の結果と複合航法の姿勢決定系の出力をオンボードで比較評価し, 航法の正常性についてもモニタしている. 決定系評価の結果, その差分がある閾値を超えた場合, 定常航法に移行する. なお, 過去のJAXA人工衛星のFDIRにおいて, このようなモニタ方法を採用した例はない. (2)複合航法特有の異常と判断された場合には, 定常航法にモード移行し, 地球観測を継続する. 従来のFDIRの設計では, 異常が発生した場合, スラスタを用いた安全モードである地球捕捉モードに即移行していたが, このモードでは全観測センサの姿勢精度要求を満足できない. しかしながら, 定常航法であれば, 半数以上の観測センサについては姿勢精度要求を満足しており, 複合航法中と比較して観測ミッション達成度は低下するものの, 地球環境情報のグローバル観測の連続性, リアルタイム性は維持できる.
著者
奥山 圭一 座古 勝
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.59-65, 2004 (Released:2004-11-17)
参考文献数
7

再突入カプセルは,機体表面に装着可能なアブレータ,繊維質断熱材などから成る熱防御システムを持たなければならない.大気圧下における大きな有効熱伝導率は,幾つかの熱防御システム開発に用いられた.これは,繊維質断熱材を厚く,重く設計する手法である.本研究において,保護熱板(GHP)法のような定常法で測定された有効熱伝導率は再突入環境におけるアルミナ・シリカ繊維質断熱材の温度予測に適用可能であることが判った.さらに,本研究は粘性流領域(105 Pa)とクヌーセン流領域(100 Pa)双方における繊維質断熱材の有効熱伝導挙動も明らかにした.これらの結果は繊維質断熱材の有効熱伝導率予測手法が妥当であること,また薄い断熱材が設計可能であることを示した.
著者
角田 博明 仙北谷 由美 松岡 誠一
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.11-17, 2002 (Released:2002-10-23)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

宇宙利用の活発化に伴い,宇宙で大きな構造物を構築する必要性が高くなってきている.宇宙インフレータブル構造は,複雑な展開機構やアクチュエータを使わず,大形な宇宙構造が構築できるため,近年注目を集めている.宇宙で展開したインフレータブル構造は,展開後に硬化させることにより,スペースデブリやメテオロイドによる損傷を防ぐことができる.インフレータブル構造の硬化層には,硬化前の状態で膜面の柔軟性を有し,常温で長期間の保管に耐えることが要求される.本論文では,繊維状に加工した熱可塑樹脂と強化繊維を使って織った織物を硬化層に使用した冷却硬化型インフレータブル構造を提案する.試験片を用いた実験から,樹脂の含浸に必要な温度と圧力を明らかにする.また,円筒状のインフレータブル構造を製作し,硬化実験を行った結果から硬化後に所定の構造物が得られることを示す.また,その供試体から切り出した試験片を分析し,樹脂の含浸状況やガラス繊維含有率を明らかにする.これらの検討の結果から,宇宙インフレータブル構造に対して熱可塑Co-Wovenを硬化層に用いることの技術的な実現性を示す.
著者
角田 博明 仙北谷 由美
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.19-26, 2002 (Released:2002-10-23)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

将来の移動体静止通信衛星では,これまでよりも大形な平面アンテナを軽量かつ高収納効率で実現する必要がある.しかしこれまでの平面アンテナは,大形化に伴い質量の顕著な増加や収納効率の低下などの問題がある.そこで,本論文では,軽量で柔軟性に富むアンテナ膜面をインフレータブル構造で支持する構成を取り上げた.平面アンテナ構造は,軽量化と柔軟な折り畳み性を目指して,PBO繊維を使った三軸織物複合材料を使ったメッシュ状の構造である.直径1.5 mの平面アンテナ構造を試作し,円環状のインフレータブル構造で支持した状態で面精度を測定した.インフレータブル構造は材質の異なる2種類を使い,内圧と面精度の関係を明らかにした.これより,折り畳みが可能で軽量な平面アンテナ構造の実現性の見通しが得られた.
著者
小島 孝之 佐藤 哲也 澤井 秀次郎 棚次 亘弘
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.33-40, 2002 (Released:2002-12-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

将来の宇宙往還機用エンジン用空気吸い込み式エンジンの制御特性を調べ,制御手法を確立することを目的として,軸対称エアインテークとターボジェットエンジンより構成される超音速エアブリージングエンジンモデルの再始動制御実験を宇宙科学研究所超音速風洞(マッハ3)において行った.制御実験は,極超音速飛行を行うインテークの特徴である不始動現象に着目して行った.制御シーケンスは,飛行中にインテークが不始動になり,さらに不始動による衝撃により燃焼室の火炎が失火することによってエンジンが推力を失った状態を想定して作成した.よって,風洞通風開始直後にインテーク不始動状態でエンジンを始動し,インテークを再始動した後,インテークのスパイク位置および終端衝撃波位置を制御しインテーク全圧回復率を目標値まで回復する一連の自動制御を行った.制御実験は良好に行われ,飛行中にインテークが不始動に陥った後,30~40secでインテーク再始動およびエンジンの推力回復が可能であることを示した.さらに,コアエンジンにターボジェットエンジンを用いる場合,不始動直後に燃焼室の火炎が急激に上昇する現象を示し,この現象に対処する新たな制御ロジックを提案した.また,インテーク不始動時にはバズの回避が不可欠であることを示し,バズを回避するための制御量としてバズマージンという値を提案した.
著者
中山 宜典
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-7, 2003 (Released:2003-02-07)
参考文献数
3
被引用文献数
2 2

近年の宇宙における活動範囲の広大化に応えることができる高比推力イオン推進機を実験的に開発してきたが,従来のイオン推進機とは異なった抽出イオンビームであり,設計パラメータの多さゆえに,試行錯誤による高比推力イオン推進機用グリッドシステムの開発(最適化)は不十分であった.そこで,従来手法を用いた計算解析による設計支援を試みることとしたが,妥当解を得ることができなかった.本研究では,新規あるいは改良手法である(1)鏡像関係を利用した3次元円筒座標系,(2)周方向速度を利用した単位時間調整,(3)PIC法とFlux-Tube法を組み合わせた電荷分配・移動,(4)粒子速度のスカラ量調整によるエネルギ補正,(5)プラズマ成立条件に着目したプレシース面決定,および(6)計算負荷の小さなコーディング方法,を採り入れた計算コードを開発した.この計算コードによる結果および実験結果を比較検討し,電流量および3次元イオンビーム形状・軌道に一致が見られ,解妥当性が認められた.また現時点における標準的パーソナルコンピュータで10分程度の低計算コストであることも認められたため,本コードは高比推力イオン推進機グリッドシステムの開発設計(特に初期,中期)に有用であると推察できる.
著者
角田 博明 仙北谷 由美 渡邊 秋人
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.9-16, 2003 (Released:2003-05-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

宇宙インフレータブル構造の硬化層は,未硬化状態で折り畳みを容易に行えるようにするとともに,軽量化を達成するために,積層せずに1層で構成するのが望ましい.本論文では,三軸織物を硬化層に適用し,1層で硬化層を構成する,軽量で柔軟性を有する硬化型の宇宙インフレータブル構造を提案する.硬化層を1層で構成すると,構造上必要な膜厚を確保するのが難しくなる.そこで,太い繊維を使って低織密度で織った三軸織物プリプレグを作り,これを硬化層に使うことで,1層で0.5~0.6 mmの膜厚の硬化層を実現する.硬化 させるための樹脂に熱硬化型ロングライフ樹脂を適用した長さ2 m・直径150 mmの円筒状のインフレータブル構造を試作し,構造特性測定実験を行うことにより,同様の仕様による二軸織物を使用したインフレータブル構造との構造特性の違いを明らかにする.また,本提案の硬化層を用いて試作した外径2100 mm・管径150 mmの円環状インフレータブル構造を熱風の導入により硬化させ,折り畳みの柔軟性を有するインフレータブル構造に対して硬化方法の妥当性を示す.
著者
角田 博明 仙北谷 由美
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.17-18, 2003 (Released:2003-05-27)
参考文献数
2

加熱硬化型の宇宙インフレータブル構造は硬化時に,また熱可塑樹脂を用いた冷却硬化型では樹脂溶融時に加熱する必要があるため,電力などのエネルギが必要である.これに対して,紫外線硬化型の宇宙インフレータブル構造は,太陽光の照射による硬化が可能なので,大形な宇宙インフレータブル構造を電力等のエネルギを使わずに硬化させることができる.しかし,紫外線硬化型では太陽光のスペクトラムのうち250〜380 nmの波長を利用しているに過ぎず,紫外線以外の波長領域を利用できれば,硬化を効率良く行うことができる.本稿では,太陽光スペクトラムの中で,紫外線より放射照度が大きな波長域(380 nm以上の可視光線)を使って硬化させる光硬化型の膜材料について,試験片による硬化実験から硬化特性を明らかにする.
著者
歌島 昌由
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-23, 2003 (Released:2003-11-14)
参考文献数
5

電気推進系による宇宙太陽発電システム(SSPS:Space Solar Power Systems)の軌道間輸送の新しい制御法を提案する.この方法では, SSPSをクリスマス島などの赤道に近い場所から打ち上げ, 軌道変換中の推力方向のピッチ角とヨー角を共にゼロに固定し, 軌道変換の後半において推力オフ期間を近地点中心に最適に設ける.この方法は, SSPSのような大型の宇宙機にとって, 推力方向制御のための質量の大きなモーメンタムホィールが不要という利点がある.
著者
竹中 信一 山極 芳樹
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-10, 2004
被引用文献数
1 1

固体ロケット打ち上げ直後,ロケットから多量の排出物が地球大気圏に放出される.この排出物中の成分によってオゾン層が破壊され,一時的,局所的にオゾンホールが生じ大量の紫外線が地上に降り注ぐことが予想されている.そのため,我々は固体ロケット排出物によるオゾン層への影響について,実用的な解析モデルの構築を目指しており,今回,3次元モデルを構築し,Titan IV Plumeにおける観測データとの比較をおこなった.その結果,解析モデルは観測データを模擬できており,発射8分後,オゾン密度は破壊以前の37%まで減少し,発射60分後には92%まで回復することが示された.
著者
武田 和也 河島 信樹 矢部 恭一
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-32, 2008
被引用文献数
1 4

我々は半導体レーザーを用いた飛翔体へのエネルギー伝送システムを構築した.これはレーザーでエネルギーを受けている間飛行し続けることができるシステムである.これを用いた飛行実験を大阪ドームにおいて行った.その結果,高度50mを旋回飛行する無人飛翔体へ,自動追尾によってエネルギー伝送を行い,長時間飛行に成功した.
著者
前村 孝志 後藤 智彦 秋山 勝彦 二村 幸基 渡邉 篤太郎
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.27-32, 2002

平成13年8月29日初号機打上げに成功したH-IIAロケットは,幅広い打上げ能力と柔軟な運用性を持ちながら,コストはH-IIロケットの約半分の1機85億円以下であり,世界の商業化ロケットと遜色のない経済性を備えている.このため,信頼性向上とコストダウンを目的にエンジン,機体部品点数の大幅削減によるシステムの簡素化,軽量化に関し様々な新技術を投入した.また,地上設備についても改良を行い,ロケット組立て及び打上げ作業期間を大幅に短縮した.本報では当社が担当した数多くの新技術のうち主要項目について初号機打上げ結果とあわせて紹介する.
著者
石村 康生 高井 伸明 佐々木 進
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.15-20, 2005

現在,無人宇宙実験システム研究開発機構や宇宙航空研究開発機構/宇宙科学研究本部を中心に重力傾斜安定型の宇宙太陽発電システム(SSPS)が検討されている.本研究の目的は,このSSPSの組立時における姿勢安定性の評価である.まずはじめに,SSPSの構成モジュールをライン状に並べていく組立手順における安定性の解析を行った.近似式によって,組立初期において,ロールとピッチ周りの固有振動数が,それぞれ軌道運動の2倍及び1倍になることとが示された.さらに動力学解析によって,ロールとピッチ周りの姿勢運動が発散傾向にあることが確かめられた.この発散傾向を回避するために,相似形状が保たれた組立手順の検討を行った.しかしながら,この組立手順では,組立初期においてピッチとヨー周りの復元トルクが小さく,ヨー軸周りの姿勢変動が最大29度発生することがわかった.それ故,どちらの組立手順においても,組立初期においては能動的な姿勢制御が必要となる.