著者
青木 順子 Junko Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.48, pp.125-136, 2020-02-28

2018年後半から2019年前半にかけてのアカデミー賞作品賞を受賞した映画、米国NBC局のキャスターの「ブラックフェース」発言等、社会で論争を引き起こした例を基にして、「拘り」の表明、「拘り」に対する反応、反論、言い訳に見えてくるものを検証し、「拘り」の持つ性質と意義について考察をしている。自らの「拘り」への参加、他者の「拘り」の行為の受容、そして異なる意見の表明によって互いに真摯な応答の過程がなされていく社会を尊重し、「拘り」の表明によって、さらに異なる意見が自由に意見交換されるような空間――これは、カントのいう公共圏でもあり、アーレントが、レッシングの考えた真理の存在、「真理は、言語を通して人間化されるところのみ存在する」について述べたような、多様性を持つ人間が「真理だと思っているもの」を表明し語ることでのみ作り得る「唯一の人間的な空間」でもある。他者のメディア表象への「拘り」を尊重し、真摯に応答する行為を通して、「一人ひとりが・拘り・今・自分に・出来ることを、丁寧に問い・声をあげ、かつ、耳を傾け・異なる他者とのコミュニケーションを続け・それを通して得た真理を・実現しようとする」という異文化コミュニケーション教育の目標は達せられるのである。
著者
戸田 常一 Tsunekazu Toda
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.259-270, 2021-02-28

新型コロナウイルスの我が国に流入して半年が過ぎた。ウイルスの感染拡大はわが国における様々な社会経済活動に大きな影響を及ぼした。政府や自治体は人の移動やイベント開業などの自粛を要請し、これにより旅行業、航空業、鉄道業、イベント関連業、宿泊・飲食業などは大きな打撃を受けた。なかでも中小規模の事業所の多い観光関連業界は深刻な事態に至っている。本稿は、検査や医療体制の限界から感染が拡大するリスクを「感染リスク」、企業倒産や失業などにより生活困窮者が生まれるリスクを「経済リスク」として捉え、これらのリスク発生と制御の視点から半年間の国内での対応を振り返って整理し、これをもとに感染リスクと経済リスクをともに視野においた観光分野のリスクマネジメントのあり方を考察する。
著者
廿日出 里美 Satomi Hatsukade
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.125-136, 2021-02-28

本研究の目的は、来るべきAI化時代に備えてAIとは異なる生身の人間の「感覚力」に着目し、人とかかわる職に就く人々に向けた研修プログラムを開発することにある。大量の情報を瞬時に処理することに長けたAIは将来、職場でどのように活用され、人々の関係性にどのような変化をもたらすか、現時点での将来像を予測しておく必要がある。昼寝などの睡眠時の乳幼児の安全・見守りや送り迎え時の保護者対応、絵本の読みかたり等の業務にAIが登用された場合、そこで働く専門職の意味合いや養成、ならびに、研修内容にも大きな影響を及ぼすと考えられる。経済中心の原理や従来の仮説検証型の自然科学的方法とは異なる未来像を描く方途として、本論では人称の身体感覚を手がかりに、パフォーミング・アーツのワークショップにおける長期的フィールドワークを通して、対人関係専門職に就く人々を想定した感覚力の拡張を目指すプログラムの検討を試みる。
著者
青木 克仁 Katsuhito Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.46, pp.1-10, 2018-02-20

プラトンは、利己主義的な個人を道徳に従わせるにはどうしたらいいのか、という問いに答えを見出そうとした。プラトンにとって、民主制に対応する人間類型は、「必要な欲望」と「不要な欲望」という区別がなくなった人間なのである。つまり、自由・平等を謳う民主制には、本来は「不要な欲望」にカテゴライズされるべき欲望を追求する利己主義的個人が跋扈することになるという、プラトンが最も忌み嫌う脆弱性が存在している。こうしたプラトンの目から見れば、堕落した政体である民主制には、人間類型としての利己主義という問題が浮き上がってくる。彼の主著とされる『国家』では、まさに、この「利己主義」の問題が取り扱われている。本論考において、利己主義に対するプラトン的処方箋とはどのようなものだったのか、という問いを扱うが、その処方箋が現代社会においては、うまく機能しなくなっていることを示す。
著者
平本 哲嗣 Satoshi Hiramoto
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.47, pp.119-128, 2019-02-28

2017年3月に告示された新しい小学校学習指導要領では中学年で「外国語活動」、高学年で「外国語」が設定されることとなった。現在のような状態に至るまでには長い経緯があるが、戦後の政策動向において、特に注目すべきは1986年の臨教審第二次答申といえよう。本論では、この答申にいたるまでの1960年代から1970年代に的を絞り、当時の英語教育関連の雑誌や新聞記事から、関係者の活動や言説に関する情報を得ることを目的とする。特に本論では英語教師だけではなく、英語教育に対して発言力のある団体(海外の視察団や財界)の言説も扱うことで、英語教育政策過程におけるアクター群の役割を明らかにするとともに、早期英語教育に関する言説が時代とともにどのように変化したのかを議論する。なお、本論では小学校英語教育に加え、就学前教育における英語教育も扱うため、「早期英語教育」を主たる表記として用いる。
著者
永田 彰子 Akiko Nagata
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.47, pp.21-30, 2019-02-28

人生における苦悩に直面した際の自己のとらえ直しのあり方について、本稿ではジェネラティヴィティの社会化を手がかりに考察した。すなわち成人期には苦悩を通して、限りある身としての自己が喚起されることが多くあり、そのような状況ではそれまでの自己では立ち行かず、新たに自己をとらえ直し、組み直すという再体制化の課題が繰り返し生じることをこれまでの研究を概観することによって指摘した。自己をとらえ直す際には、自分自身の人生においてそれを意味あることと捉えられるか否かという意味づけが重要になってくるということ、さらにその意味づけには、「特定の閉じられた帰属集団」から「普遍化」という社会化への一定の発達的方向性があるということを概観した。