著者
舘田 一博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.999-1004, 2005-05-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
11

細菌の産生するホルモン様物質(autoinducer)を介した情報伝達機構,すなわちクオラムセンシング(Quorum-sensing)が微生物学・感染症学・化学療法学の分野で注目されている.これはビブリオ属細菌における菌数依存的な蛍光物質産生という現象から見つかってきたシステムであるが,その後,緑膿菌をはじめとする多くの病原細菌が本機構を用いて病原因子発現をコントロールしていることが明らかとなっている.また最近では,このautoinducer分子が生体細胞に対しても多彩な影響を及ぼしていることが報告され,菌側と生体側の両面から感染症の発症に関与する因子として注目されている.ここでは緑膿菌のクオラムセンシング機溝に焦点を当て,その基本構造と特徴を概説するとともに,本機構の感染病態形成における役割,クオラムセンシングをターゲットとした新しい感染症治療の可能性について述べてみたい.
著者
柴田 洋孝 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.805-810, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3

偽性アルドステロン症は,甘草(グリチルリチン酸)の慢性摂取により,高血圧,低カリウム血症,低レニン血症,低アルドステロン血症を呈する疾患である.腎臓の皮質集合管細胞にあるミネラルコルチコイド受容体(MR)に,アルドステロンとコルチゾールは等しい親和性で結合するが,通常,11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2によるコルチゾールからコルチゾンへの不活化により,アルドステロンが選択的にMRに結合する.グリチルリチン酸は,この酵素活性を可逆的に阻害することにより,腎臓内で上昇した内因性コルチゾールにより,MRを活性化して,Na再吸収およびK排泄が亢進するのが病態である.治療としては,原因薬物や食物の減量または中止であるが,一部の症例ではミネラルコルチコイド過剰症状が遷延することがあり,減塩,K補充,MR拮抗薬のスピロノラクトン投与などが有効である.
著者
東 健
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.600-606, 2013 (Released:2014-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

2 0 0 0 OA 1.糖,蛋白質

著者
武田 英二 宮本 賢一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.7, pp.1029-1033, 1996-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

近年の分子生物学の発展により,腸管での栄養素吸収の分子機構が明らかになってきた.糖質の吸収は能動輸送と促通拡散を示す特異的なグルコース・トランスポーターによって行われる.アミノ酸およびペプチドに対しても中性,塩基性,酸性アミノ酸およびペプチドのトランスポーターが小腸上皮細胞の刷子縁膜や側底膜に存在して,特異的な輸送系を構成している.さらに,これらの輸送を調節すると思われる分子も明らかにされている.
著者
八幡 芳和 阿部 優子 角田 力彌
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.807-812, 2017-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

ペラグラは3D(dementia,diarrhea,dermatitis)と表現され,主としてビタミンの一種であるナイアシン(niacin)の欠乏により発症する疾患で,食糧事情の改善された現在では極めて稀な病態だが,本症例は単純糖質を主とした特殊な偏食による状態で発症した.診断,治療には精神神経症状や消化器症状など全身的な代謝障害の1つに,本症名称の皮膚科疾患が位置づけられていることの認識が重要である.
著者
中島 一敏
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.547-552, 2016-03-10 (Released:2017-03-10)
参考文献数
16

中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)は,2012年から3年以上,サウジアラビアを中心に患者発生が継続し,2015年8月27日までに,世界26カ国から1,511人の患者が報告されている.アラビア半島以外での患者発生は小規模にとどまっていたが,2015年5~7月に韓国で発生したアウトブレイクでは186人が感染した.MERSは,重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)と比較し,ヒトコブラクダでウイルスが維持されている動物由来感染症であり,同時多発的な国際伝播,航空機内での感染,市中感染などが起こっていないことなどの特徴があり,SARSで2~3とされている基本再生産数は1未満と推定されている.現在,SARSのように大規模で国際的な拡大の予兆は認められていないが,未知なことも多く,今後,ウイルスの変異に伴い,感染性が高まる可能性も否定できない.動物からの感染予防,院内感染対策などを強化するとともに,発生動向の国際的な監視が必要である.
著者
服部 俊夫
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.94, no.9, pp.1915-1920, 2005-09-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
6
著者
小寺 良尚
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.1759-1766, 2013-07-10 (Released:2014-07-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

我が国の造血幹細胞バンク(骨髄・末梢血ドナーバンク,臍帯血バンク)は1900年代最後半に設立されて以来,順調に発展してきており,それらが仲介した非血縁者間造血幹細胞移植数は世界でもトップレベルにある.ただ一方において移植を受けられないまま亡くなる患者さんも依然多く,その方々を,昨年立法された造血幹細胞移植推進法(略称)に基づきこれまでのバンク機構を更に発展させることにより救済するための作業が進められている.
著者
松本 美富士
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.510-515, 2006-03-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
10
被引用文献数
3
著者
上阪 等
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.1789-1795, 2016-09-10 (Released:2017-09-10)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
菊池 賢
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.3129-3133, 2012-11-10
参考文献数
22

百日咳は主に乳幼児に重篤な咳嗽発作(whoop)をきたす百日咳菌(<i>Bordetella pertussis</i>)による呼吸器感染症として,古くから知られている.ワクチン普及後,急速に患者は減少したが,ワクチンで予防できる疾患としては唯一,1990年代以降,先進国を中心に増加に転じた.中でも際立つのが思春期以降の成人百日咳の増加である.百日咳の感染サイクルの中心は今や小児から成人へ移ったと考えられる.典型的な小児の痙咳期であれば百日咳を疑うことは難しくないが,成人百日咳は慢性咳嗽以外の症状に乏しく,その実態はほとんどわかっていない.新たに思春期への使用が開始され,成人への接種も検討され始めたTdapは期待されるが,ワクチンの効果は概ね10年で消失すると考えられており,現在の成人主体の感染サイクルをどう断ち切るか,再投与のタイミングを含めた成人への接種プロトコールの整備が急務になっている.百日咳制御のためには,成人百日咳の診断基準の確立,国際的な動向調査の実施と成人向けワクチン戦略の早急な設定が必要である.<br>
著者
赤水 尚史
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.763-768, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2

甲状腺中毒クリーゼは「生命が危険となるような激しい症状を呈する甲状腺中毒症」であり,多臓器における非代償性状態を特徴とする.甲状腺基礎疾患としては,Basedow病が最も多い.かつては甲状腺亜全摘術後発症する外科的甲状腺クリーゼが多かったが,現在は内科的甲状腺クリーゼがほとんどである.臨床症状に基づいて診断されるが,明確な診断基準は国際的にも確立されておらず,疫学データも乏しい.日本甲状腺学会と日本内分泌学会は共同して,『甲状腺クリーゼの診断基準の作成と全国疫学調査』を臨床重点課題と定め,新診断基準に基づいた全国疫学調査を実施した.その調査結果に基づいて,発症実態の解明,診断基準の改訂,予後規定因子の解析,治療指針の作成が予定されている.
著者
坪井 義夫 藤岡 伸助
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.8, pp.1578-1584, 2015-08-10 (Released:2016-08-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1

Parkinson病(Parkinson's disease:PD)患者は中期から進行期にかけて救急受診,入院加療の頻度が増加する.原因は全身合併症,外傷あるいはPD症状の悪化など様々であるが,薬物療法の理解が不十分な場合に,重篤な状態に陥る可能性がある.手術の必要な場合,周術期にも合併症やPD症状の悪化を呈する頻度が高い.特にドパミン系治療の急な中断による悪性症候群類似のParkinsonism-hyperpyrexia syndromeは重症化しやすく,早期の診断,対処が必要である.神経内科医,救急医はPDの救急診療,周術期管理に習熟しておくことが望まれる.
著者
上月 正博
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.7, pp.1296-1302, 2016-07-10 (Released:2017-07-10)
参考文献数
15

腎臓リハビリテーション(腎臓リハ)は,腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的および職業的な状況を改善することを目的として,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムである.腎臓リハの中核的役割を担う運動療法は,透析患者の運動耐容能改善,protein energy wasting(PEW)改善,蛋白質異化抑制,QOL(quality fo life)改善などをもたらす.さらに,最近になって,保存期CKD(chronic kidney disease)患者が運動療法を行うことで腎機能(eGFR(estimated glomerular filtration rate))が改善するという報告が相次いでいる.腎臓リハにより,保存期CKD患者の腎機能改善や腎機能低下速度遅延が確実となれば,透析導入を先延ばしすることができ,多くのCKD患者にとって朗報となる可能性がある.2011年に日本腎臓リハビリテーション学会も設立され,CKD患者における腎臓リハのさらなる発展が期待される.
著者
稲瀬 直彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.9, pp.2269-2274, 2014-09-10 (Released:2015-09-10)
参考文献数
19
著者
風間 順一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.5, pp.954-958, 2017-05-10 (Released:2018-05-10)
参考文献数
10

フレイル(Frailty)は「加齢に伴う様々な機能変化や予備能力の低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態」と定義され,ロコモティブ症候群やサルコペニアによる機能障害が運動機能に限定されるのに対し,精神・心理的問題や社会的問題等より広い問題点をも包含した概念である.慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)患者はフレイルの合併が多く,フレイルを合併した患者はCKDの進行も早い.尿毒症が加齢に類似の病態背景を示すことはその一因であろう.
著者
神谷 信秀 橋本 政宏 鈴木 富雄 伴 信太郎 中村 亮一 渡辺 宏久 祖父江 元
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.11, pp.2838-2842, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

抗NMDAR脳炎は卵巣奇形腫に随伴する辺縁系脳炎であり,若年女性に好発する.症例は16歳,女性.抗NMDAR脳炎の経過中に,家族などのかけがえのない人物が瓜二つの別の人物に入れ替わっているという妄想である,カプグラ症候群を併発した.抗NMDAR脳炎にカプグラ症候群が併発した報告は本例が初めてである.一方,抗NMDAR脳炎において海馬や扁桃体にIgGが沈着しているという報告があり,同部位はカプグラ症候群の責任病巣として知られている.今後,抗NMDAR脳炎患者が経過中に妄想や精神症状を示した場合には,病的言動に対してカプグラ症候群を念頭に置いた評価が必要である.
著者
高地 雄太 山本 一彦
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.150-155, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10

膠原病・リウマチ性疾患の多くは,環境・遺伝因子によって発症する多因子疾患である.従来より,HLA遺伝子多型と各疾患の感受性との関連が知られていたが,近年,ゲノム全体を探索対象とするゲノムワイド関連解析が可能となったことにより,非HLA遺伝因子の解明が急速になされつつある.これらの疾患には,PTPN22,TNFAIP3,CTLA4などの共通遺伝因子が存在する一方で,関節リウマチにおけるPADI4遺伝子のように,疾患特異的な遺伝因子も存在する.したがって,これらの遺伝因子の組み合わせによって,個人における各疾患への感受性が規定されているものと考えられる.また,遺伝因子を複合的に解析することによって,個人の病態予測・治療反応性予測にも応用されることが期待されるが,遺伝因子には少なからず人種差が存在するため,今後,日本人における全貌を明らかにする必要がある.