著者
坂井 信之
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.171-178, 2009-08
被引用文献数
6

本論文では、「共感覚」というタームを中心に「味とにおいの接点」について論じた。最初に、我々ヒトの食において、味とにおいは切っても切れない関係にあることを、筆者らの心理学・行動科学的な研究を中心に、現象論として例示した。次に、その背後にあると考えられる味覚と嗅覚の連合に関する脳機構について、ラットを用いた行動神経科学的な研究とヒトの非侵襲計測の結果を合わせて考察した。最後に、最近になって蓄積されつつある第一次感覚野での情報の統合が、味覚と嗅覚の連合でも生じている可能性について論じた。
著者
佐藤 清隆
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.147-156, 2004-08

食べ物のおいしさは、5つの基本味や匂いという化学的要因にくわえて、物理的要因としての「食感」、さらには生理的・心理的要因や、記憶・経験、社会環境などが複合的に作用して決まる。したがって「食べ物のおいしさ」は、総合的な観点から研究する必要がある。本稿では食品の物理的特性とおいしさとの関係を考察したのちに、油脂性食品、とくにチョコレートを例に取り上げて、食感に及ぼす物性の重要性を考察する。
著者
北川 純一 高辻 華子 高橋 功次朗 真貝 富夫
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.143-149, 2013 (Released:2018-05-30)

「おいしさ」にとって重要な要素である「のどごし」の形成には、咽頭・喉頭領域の感覚が深く関与していると考えられる。しかしながら、咽頭・喉頭領域の感覚についての研究報告はあまり多くない。本稿では、これまでの研究によって明らかにされた咽頭および喉頭領域を支配する神経(舌咽神経咽頭枝と上喉頭神経)の味覚応答特性ついて紹介するとともに、近年、盛んに研究されているTRPチャネルファミリーとのどごし感覚の関連性を検討する。さらに、健康的な生活を過ごすために大切な摂食(嚥下)機能に対する咽頭・喉頭領域からの求心性情報の役割について考察する。

1 0 0 0 味覚センサ

著者
都甲 潔
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-32, 1997 (Released:2018-05-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2

味を定量化するセンサが開発された。味覚センサは、味物質のもつ情報を電気化学的に電圧に変換する複数種類の脂質/高分子膜とデータを処理するコンピュータ部からなる。味の違いは脂質/高分子膜の出力電圧から構成されるパターンの違いで識別・定量化される。酸味や苦味といった全く異なる味には大きく異なるパターンを出力し、似た味には似通ったパターンを出力する。また、抑制効果などの味質間の非線形相互作用も拾うことが可能であることからもわかるように、味覚センサは「味物質」ではなく「味」そのものを出力情報にもつセンサである。感度や識別能は人より1桁以上優れている。また、繰り返し使用も半年以上可能であり、工場の製造ラインに組み込むことができる。酸味や苦味といった人の官能と高い相関を示し、官能表現を定量化できる。このセンサは従来の高選択性をもつセンサの概念とは全く異なる広域選択性(global selectivity)を有するセンサであり、バイオミメティックテクノロジーの一つの方向を示している。
著者
新島 旭
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.41-54, 2001 (Released:2018-05-30)
参考文献数
28

1994年に発見、報告されたレプチンは白色脂肪細胞で生産され放出されるホルモンで食欲を抑制し、消費エネルギーを高めて肥満を防止する物質であることが明らかとなった。その後の研究で視床下部にレプチンレセプターが存在することが証明され、レプチンの食欲抑制効果、自律神経出力への効果は視床下部を介して発現することが示唆された。さらに、レプチンの静脈内投与により迷走神経活動の抑制、交感神経活動、とくに白色脂肪枝、褐色脂肪枝での活動促進が観察され、脂肪分解、熱産生の促進が示唆された。レプチンは自律神経活動を調節することにより異化作用の促進、同化作用の抑制を起こし、体脂肪量の調節に役割を演じている。本稿では上記について概説し、レプチンの作用経路についても考察した。
著者
岡崎 義郎
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.119-124, 1998 (Released:2018-05-30)
参考文献数
33

従来、ニオイは情動を喚起する刺激であるとされ、また天然精油においては覚醒・鎮静効果を持つと伝承的に伝えられているものも多い。しかしながら、このような香りの心身への効果については経験的な議論が多く、科学的に実証しようとする動きはここ10年くらいである。ここではニオイと覚醒水準の関係について、またニオイと快-不快について生理心理学の立場から概説する。これまでに得られた知見から一部の精油の香りは鎮静・覚醒効果を示すことが明らかになった。その作用機序は、ニオイ物質の薬理効果ではなく嗅覚伝達系を介した効果であることが、嗅覚喪失マウスの実験結果・特異的無嗅覚症者を含む実験結果などから示唆されている。
著者
小林 正佳
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.37-48, 2012
参考文献数
16
被引用文献数
1

交通事故などで生じる頭部外傷は、副鼻腔炎、感冒とともに嗅覚障害の三大原因のひとつであり、他の原因と比較して嗅覚の予後が悪い。本来嗅神経には他の脳神経よりも強い再生能力が備わっているにもかからわず、外傷性嗅覚障害の予後成績がよくないのはなぜか?これを突き止めるために外傷性嗅覚障害モデルマウスを用いて予後因子の探究と予後改善のための治療研究を施行した。嗅神経の確認が容易なOMP-tau-lacZマウスを用い、2種類のカッターを使い分けて嗅神経を切断して軽傷と重傷の外傷性嗅覚障害モデルを作製し、篩板-嗅球創部の傷害組織の所見、局所炎症の程度、嗅神経の再生度を比較検討した。その結果、外傷性嗅覚障害の予後は局所炎症の程度に依存し、外傷後早期に積極的な消炎治療を施行すれば、外傷性嗅覚障害の予後成績を改善できる可能性が示唆された。消炎治療薬として抗IL-6受容体抗体はステロイドよりも副作用が少なく、実際に臨床応用できる外傷性嗅覚障害の有効な治療薬の候補であると考えられる。
著者
吉澤 淑
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.211-218, 2000 (Released:2018-05-30)
被引用文献数
1

ビール、ワイン、清酒の原料、製造法の違いが成分組成や香味に及ぼす影響の大きさについて考察し、それらの相違が結果として飲酒形態や酒質評価、表現へも大きく影響していることを述べ、具体例として、コク、キレの2評価用語をとりあげ、その評価する内容が三者で異なること、例えばワインではキレという表現は用いられない理由を考察し、更にアルコールの香味への働きが三者で異なることを述べた。
著者
笹島 保弘
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.189-195, 2009

香りと味ということでイタリアンシェフの立場から現場の事例を紹介する。低温からニンニクとエキストラバージンオイルを加熱するとえも言えない良いにおいがする。そして、いい香りとはその食材の味のポテンシャルとある面で平衡している。ニンニクオイル、塩でトマトを煮詰めていくようなトマトソースは、イタリア人にとって日本人の一番だしに値するようだ。一方、ハーブは香りというより味を変える目的で使われている。同様に高価な白トリュフはそのものが持つ香り・味でなく、トリュフをかけた料理の味が際立ち、おいしくなるという理由で用いられる。
著者
道畠 俊英
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.95-104, 2007 (Released:2018-05-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1

石川県奥能登地方には、イカやイワシを原料としたイシルと呼ばれる魚醤油が古くから造られている。この石川県の伝統食品であるイシルについて、そのうま味成分や機能性について検討を行った。イシルは全窒素含有量、塩分量ともに高い値を示した。さらにイシルは多量の遊離アミノ酸量を含んでおり、その主な組成はアラニン、グルタミン酸、グリシン、リジン、バリンなどであり、機能性を持つタウリンも多く含まれていた。またペプチド含有量も高く、そのほとんどがグルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸により構成されたペプチドであった。機能性においては、イシルには高い抗酸化性とACE阻害活性が確認され、脱塩イシル粉末を給餌した動物試験において血中グルコース濃度や血圧の上昇抑制効果が認められた。従って、イシルのうま味は豊富な遊離アミノ酸とペプチドにより形成され、高い機能性を有する調味料であることが判明した。
著者
丸山 豊
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.5-10, 2008 (Released:2018-05-30)
参考文献数
33

味蕾には味物質の受容を行い、そのシグナルを知覚神経に伝達する味細胞が局在している。近年、味覚受容体が相次いでクローニングされ、そのシグナル発生機構の一端が解明されつつある。しかし、受容体に結合して発生した味シグナルが味細胞間でどの様に変換され、知覚神経に出力されるのかあまり明らかになっていない。我々は味蕾内での味シグナルの伝達経路と関与する伝達物質を明らかにすることを目的とし、研究を行った。その結果、味刺激はreceptor cellからATP放出を引き起こし、このATPはpresynaotic cellからのセロトニン放出を惹起することが明らかになった。これら両伝達物質が味シグナルの伝達に関与する可能性が考えられた。
著者
阿部 宏喜
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.169-176, 2001
参考文献数
25
被引用文献数
1

魚介類のおいしさに関する従来の研究では低分子エキス成分および無機イオンの影響が詳細に検討され、これまでに美味な魚介類の呈味有効成分が明らかにされている。近年、ペプチド、タンパク質、多糖類、脂質などの呈味効果が次第に明らかにされつつあり、魚介類の微妙な味の差に興味がもたれている。本稿では魚介類の味および風味質に対するグリコーゲンとタンパク質の影響、魚醤油の呈味有効成分とオリゴペプチドの呈味効果およびマグロのおいしさに対する脂質の影響に関する最近の知見を紹介する。
著者
坂根 直樹
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.143-148, 2006 (Released:2018-05-30)
参考文献数
26

わが国でも食生活の近代化に伴い、生活習慣病が増加しており、その基盤となる肥満対策が急務である。しかし、心理学的抵抗を示す肥満者への減量指導は困難を伴う。また、減量に成功しても逆に血圧が上昇する場合がある。その原因として低脂肪食を実行するため煮物など食塩摂取量の増加が関係している。一方、食塩味覚閾値には糖尿病のみならず、母親や遺伝子多型が影響を及ぼしている。そこで、「うま味」を活用したおいしくダイエット教室を開発し、その効果を検討したところ、有意な減量効果とともに有意な降圧効果も得られた。
著者
原田 秀逸
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, 2008-04
著者
神宮 英夫
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.157-162, 2012
参考文献数
6

香りによって行動が改善される可能性を明らかにするために、情意との関係を考えた3つの研究を紹介する。これらは、認知症の高齢者への音楽療法と徘徊を抑える試み、および言語治療場面の研究である。各々の研究において、香りの強さは、刺激閾から認知閾程度の弱いものを使用したが、弱い香りにおいても行動改善の効果が認められた。このことから、認知症の高齢者や赤ちゃんなどのように、言語によるコミュニケーションが難しい場合に、官能評価以外で香りの効果を評価する方法として、行動変化を利用できる可能性が示唆された。
著者
西村 敏英
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.161-168, 2001
被引用文献数
9 3

肉のおいしさを決定する重要な要因は、肉自身のもつ食感、香り、味である。肉は、適度な硬さ、なめらかな舌ざわりと豊かな多汁性をもつとおいしいと感じる。また、種に特有な肉らしい香りがして、かつうま味が強く、こくやまろやかさを有する肉はおいしいと感じる。これらの肉質の多くは、肉を低温で貯蔵する熟成過程において得られるものである。