- 著者
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大城 直樹
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
街おこし・地域おこしといったイベント,名産品,民芸品などのモノ,また郷土愛といった精神的な表象にいたるまで,地域と文化の組み合わせは,ツーリズムの発達とも連関する形で,従来の地域的文脈から切り取られたり,違う文脈に接合されたりしながら,編成・再編成されてきた。この「地域」という特定の空間的範域が「文化」と結びつけられることで事実上何が充填/発現されるのか。本研究は,従来自明で所与のものと考えられがちな「地域文化」を,構築的なものと措定することでいったん分解し,各々の概念の問題ならびにこの二つの組み合わせ自体に孕む無意識的な接合の在り方を精査することで,ごく日常的に用いられる「地域文化」表象を本質論から一度解放し,そこで得られた概念的知見を具体的な事例を通して検討することで,地域主義やナショナリズムに結びつくその構造的な枠組みと問題点を析出することを目的とする。<br><br>言い換えると,「地域文化」あるいはそこで措定される「地域なるもの」をめぐって交錯する諸表象と諸実践に焦点を当てて,それがなぜ「分節化(曖昧な状況からはっきりと形をとるようになること)」される必然があったかを問うことがそのねらいである。<br><br>その範囲として19世紀から今日にまで至るモダニティと資本主義の連関の追求を前提とする。その連関の発現であるテクノロジーの発展は,国家形態とも連動しているが,その端的な例が博覧会である。帝国主義ならびに植民地主義と博覧会は切っても切れない関係にある。地理的領土の拡大,地理的知識の蓄積,テクノロジーの発展競争等,スペクタクルな光景を現出させることによって,観客に国家的威信とその野望とを刷り込んでいったのである。また各種メディア・イベントや博覧会,博物館,展示会などが,多様な空間的スケールを表象させるその装置となった。そしてまさにここに地理思想として地域とアイデンティティの関係(愛国心,愛郷心,お国意識など)を問う理由があるものと考える。<br><br>第二次大戦後になると,高度経済成長期を経て,ポストモダニズムとも言われる大衆消費時代を迎える。1970年の大阪万博開催とともに始まった旧国鉄の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンのように,出郷者がノスタルジーを感じるよう「漠然としたローカルな風景」をポスター化し,従来観光地と目されなかった「ローカルな風景」をツーリズムの目的地として行く場合もあったし,アンノン族の発生と連動する形で,ファッショナブルな服装をまとった都会的な女性が「田舎」を旅するシーンをテレビで流すなど,従来の旅行形態とは大幅に異なるツーリズム・コンテンツを開発していった。知られているように,これらと雑誌メディアの関係については既に多くの業績がある。しかし,こうした変容がどういう風にして存立するようになったのか,そしてそれが自明化していったのか,その契機や道具立てないしは仕掛けにまで目配せした研究は少ない。これもまた文化史的問題であると同時に地理思想の問題でもあり,精査の必要がある。<br><br>また近年では「民俗」,「民芸」,「伝統」といった語で表象される観念やモノ,さらには生活様式ですらも,現地の宿屋や土産物屋であれ都市のセレクトショップや展示会であれ,あらたにヴァナキュラーなものを「商品化」し,カタログ化し,デザイン化することで消費の場を構築していく仕組みに包括されている。本研究では,使用価値が交換価値に変換されるという契機の文脈を抑えながら,F.ジェイムソン(1991)がいうところの後期資本主義の文化論理を精査し考察していくこととする。