著者
梅津 綾子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C02, 2021 (Released:2021-10-01)

イスラームの古典的解釈では同性婚が認められておらず、同性愛ムスリムが差別や迫害を受け国際問題となっている。日本にも性的少数者(LGBT)のムスリムはいるが、その実態はあまり解明されていない。本発表では日本人LGBT信者への聞き取りから、古典的解釈を選択的に重視することにより、同性婚と信仰を両立させうることを示す。そしてジェンダー公正と信仰が両立しうる日本版イスラーム文化の可能性を示唆する。
著者
北原 次郎太 モコットゥナㇱ
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F09, 2021 (Released:2021-10-01)

本発表では、近代以降の人類学的研究の中で収集されたアイヌ民族の遺骨について、収集の経緯と返還運動の現状を述べる。また、遺骨の収集と同じ時期・環境のなかで、物質資料や言語資料も収集された。これらの収集行為を巡り、琉球民族やアイヌ民族と和人とでは、それぞれの立場性によって異なった情動が呼び起こされる。これまで意識的に論じられてこなかったこの差異を認識することが、両者の和解・共同に繋がることを述べる。
著者
土井 冬樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B16, 2021 (Released:2021-10-01)

先住民の文化は当該先住民によってのみ利用できるとする考え方がある一方、主流派と先住民の二つの文化を尊重する二文化主義体制をとったニュージーランドでは、国家的な組織の一つである警察が、先住民マオリの踊りであるハカに取り組むようになった。本発表では、他者による文化の利用を嫌うマオリが、警察によるハカの実践をどのように許容しているのか考察する。
著者
池田 光穂
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F11, 2021 (Released:2021-10-01)

先住民(族)を「異類の他者」として客観的な表象としてのみ扱ってきた学問の倫理的姿勢を、哲学者の植木哲也(2011)氏は「学問の暴力」と呼び、それを厳しく糾弾する。遺骨返還運動の抗議の矛先は自然人類学に向けられているが、このような歴史的な負債を負っているのは、はたしてわれわれのキョウダイ学問だけではあるまい。私は文化人類学もまた、過去の歴史からの反省し学問が倫理的にノーマライズすべきであることを主張する。
著者
松川 恭子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D10, 2021 (Released:2021-10-01)

本報告では、主にクウェートで行った調査で得られたデータを中心に、湾岸アラブ諸国におけるインド系移民第二世代の教育戦略を考察する。彼ら/彼女たちの選択は、湾岸アラブ諸国における国民中心の公教育制度や高等教育の発展(海外分校の参入など)、インド政府の在外インド人政策、第一世代の思惑などの要素を背景としつつ、トランスナショナルな視野のもとで行われていることを明らかにする。
著者
長坂 格
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D09, 2021 (Released:2021-10-01)

イタリア、およびフィリピンでの調査にもとづき、イタリア在住のフィリピン系第1.5世代移住者たちのイタリア、フィリピン、そして他国に広がりつつある実際上の、そして想像上の社会圏を、「社会生活の舵取り(social navigation)」[Vigh 2009]として描写し、併せてそれを彼ら/彼女らを取り巻く、絶えず変化する社会環境との関連で考察する。
著者
福井 栄二郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.G16, 2021 (Released:2021-10-01)

近年の人格論はストラザーンのdividual/individualという議論をいかに乗り越えるかという点に焦点が当てられており、そのなかでバード=デイヴィッドらは「状況的人格」という概念を提起している。本発表はこれを手がかりに、ヴァヌアツ・アネイチュム島における死の場面の事例を考察し、ストラザーンの議論の限界を指摘する。そして状況的人格の特徴を「二人称的」であることとし、その学術的意義を再考する。
著者
西 真如
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F00, 2021 (Released:2021-10-01)

私たちは、意図するかしないかに関わらず、日常生活においていつも誰かや何かを心配し、係り合いになってしまっている。本分科会では、ケアフェミニズムおよび関連する人類学の近年の議論を参照するとともに、ケアの実践における非人間(non-human)の役割を探求する。またそのことを通して、他者との具体的な関係性に立脚した民族誌研究の地平をおしひろげるとともに、関係論的な思考の限界についても検討する。
著者
山崎 幸治
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A16, 2021 (Released:2021-10-01)

本発表では、ウィーン世界博物館に所蔵されているハインリッヒ・フォン・シーボルト(1852-1908)のアイヌ・コレクション(約80点)について報告する。発表では、彼のアイヌ・コレクションの特徴と、その特徴を形づくった要因について検討するとともに、彼の北海道調査の旅程の一部を共にしたり、道中で出会ったりした2人の外国人による記述を読み合わせることから見えてくる1878年当時の状況についても検討する。
著者
瀬口 典子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F10, 2021 (Released:2021-10-01)

日本の人類学は現在遺骨返還問題に直面しており、その背景には過去から現在に続く学問の植民地主義がある。文化人類学も自らの植民地主義を自覚すべきであると先住民から迫られている。本発表では、遺骨返還運動がきっかけとなって生まれた北米の先住民と人類学研究者との間の対話の実践、相互的な理解関係の構築と先住民コミュニティとの共同研究のありかたを検証し、日本における広義の人類学が進むべき未来を考えたい。
著者
田中 瑠莉
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D13, 2021 (Released:2021-10-01)

本発表では、京都市動物園の事例をもとに動物園の飼育動物(動物園動物)と人の関係について考察する。動物園において、それぞれの動物は「個」として扱われる一方で、動物を「擬人化」することは批判的に捉えられる。両者の差異に着目し、動物園の飼育動物を人と対等な存在として扱うことの内実と、飼育している個体との関係形成の根底にある規範について動物の人格に関する議論を参照し考察を試みる。
著者
百瀬 響
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.H06, 2021 (Released:2021-10-01)

2017~2019年まで、百瀬(代表者)と岩澤らは、樺太アイヌ(エンチウ)協会員と共に、「失われた」樺太アイヌ文化を復元・継承するための活動を行ってきた。国内外の博物館等に所蔵されている資料を協会員と共に調査し、物質文化の複製や舞踊の3D映像化による教育資料作成を試みた。以上の活動を通して、樺太アイヌ文化継承のための協働の試みを発表する
著者
比嘉 理麻
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.C18, 2021 (Released:2021-10-01)

本発表では、沖縄県名護市辺野古の基地建設の進行にともなって、熾烈化する抗議行動の最前線で、機動隊や海上保安庁の暴力により心身に傷を負い、抗議に行けなくなった人びとが、新たに勝負できる領域を模索するなかで見出した、<生き方としての基地反対運動>でも呼びうる動きを積極的に掬いあげる。現在生まれつつあるのは、狭義の政治運動におさまるものではなく、むしろ、政治の限界を踏み越えて、<生き方>と接続される基地反対運動である。本発表では、従来の「政治運動」で傷ついた人びとが、口にするようになった「これは、政治じゃない」という言葉に耳を傾け、基地反対運動を「非政治化」し、より広い領域を巻き込みながら、自らの<生き方>として展開する新たな基地反対-環境運動を理解することを目指す。
著者
飯嶋 秀治
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第55回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.E14, 2021 (Released:2021-10-01)

人類学的先行研究は感覚機能障害のサーヴェイがされている[Keating&Hadder2010]が日本の「視覚障害」の先行研究[廣瀬2005;泉水2017cf.亀井2008;戸田2016等]では、諸学問の間に分散し、①教育学のような今ここの「視覚障害」、②宗教民俗学のような異文化・異時代での異なった生の在り方、③美学や障害学のような今後の生を切り開く研究がある。2019年に27名の聞書きや参与観察を通じて得た人びとのあり方がどのような研究を開きうるのかを考える。