著者
菊地 庸介
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.41-51, 2002

本稿では、近世から明治初期にかけての講釈を見る直接的な資料として講釈の台本(そのうち点取り本)に注目した。点取り本は演者が講釈の要所要所を記し、符号を多用することが大きな特徴である。さらに、点取り本『義士銘々伝』の種となった実録を特定し、実録から講釈へという、変化を分析した。これらのことを通じ、文字によって表現されていたメディアが声によるメディアへと変換される一例の様相を考察した。
著者
白戸 満喜子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.42-50, 1997

二代目松林伯円が口演した講談『安政三組盃』に登場する津の国屋お染は、漂流という偶然によってではあるが、日本開国以前の安政六年に女性で初めてハワイの地を踏んだとされ、このことは事実として語られている。しかし、お染が描かれたとされる浮世絵の版行年と伯円講述の『安政三組盃』の粗筋を照合すると、お染漂流の事実には矛盾が生じる。お染という女性は明治の寄席芸が創り上げた架空の存在であると推定されるのである。
著者
本宮 洋幸
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.11-20, 2008

『うつほ物語』の長篇性を根幹で支えるのは俊蔭の遺言である。遺言を含め予言は物語の長篇的構造の骨格となるが、『うつほ物語』の遺言は物語の長篇化に伴って立ち現れてくる論理により、遺言それ自体にズレを生じさせるという特徴をもっている。本論は、俊蔭の遺言で示された特殊な二琴のうちの一つ「南風」が、物語の終焉を前に「細緒風」に改変される問題を取り上げ、物語全体からそのすりかえの論理を明らかにしようとするものである。
著者
保坂 達雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.70-71, 2013-01-10 (Released:2018-01-31)
著者
山中 正樹
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.84-97, 2013-08-10 (Released:2018-08-06)

日文協第67回大会(第一日目)において加藤典洋氏は、テクスト論の立場から生ずる「ナンデモアリ」の読みに対する違和感を唱え、「〈第三項〉の理論とは、同じ出発点に立って」いるとしながらも、「読者と作品の関係性の一回性に基礎を置く文学理論」、「読者と作品のなかに浮上する」「作者の像」が、読者一人ひとりの「コレシカナイ性を作り上げる」という氏の「読書行為論」を提唱した。それは、第66回大会に登壇した竹田青嗣氏の唱える「一般言語表象」に触発されたものであるという。また加藤氏は、田中実氏の提唱する「第三項」を超越的なものであるとし、カントの「物自体」との類縁性を訴え、前年の竹田氏の講演内容にも示されたヘーゲルの説いた「事自体」との違いに関する議論に興味を示している(本誌二〇一三年三月号)。本稿ではまず、加藤氏の理論の背景となった竹田氏の「一般言語表象」について検討したい。その上で、〈第三項〉理論との違いを考えながら我々の読書行為を再検討し、〈第三項〉理論が拓く新たな「読み」の可能性を探っていきたいと思う。
著者
原岡 文子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.11-20, 2010

『源氏物語』には例えば鮮烈な「子ども」像を焼き付ける紫の上が刻まれた。一方実は既に様々な子どもたちの姿が溢れる『うつほ物語』の存在は見逃せまい。僅か五歳の幼さで母の食を養うあどけなくも切ない「孝」を描かれる主人公仲忠の、末尾楼の上下の巻での幼いいぬ宮への秘琴伝授で閉じられる琴の家の物語をはじめ、「孝」「親子の恩愛」は『うつほ物語』を大きく貫くものであった。本稿は『うつほ物語』に溢れる子どもたちの姿の、『源氏物語』における継承と変容の考察の試みである。
著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.22-32, 1987-12-10 (Released:2017-08-01)

谷崎潤一郎の『細雪』は「旧家の没落と戦争の始まり」といった<不可逆的な時間>が年ごとの花見に代表される歳事的なもの=<循環する時間>を制覇する物語として読まれてきた。だが、そうした近代的思惟の常識を顛倒する試みとして、『細雪』を捉え直すことができるので、その徴証として『細雪』における年代記的記述の稀釈化の問題はある。しかも、その問題は「時局」といった<天皇制>の一露頭とも厳しい緊張関係をもったのである。
著者
沖本 幸子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.22-31, 2004

平安時代を通して宮廷音楽の中心は雅楽であり、歌声もまた、雅楽の、特に笛の音に規定されるものとして存在していた。これに対して、能楽の声につながっていくような、雅楽の音にとらわれない歌声は、いつ頃からどのような形で登場してきたのか。平安末期から鎌倉初期にかけて流行した「白拍子」「乱拍子」という芸能の声の姿に注目しながら、世阿弥の音曲論につながる、中世的な歌声の始まりについて考察する。
著者
山本 ゆかり
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.11-22, 2008

従来『源氏物語』の光の表現は、場面に与える美的印象を評価され、作者の写実的描写力の所産として指摘されてきた。しかし、場面空間の明暗に着目すると、当作品の光の表現は登場人物の視覚と緊密に相関している。本稿では、夜の行事である男踏歌の三場面を扱い、作者の虚構の方法、構想という視点から、光表現と場面設定との関連を考察する。そして、作者がイメージを言語化する過程で、場面を可視にする光が表現選択の重要な一要素であることを論じる。

1 0 0 0 OA 視覚と想像力

著者
松岡 智之
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.38-39, 2011 (Released:2016-12-09)
著者
千葉 一幹
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.51-60, 1991-12-10 (Released:2017-08-01)

「グスコーブドリの伝記」における、ブドリの死が賢治の理想を体現しているのは、従来言われていたようにブドリが農民のために命を捨てたからでなく、個を思うことが直接世界全体の幸福につながるということを「反復」により実現しているためだった。そして個がそのまま普遍へと直結する世界とはイーハトーブの姿にほかならず、ブドリの死はイーハトーブがまさにユートピアとして生成することを保証するものでもあった。