著者
山田 和人
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.24-35, 1986-03-10 (Released:2017-08-01)

ややもすると、改作は原作よりも低く評価されがちであるが、必ずしもそうとばかりはいえない。改作がなければ原作そのものが今日にいたるまで伝えられなかったといえる。そこには明らかに原作に対する改作者の作品解釈があり、その当時の観客の感性や思考が直接、間接に影響をおよぼしているはずである。それをもういちど評価しなおしていくことは今後の浄瑠璃研究にとっても重要な課題のひとつと考えられる。改作をそのように理解したうえで、そこに示されている改作の原作に対する作品解釈を手掛かりにして、原作の作劇法について考えてみたいというのが本稿の試みである。具体的には『傾城反魂香』を手掛りにして、その改作『名筆傾城鑑』との比較考察を試み、原作のドラマを推進する女主人公としての、みやの造型に迫る。
著者
小峯 和明
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.18-28, 1998

模倣の意義について、中世の文芸や絵画を中心に、文字テキストにおける写すこと(現前化)と移すこと(自己化)の対応、定家様に代表される様式化への展開、権威の名を騙り仮構することで想像力を発揮する擬作や擬書の意義、似せ絵と偽せものの相関、絵巻や絵本における模写や模本の復権、語りをよそおう聞書きの口頭言語と文字言語の相剋、まねることを疑似化しつつ反転させる芸能のもどきやパロディ等々、多面的に論じた。
著者
斎藤 英喜
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.54-65, 2015

<p>戦死者の記憶を語る場所=靖国神社は、また神道や神社の歴史が刻み込まれた場所でもある。明治後期の宮司・賀茂百樹(かもももき)の「他の幾多の神社に異れる由緒と、特例」という主張を、近代の神社のあり方、中世神道から平田篤胤、近代出雲派の「幽事」の神話解釈史のなかに位置づけなおした。さらに柳田国男『先祖の話』、折口信夫の「招魂(しょうこん)の御儀を拝して」を読み解きながら、「戦死者」の記憶から発せられた宗教知の可能性と問題点を探った。</p>
著者
藏中 しのぶ
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.31-39, 2011-05-10 (Released:2017-05-19)

唐代口語語彙は、律令・仏教・文学という学問の講説の場で、最新の唐代の学問を継承し、中国語話者をふくむ講師によって口頭で講じられ、講義録として私記類に記録され、さらにそれらが類聚編纂されて古辞書・古注釈類をはじめとする後世の文献に定着した。講説の場として、律令学の大安寺における「僧尼令」講説、仏教学の唐僧思託による漢語を用いた戒律経典の講説、文学の『遊仙窟』講説という三分野の学問の場をとりあげ、その担い手が律令官人・在俗仏教徒・文人という性格を兼ね備え、彼らが学問としての講説の場で唐代口語という異言語を共有していた状況をあきらかにした。講説の場では、養老年間以前に成立した会話辞書・口語辞書『楊氏漢語抄』『弁色立成』等が工具書として共通して使用されていた可能性を指摘し、律令学・仏教学・文学の諸分野が交錯する多言語・多言語状況を論じた。
著者
幸田 国広
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.20-33, 2001-08-10 (Released:2017-08-01)

本稿は、文学教育における<読み>の問題について、「舞姫」の授業実践を例に考察したものである。今日、一斉授業の行き詰まりから、教師-生徒関係を水平化しようとする情勢の中で、学び手の「個性」が安易に語られる現状が文学の<読み>の問題においてもある。一方、教室では制度的な<読み方>の「文法」が根強く残っている。この双方を射程に入れ、乗り越えるための具体的実践として、「舞姫」という文学作品の内奥に迫るための学習課題を提起し、さらに生徒の<読み>に教師の<読み方>を対峙させていく方法の是非について論じた。
著者
金 榮心
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.12, pp.12-21, 1997

『源氏物語』において<悪后>とならざるを得なかった弘徽殿女御物語の根源には儒教理念を規範とする<律令秩序体制>がある。その体制は弘徽殿女御の<身体>と<性>を抑圧していくものであった。弘徽殿女御物語の結末も「男」中心の社会秩序に吸収される形になる、しかし、差別・抑圧を経験した弘徽殿女御は呂后のようなエネルギーを持って「男」中心の社会と格闘する。そのような弘徽殿女御物語は光源氏中心ではなく、弘徽殿女御に視点を合わせることによって見えてくるものである。
著者
佐野 正俊
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.57-65, 2010-08-10 (Released:2017-08-01)

本教材の物語としてのおもしろさを読んでいく、という五十嵐淳の教材研究に厚みを加えることを期して、「彼女」の物語を入れ籠とする<語り>が生成する「僕」の物語をあぶりだし、そのことによって「バースデイ・ガール」の教材価値をさらに引き出すことを試みた。これらのことは、登場人物の像の分析と総合を繰り返す「形象よみ」では行えない。なぜなら、登場人物の像を帰納法的に抽出し、登場人物が「象徴するもの」を読む「形象よみ」では、登場人物の出来事を読むことはできるが、小説の<語り>が生成する「僕」の物語を読むことはできないからである。小説の教材研究は、<語り>の仕組みに沿って行われるべきであると考える。
著者
堤 邦彦
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.2-12, 2005

女人蛇体といった説話・伝承のモチーフの変遷を、古代アニミズムの伝承や中世の仏教唱導を出発点に追尾しながら、近世文芸のなかに、そうした題材が固定化するまでの展開史を明らかにしたもの。とりわけ中世唱導文芸を苗床とする『法華経』竜女成仏説話型の蛇身譚が、女性の嫉妬や心の奥底の邪念を戒める説話に援用され、さらに江戸の倫理啓蒙思想、女訓文芸とからみながら怪異談の素材に姿を変えるさまを考察する。
著者
岩原 真代
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.46-55, 2011

<p>京極邸再興の意義を住環境の表現から検証する。仲忠は通常、為政者達の政治的バランスを保つ仲媒者として働き、他者のために「しつらふ」ことで整備調整を図る。これは、京極邸再興の賛意を取り付ける社会的環境や土壌を築くために不可欠であり、秘琴伝授が持つ公共性をも浮き彫りにする。また、宮邸としての京極邸の住環境整備は、いぬ宮の系譜を皇統との接点まで遡及・回帰させた上で、現皇統との融和を祈念するという、俊蔭一族の志向性を示している。</p>
著者
中村 三春
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.33-42, 1992-02-10 (Released:2017-08-01)

<書くこと>について書くことを一貫して課題としてきた金井美恵子の言説は、文芸の根幹をなす虚構についての原則論的な追求を核心としている。発条を失った私小説的風土にあって、虚構についての究極の洞察を示す金井の文芸様式は、虚構を論ずる際に決して避けて通ることができない。本稿は、初期の短編「兎」(一九七二・六)の<額縁構造>を焦点とし、虚構を<読むこと>へとシフトしつつ、金井文芸を論じたものである。
著者
畑 恵里子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.62-71, 2010

王朝物語に見られる「さとし」とは、単なる利発さをいう言葉ではない。それは、物語世界を牽引することとなる主人公格に相当する成人前の人物が、生来有している比類なき霊的資質を指しているのであり、その聖性のもとに溢れ出す成長の可能性を内包している。通常の人間をはるかに超えた霊的資質からは、物語世界を左右する特異能力の萌芽さえ予感される。『うつほ物語』の俊蔭一族の秘琴伝授や『落窪物語』の落窪の女君の縫製能力を中心に、『源氏物語』の光源氏と紫の上も含めて、王朝物語における「さとし」のはらむ聖性を探り、王朝物語の主人公像の一端を検証した。
著者
中村 三春
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.1-16, 1997-04-10 (Released:2017-08-01)

『定義』は冒頭に百科事典からの引用文を置きながらも、指示の不可測性、表意体(シニフィアン)の戯れ、反復表現による意味内容の無化などの領域に読者を引き込み、<定義>を不可能にしてしまうパロディである。しかし、それは単なるニヒリズムではない。『魂のいちばんおいしいところ』などを補助線とすれば、そこには言葉がメッセージ伝達の機能ではなく、コンタクト(接触)の回路を敷設することによって、人と人との間の繋がりを築くことの信念が読みとられる。
著者
小二田 誠二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.31-39, 2001

近世に写本で流通した実録は、近代以降、「歴史ではなく文学・小説」とされてきた。しかし、個人の責任において固定されたテクストを他者として読む読本などの小説と、共同体が出来事を解釈してテクストを流動させる実録とでは質的に大きな隔たりがある。実録の、本文の流動性と固定化、作者の不在、という特徴を手がかりに、印刷文化の普及した時代に写本で流通した事実の位相を考察した。
著者
島内 景二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.22-32, 2012-05-10 (Released:2017-11-02)

平安時代に書かれた『源氏物語』の文体と世界観は、長く日本文化の規範とされた。ただし、新しい日本文化を創造するためには、『源氏物語』の限界を乗り越えねばならない。本居宣長の「もののあはれ」や、三島由紀夫のヤマトタケル讃歌は、『源氏物語』に欠けている荒々しい側面を「古代」としてイメージしたものである。彼らの古代に対するイメージは、『源氏物語』から作られ、『源氏物語』を守り、補強するためのものだった。