著者
酒井 英行 齋藤 孝明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.33-37, 2009-01-05

量子論の際立った特徴の一つに量子相関(もつれ合い,絡み合い)がある.アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼン(EPR)は,古典的描像に基づく局所実在論の観点からこの量子相関に基づいた量子論の不完全性を議論した.この古典描像と量子描像の対立は,いわゆるEPRパラドックスとして知られるものであるが,当初実験的な検証は不可能だと考えられていた.しかし約30年後にベルは,局所実在論による相関に関して不等式が成立することを発見し,このパラドックスが実験的に検証できることを指摘した.我々は,強い相互作用をするフェルミ粒子系である陽子対についてスピン偏極相関の高精度測定に初めて成功し,量子論に特有な非局所性を確認した.本稿ではその内容について述べるとともに,1980年代に行われたアスペらによる光子対による実験との違いについても簡単に紹介する.
著者
中務 孝 江幡 修一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.243-247, 2012-04-05

金属を極低温まで冷やすと電気抵抗が無くなる超伝導現象は,電子対が凝縮することで引き起こされる量子現象として有名である.重い原子核中の陽子・中性子も,対凝縮によって超流動性を示すことが知られている.超流動核に光子を吸収させたり他の原子核を衝突させると,原子核の形状や対ギャップに様々な変化が誘起されると考えられるが,このような核反応を核子自由度から記述する数値計算は,計算量が膨大で実用性に乏しいと考えられていた.最近開発された「正準基底時間依存平均場理論」は,この計算量を大幅に削減することに成功し,重い原子核の複雑な反応メカニズムの解明に向けた重要な一歩になると期待される.
著者
香取 秀俊
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.754-758, 2002-10-05

現在の時間標準であるマイクロ波を基準とした光周波数の直接計測技術が確立した.この結果,クロック周波数が5桁高くより高い安定度が期待できる光領域の時間標準の実現や,それらの原子時計の時間揺らぎの評価が現実的な意義をもつようになった.本稿では,従来の単一イオントラップ光周波数標準と中性原子光周波数標準の特長を同時に実現可能な「光格子時計」のアイディアを,1次元光格子中のストロンチウム原子の分光実験を交えて紹介する.
著者
永山 国昭
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.582-585, 1992-07-05
著者
長崎 誠三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.176-181, 1971-03-05
著者
水野 俊太郎 小山 和哉
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.698-701, 2008-09-05

宇宙の構造の起源となっているスケール不変の密度揺らぎをどのように生成するかは初期宇宙における大きな謎である.現状では,この原始密度揺らぎはインフレーションで生成されたとする考え方が有力である.しかし,インフレーションがどのような機構で起きるかはまだ判然としておらず,他の可能性も提案されている.本稿では,代替シナリオの1つであるブレーン衝突宇宙シナリオと,これらを識別する観測手段について説明したい.
著者
船木 一幸 山川 宏 藤田 和央 野中 聡
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.266-269, 2003-04-05
被引用文献数
3

「面白い宇宙推進システムがあるらしい.」宇宙工学に携わる若手メンバーで初めて磁気プラズマセイルの話をしたのは,M-Vロケットの認定試験中,宇宙科学研究所能代ロケット試験場でのことだった.長い開発期間の末のH-IIAロケットの完成もあり,日本でも木星以遠の科学探査が視野に入ってきた.しかし,外惑星は遠く,軌道遷移に必要な増速量(ΔV)は膨大である.ΔVを大きく取ると探査機に占める推進剤重量の割合が大きくなるため,数トンに及ぶ巨大な探査機でもほんの僅かな観測機器(ペイロード)しか搭載できない.重厚長大な旧来型のミッションが喜ばれるご時世でないのは,誰の目にも明らかであろう.しかしながら,こうした現状を打ち破るコンパクトな探査機が実現可能かもしれない.そして,ひょっとしたら太陽系の外にさえも,たった数年で探査機を送り出すことができるかもしれない.そんな革新的な宇宙推進システムの可能性を探るため,自称「磁気プラズマセイル研究会」を結成.半年にわたって検討を進めてきた.
著者
久保 亮五
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.(i)-(ii), 1985-09-05
著者
郷田 直輝
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.775-782, 2005-10-05
参考文献数
24
被引用文献数
1

夜空に輝く星の位置とその変動を観測する位置天文観測は, いにしえから人類が新たな自然の法則を見出すことを目指して続けてきた営みである.20世紀の末になり, 大気に邪魔されず精度良く観測できる宇宙空間での観測が初めて行われた.21世紀になり, さらに高精度な観測の計画が進行中である.本文では, 位置天文観測の歴史と意義, 観測精度の現状と今後に関して, また, 天の川銀河という自己重力多体系の力学構造の解明など今後の位置天文学の発展によって期待される科学的成果の具体例, さらにいくつかの高精度位置天文観測計画の紹介, 最後に日本独自で検討開発を進めている赤外線位置天文観測衛星(JASMINE: ジャスミン)計画の紹介を行う.