著者
後藤 亨 二瓶 武史
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.979-983, 1999-12-05

スーパーカミオカンデ実験の結果を用いて, 最も簡単な超対称SU(5)大統一模型における陽子崩壊を再解析した. 今回の解析の結果, これまでは寄与が小さいと思われてきた右巻き粒子が関与する有効相互作用 (RRRR型) が, 大きな寄与を与えることが示された. かつての解析では, 主要な項の間の干渉効果によって陽子崩壊の振幅を十分に小さくできると思われてきたが, RRRR型相互作用の効果でそれが不可能となり, 現在の制限からスクォーク(クォークと超対称多重項を組む粒子)の質量が2TeV以下のパラメータ領域が排除されてしまうなど, 陽子崩壊実験からのこの模型への制限は非常に厳しくなった.
著者
津田 俊輔 横谷 尚睦 木須 孝幸 辛 埴
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.258-262, 2002-04-05

光電子分光のエネルギー分解能はここ20年で2桁向上し,最近では1meVに迫る分解能も得られるようになった.その結果,光電子分光測定からも固体物性を支配するフェルミ準位極近傍の数meVという微細なエネルギースケールを持った電子構造を直接的に観測できるようになった.本稿では超高分解能化および測定試料温度の低温化により拓かれた微細な電子構造に関する光電子分光研究を,最近発見されたMgB_2超伝導体を例に紹介する.
著者
飯嶋 徹
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.682-686, 2009-09-05

B中間子からK中間子とπ中間子への二体崩壊では,粒子と反粒子の間で崩壊振幅そのものが異なってCP対称性が破れる現象-直接的CP対称性の破れ-が起きる.この現象は小林益川理論によって予言されているが,Bファクトリ-実験で得られた大量のデータによって測定精度が向上するとともに,中性B中間子の場合と荷電B中間子の場合でCP非対称度が異なることがはっきりしてきた.本稿では"Kπパズル"と研究者の間で呼ばれているこの謎について紹介する.
著者
芳田 奎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.116-127, 1976-02-05

近藤効果についての最近数年間の問題点は低温 (T<T_K) において非磁性状態におちこんだ局在スピンの振舞を如何にして数学的に扱うかということであった. この問題に対する一つの発展は Wilson によってもたらされた. 彼はくり込み群の方法に根拠をおき, 数値計算をフルに活用して低温の不純物スピンによる帯磁率, 比熱を計算した. もう一つの発展は Anderson ハミルトニャンに対する非磁性状態から出発する摂動計算により, 低温の不純物スピンの振舞を調べるものである. ここでは後者の理論を紹介しつつ, 局在モーメントという言葉のもつ物理的意義について考える.
著者
今田 正俊
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.88-96, 2011-02-05

熱ゆらぎによって生じるお馴染みの相転移と対照的に,量子ゆらぎが生む量子相転移には特有の機構があり,臨界現象に反映する.量子相転移には熱ゆらぎによる相転移と共通な機構-自発的な対称性の破れ-に起因するものもあるが,その場合でも量子力学固有のゆらぎを伴い新たな様相も生じる.一方,量子相転移にはそれだけでなく,トポロジーの変化に起因するものがあり,固有な性格を持つ.さらにこの両者が結びつく機構が最近見出された.一次相転移や相分離,多相共存相からの浸み出し効果も特異な量子臨界を生む.新奇な量子臨界構造の理解は,磁性,超伝導,強誘電,金属-絶縁体,さらには未知の量子相などの近年の活発な量子相・量子相転移研究とその機能探索の基礎となる.

3 0 0 0 時間の向き

著者
戸田 盛和
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.168-175, 1972-03-05

時間は一様に流れるとはニュートンの言葉です. その流れは過去から未来に向けて, 一方向きに流れています. なぜ逆転しないのでしょうか. 時間と共に考えられる空間は一方通行ではありません. タイムマシンは実現不可能でしょうか. 力学の可逆性と, 熱力学の不可逆性との関係はどうなのでしょうか. 生物の進化を含めて宇宙の物質の進化の向きとの関係, 記憶と時間, 予測と考えていくと, 科学自身の発達の向きにも関係があるようです.
著者
近藤 敬比古 小林 富雄
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.907-915, 2007-12-05
被引用文献数
2

CERNで建設中のLHC加速器はもうすぐ完成し物理実験が始まる.これにより人類史上で初めて1 TeVのエネルギー領域を探索することが可能になる.素粒子のより基本的な姿を研究する上で,この1 TeV領域を探索することが特別に重要であるとする明確な理由が存在する.標準モデルの中で唯一の未発見の粒子として残っているヒッグス粒子はほとんど確実にLHC実験によって発見される.さらに超対称性粒子の発見など,標準モデルを超える新しい素粒子物理の兆候を捕らえる可能性も非常に高い.暗黒物質の発見もありうる.ここでは小特集のイントロダクションとして,LHC計画の目的や経過を概説した上で,LHC加速器と四つの実験の紹介,および日本によるLHCプロジェクトへの国際協力参加の現状を述べる.
著者
渡辺 元太郎 園田 英貴
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.350-355, 2007-05-05

超新星や中性子星といった高密度天体の内部には,棒状や板状に伸びた原子核-原子核パスタ-がどうやら存在しているようだ.最近我々が行った,量子分子動力学法によるシミュレーションは,重力崩壊による物質の圧縮や,中性子星の冷却の過程でパスタ相が実際に形成されることを予言している.本稿では,宇宙物理学的な背景を踏まえつつ,パスタ相研究の最近の進展として,我々の研究を紹介する.
著者
大平 徹 佐藤 讓
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.360-363, 2000-05-05
参考文献数
21

「ノイズ」と通信や相互作用の「遅れ」は多くのシステムに存在し,複雑な挙動を引き起こす.ここではそのような複雑な挙動の理解への一つの方向として,ノイズと遅れを用いた共鳴現象を示す単純なモデルを紹介する.その性質を調べることにより,情報処理系において通常障害と考えられている「ノイズ」と「遅れ」を活用する方向を模索する.
著者
岡本 拓司
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.525-530, 2000-07-05
被引用文献数
1

1949年の湯川秀樹のノーベル物理学賞受賞は,敗戦後で占領下にあった日本に大きな希望をもたらした.これは日本人として初めての受賞であったが,実は1949年以前にも,被推薦者・推薦者などとして,何人かの日本人がノーベル物理学賞とかかわりをもっている.50年を経て,今年はじめには1949年のノーベル賞の選考資料が公開されたが,それ以前の年の選考資料と併せてこれを分析することにより,日本の物理学が国際的評価の対象となるまでの過程の一断面を描くことが可能になる.
著者
清野 健 勝山 智男
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-256, 2000-04-05
参考文献数
34
被引用文献数
1

蛇口からポタポタと落下する水滴.時計仕掛けと感じられる水滴落下のリズムにも,実際には多様なゆらぎが含まれ,そこには低次元カオスが確かに存在する.これまでに実験によってカオス力学系としての多くの興味深い現象が確認されてきたが,それを生み出す水滴形成の物理とのつながりには多くの謎が残されていた.だが,最近行われた実験と流体力学的数値シミュレーションによって,系の力学的構造がしだいに明らかになってきた.さらに,これらの知見に基づいたバネのモデルは,系の多様な振舞に一次元離散力学系としての統一した説明を与えることを可能にした.最近の研究に基づき,水滴落下系の長時間挙動とその力学的構造について概説する.
著者
吉田 滋
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.358-361, 2004-06-05
被引用文献数
1

高エネルギー宇宙を探査する新たな窓としてニュートリノ放射を検出するアイデアが現実味を帯びてきた.頻度が極めて低いと予想される高エネルギーニュートリノを莫大な宇宙線雑音の中から拾い出す安価な大容量衝突標的として,南極大陸の氷河が適していることが分かってきたからである.検出に必要な1km^3 の標的容量を持つIceCube実験が日米欧の国際共同実験として本年度から建設が始まる.本稿では高エネルギーニュートリノ検出の意義とIceCube実験の概観を南極現地の経験も踏まえて報告する.
著者
高橋 秀俊 小林 謙二
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.179-194, 1985-03-05

「人間にとってふさわしい研究は人間である」 (The proper study of mankind is man) と英国の詩人アレキサンダー・ポープは言っているが, 科学の窮極の目的の一つは矢張り, 思惟する能力をもつ「人間」というものを理解することであると言えるのかも知れない. 科学も所詮は「人間」が作り上げた文化の一形態であり, 「人間」なしには科学も存在し得なかったのである. その意味で, 教科書の中の科学だけではなく, 実際に研究に従事した科学者の語るなまの「人間の言葉」も聞いてみる価値が大いにあろうかと思われる. 1977年が日本物理学会創立100年にあたることを記念して, 『日本の物理学史』(上)-歴史・回想編-; (下)-資料編-が日本物理学会編集により1978年に東海大学出版会から発行され, 日本の物理学界の指導的立場にあり, すぐれた業績をあげられた先生方の回想録が収められている. 物性理論に関連したものとしては, 久保亮五先生の「日本における統計力学の成立」, 永宮健夫先生の「物性論の発展のなかで」, 伏見康治先生の「日本における物理学の成立」という大変興味深い回想録があり, 我が国における物性理論の発展の様子を可成りの所まで窺い知ることができるが, 十分とは言えないように思われる. そこで, 上記の回想録を補足するという意図も含めて会誌の編集委員の末席につらなる小林謙二が幾人かの物理学者にインタビーーし, 「我が国における物性論の草創時代」というテーマで, 御自身の研究の動機や当時の物理学者群像などを回想して頂き, ここにまとめた次第である. 1回目として, 我が国における物性論の草創時代 (1940年代) に活躍された東京大学名誉教授で慶応大学客員教授でもある高橋秀俊先生 (1962年度と1967年度の日本物理学会会長で, 1980年度の文化功労者にも選ばれている) の回想談をしるすことにしよう. 何分にもインタビュアーの非才のために質問の拙なさから重複するところがあったり, 余り意を尽していないような所もあるかとも思われるが, その段は読者諸賢の御海容をたまわりたい.