著者
三田 一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.84-88, 2009-02-05

この度,南部陽一郎氏,小林誠氏,益川敏英氏がノーベル物理学賞を受賞されたことは日本物理学会にとって大変おめでたいことである.この約半世紀の歴史を振り返れば,日本人が素粒子論における自発的対称性の破れ,およびCPの破れの理論を提唱し,日本国民の血税で世界に類のない加速器が建設され,そして日本でその正しさが証明されたという偉大な歩みが見えてくる.まさに我が国が誇るべき研究成果であろう.この機会に私が見てきたCPの破れの歴史を綴って見たい.
著者
柳田 勉
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.276-282, 1988-04-05

ニュートリノ(中性微子)に質量があるだろうか? もしニュートリノにわずかでも質量があれば, 宇宙・天体物理学はもとより素粒子物理学にも重大な影響を及ぼす. 最近, ニュートリノが0.001〜0.01eV程度の質量を持てば, 天体物理学の長年の謎になっている「太陽ニュートリノの問題」が巧妙な方法により解かれることが発見され, 話題になっている. このニュートリノの質量こそ素粒子の大統一理論の予言していたものである. 現在, 我が国をはじめとして世界各地で太陽ニュートリノの測定が計画されている. この仮説が検証されれば, 素粒子物理学も新たな局面をむかえることになろう.
著者
芝内 孝禎 松田 祐司
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.592-601, 2013-09-05

最近発見された鉄原子とヒ素原子で構成される2次元ネットワークを含む新しい超伝導物質は,銅酸化物が唯一の高温超伝導体ではないことを明らかにした.これらの物質に共通した高い超伝導転移温度は結晶格子の振動を媒介とした従来型の超伝導発現機構では説明できない.一方で,転移温度は低いが非従来型発現機構を持つ超伝導体の代表例としては,f電子を含む重い電子系と呼ばれる物質があるが,新しい鉄系超伝導体の電子状態相図はこの重い電子系の相図とも共通している点も多い.このように鉄系高温超伝導体は,新しい非従来型超伝導研究の舞台となる物質群を提供したと言える.これらの非従来型超伝導体は,電子相関,量子相転移,非フェルミ液体,新奇秩序状態といった凝縮系物理学における主要テーマを含んでいる.鉄系高温超伝導体が発見され約5年が経過したが,最近では高品質な単結晶を用いた精密測定が可能となり,この系の磁気状態,電子状態,超伝導状態の詳細が明らかになってきた.
著者
小沢 顕 鈴木 健 谷畑 勇夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.90-100, 2002-02-05
被引用文献数
1

相互作用断面積は,原子核の陽子数あるいは中性子数が反応で変化する過程に対する断面積であり,原子核の大きさに敏感な量である.相互作用断面積の測定は,不安定核ビーム(RIビーム)を用いた最初の実験として1980年代に行われ,以来,系統的な測定が行われている.相互作用断面積は比較的弱いビームでも測定が可能であり,近年のRIビーム生成分離技術の発展に伴い,酸素までの軽い原子核では,その測定は原子核の存在限界であるドリップ線に到達した.グラウバー模型により,相互作用断面積から平均自乗根核半径,核子密度分布が導出でき,さらには,最近の模型の発展により不安定核の殻構造に関する情報すら得られるようになった.ここでは,最近の相互作用断面積の測定の発展を振り返るとともに,測定結果が明らかにした不安定核の核構造について解説する.
著者
井田 大輔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.238-244, 2007-04-05
被引用文献数
1

膜宇宙と呼ばれる時空モデルの出現とともに,プランクスケールよりずっと大きな余剰次元の存在可能性が指摘された.そのような巨視的な余剰次元をもつ時空においては,古典論的な高次元ブラックホールが登場人物として現れる.ブラックホールを通して,高次元の時空の理論のさまざまな側面が見えてくるであろう.しかし一方では,ブラックホールは時空の次元によってずいぶん性質が異なることがしだいに認識されるようになつた.このような高次元時空のブラックホールに関する最近の研究とその周辺の話題を紹介する.
著者
上野 健爾 稲見 武夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.785-794, 1988-10-05
著者
九後 汰一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.593-599, 1989-08-05
著者
和田 純夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.393-400, 1989-06-05

水素原子を波動関数で表すということと同じレベルで, 時空やその中のすべての物質を含む宇宙全体を波動関数で表そうとするのが, 量子宇宙論である. 古典的な宇宙論では, 宇宙は big bang から始まった事になっているが, ほんとうに始まりを議論しようとすれば, どうしても量子論が必要になる. ここ数年, インフレーション宇宙というものの後に big bang が生じたという模型が議論されてきたが, これを量子論で考えようとしたのが, 最近の量子宇宙論の研究の直接の動機である. ここでは宇宙論的側面と, 付随して問題になる量子力学そのものの解釈論など原理的側面を含めて, 最近の発展を解説する.
著者
樋渡 保秋
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.738-743, 2007-10-05

分子シミュレーションが最初に行われたのは今から50年前,アルダー(B. J. Alder)とウェインライト(T. E. Wain-wright)による剛体球系モデルの分子動力学シミュレーションである.ほぼ同時期にウッド(W. W. Wood)とヤコブソン(J. D. Jacobson)によって同じモデルのモンテカルロ・シミュレーションも行われた.これらのコンピュータ・シミュレーションがその後の分子シミュレーション研究を開花したことの意義は重要である.今日分子レベルのコンピュータシミュレーションの広がりは物理分野のみならず,化学は当然ながら,生物学,地球科学,工学,農学等々とその限界を知らない勢いである.分子シミュレーションのこの勢いは今後も続くのであろうか?
著者
松尾 泰
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.156-163, 2010-03-05

M理論とは,いくつかある超弦理論を統合し,最も単純で基本的な構造を持つと期待される理論である.最近M理論のブレーンが持つ内部対称性について大きな進展があり,これまで謎めいた力学系として知られていた南部括弧式との関連が明らかになってきた.重力との双対性の応用により低次元強結合系への応用も期待されている.
著者
土岐 博 佐藤 健次
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.11-18, 2013-01-05

現代ではほぼ全ての機器は電気を使っている.それらの電子機器は知らず知らずのうちに電磁ノイズを出しているし受けている.そのために我々の周りはノイズで満たされているし,自らで苦しめられてもいる.電磁気学が完成されて1世紀の年月が経っているにもかかわらず,電磁ノイズの取扱い法が確立していない所にその原因がある.加速器のノイズの削減に理論的に取り組んだことにより,新しい交流理論を得ることができた.電磁場の放出・吸収過程の理論(アンテナ理論)そのものは完成していたにもかかわらず,多導体伝送線路理論が不完全であったことで,交流理論に取り込むことができていなかった.このアンテナ過程を取り込んだ新しい交流回路理論にもとついて,3本線対称化回路の導入により電磁ノイズの影響を受けない電気回路の提唱を行う.