著者
金菱 清
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.23-33, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿では,現代社会における「公正さ」について,単に近代国家の法律制度の枠組みへの位置付けだけでは公正性を保証できていないことを指摘したい.そのうえで,周りから不公平ともいえるものが実は逆に現代社会の公正性を担保することにつながっているという社会的事実を提示する. 拙著『生きられた法の社会学』において大阪国際空港(伊丹空港)の一角に形成された「不法占拠」地域について,その歴史的な形成プロセスと人々の生活の内実,そして,住民と伊丹市と国との交渉をとおして「不法占拠」が解消されていく経過を描き出した.そこで見出したものは,「剥き出しの生」を背負わされた人々の実践が実定法に包摂されない「生きられた法」を生成するとする「法外生成論」だった.法外におかれた人々の「エゴイズム」を排除するのではなく,人々の生活実践にこそ法の正統性の源泉があるとする主張は,グローバル化のもと,国家や市場から排除された人々が数多く生み出されている現在示唆的であると考えた. ただし,当初地震などの震災は,「生きられた法」からは除外していた.おもに阪神・淡路大震災を引き合いに出しながら,絶望的な極限状態の際に生じた公共性は,時間をおかず解消され,いずれ元の日常生活に戻っていく定点をもつという判断からであった.ところが3.11大震災において,「修正」を迫られる事態が発生した.むしろ「生きられた法」のなかに今回の大震災を含む方がしっくりくる.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.43-54, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
11

本稿は,東海地方X市のA中学校におけるフィールドワークをもとにして,ニューカマーの子どもたちの学校適応(成績,逸脱行為,学校への愛着)のあり方に影響を与える要因について分析することを目的としている.その際,家族が有する諸資源に注目する.分析の結果は,両親の学歴に見られる教育資源だけでなく,家族に共有される文化的・関係的要素である成員資源が,子どもの学校適応に重大な影響を与えていることを示している.特に両親との同居や信仰が,家族のモラルの基盤や親の権威を強化し,子どもの規律能力を高め,学習への志向に寄与していることが明らかとなった.
著者
何 淑珍
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.55-65, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿の課題は,宮城県登米市旧中田町在住のM氏を事例に,旧中田町の農業とともに歩んできた彼の農業者としての生活史を振り返ることによって,農業,農村,農家が農業者の目にどのように映し出されているのかという農業観を明らかにすることである.分析手法としては,東敏雄が提示した「事実の発見」という「聞きがたり」の手法を用いて,一個人である農業者が彼の農業人生を取り巻く重層的な「社会的諸条件」にどのように向かい合ったのかを焦点に検討した.インタビューの結果から,農業,農村,農家がかかえるさまざまな問題に対して彼が模索しながら行動するという生活を送ってきたこと,また,農業の農業者自身,農村,日本社会での位置づけに疑問を持ちつつも,農業を維持存続させようと模索していることを明らかにした.
著者
佐藤 康行
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.11-21, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
12

日本は財政再建や社会保障改革という大きな政治課題を抱えている.地方自治体は国に先行してすでにこうした問題の解決を迫られている.たとえば佐渡市は,人口減少に加えて生産高と財政が縮小する社会になっている.また,環境に優しい福祉の充実した地域づくりをしている点で持続可能な社会を構築している.こうした点で,まさしく佐渡市は日本の縮図を成していると言える. 初めに,佐渡市の人口,世帯数,高齢化率,生産高,財政規模の推移を概観し,トキが生息できる環境に優しい島づくりと福祉社会の形成を進めてきた経緯を見る.その後,2つの集落を取り上げ,持続可能な生計アプローチの観点から地域づくりを比較考察し,地域再生の条件を検討する.その結果,2つの地区のあいだで経済資本や人的資本が相違していることに加え,文化資本の性質の相違と社会関係資本の質と量が相違していることを示す.
著者
松岡 昌則
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.35-42, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
被引用文献数
1

今日の農業・農村をとりまく状況は厳しさを増している.本報告は,自らの農業の維持のために,水田単作の従来型農業からの脱却を目ざす農業経営の改革の事例を取り上げる. 北海道夕張郡長沼町は水田の生産調整面積が5割を超え,農業経営の改革が余儀なくされている.JN区は畑作,酪農,直売所,グリーン・ツーリズム,観光農業等の多様な経営を展開させ,それにともない社会関係は変化する.しかしそうした変容する社会関係に対して,人々は将来の生活の展望を見据えて,村落内社会関係を組み替えながらも区のまとまりを維持しようとしている.北海道においても,村落は居住集団として大きな役割をもっている.
著者
佐久間 政広
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.47-49, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
2
著者
石田 賢示
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.63-73, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
16

本稿では,若年労働市場における入職経路と就業先の職場環境との関連を検討した.分析の結果得られた知見は以下の通りである.(1)個人的なネットワーク,とりわけ家族・親戚を通じて仕事に就く場合,職能形成機会,生活に合わせた仕事の調整可能性,職場の安定性に対して,ポジティブな効果が示された,(2)学校経由の就職による直接効果は観察されず,学校経由の就職の効果は大企業への就職,正規雇用での就職を介した間接的なものであることが明らかになった,(3)転職をする場合や学歴の低い者について,個人的なネットワークの影響がより強い. 日本の若年労働市場において血縁関係は,職場をスクリーニングする機能を果たしている可能性がある.また,制度的連結論にもとづく予測とは一致しない結果から,学校経由の就職では媒介されない情報やサポートに関する検討の必要性も明らかになった.社会ネットワークや制度的連結の構造と機能に関する,さらなる調査研究が求められる.
著者
坪田 光平
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.75-85, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
26

外国人児童生徒に対する教育支援の制度化は,現代日本において着目される論点の一つである.そして制度化のための検討課題であるボランティアの学校教育への参入とその人材を活用した職業化の構想は,これまで理念的に語られてきた.本論文では,こうした制度構想を批判的に検討するために,意味の変容としてのストラテジーというミクロな見地から,ボランティアが教師との関係構築の局面で編み出したストラテジーを析出し,学校教育現場におけるボランティア定着のプロセスを明らかにした.これまで学校教育においては,専門性の侵害と捉える教師によって,ボランティアは周辺的な地位を与えられてきた.しかし構造的に見落とされがちな外国人の支援ニーズを収集・伝達するなかで教師との関係構築を果たすボランティアは,安価な労働力として使役されないサバイバルな性質に加え,教師の認識にも変化をもたらすペダゴジカルな性質の両輪によって定着を可能としていた.これは一面において,ボランティアの地位確保志向の帰結を意味する.しかし教師との関係構築におけるボランティア行為には,外国人に対する教師の「特別扱いしない」認識枠組みを再検討させ,他の子弟との教育実践を差異化させる点において,ボランティアの主体的行為である〈意味の変容〉機能を指し示すものである.
著者
深澤 あかね
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.87-97, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
14

「日本の祭の最も重要な一つの変り目」は「見物と称する群の発生」であった(柳田 1998: 382)と柳田國男が述べた時代から,祭りは「近代化」が指摘されてきた.そして今日では,「『自己充足的な価値』を追求して『楽しむ』」(松平 1990: 345)ことを目的とした「よさこい祭り」のような,自発的結合に基づく人々の動きが顕著となっている. だが一方で,人々が生業と生活を営んできた旧来の地域社会においても,祭りは営まれ続けている.地域社会を取り巻く状況の変化により,衰退の方向に向かっている祭りも多いが,そのような中でも形を変えながら存続する祭りは,新旧の社会関係を重層的に保持する地域社会のあり方を示している. 本稿では,「商業町の人々にとって祭りとは何か」という問題意識に基づき,商業町を構成する世帯を,商業経営と生活の両方を営む「商家」として捉えながら,近代以降の地方都市で行われてきた祭りの分析を行った.具体的には,東北岩手の商業町花巻を取り上げ,町そのものの変容と祭りの変遷を概観した上で,商店街を構成する一つの町内に焦点をしぼり,そこで行われてきた山車運行の歴史を追った.そして,「近代化」の進展過程として掌握されがちな祭りの歴史は,実際には堆積する新旧の社会関係の表出から成ること,また,商業町の人々にとって祭りは複合的な意味を持つ場であり,人々はそこに今日的な意義をも見出していることを実証した.
著者
原山 哲
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.27-39, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
22

「看取り」(work with dying persons)の問題は,看取られる側の個の身体への,見取る側のまなざしだけでなく,看取られる側と看取る側との社会的連帯にかかわっている.このような視座から,本論文は,「看取り」について,次の5点を中心に考察する.第一に,M. フーコーの「臨床医学」のパラダイムから出発し,生・病・死のトラジェクトリーをめぐる個の身体のパラダイムについて考察する.第二に,シンボリック相互作用論の立場からA. ストラウスの研究があきらかにしたように,病者のトラジェクトリーと「苦悩」について考察する.さらに,第三に,日本の「看取り」における家族のプレグナンス(重要性)を問題にし,療養上の世話の担い手としての家族の位置づけについて歴史社会学的視座から言及する.第四に,診療の補助と療養上の世話との階層化の問題化としてのアーティキュレーション・ワークについて,フランスと日本において実施した看護師を対象とする比較調査の結果の分析に依拠して考察する.第五に,個の身体のパラダイムにたいする生の贈与のパラダイムが,家族に限定されない社会的ネットワークを基軸とすることに言及したい.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.51-62, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
31

グローバル化の進展は,これまで唯一有意な単位と認められてきたナショナルなものの正当性と有用性を掘り崩し,ローカルな単位のプレゼンスを高めている.ところが,他方で,脱中心化する世界において社会統合を生み出すため,1990年代以降,逆に規範枠組みとしてのナショナルなものの重要性が注目されている.本稿が対象とするイギリスは,近代以降,戦争と福祉を通じてブリティッシュネスの意識を構築してきた.だが,1970年代を契機とした国民国家の衰退がリージョナル・レベルのナショナリズム運動を促し,特に1999年の権限委譲以後,サブナショナル・アイデンティティの意識が高まっている.とりわけ,これまでイギリスと同一視されてきたイングリッシュネスという意識の突出・分出が,イギリスの社会統合をめぐる新たな課題として浮上してきている.それに対し,新労働党は,民主主義的な価値を表すブリティッシュネスという観念を再想像して対処しようとしている.だが,包括的なナショナル・アイデンティティの成立のためには,「契約と連帯のアンビバレンツ」と「普遍主義と特殊主義のジレンマ」という,ポスト国民国家特有の課題を克服する必要がある.新労働党による民主主義的価値を体現するブリティッシュネスとシティズンシップに関する政策は,その2つの困難な課題を乗り越えようとするものである.
著者
加藤 英一 田村 京子
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.87-97, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
41

医療安全管理者は,看護師,医師,薬剤師といった複数の異なった医療資格者によって担われている.但し,この中でも医師と看護師の占める割合が特に大きい.本稿は医療安全管理者が,日常の業務の中で抱いている問題点の分析という観点から,異なった医療資格者間の中でも,医師と看護師における安全業務に対する問題意識の相異を調査を通して明らかにしている. 結果として,同じ医療安全管理者でありながらも,異なった医師と看護師とでは異なった問題意識を抱いていることが明らかとなった.医師は医療安全業務に対して,その問題の本質は社会や国のレベルにあると捉えているがゆえに,「国レベルの問題」に対して関心を抱く傾向にあり,他方看護師は医療安全業務を身近な組織の問題として捉えているがゆえに,「病院組織内の問題」に対してよりその関心を抱く傾向にある.
著者
正村 俊之
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.43-47, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
1

社会学的研究には,数理的研究/非数理的研究,理論研究/実証研究/学説研究といったさまざまな種類の研究が含まれている.本稿では,第1に,共時的・静態的な観点および通時的・動態的な観点からそれらの研究の相互関係を説明し,社会学的研究に関する全体的な見取り図を提示する.第2に,その全体的な見取り図のなかに三つの報告(三隅報告,木村報告,渡邊報告)を位置づけて本シンポジウムの意義を探る.
著者
寺田 征也
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.53-62, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本論文は,G.H. ミードにおける「思考(thinking)」の議論を取り上げ,「思考」概念の内実を検討する.これまでのミード研究において,「思考」とは相互行為過程における他者の身ぶりや態度を内面化した結果としてあらわれる,内的会話であるとされていた.しかし,本論文での検討の結果,「思考」とは内的会話であると同時に,内的会話を通じて考えられた事柄を表明する局面をも,ミードは視野に入れているということが明らかとなった. ミードによれば,内的会話で考えた事柄の表明は,個々人の「思想(thought)」の表明に他ならない.そしてこの「思想」は,言語や身ぶりという形態に限られない.例えば芸術家の作り上げた作品も,その芸術家の持つ「思想」の表明なのである.つまり,作品とはまさに作り手による「思想」の表現であり,ミードによれば,こうした「思想」の表現としての作品は誰しもが作ることができるのであった.その意味で,人間社会とは,「思想」の表明としての作品を通じて互いの「思想」を交換し合う世界なのである.