著者
安達 智史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.139-164, 2015-07-10 (Released:2022-01-21)
参考文献数
19

本稿は、多文化社会における女性若者ムスリムが、複数の社会的期待に直面する中で、どのように自身のアイデンティティを構築し、社会への参加を実現しているのかについて、イギリスのコベントリー地区のインタビュー調査に基づき描くものである。分析の結果は、インフォーマントが、イスラームを遵守すべき最も重要な規範として引き受ける一方で、アイデンティティを分節・(再)接合しながら、イスラーム、イギリス社会、コミュニティや家族、そして多様な志向や背景を有する友人たちと関係を築いていることを示している。こうしたアイデンティティ管理、そして、それを通じた社会への統合に寄与しているのが、彼女たちが生きる多文化社会という現実である。多文化社会が、アイデンティティの多様化を要請し、それを管理する自律性を発展させることにより、女性若者ムスリムがそうした社会に適応することを可能にしている。それは、文化と宗教の区別やスカーフの着用をめぐる彼女たちの態度に看取することができる。
著者
安達 智史
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.35-51,184, 2013-06-30 (Released:2015-05-13)
参考文献数
21
被引用文献数
1

This paper investigates how young British Muslims manage their complexidentities in order to adapt to a secularized society. In the UK the issue of socialintegration of young Muslims has been gathering public attention since the 9/11attacks in New York and riots in Northern England in 2001 and especially theLondon bombing in 2005; both events were caused by young Muslims. It has beensaid that young British Muslims are becoming more and more religious and itprevents them from integrating into British democratic society. However, such anargument that problematizes Muslims has kept us from better understanding ofhow young Muslims are in reality integrated into secularized and liberal democraticsociety. This paper explores, on the basis of the interview data on young Muslims in a super-diverse area in the UK, their strategies and resources for integration. The result of the analysis demonstrates that young Muslims adapt to British society through introducing the difference between religion and culture. They have tried to purify Islam from their family culture and claim that the teachings of Islam do not have any conflict with British society. In other words, Islam is used as a tool for them to participate in secularized civil society. The development of religious institutions and the Internet make it easier for young people “to research “their religion and the knowledge which helps them to differentiate the teachings of Islam from some cultural conventions which attempt to oppress young, especially female, Muslims. Social lives in the super-diverse area also make their identity more complex, and make it more easier to communicate with people of different religions and races and to adapt to more complex and diverse social environment. The paper contributes both to theoretical discussion on “hybridity” of identity and to practical discussion on social integration of young Muslims in contemporary society.
著者
伊達 聖伸 渡辺 優 見原 礼子 木村 護郎クリストフ 渡邊 千秋 小川 浩之 西脇 靖洋 加藤 久子 安達 智史 立田 由紀恵 佐藤 香寿実 江川 純一 増田 一夫 小川 公代 井上 まどか 土屋 和代 鶴見 太郎 浜田 華練 佐藤 清子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、加速する時代のなかで西洋社会の「世俗」が新局面に入ったという認識の地平に立ち、多様な地理的文脈を考慮しながら、「世俗的なもの」と「宗教的なもの」の再編の諸相を比較研究するものである。ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸の政教体制を規定している歴史的文脈の違いを構造的に踏まえ、いわゆる地理的「欧米」地域における世俗と宗教の関係を正面から扱いつつ、周辺や外部からの視点も重視し、「西洋」のあり方を改めて問う。
著者
安達 智史
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.6-18, 2020 (Released:2021-08-25)

「多文化主義は女性にとって害悪か」。この疑問は、多文化主義に投げかけられる根本問題である。多文化主義はマイノリティの文化に承認を与えるが、その結果、承認を受けたコミュニティの内部で個人の権利が制限される。そして、そうした権利を制限される個人は、多くの場合、女性なのである。だが、ムスリム女性について分析をおこなった本稿は、多文化主義をめぐるこうした支配的ディスコースと異なる知見を導きだしている。それによると、多文化主義は、女性たち自身の手による宗教的探求を促すことで「イスラームを人間化」し、その結果、市民社会の価値との両立を実現するとともに、彼女たちのより広い社会への参加を可能にしている。本稿では、イギリスの移民第二世代ムスリム女性のヒジャブ着用/未着用をめぐる態度についての分析を通じて、女性の自律と信仰の関係とともに、多文化主義、イスラーム、西洋社会への統合との間にあるより積極的な結びつきについて議論をおこなう。
著者
安達 智史
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.87-99, 2008-05-24 (Released:2017-09-22)
被引用文献数
1

グローバル化による社会的多様性の増大は、差異への恐怖を生み出し、異質性の排除を謳う極右政党の台頭にみる「不安の政治」を拡張させている。それは、差異を単純に称揚する従来の多文化主義に限界を突きつけている。不安の政治の高まりによる社会的緊張のひとつの帰結が、2001年の北イングランドにおける過去最悪規模の暴動である。以降、人種関係はイギリスの中心的な議題となっている。その議論のなかで準拠されるのが、内務省の『カントル報告』とラニミード・トラストの『パレク報告』である。前者は共通の義務を基礎にした文化的多様性の統合を、後者は文化的多様性の承認を通じた自発的結束をビジョンとして掲げている。この2つの社会ビジョンを基礎に、世紀転換期のイギリス社会のあり方が論争されている。だが、これらの議論はBritishnessへの包摂がひとつの争点となっているにもかかわらず、白人マジョリティのBritishnessからの疎外という重大な問題を扱い損ねている。『パレク報告』のビジョンは多様性を強調しすぎるために不安の政治を活性化させ、『カントル報告』のビジョンは不安の政治に配慮するがマジョリティに多文化状況への適切な適応を促すことができない。結果、極右政党の台頭を招いている。本稿は、ポスト多文化主義社会における結束と多様性の新たな配分を探るため、2つの社会ビジョンを相補的にとらえることを提案する。
著者
安達 智史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.43-54, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
11

本稿は,東海地方X市のA中学校におけるフィールドワークをもとにして,ニューカマーの子どもたちの学校適応(成績,逸脱行為,学校への愛着)のあり方に影響を与える要因について分析することを目的としている.その際,家族が有する諸資源に注目する.分析の結果は,両親の学歴に見られる教育資源だけでなく,家族に共有される文化的・関係的要素である成員資源が,子どもの学校適応に重大な影響を与えていることを示している.特に両親との同居や信仰が,家族のモラルの基盤や親の権威を強化し,子どもの規律能力を高め,学習への志向に寄与していることが明らかとなった.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.51-62, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
31

グローバル化の進展は,これまで唯一有意な単位と認められてきたナショナルなものの正当性と有用性を掘り崩し,ローカルな単位のプレゼンスを高めている.ところが,他方で,脱中心化する世界において社会統合を生み出すため,1990年代以降,逆に規範枠組みとしてのナショナルなものの重要性が注目されている.本稿が対象とするイギリスは,近代以降,戦争と福祉を通じてブリティッシュネスの意識を構築してきた.だが,1970年代を契機とした国民国家の衰退がリージョナル・レベルのナショナリズム運動を促し,特に1999年の権限委譲以後,サブナショナル・アイデンティティの意識が高まっている.とりわけ,これまでイギリスと同一視されてきたイングリッシュネスという意識の突出・分出が,イギリスの社会統合をめぐる新たな課題として浮上してきている.それに対し,新労働党は,民主主義的な価値を表すブリティッシュネスという観念を再想像して対処しようとしている.だが,包括的なナショナル・アイデンティティの成立のためには,「契約と連帯のアンビバレンツ」と「普遍主義と特殊主義のジレンマ」という,ポスト国民国家特有の課題を克服する必要がある.新労働党による民主主義的価値を体現するブリティッシュネスとシティズンシップに関する政策は,その2つの困難な課題を乗り越えようとするものである.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.105-125, 2007-07-20 (Released:2013-10-23)
参考文献数
11

本稿は,デュルケムの『社会分業論』をナショナリズム論の視角から検討することにより,ネイションという観念を近代社会における連帯の条件として提示することを目的とする.『社会分業論』は,「人格崇拝」および「中間集団論」を論じた著作として,今日なお高く評価されている.人格崇拝の規範は,組織的社会において復元的法律に宿り,社会の機能連関つまり分業を担保する.だが,人格崇拝はいかにして可能なのだろうか.法律は制裁的機能を弱められているのだから,人格に向けられた集合意識は沸騰しない.崇拝には,具体的な表象が必要とされる.本稿では,その表象として,「ネイション」という観念に注目する.そして,集合表象としてのネイションと中間集団による集合意識との結びつきが,深い多様性をもった諸個人の連帯を可能にさせる「道徳的個人主義」を形成することを明らかにする.
著者
安達 智史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.175-199, 2020-02-21 (Released:2021-09-24)
参考文献数
22

本稿の目的は、女性の労働市場への参加と家事役割の双方が強調される現代マレーシアにおいて、マレー系女性がいかにその「二重の役割」と向き合っているのかを明らかにすることにある。そのため、近代化とイスラーム化の強い影響下にある「新中産階級」に該当する大学教員を対象とし、労働と家事をめぐる意識の分析をおこなった。その結果、以下の点が明らかとなった。彼女たちは高等教育の重要性を強調するが、それは労働市場への参加だけでなく、子どもの教育や家族の運営といった家庭内での女性役割と結びつけられていた。また、家族をユニットとしてとらえることで、性別役割の強調だけでなく、その柔軟な運用をも可能にしていた。加えて、均衡の原則に基づく配偶者選択、教育を通じた夫との対等なコミュニケーション、時間的フレキシビリティをもつ職業選択は、イスラームの価値や家事役割を放棄することなく、労働市場への参加を実現する戦略として理解することができる。
著者
安達 智史
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.181-205, 2017-09-14 (Released:2021-12-12)
参考文献数
21

本稿は、日本人ムスリム女性のライフストーリーの聞き取りを通じて、彼女たちがどのように日本社会においてムスリムであることを実践し、アイデンティティや社会関係と関わる潜在的コンフリクトを回避しているのかという点を明らかにすることで、「日々生きられる宗教」としてのイスラームのあり方を描くことを目的としている。分析の結果、彼女たちは、与えられた制約のなかで所与の資源・情報・関係を駆使しながら、「日本人-ムスリム-女性」を日々実践していることが明らかとなった。その姿は、「スカーフ」に表象/矮小化される日本人ムスリム女性のイメージとは程遠く、また「イスラーム」と冠される概念の外延の柔軟さと奥行きを示すものとなっている。
著者
安達 智史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.346-363, 2015 (Released:2017-03-08)
参考文献数
21

社会学において「知識」は, 人びとに特有のリアリティを与える社会的フレームを意味し, 宗教はその1つとして考えられている. 従来, 社会の中心的な「知識」は, 宗教的/政治的エリートにより生産され, 人びとの認識や社会関係に大きな影響を与えてきた. だが, 「情報化」のもと, 宗教的知識をめぐる環境は大きな変化の中にある. 情報化の進展は, 人びとが既存の権威から自由に宗教的知識を獲得し, また解釈することを可能にしている. 本稿の目的は, こうした環境変化の中で, 現代イギリスの若者ムスリムがどのようにイスラームの‹知識›と関わり, 社会への統合を果たしているのかを描くことにある. データは, コベントリー市における若者ムスリムへのインタビューを通じて収集され, 主題分析により検討された. 調査の中で, イスラームの‹知識›の探求を促す(親の世代と異なる)3つの環境が指摘された. 第1に, イスラームの‹知識›をめぐるインフラの充実, 第2に, 非イスラーム社会においてムスリムとして生活すること, 第3に, ムスリムをとりまく社会的プレッシャーである. このような環境の中で若者ムスリムは, より広い社会への参加のために, ‹知識›との積極的な関わりを通じて, イスラームの再解釈/再呈示をおこなっている. このことは, 若者が自身の生きる社会的文脈への適応を容易にするために, 宗教的インフラや情報のさらなる充実が求められていることを示している.
著者
安達 智史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.433-448, 2009-12-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
27

グローバル化の進展は,先進諸国において移民やエスニック・マイノリティを増加させている.それにともなう文化的多様性の増大は,ホスト社会に対し,社会的・経済的に寄与するとともに,マジョリティの存在論的不安と社会的緊張を高めている.従来,文化的多様性は,多文化主義によって積極的に議論されてきた.だが,文化的多様性の承認は,社会の結束の膠にかわとならず,逆に人々の不安を増大させるものとして批判されている.現在,社会的結束と文化的多様性の両立という問題が,政策的・哲学的な課題として浮上している.社会的結束と文化的多様性の両立のためには,それらの漸次的な融和が不可欠である.一方で,文化的多様性を抑制しつつ共通の「所属」の感覚を高め,他方で,多様化する環境に人々を馴致させ,差異を「安全/安心」なものとして提示することである.本稿は,イギリスの社会統合政策を,所属と安心/安全についての2つの方策の関係とその変化に焦点を合わせ,分析するものである.具体的には,戦後からサッチャー政権以前(1948-79年),サッチャー以降の保守党政権(1979-97年),そして新労働党政権(1997年- )という3つの時期に区分し論じる.とりわけ,シティズンシップとブリティッシュネスという観念を機軸に据える,新労働党の新たな社会統合政策と哲学に着目する.それにより,ポスト多文化主義における社会統合の1つの形式を提示する.