著者
大島 希巳江
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.14-24, 2011

欧米などの低コンテキストな多民族社会と、日本のような高コンテキスト社会では人々の間で語られるジョークや笑い話の種類およびスタイルが異なる。コミュニケーションにおいて必要とされる要素がそこにはあらわれると思われる。そこで2010年4月から2011年3月の1年間で「日本一おもしろい話」プロジェクトを運営し、サイト上で日本各地からおもしろい話を募集した。毎週、投稿された話をサイトに掲載し、おもしろいと思う話に投票してもらうというシステムをとり、日本人がおもしろいと感じる話を分析することを試みた。その結果、560の有効な投稿があり、1949票の投票がされた。投票により、毎月のトップ10までを決定し、それらの話の分類と分析を行ったところ、多くが投稿者の体験談であることがわかった。全体としては言い間違いや同音異義語を使った、言葉に関する話が最も多かった。また、年代でみるとおもしろい話の多くは40代、50代、30代からの投稿であった。性別でみると、女性は突発的な偶然から起きる言い間違い・聞き間違いなどに関する話が最も多く、男性からの投稿は作り込まれた言葉遊び、文化・社会を反映した笑い話などが多いことがわかった。今回のプロジェクトで日本人のユーモアの傾向が一部明確になり、また今後の研究の貴重な資料になると考えている。
著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.20, pp.17-31, 2013-08-31

産まれたばかりの新生児は、睡眠中にときおり「自発的微笑」と呼ばれる笑顔に似た表情を見せる。ヒトの胎児や、チンパンジーの新生児にもこの表情が見られることがわかっている。本稿では、この自発的微笑にとくに注目しながら、新生児と乳児の笑いの発達と進化について論じた。前半で、ヒトとチンパンジーの自発的微笑と社会的微笑の発達過程についてまとめた。後半ではいくつかの末解明の問題に焦点を当てて考察し、今後の研究の課題と展望を示した。(1)自発的微笑は快の表出なのかどうか、(2)自発的微笑と社会的微笑は発達上どのような関係にあるのか、(3)自発的微笑はなぜ進化したのか(どのような機能を持つのか)という問題について考察した。さらに、チンパンジーとの比較を元に、見つめ合いのコミュニケーションの発達が、ヒトの笑いの表出と他者の笑いへの反応性に大きな変化をもたらした可能性があるということについて論じた。
著者
山田 英徳
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.86-95, 2012-07-21 (Released:2017-07-21)

欧米では80年代ごろから笑いが治療法の一つとして認識されるようになった。また、笑いは病院や老人ホーム、小児病棟や福祉施設などで、心や身体の病気に対し癒しの効果を上げている。しかし、笑いの生理学的な分野からの解明や実践的試みがされてきているが、脳機能からアプローチした研究はほとんど皆無である。そこで、我々はこの笑いに注目し、特に微笑みというものが相手に対してどのように影響を与えているのかについて、脳血流量の測定を行った。その結果、検者が被検者に微笑みかけるだけで被検者の前頭前野の脳血流量が上昇することが分かった。そこで、初対面の人、顔見知りの人、親しい人など被検者と検者の関わる度合いによって、微笑みが相手に与える影響についてどうなるかを研究した。我々医療従事者は、患者さんと関わるときに微笑みかけることがある。医療従事者と患者さんとの関係において、この微笑みがどのようなものなのか考えてみる。
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.19-37, 2020 (Released:2021-04-19)

幼児期後期における嘲笑理解の発達について、他者感情理解、心の理論および道徳性の観点から検討するため、2つの実験を行った。実験1では、年少時に調査した年長児7名(男児3名,女児4名,平均年齢6歳4か月)に対し、感情理解課題、心の理論課題、笑いの攻撃性理解課題および絵画語い発達検査(PVT-R)の追跡調査を行った。実験2では、実験1の7名を含む年長児10名(男児6名,女児4名,平均年齢6歳4か月)を対象に、笑いの攻撃性比較課題を実施した。その結果、幼児期後期の嘲笑理解の発達には、語い年齢、他者の感情理解や心の理論、失敗を笑うことに対する道徳的判断および相手を失敗させる行為か否かを判断する故意性の理解が相互に関連している可能性が示唆された。嘲笑を含む笑いの攻撃性の理解には、高次の心の理論や道徳性の発達が絡んでいることから、本研究で用いた「笑いの攻撃性理解課題」と「笑いの攻撃性比較課題」について、笑われたことが原因でネガティブな感情になることを説明することや攻撃の意図を判断することは、高度な心の理論(AToM)の観点から検討していく必要があることが示唆された。
著者
長島 平洋
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.18, pp.3-13, 2011-07-23

戦前にあった不敬罪は天皇に対する嘲笑を罰し防止しようとするものであったが、戦中にいたるまで、その対象範囲は拡大し、その犯意詮索は細かな行為にまで及んだ。戦後、新憲法発布を機に、不敬罪そのものは廃止となったが、その思想は消滅することなく現在にいたっている。この報告では不敬罪廃止期前後の天皇制を嘲笑するプラカード事件、「風流夢譚」事件、御名御璽事件をとりあげ、「おわりに」では天皇制信仰と同じく絶対思想を持つムハンマド信仰が引き起こした「悪魔の詩」翻訳者殺人事件を紹介する。
著者
二本松 直人 若島 孔文
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.72-89, 2018 (Released:2018-12-27)

本研究では、若者の特徴的なコミュニケーションのなかで頻繁にみられる攻撃的な笑いの受け手の反応・対処にはどのような種類が存在するのかを検討した。大学生・大学院生196名(有効回答数は183名,男性93名, 女性88名, 性別不明2名, M =20.21,SD =2.25)を対象に質問紙調査を行った。先行研究に基づいて収集・作成した攻撃的な笑いへの反応項目合計25項目について因子分析を行った結果、3因子が抽出された。1つ目は、相手と一緒になって自分をからかうような「協調反応」(α=.86)である。2つ目は、否定的な感情を相手に伝える「否定・拒否反応」(α=.73)で、3つ目は肯定とも否定とも捉えることのできない「曖昧反応」(α=.68)である。そしてコミュニケーション・スキル尺度とユーモア態度尺度によって、本尺度の併存的妥当性を確認した。その後、本尺度を用いたクラスタ分析を行い、「非笑い志向型(N=74)」、「真剣切り返し型(N=35)」、「芸人型(N=23)」、「雰囲気優先型(N=46)」の4つの具体的な反応像を見出した。本尺度については信頼性・妥当性の観点から修正されるべき項目や因子はあるものの、攻撃的な笑いの反応タイプの分類が若者に対する支援の一助として役立つ可能性は高い。
著者
山田 英徳
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.19, pp.86-95, 2012-07-21

欧米では80年代ごろから笑いが治療法の一つとして認識されるようになった。また、笑いは病院や老人ホーム、小児病棟や福祉施設などで、心や身体の病気に対し癒しの効果を上げている。しかし、笑いの生理学的な分野からの解明や実践的試みがされてきているが、脳機能からアプローチした研究はほとんど皆無である。そこで、我々はこの笑いに注目し、特に微笑みというものが相手に対してどのように影響を与えているのかについて、脳血流量の測定を行った。その結果、検者が被検者に微笑みかけるだけで被検者の前頭前野の脳血流量が上昇することが分かった。そこで、初対面の人、顔見知りの人、親しい人など被検者と検者の関わる度合いによって、微笑みが相手に与える影響についてどうなるかを研究した。我々医療従事者は、患者さんと関わるときに微笑みかけることがある。医療従事者と患者さんとの関係において、この微笑みがどのようなものなのか考えてみる。
著者
丸毛 美樹
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.22, pp.19-33, 2015-08-01

2005年から2006年にかけて『ユランズ・ポステン』を発信源として起きた「ムハンマドの風刺画」問題が、今回は『シャルリ・エブド』を中心として繰り返された。この問題をめぐって、「表現の自由」やイスラームに関する様々な議論がわき起こった。本稿では、「表現の自由」をめぐる問題、イスラーム世界の現状、フランス社会におけるムスリムの状況を概観する中で、主として風刺の成立する枠組みという観点から「ムハンマドの風刺画」問題について考察する。今回の事件において問題とすべきなのは「表現の自由」とイスラームという宗教との対立ではない。風刺は弱者を抑圧する力ではかなわない相手(権力者や権威)の悪行や腐敗、矛盾などを暴くために用いられる、機知と悪意の融合した抵抗の表現である。すでに社会的排除に苦しんでいる人々をただ愚弄することのみが目的のように見える、社会的弱者に向けられる悪意の表現は、嘲笑のための表現にしかならない。「ムハンマドの風刺画」はそもそも風刺として成立していなかったのだと言えよう。
著者
森田 亜矢子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.41-64, 2019 (Released:2019-11-30)

本稿では、「快によって調整されたヒューリスティックな方略を可能にする情報処理機構」の存在を仮定して、可笑しみを「不快を快で凌駕する能動的体験」ととらえ、可笑しみの生起過程における主体の記憶や学習および主体内部の情報ネットワークとの関連に着目しながら、他性との接触を継続するよう私たちを導く可笑しみの体験について考察を試みた。
著者
香取 久三子
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.133-140, 2002-07-27

私はこの論文で、江戸東京落語の主人公「八五郎・熊五郎」の名の由来や、キャラクターとしての系譜について考察した。「八五郎・熊五郎」の名が落語の人物の名として定着したのは明治後期だった。ではなぜ、それらの名が落語の人物の名に抜擢されたのか。名に使われる語に注目すると、「八」も「熊」も「五郎」も皆神性を帯びているとされる語である。そういった「神霊に近い」ことを示す名が笑話の主人公につけられるのは、日本宗教が笑いと密接な関係にあり、人々が神仏に親しみを感じていたことが大きな理由であろう。又、「八五郎」という名を持つ実在の人物の中には、身分の高い武士もいた。明治期の庶民は、彼らに対する皮肉の意味で、「八五郎」という名の人物の滑稽な言動を笑ったという説もある。何れにせよ、「八つぁん熊さん」は一般的イメージとは裏腹に複雑な背景を持っており、その「成り立ちの複雑さ」は彼らを息の長いキャラクターにした要因であると思う。